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医師という仕事をしていると、患者さまの最期に立ち会う機会もあるのではないでしょうか。
超高齢社会のなか、在宅医療、訪問医療も増え患者さまにとっての理想の最期を迎えられるよう準備を進めることが今まで以上に大切になっています。医師も患者さま一人ひとりに寄り添い、希望を叶えるために柔軟な治療を進めていく必要があるでしょう。
患者さまの人生の最期にどのように関わっていくか悩んでいる方のために「アドバンス・ケア・プランニング」について解説します。
アドバンス・ケア・プランニング(人生会議)とは
患者さまの将来の変化に備え、治療やケアについて患者さま及びご家族など、近しい人と医療チームが話し合い、患者さまの決定をサポートするプロセスです。
厚生労働省は「アドバンス・ケア・プランニング」という名称を使っていましたが、より馴染みやすくなるよう、平成30年から「人生会議」という名称に変更して啓発活動を行っています。
自身で意思決定ができないほど重篤な状態に陥った場合に備え、患者さまの価値観や目標を共有した上で、希望を叶えられるような将来のケアを具体的にイメージして決めることが目的です。話し合いの開始時期は人によって異なりますが、健康状態や生活状況が変わるごとに繰り返し話し合うことが望ましいとされています。孤独死の防止にもつながります。
アドバンス・ケア・プランニングの方法
話し合う相手を決める
アドバンス・ケア・プランニングにあたって参加する必要があるメンバーは、患者さま本人、医師をはじめとする医療従事者、代理人となるご家族です。患者さまの希望によって、本人と関係性の深い第三者が参加されてもよいでしょう。また、医療従事者は必ずしも医師である必要はなく、患者さまと深い関係性が構築されているかどうかが重要となります。
患者さまの希望を話し合う
患者さまが意思決定をできる場合は、患者さまが希望する時期から話し合いを進めましょう。話し合っておくべき項目は以下のようなものがありますが、希望をできるだけ叶えられるよう、様々な観点での話し合いが大切です。
また、話し合った内容を後から見返せるよう、文書の形でまとめておきましょう。患者さまが意思決定できなくなった場合でも、今までの話し合いから推測しやすくなります。
①患者さまの状況
家族構成や家族をはじめとする親しい人との関係性、健康状態や病気の進行度合いなど、話し合いを行う時点での状況を話しておきます。
患者さまも、自身が置かれている現状についての理解を深められ、話し合いが進めやすくなるでしょう。
②患者さまの価値観、希望
人生で大切にしてきた価値観、今後経験したいことや大切な人に伝えておきたいこと、人生最期の時間の過ごし方、葬儀や埋葬方法などの希望、自身の病状が悪化したとき代わりに意思決定してくれる人など、できるだけ詳細を話しておきましょう。
患者さまの希望を具体化しておくことで、医師の治療方針も決定しやすくなります。
③医療及びケアについての希望
①、②を踏まえた上で、医療やケアについて話し合います。
「できるだけ延命処置を施してほしい」「痛みや苦しみを少なくしたい」「できるだけ自然な形で 最期を迎えたい」など、人によってさまざまな希望が考えられます。 病状等の状況が異なりますが、医師は治療の専門家として、病状の改善のために最善の方針をとるための情報共有を行い、丁寧な説明をした上で決定しましょう。
患者さまの状況や希望に合わせた話し合いの繰り返し
病気の進行や環境の変化よって、患者さまの希望は変化していくものです。
また、人生最期の過ごし方の決定は非常に難しいため、一度の話し合いでは結論が出ない場合が多いでしょう。一度に決めようとするのではなく、患者さまに合わせて話し合いを進めましょう。
患者さまが希望したタイミングでは必ず話し合いの場を設け、意思を共有しておくことが大切です。
患者さま自身が意思決定できない場合
患者さま本人が話し合いできる状態ではない場合、医師や看護師、ケアマネージャーや介護士といった医療・ケアチームの中で治療方針について決定します。
ご家族をはじめとする近しい方が本人の意思を推測できる場合は、その意見を尊重した選択をします。患者さまの希望が分からない場合は、ご家族と医療・ケアチームでしっかりと話し合い、病状の変化や医療従事者の判断をもとに方針を決定しましょう。
患者さまが意思決定できない場合でも、状況の変化に応じて話し合いを重ね、最善の判断であるか確認し、治療を進める必要があります。
アドバンス・ケア・プランニングにおける注意点
患者さまはもちろん、ご家族や医療従事者にも重要となるアドバンス・ケア・プランニングにおいて注意したい点は以下の通りです。
アドバンス・ケア・プランニングは今後の過ごし方を前向きにとらえるもの
人生の最期について決定すると聞くと、「縁起でもない」と拒絶される方もいる可能性があります。しかし、アドバンス・ケア・プランニングは将来の過ごし方を決めていくプロセスであり、その中に今後の治療やケアについての決定が含まれています。
とくに、話し合いの中でも重要な役割となる医師は、この点を忘れないようにしましょう。
主体はあくまでも患者さま本人
アドバンス・ケア・プランニングでの主体は患者さまです。
患者さまのご家族にとっても大きな意味を持つ話し合いではありますが、患者さまの希望が反映できなければ本末転倒です。ご家族や親しい方の希望ではなく、患者さま自身の希望が反映できるような話し合いを意識しましょう。
様々な職種と協力して患者さまの意思に寄り添う
アドバンス・ケア・プランニングでは、医師の判断のみで動くのではなく、看護師やケアマネージャーと連携し、患者さまの希望を叶えられる治療体制を整えましょう。単に治療行為を行うだけでなく、患者さまが希望を言いやすいよう気持ちに寄り添ったケアが大切です。
アドバンス・ケア・プランニングと緩和ケア
緩和ケアとは、がんの苦痛を和らげ、患者さまとそのご家族が過ごしやすい生活を送れるようにするためのケアです。様々な治療方法を行う医師は、その他の医療従事者やケアチームと連携しながら進めていきます。
緩和ケアの目的は自分らしい生き方を叶えることであり、アドバンス・ケア・プランニングとも関連します。患者さまの意向にもよりますが、アドバンス・ケア・プランニングと緩和ケアは同時に開始するとよいでしょう。
まとめ
日本では、自身の最期の過ごし方や治療方針について文書を残すことに賛成している方は66%と高い割合を占めています。超高齢社会を迎えている中で尊厳のある生き方を全うするために、アドバンス・ケア・プランニングは非常に重要です。
患者さまの人生の最期に関わることの多い医師は、アドバンス・ケア・プランニングにおいて医療の専門家として治療の提案を行う必要があります。目的をしっかりと把握したうえで役割を果たせるよう、医療・ケアチームと連携して動いていきましょう。
ドクタービジョン編集部
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