「精神保健指定医」とは?その役割と取得方法についても解説

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公開日:2021.09.29

「精神保健指定医」とは?その役割と取得方法についても解説

「精神保健指定医」とは?その役割と取得方法についても解説

精神障害の治療では、ときに患者さまの保護入院や隔離など、本人の同意によらない処置が必要になる場合があります。そこで、患者さまの人権を擁護しながらさまざまな観点から総合的に判断し、適切な処置をとるために「精神保健指定医」制度が創設されました。

この記事では、精神保健指定医とは何か、職務内容や年収などを詳しく解説し、精神保健指定医を目指す人のために仕事のやりがいや資格取得の方法なども紹介します。

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執筆者:木村 眞樹子

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精神保健指定医とは?

精神保健指定医とは?

「精神保健指定医」は、重度の精神障害を持つ患者さまの医療保護入院、隔離、身体拘束など一定の行動制限や、措置入院の解除判断を行う精神科医で、職務上「法律に基づいて患者さまを強制入院させる」権限を持っています。医療機関の臨床現場における職務と、公務員としての職務。その2つを兼ね備えている点が特徴です。

また、現在では入院を受け入れている精神科の医療機関において、精神保健指定医の配置が義務づけられています。

精神保健指定医が創設された背景

精神科医療の現場では、患者さま本人の心身の保護や、家族や周囲の安全確保を目的とした強制入院など、患者さまの人権に直接影響のある措置が必要となるケースがあります。そのため、患者さまの人権擁護のために必要な資質を備えている医師が求められていました。

そこで、昭和62年の精神衛生法改正(精神保健法の成立)によって精神保健指定医制度が創設されたという経緯があります。

精神保健指定医の職務と年収について

精神保健指定医とは?

ここでは、精神保健指定医の具体的な職務内容や年収についてくわしく解説します。

精神保健指定医の職務

前述したように、精神保健指定医の職務内容は、医療従事者としての職務と非医療従事者(公務員)としての職務の2種類があります。

■医療従事者の臨床現場における職務

  • 任意入院者の退院制限
  • 措置症状の消退
  • 医療保護入院、応急入院
  • 身体拘束、隔離
  • 措置、医療保護入院の定期病状報告
  • 仮退院などに関する診察や判定

■公務員としての職務

  • 措置入院(※)、およびその解除
  • 精神科病院に対する指導監督規定の立入調査、診察、判定
  • 移送時の行動制限
  • 移送時の診察・判定
  • 精神医療審査会における調査権限の強化に伴う医院の診察
  • 精神障害者保健福祉手帳の返還命令時の診察

※自傷他害の可能性がある患者さまに対して行政が入院を命じるもの

参考:「精神保健指定医とは」久喜すずのき病院

このように、精神科医としての医療業務に加え、患者さまの人権上適切な配慮を要する業務や、立入検査など権限の行使に関する公務員としての職務を担当しています。

精神保健指定医の年収

精神科医の平均年収は1,605万円前後(※)とされています。

地域差が大きく、一般的に地方ほど給与水準が高くなる傾向です。ただし、勤務している医療機関の種類や勤務体系、精神科医本人の年齢なども給与額に関わってきます。

精神保健指定医の資格取得は精神科医にとってキャリアアップとなり、通常の精神科医よりも年収は増加しているようです。また、精神保健指定医の資格は転職の際の求人でも重要視されるポイントになります。

※2020年10月時点のドクタービジョン掲載求人をもとに平均値を算出しています。

精神保健指定医の仕事のやりがい

精神保健指定医の仕事のやりがい

精神保健指定医は、様々な条件を満たしたうえで厚生労働大臣の指定を受ける必要がある特別な国家資格です。実際にこの資格を取得した医師の多くは、責任の重さを実感する一方でどのようなやりがいを感じているのでしょうか。

自分の判断が患者さまに影響を与える

もっとも大きなやりがいとしてあげられるのは、「自分の判断によって、患者さまを守り、症状の改善に貢献している」点です。

重度の精神障害をもつ患者さまの治療においては、一人ひとりの処置が異なるだけでなく、同じ患者さまでもタイミングなどによって取るべき対応が変化するケースが多くあります。強制入院や身体拘束など、患者さまの意思に関わらず法に基づいた行動制限が必要となる場合、その要否の判断を出すのも役割のひとつです。

精神科医の仕事は医療面・非医療面のいずれにおいてもデリケートな部分が多いため、専門的な判断ができる精神保健指定医という立場にやりがいを感じる医師が多いようです。

また、ほかの診療科の医師・看護師や行政と連携する機会が多く、多様な職種とのコミュニケーションが重要になってくるため、さまざまな経験を積み、知識とスキルを積み上げられる点も魅力です。

キャリアアップを実感できる

精神保健指定医の資格を取得するには、さまざまな条件を満たす必要があり、精神科医の上位資格と言えます。そのため、取得できると明確なキャリアアップが実現できるでしょう。

また、資格取得者ではない精神科医よりも年収が高く、医療機関の側からもすぐれた処遇で迎えてもらうことが可能でしょう。

たとえば厚生労働省の取り決めにより、入院患者さまを受け入れている精神科がある医療機関には、必ず常勤の精神保健指定医が配置されています。そのため、精神科の病床を有する大規模な医療機関では、求人が行われている場合があります。「精神保健指定医が〇人在籍中」という宣伝が一般患者さまに向けて行われるほど、医療機関にとってはアピール材料になっているのです。

また、有床ではない精神科の求人でも、精神保健指定医資格をもった医師が働いていると診療報酬が加算されるため、求人応募が歓迎されるケースが多くあります。

資格の取得方法

資格の取得方法

続いて、精神保健指定医資格の取得方法を解説します。この資格は、申請の前に複数の応募資格を満たしている必要があり、さらに提出書類、臨床経験、研修と様々な条件のクリアが求められます

資格取得要件は以下のとおりです。

  • 5年以上の医療実務経験(診断または治療に従事した経験)を有すること。このうち、3年以上精神科医としての臨床経験を有すること。
  • 厚生労働大臣が定める精神障害につき厚生労働大臣が定める程度の診断または治療に従事した経験を有すること。
  • 厚生労働大臣の登録を受けた者が厚生労働省令で定めるところにより行う研修(申請前1年以内に行われたものに限る)の課程を修了していること。

参考:「精神保健指定医とは」 厚生労働省

それぞれについて詳しくご説明します。

5年以上の臨床経験(うち3年以上の精神科医としての臨床経験)

医師になってから最初の2年間は初期研修医となりますが、研修医期間も算定対象です。その後に精神科で3年以上の臨床経験を積むと、医療実務経験のなかに算入できるため、精神保健指定医の申請は医師免許取得後、最短5年で可能になります。

ただし、精神科は他の診療科から転科してくる医師も多く、必ずしも精神科医としての臨床経験が5年でなくてもよいケースもあります。

厚生労働大臣が定める精神科臨床経験

厚生労働大臣が定める程度の診断または治療に従事した経験」を確認するために、申請の際に提出するケースレポートと口頭試験が使われています。

精神保健指定医の申請レポートに必要な症例を5分野5症例集め、ケースレポートを提出。そのあと厚生労働省による口頭試験が行われて、ケースレポートの提出から約1年後に合否発表となります。

口頭試験は質疑応答形式で、ケースレポートのほか、それ以外の症例内容に対する知識を有しているか、さらに医師の人間性を見るといった点が確認されています。

厚生労働大臣が定める研修の修了

精神保健指定医研修会」の講習が3日間の日程で行われ、この講習への参加が要件となります。精神保健指定医研修会では、精神保健福祉法などの法制度を中心に学習します。受講料は45,000円ほどです。

なお、申請前1年以内に行われた研修に限られているため、注意しましょう

※令和3年7月1日以降の申請では新しい様式に変更されているため、新規申請の際はご注意ください。

資格取得は難しいが、やりがいのある精神保健指定医

資格取得は難しいが、やりがいのある精神保健指定医

精神保健指定医の資格を取得したあとは、5年度ごとに厚生労働大臣が定める研修の受講が必要になります。

この資格は法律に基づいた強制入院などの権限を有するため、資格取得と保持には厳格な取り決めがあります。なお、精神保健指定医にならなくても、精神科医として働くことは可能です。ただし、年収・転職求人などにメリットが多いため、取得するほうがキャリア形成においては有利であると考えて良いでしょう。

そのため、資格取得のための条件も多いですが、3年以上精神科医として働いた経験がある方は、精神保健指定医を目指してみてはいかがでしょうか。

精神保健指定医は、患者さまの人権に関わり、人権を擁護しながら適切な医療を施すための決定権を有しています。患者さまとその周りの人々に、より寄り添った医療を提供したいと考えている方には、やりがいのある資格になるでしょう。

木村 眞樹子

執筆者:木村 眞樹子

東京女子医科大学医学部を卒業後、循環器内科、内科、睡眠科として臨床に従事している。 妊娠、出産を経て、また産業医としても働くなかで予防医学への関心が高まった。医療機関で患者の病気と向き合うだけでなく、医療に関わる様々な人たちに情報を伝えることの重要性を感じ、webメディアで発信も行っている。

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