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病院から在宅医療への転換において、「これまでの専門性を維持するのは難しい」と考えている方も多いのではないでしょうか。
札幌在宅クリニックそよ風で院長を務める飯田智哉先生は、転職前に総合内科専門医、消化器病専門医・消化器内視鏡専門医などを取得。その後在宅医療に進まれたあとは、在宅医療専門医と緩和医療認定医を取得し、新たなキャリアを築いています。
今回は、飯田先生が在宅医療に興味を持った経緯、専門医などの資格取得に対する考え方、在宅医療を通して感じたことを伺いました。

札幌在宅クリニックそよ風院長・飯田智哉氏
医学博士、日本在宅医療連合学会 在宅医療認定専門医・指導医、日本内科学会 認定医・総合内科専門医、日本消化器病学会 専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会 専門医、日本消化管学会 胃腸科専門医、日本がん治療学会 がん治療認定医、札幌市在宅医療協議会 幹事、日本ホスピス緩和ケア協会 北海道支部役員など。
札幌医科大学医学部医学科を卒業後、札幌医科大学第一内科へ入局。北海道内の総合病院で、消化器内科医として研鑽を積む。2015年に札幌医科大学大学院へ入学し、2017年には日本学術振興会特別研究員 (DC2)として研究に打ち込む。2019年大学院卒業後は札幌在宅クリニックそよ風へ入職し、2021年より院長を務める。
在宅医療は「人生まるごと応援する医療」。後の10年を在宅医療に賭ける
早速ですが、飯田先生のご経歴をお聞かせください。
札幌医科大学を2010年に卒業した後、大学の第一内科に入局しました。当時の第一内科は消化器以外の病気も幅広く診ていましたので、「なんでも診られる医師になりたい」と考えていた私にとってはいたって自然な流れでした。入局後は各地の関連病院を回り、消化器内科医として約10年間働いていました。
2015年からは大学院で基礎研究を開始し、以降の4年間は臨床業務と基礎研究の二足のわらじを履いていました。日本学術振興会の特別研究員となって、論文を書いたり、国内外の学会で発表したり...。その頃は、そうすることで周囲から評価され、業績が積み上がっていくことにやりがいを感じ、自己肯定感を高めていた時期でした。
まさに「順風満帆」という言葉が当てはまるキャリアだと感じましたが、そこから何故環境を変えようと思ったのですか?
ちょうどその頃、留学の話が出ていたこともあり、「このまま基礎研究で業績を積み上げていくだけでいいのか」と違和感を感じるようになりました。同時に、双子の兄弟が小児科医として人や世の中の役に立っているのを見ていて、「私の基礎研究は、いつか誰かの役に立つのだろうか」と違和感がますます大きくなっていきました。
医師10年目というタイミングでキャリアの分かれ道に立ち、「医師としての生き方を変えたい」と新しいことへの挑戦を決意したのです。
そこで在宅医療へ進んだのには、どのような理由があったのですか?
相談した転職コンサルタントの方から、「在宅医療は新しい分野で伸びしろがあるので、検討してみてはどうでしょう」と提案していただいたのがきっかけです。当初は考えたこともない領域だったのでお断りしたのですが、コンサルタントの方の熱意から1件だけ受けてみることにしました。そして紹介されたのが、現在勤務する「札幌在宅クリニックそよ風」だったのです。
面談では、当時院長を務めていた吉崎秀夫先生から「在宅医療は患者さまの人生をまるごと応援する医療」だと説明され、現場も見せてもらいました。吉崎先生をはじめとするスタッフが患者さまやご家族、そして地域に向き合うことを第一に考え行動する姿は、基礎研究中心だった私の目にはとても新鮮で、医療の本来あるべき姿に見えました。
在宅医療に真剣に取り組んでいる姿勢や情熱に感銘を受けて、「この先生の元でこれからの10年を賭けたい」と考えて、在宅医療への挑戦を決めました。
「在宅研修医」と称し、先輩医師や他職種から在宅医療を学ぶ

在宅医療未経験者だった飯田先生が、クリニックに入職する前後でされていた取り組みについて、具体的にお聞かせください。
入職まで半年以上時間があったので、まずは在宅医療に関する書籍をひたすら読み込み、情報収集しました。介護保険や在宅医療制度に関する書籍は、知識がなかったのでとくに重点的に読むようにしていましたね。あとは入職前に在宅医療のイメージを少しでも膨らませるため、ほかで非常勤のアルバイトをしたり、月に2回は吉崎先生の診療に同行したりしていました。
入職後は、どのように学んだのですか?
入職してから半月くらいは、吉崎先生やほかの先輩医師に同行し、現場での診療方法や患者さまとの接し方など、診療中の様子を見学させてもらいました。とにかく患者さまをたくさん診られる環境にして、わからないことがあれば吉崎先生に聞いたり、同期入職の先生とお互いに知らない知識を埋め合ったりしました。クリニックには専門性の異なる医師も複数いるので、色々なことを聞ける環境が整っていて、とても勉強になりました。
また、当院では訪問看護ステーションが併設されているので、看護師からも多くのことを教わる機会がありました。訪問看護とは、「その場」で判断して行動することが病院以上に求められる独立した現場です。知識と経験を基にプライドをもって働く看護師たちが「何を考えて看護を実践し、どのような気持ちでケアを提供しているのか」を間近にみて、在宅医療における訪問看護の役割の大きさを理解し、医師としての立ち回り方など多くのことを学びました。
消化器内科医のキャリアがあるとはいえ在宅医療は初めてです。そのため、当時は自ら「在宅研修医」と称し、一から学ばせていただきました。
在宅医療への転換は、これまでの専門性に「新たなキャリアを加える」ということ
飯田先生は消化器内視鏡学会の専門医資格をお持ちでしたよね。在宅医療に専念すると資格の維持が大変だと思いますが、どうされていたのですか?
内視鏡専門医を維持するには、内視鏡診療に従事していることが条件でしたので、近隣の総合病院で非常勤として内視鏡検査をしていました。やはりいきなり振り切るというのは勇気がいることです。なので、そうやって戻れる道を残しながら在宅を始める選択もアリだと思っています。
私も当時は内視鏡専門医を維持したい一心でしたが、結局半年ほどで非常勤も辞め、在宅医療一本に振り切りました。
思い切った決断ですね...!不安などはなかったのでしょうか。
それはもう、在宅医療が楽しくて仕方なかったからです。でも、やってみないことには分からないので、専門性を残しながらでも「まずはやってみる」のが大切だと感じています。そもそも私は専門医資格がなくなったからと言って、これまで培ってきた専門性をなくすとは思っていません。在宅医療の分野においても、専門性を深めることはできます。
たとえば、在宅医療専門医や緩和医療専門医を取得して新しいキャリアを築くことも方法の一つです。当院は、日本在宅医療連合学会の研修施設かつ日本緩和医療学会の認定研修施設なので、在宅医療専門医と緩和医療専門医を取得できます。要は、今までのキャリアをなくすのではなく、これまでのキャリアに在宅医療を「新たに加える」と考えるといいかもしれません。
専門性を捨てることになるのであれば、確かにそれは難しい問題でしょう。ただ私が実際に飛び込んでみて思ったのは、在宅医療は本当に幅が広いのです。神経難病の方から認知症、様々な臓器不全、がんなどたくさんの病気があり、そうした病気をすべて診ていかなければなりません。私のなかで在宅医療は、「一生をかけてもいい」「時間をかけて取り組みたい」と思えた領域なので、在宅医療に振り切ったときもとくに不安に感じることはありませんでした。
在宅医療の主役は「患者さま」。在宅医には「柔軟性」が必要不可欠
飯田先生が実際に在宅医療に携わるようになって感じたことやイメージとのギャップを教えてください。
病院は基本的に治療したり、病気を治したりするところだと思っています。病院にも患者さまのために尽くそうと働いている医療従事者がたくさんいますが、患者さまが病院を受診するのは数ヶ月に1回程度というケースは多いでしょう。この間、患者さまの主体となっているのは「家での生活」です。
在宅医療を受ける方には、様々な理由で通院が難しい患者さまがいます。そうした方たちが家で過ごすためにどんなことができるかを考え、生きるために欠かせない行動をみんなでサポートし、彼らが暮らしたい場所で生活できるよう応援するのが在宅医療です。
もちろん彼らが望めば治療をすることもありますが、いかに心地よく過ごせるかを第一に考える医療だということです。病院は「治す」場所、在宅医療は「生活を応援する医療」、そういう違いがあると考えています。
在宅医療の主役は、患者さまとご家族であり、医師の役割はほんの少しです。どちらかといえば看護師の役割の方が大切で、医師は定期的に診療して「元気ですね!」と声掛けする。個人的には、医師があまり関わらないでいられる患者さまの状態がベストだと思っています。医学的あるいは倫理的に正しくないことは賛同しかねますが、患者さまとご家族が考えた末にしたいことを優先して、反対に彼らが望まないことはしないのも、在宅医療ではよくあることです。
病院と在宅、それぞれ医師に求められる役割が違うのですね。
そうですね。在宅医療の場合、患者さまとご家族は様々な病院の先生方と関わり、在宅のサービスを受けるなかで多くの医療従事者を見てきています。病院より関係性が近い分、医療従事者に対する目も厳しいです。在宅医療は、まず家に入れてもらえなければ何もできませんから、礼儀や人間性がないと成り立たない仕事だと思います。
それから対患者さまだけでなく、他職種の方と関わる機会も非常に多いです。病院でも他職種との関わりはありますが、その範囲は医療の枠を超えます。在宅医療の多職種連携はとてもフラットな関係性で、それぞれ思いを抱えながらやっているので、そのなかで上手く関わっていかなければなりません。
立場や考え方が異なる他職種の方との連携は、なかなか難しいことも多そうです。
そうですね。ですから在宅医療に必要な資質を聞かれたら、それは「柔軟性」だと思います。在宅医療は答えが一つだけではない世界で、患者さまとご家族の望みにどうフィットしていくかがとても重要です。患者さまやご家族への対応だけでなく、より幅広い多職種との連携が必須なので、あらゆることに柔軟な対応が求められます。そうした点でとくに若い医師には適性があると考えています。
病院医療と在宅医療の違い
病院医療と在宅医療の違いというと、どのような点があるのでしょうか。
私自身、消化器内科医としてある程度広く診ている自信がありましたが、実際の在宅の現場では知らない疾患・病態がたくさんあり、「自分の専門性はとても狭い範囲だった」と痛感しました。
それだけでなく、在宅医療は必ずしもエビデンスが是ではないということです。病院ではエビデンスのない治療はあまりしません。しかし在宅医療で一番大事なのは、「彼らが何を考え、どうしたいか」なので、ご本人たちが望む生活を実現するために、私たちができる最善のことをするのです。
そうしたことから、在宅医療は「シンプル」がキーワードだと考えています。
詳しくお聞かせいただけますか?
まず、処方や処置をシンプルにすること。在宅医療で全身管理や服薬管理が煩雑になると、患者さまやご家族の負担も増えますし、それでは「家で過ごしている」とは言えないように思います。もちろんそこに苦痛が伴わないようにするのですが、患者さまやご家族がなるべくシンプルに過ごせるよう、引き算を意識するようになりました。
それから、たとえば患者さまが腹痛を訴えている場合、病院医療ではすぐに検査をして詳細を把握できますが、在宅医療では検査が容易にはできません。病院にお願いすればできますが、それでは患者さまに負担をかけることにもなるので、基本的には採血やエコー、身体所見から目安をつけます。病院を経験していると不便は感じますが、機械に頼らない環境で経験を積むことは、医師としての能力を鍛えることにもつながるのではないでしょうか。
在宅医療が医師としての今後のキャリアを彩る
在宅医療に興味を持つ医師に向けてメッセージをお願いします。
在宅医療を経験して、「世の中にはこんなにも在宅医療を必要としている患者さまがいる」のだと知りました。訪問診療、訪問看護、訪問リハビリテーション、訪問マッサージ、訪問入浴、訪問理美容など、患者さまが家で過ごすためには数え切れないくらいのサービスがあり、それを必要としている方々がいます。
病院医療しか知らないうちは、「病院での医療がすべて」だと思っていました。もちろん病院医療がないと医療は成立しないのですが、だからといって病院医療しか知らない状態ではいけないと思っています。在宅医療がないと生活できない患者さまの存在に気づき、病院医療以外の医療を知ることは、医師として働くうえで必ずプラスになるはずです。
在宅医療に興味が芽生えたら、若い医師こそまずは挑戦してほしいと考えています。その後は、病院でやりたいことができたら病院に戻るのも一つのキャリアなので、「在宅医療に転職したら、在宅一本でやっていく」と最初から決めなくても良いのではないでしょうか。
在宅医療を経験することで医師として大きく成長できますし、在宅医療の知識を身につけてから病院医療の現場に戻れば、病院で医療を受けている患者さまに対してよりよい医療を提供できると思います。だからこそ、まずは思い切って在宅医療の世界に飛びこんでみてほしいです。
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