コンパニオン診断の概要と今後の展望について

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業界動向

公開日:2021.07.29

コンパニオン診断の概要と今後の展望について

コンパニオン診断の概要と今後の展望について

治療薬をより安全に使うためには、患者さまがその薬を使う対象であるかどうかを正しく見極める必要があります。コンパニオン診断とは、そうした薬剤に対する患者さま個人の反応性を、治療前にあらかじめ検査することを指します。

この記事では、コンパニオン診断とは何を目的に実施されるのか、その過程で使用されるコンパニオン診断薬とはどのようなものかを紹介し、さらに、がん遺伝子パネル検査との関連や今後の展望についても解説していきます。

コンパニオン診断とは

コンパニオン診断とは

ある特定の医薬品を使用するにあたり、有用性および安全のさらなる向上を目的に実施する検査のことをコンパニオン診断といいます。コンパニオン診断とコンパニオン診断薬は、患者さまの体質や病状に合わせて治療を行う「個別化医療」に欠かせないもので、おもにがん治療の現場で注目を集めています。

がん治療におけるコンパニオン診断

がん細胞は、原発巣(最初にがん細胞が発生した部位)から徐々に広がり、やがて血流に乗って全身へと転移します。そのため、がんの治療では、がんの種類とステージ、患者さまの症状とがん治療に対する要望などを考慮しながら、病気の克服とQOL(生活の質)向上を目指すのが一般的です。

がんの治療は、がん細胞とがん細胞に侵されている部位を切り取る手術療法、放射線を照射してがん細胞を殺す放射線療法、抗がん剤など投薬による化学(薬物)療法が三大治療とされています。なかでも薬物療法は、投与した薬剤が血流に乗って全身に広がることから、原発巣と転移先の双方を対象とした全身的な治療が可能であることが特徴といえるでしょう。

近年では薬物療法が進歩して、ホルモン剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬など、抗がん剤以外の薬剤も使われるようになりました。分子標的薬とは、がん細胞が作り出す異常なタンパク質をターゲットにするよう設計された、がん細胞のみに働きかける薬剤です。

分子標的薬はがん細胞を狙い撃ちするため、抗がん剤を使った時のような副作用を心配する必要がありません。しかし、がん細胞が作り出すタンパク質に対応しない分子標的薬を選択してしまうと、十分な治療効果を得られません。そのため、分子標的薬を選ぶ際は患者さま自身のがん細胞が作り出すタンパク質に反応するか、事前に調べる必要があります。そのための検査が、がん治療におけるコンパニオン診断です。

コンパニオン診断薬について

コンパニオン診断薬について

分子標的薬がターゲットにするがん細胞の異常なタンパク質は、遺伝子変異によって作られます。そのためコンパニオン診断では、標的分子の発現量、関連遺伝子変異、遺伝子多型などのバイオマーカーを調べ、検討している分子標的薬は患者さまのがんの種類に適しているか診断する際の資料にします。この検査の時に使用されるのが、コンパニオン診断薬です。

コンパニオン診断薬と分子標的薬は対をなしています。そのため、例えば遺伝子Aに効果を示す分子標的薬が使えるか調べたい場合には、その分子標的薬に対応する遺伝子コンパニオン診断薬を使用して診断する必要があるのです。

具体的には、肺がんの場合、細胞表面にある細胞増殖を司るEGFR(上皮成長因子受容体)タンパク質に異常が認められることが多いため、EGFRをターゲットにした分子標的薬が開発された例が挙げられます。そのため、肺がん治療で分子標的薬の使用を検討する際は、EGFR遺伝子変異の有無を事前に調べます。

独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(以降、PMDA)では、コンパニオン診断ワーキンググループを立ち上げ、コンパニオン診断薬に関する諸問題の整理と、今後の指針となるガイドラインの作成を担当しています。PMDA内におけるコンパニオン診断薬と関連する医薬品の相談への対応も、このワーキンググループで行っています。

参考資料はコチラ▼
独立行政法人医薬品医療機器総合機構
「コンパニオン診断薬WG」
「コンパニオン診断薬に関するガイダンス案について」

名古屋市立大学 薬学研究科・医学研究科・私立大学病院
「分子標的薬を用いた 臨床試験に付随したゲノムバイオマーカー研究とは」

がん遺伝子パネル検査も登場

がん遺伝子パネル検査も登場

候補の分子標的薬ごとにコンパニオン検査を実施すると、すべて調べ終えるまでにかなりの時間がかかってしまいます。そこで登場したのが、がん遺伝子パネル検査です。

がん遺伝子パネル検査は、次世代シークエンサー(解析装置)を使い、がんの発生にかかわる遺伝子をまとめて調べる検査です。100種類以上の遺伝子変異を一度で調べ上げることから、より適切な治療方法の選択につながると期待されています。

さきほども取り上げた肺がんを再び例にすると、肺がんの原因になる遺伝子変異は、実はEGFR遺伝子にも、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子、BRAF遺伝子変異などの関連が確認されています。コンパニオン診断では最低でも4回検査が必要になるところ、がん遺伝子パネル検査の登場により一度の検査ですべて調べることが可能となり、分子標的薬の決定と治療開始のタイミングを早められるようになりました。

ただし、コンパニオン検査あるいはがん遺伝子パネル検査の双方を実施しても、がんの原因になる遺伝子変異を必ず特定できるとは限りません。また、対応する治療薬が確立されていない場合もあります。こうしたケースでは、分子標的薬以外の治療方法を選択します。

市場における成長も期待

市場における成長も期待

今回取り上げたコンパニオン診断は、今後飛躍的な成長が見込まれる分野として、世界中から注目を集めていることはご存知でしょうか。

2027年まで20%の成長率で成長すると予想されている

市場調査レポートプロバイダーのREPORT OCEANは2021年4月19日に発行したレポートのなかで、世界におけるコンパニオン診断技術マーケットは2019年時点で約29億米ドル(当時)と評価しています。また、同市場は2020年から2027年にかけて20%を超える成長率で拡大すると予測しました。

コンパニオン診断テストを用いた個別化医療は、呼吸器疾患、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病などの神経疾患などの治療への応用が進んでいます。Global Burden of Diseaseが2015年に実施した調査によると、同年時点でパーキンソン病と診断された患者さまは世界中に約620万人で、2040年までには1,300万人に達する可能性があるとのことです。

またパーキンソン病財団も、毎年約6万人ものアメリカ人が新たにパーキンソン病の診断を受けていることを発表しました。これら各種調査と発表から、患者さまそれぞれにとって適切な治療方法を選択するためにも、コンパニオン診断技術を求めている医療現場は多いことがおわかりいただけるでしょう。

コンパニオン診断はますます広がりを見せる

基礎研究の発展や医薬品や医療機器の開発など、医療技術は常に進化し続けています。今回登場した分子標的薬とコンパニオン診断およびコンパニオン診断薬も、その一例です。市場開拓と技術開発が進むにつれて、分子標的薬による個別化治療は今後さらなる広がりをみせるでしょう。

ドクタービジョン編集部

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