平均寿命が男女とも最高を更新!超高齢社会のなか、在宅医療はどう変わる?

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公開日:2020.10.22

平均寿命が男女とも最高を更新!超高齢社会のなか、在宅医療はどう変わる?

平均寿命が男女とも最高を更新!超高齢社会のなか、在宅医療はどう変わる?

日本は世界的にも長寿国として知られています。男女とも平均寿命は年々上昇し、2020年には過去最高を更新しました。がん・心疾患・脳血管疾患の死亡率も2019年と比べ減少していることから、いわゆる「健康寿命」も延伸していると考えられています。一方で、人口動態統計(2019年)によれば、日本の出生率(合計特殊出生率)は1.36と低水準です。今後ますます高齢化が加速することが予想されるなか、高齢者医療を支えるとされる在宅医療にも様々な影響が懸念されます。

そこで今回は、超高齢社会の中で求められる在宅医療がどのように変わっていくのかを詳しく解説します。

平均寿命が最高を更新!健康寿命は?

健康寿命のイメージ

厚生労働省が発表した「令和元年簡易生命表」によると、2019年の日本における平均寿命は男性81.41歳、女性87.45歳。2018年と比較すると男性は0.16歳、女性は0.13歳延びており、平均寿命は男女とも過去最高を更新しました

1950年の日本の平均寿命は男性58.0歳、女性61.5歳ですから、約70年の間に驚くべき延伸を遂げたことになります。また、平均寿命はさらに延伸すると予想され、2060年には男性84.19歳、女性90.93歳に上ると推計されています。

日本の平均寿命が長い要因としては、人種的・遺伝的な差以外に、医療レベルが高い点、国民皆保険制度によって国民が大きな負担なく病院を受診できる点があげられます。また、国民一人ひとりが健康を意識し、検診の受診機会が多いことや伝統的な食文化なども重要な要因のひとつでしょう。

なお、厚生労働省が2016年に算出した「健康寿命」は男性72.14歳、女性74.79歳。三大死因とされるがん・心疾患・脳血管疾患の死亡率は男女ともに減少傾向にあり、「健康寿命」も延伸傾向にあります。つまり、平均寿命とともに健康に大きな問題なく過ごすことができる期間も増えたということです。

平均寿命の延伸が医療に与える変化とは?

健康寿命のイメージ

日本の高齢化率は2018年時点で世界で最も高く、今後も持続可能な社会を築いていくためには多くの課題があります。高齢者の医療問題もそのひとつ。高齢者は三大死因とされるがん・心疾患・脳血管疾患の発症率が高いだけでなく、些細な外傷がきっかけとなって寝たきり状態に陥る方も少なくありません。

また、大きな病気や外傷がなくても、生活習慣病などで定期的な通院を余儀なくされる方が大勢います。高齢者に必要な医療は多岐にわたり、その需要に応えることが高齢者のよりよい生活を支える基盤となります。では、平均寿命が延びて高齢化が加速するなか、医療にはどのような変化が生じるのでしょうか?詳しく見てみましょう。

健康に問題を抱える高齢者の増加

平均寿命とともに健康寿命も延伸しているとはいえ、その差は男女ともに10歳ほど。これは、健康に問題を抱えながら生きていく期間が10年ほどであることを意味します。今後も平均寿命が高くなることで、健康に何らかの問題が生じる方は増えていくことが予想されます。そのため、高齢者に向けた医療需要はますます増大していくことに...。

高齢者は予期せぬ急変などを起こしやすく、様々な疾患の重症化リスクもあります。一般的な急性期医療や慢性期医療のみでは対応できない場面も多々あり、一人ひとりに合った医療の提供が必要となる場面が増えることが予想されるでしょう。

医療費の増大

平均寿命が延伸した要因のひとつに、三大死因の死亡率の低下があげられます。これは「予防」による効果だけでなく、医学の進歩によってがんなどの生存率が上昇していることも寄与しています。かつては死に至る可能性が高かった病気でも、現在では治療を続ければ良好な予後が期待できるケースが少なくありません。継続的な高度医療は平均寿命の延伸にも関わっているのです。一方で、高齢化が進めば進むほど高度医療を必要とする方が増え、それにともなって医療費も増加すると考えられます。

超高齢社会に向かう中でなぜ在宅医療が必要なのか?

よりよい高齢者医療を実現するのに欠かせないのが在宅医療です。在宅医療とは、医師や看護師などの医療従事者が患者さまの自宅や介護施設などに出向いて診療を行う医療のことです。主に通院が困難な方、自宅で介護を受けている寝たきりの方などに適応となります。

2020年9月現在、政府は高齢者が健康に問題を抱えながらも住み慣れた地域で暮らすことができるよう在宅医療の推進に力を入れています。在宅医療の診療報酬アップなどもその方策のひとつです。また、政府は全国的な病床削減を行っており、その受け皿として在宅医療の推進を図る面もあります。今後も病床数は削減される方針となっていることから、健康に問題のある高齢者を「地域の中」で診ていくという考え方は、適切な医療資源の利用にもつながるでしょう。

平均寿命の延伸で在宅医療に求められる変化とは?

在宅医療のイメージ

上述したように、平均寿命は今後も延びることが予想されています。平均寿命の延伸は、高齢化にともなって今後重要性の増す在宅医療の現場にも大きな影響を与える可能性があります。在宅医療は今後、どのように変わっていくのでしょうか。

患者家族、介護職員、医療機関などとの「連携」のさらなる強化

在宅医療は単に患者さまとだけ向き合えばよいのではありません。患者さまの家族、介護職員、周辺の医療機関など、多くの人・組織との円滑な連携が必要です。高齢者は予期せぬ急変などが生じやすく、必要に応じて周辺の急性期病院への速やかな搬送が必要になることがあります。その際に、関係機関との連携が不十分だとスムーズな搬送が困難となってしまいます。その結果、患者さまだけでなく、その家族や介護職員にも負担を強いることにもなるのです。超高齢社会に備え、高齢者を地域のなかで診ていくために、在宅医療に携わる医師や医療関係者は、関係各所とのよりよい連携や関係構築をいっそう強化することが望まれるでしょう。

プライマリ・ケアのエキスパートの養成

在宅医療を担う医師や看護師は、幅広い疾患の知識と診療スキルを持ち合わせていなければなりません。このような、いわゆる「プライマリ・ケア」に精通するためには適切な訓練を受ける必要があります。

2018年から本格的にはじまった新専門医制度は、在宅医療の需要増大を見越し、新たに「総合診療専門医」を専門医のひとつに加え、プライマリ・ケアのエキスパート養成に向けて動きはじめています。ところが、若手医師にとって総合診療科は決して人気が高い診療科ではありません。全国で総合診療専門医を目指して専攻医となった医師は、2018年度は184人、2019年は179人。現状のままでは、今後、在宅医療を担う医師が不足することが懸念されています。

疾患や外傷の「予防」の徹底

平均寿命とともに健康寿命も延伸しているとはいえ、健康に問題を抱える高齢者は増えています。老後のQOL(生活の質)を向上するには、生活習慣病や運動不足による疾患や外傷などの「予防」が大切です。健康寿命を縮める要因の一例として脳卒中や認知症、骨折などがあります。これら疾患・外傷による要介護状態を防ぐために、予防医療はさらに重要となります。今後の在宅医療の場では、患者さまのヘルスリテラシー向上も含めた「予防」に重視する診療が求められる機会が増えていくでしょう。

平均寿命が延伸することで求められる在宅医療は変わっていく

平均寿命が過去最高を更新し、今後も高齢化が加速していく日本。高齢者医療の充実は日本の医療全体の課題です。

高齢者医療を支えるのは在宅医療であるといっても過言ではありません。さらなる高齢化が進む日本においては、関係各所との連携強化が重要となり、在宅医療を担うことができる幅広い知識と経験を持った医師や看護師の養成も課題となります。

また、健康寿命延伸を目指した予防医療も在宅医療の重要な課題となると考えてよいでしょう。

ドクタービジョン編集部

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