手術支援ロボットのメリットと普及における課題

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業界動向

公開日:2021.07.14

手術支援ロボットのメリットと普及における課題

手術支援ロボットのメリットと普及における課題

医師と患者さま双方の負担軽減に期待できる手術支援ロボット。内視鏡下外科手術(胸腔鏡・腹腔鏡)では「ダヴィンチ」というロボットの普及が進み、導入している医療機関では保険適用で前立腺がんや胃がん、直腸がんなどのロボット支援下手術が受けられます。

この記事では、手術支援ロボットのメリットや最新技術について、さらに今後の課題なども解説します。

内視鏡下外科手術の限界

内視鏡下外科手術の限界

内視鏡下外科手術は、お腹や胸に1cmほどの小さな穴をいくつかあけて、内視鏡という細く長いカメラを挿入し、体内の様子をモニターで見ながら行う手術です。病変部を拡大しながら手術を行えるため、開腹手術より正確な操作が可能になりました。術後の腸閉塞も起こしづらく、再入院や再手術の可能性を下げることができます。

開腹手術と比較すると優れた点が多い内視鏡下外科手術ですが、限界もあります。内視鏡下外科手術では、手術器具を二次元の映像を見ながら動かさなければなりません。直線的な動きしかできないことから操作の自由度が低く難しい、カメラの操作は執刀医ではなく助手が行うため思うような視野が得られない、手ぶれしてしまう、手の動きとモニターの器具の動きが逆のため慣れるまで時間がかかるなどのデメリットが挙げられます。また、長時間立ちっぱなしになるため、医師にとって体力的な負担が大きいという問題もありました。

そこで開発されたのが手術支援ロボットのダヴィンチです。医師はコックピットのような操作ボックスの中に座り、ロボットのアームを遠隔で操作します。患者さまには直接触れません。三次元で解像度の高い映像を見ながら手術ができるようになり、患者さまの体内に入り込むような感覚で手術をすることが可能になりました。鮮明な画像を見ながら操作でき、手ぶれ防止機能もついているため、神経の機能温存の精度も高まりました。ロボットによる手術支援は、医師のメンタルもサポートできると考えられています。

ロボット支援下手術による患者さま側のメリット

ロボット支援下手術による患者さま側のメリット

正確に微細な動きができる手術支援ロボットのダヴィンチの活用は、患者さま側にも様々なメリットがあります。

手術中の出血を抑えられる

開腹手術や従来の内視鏡下外科手術では、思わぬ出血に備えて自己血貯血が必要なケースがありました。しかし、ダヴィンチでは炭酸ガスでお腹や胸を膨らませて広く明るい視野で手術を行うことから、出血量が極端に少なく済むことが特徴です。自己血貯血を行うことは、基本的になくなりました。

傷跡が小さい・少なくて済む

開腹手術では大きな切開創ができることから美容面には優れておらず、患者さまのメンタルに影響を及ぼすことがありました。ダヴィンチでの手術は内視鏡下外科手術と同様に小さな穴を複数あけて行うため、心の負担も軽減することが可能です。

また、傷口が小さいことから術後の回復が早い傾向にあります。入院期間が短くなると、その分早く普段の生活に戻ることができるでしょう。

術後の痛みが少ない

ダヴィンチでの手術は病変部以外にダメージを与えにくく、一つひとつの傷口が小さいため、術後の痛みが軽減されます。個人差はありますが、翌日から自力で歩くことができ、食事も再開できることが多いといわれています。

機能を温存できる

ダヴィンチでは映像をズームできるうえに、執刀医自身でカメラを動かして視野を調整できるため、細かい神経や血管まで捉えて正確な操作が行えます。その結果、がんの根治性が向上するだけでなく、術後の尿漏れ・便漏れ予防や性機能の温存も可能になり、QOL(生活の質)の向上が期待できます。

合併症のリスクが低い

開腹手術や従来の内視鏡下外科手術と比較すると、合併症のリスクが低い特徴があります。傷が小さいことから細菌感染を起こすことは少なく、術後は早くに体を動かせることから血栓ができにくいとも言われています。また、緻密な操作が可能なうえに体の内部が空気に触れないことで腸閉塞を起こす頻度も抑えられます。

最新鋭の手術支援ロボット「ダヴィンチXi」

現在、世界的に普及している手術支援ロボットであるダヴィンチの最新バージョンが「ダヴィンチXi」です。従来のダヴィンチから様々な改良が加えられ、導入する医療機関は徐々に増えています。

アームはスリムになり関節機能も改良されたことで可動域が広がりました。カメラは専用アームだけに取り付け可能だったものが、すべてのアームに取り付けられるようになったことで、さらに広い術野が得られるようになっています。鮮明な三次元の映像は最大15倍にズームできるようになったため、より細かく複雑な操作をしやすくなったのです。

従来のダヴィンチは前立腺や腎臓などの泌尿器が対象でしたが、ダヴィンチXiでは大幅な機能改善が行われたため、胃や大腸にも対象が広がりました。

手術支援ロボット普及における今後の課題

手術支援ロボット普及における今後の課題

医師にも患者さま側にもメリットが多く、さらなる普及が見込まれるダヴィンチですが、対応しなければならない課題もあります。

医療費問題

ダヴィンチを使用した手術は、前立腺がんや胃がん、食道がん、直腸がん、腎臓がん、子宮体がんなどで保険適用がされており、患者さまが負担する医療費は従来の内視鏡下外科手術と同じです。保険適用によって患者さま側の経済的な負担は軽減されたものの、医療機関側には負担が強いられています。ダヴィンチを導入しても、現状では診療報酬の加算がされるわけではないのです。

ダヴィンチの本体価格は2〜3億円と高額で、手術のたびに消耗品代もかかります。精密機器のため、年間の維持費は2,000〜3,000万円ほどと決して安くはありません。この費用の高さから、導入をためらう医療機関もあります。

トレーニング体制の拡充、指導者の育成

日本には、ロボット支援下手術の指導者やトレーニング施設が非常に少ない現状があります。ダヴィンチを導入しても、安全に行える医師やスタッフが増えなければ普及は進みません。医師がトレーニングを積みたくても対応施設が少なく予約が取りづらいという問題は、早急に変えていく必要があるでしょう。

同時に、指導医の育成も進めていかなければなりません。そのような中で、各外科学会はプロクター制度を開始しています。ロボット支援下手術の執刀経験が豊富な医師をプロクターと呼ばれる手術指導医に認定し、安全な導入を推進する制度です。今後、指導力に長けたプロクターが徐々に増えていくことで、教育体制はより充実していくでしょう。

ロボットの力でさらに負担の少ない手術へ

日々医療は進歩し、ロボットを使用した手術はさらに発展していくと考えられます。患者さまに触れなくても手術ができる特性を活かして、将来的には離れた地域の患者さまを遠隔で手術することが当たり前になるかもしれません。

新たな手術支援ロボットの開発は複数社で進んでおり、今後低価格で優れたロボットが発売される可能性は多いにあります。費用面の課題が解決して教育体制が充実すれば、より多くの患者さまが心と体に負担が少ない手術を受けられるようになるでしょう。

ドクタービジョン編集部

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