医師のための「開業の極意」【2023年版】

医師がキャリアや働き方を考える上で参考となる情報をお届けします。
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キャリア

公開日:2023.06.15

医師のための「開業の極意」【2023年版】

医師のための「開業の極意」【2023年版】

医師の開業step1. スケジュールを把握する

まずは、開業までのスケジュールをしっかり把握しましょう。
開業するためには物件選びや資金調達、医療機器の選定、従業員の募集といったさまざまな準備が必要になります。資金調達や物件の手続きには数か月単位の時間を要することも。開業前に1年~1年半の準備期間を見込んでおくとよいでしょう。

【開業までの準備とスケジュールの大まかな目安】

~12か月前

開業時期の設定、診療方針や経営コンセプトの決定、事業計画の策定、診療圏の調査と開業地の選定開始

11か月~10か月前

開業地の決定、物件選び、医療機器の選定開始

9か月~6か月前

物件の決定と契約、融資の申し込み、内装工事の事業者選定、施設の設計開始

5か月~4か月前

内装工事などの施工開始、従業員の募集と選考、医療機器や備品の決定

3か月~2か月前

物件の引き渡し、ホームページや印刷物の準備と作成、各種業者との契約

1か月前~開業

医療機器や備品の搬入、社会保険や労働保険の加入準備、従業員の研修、各種届け出などの事務手続き

開業することが決まったら、開業の時期・場所・診療方針を決め、資金や物件を確保して内装工事などの段取りを付け、医療機器や備品・事務手続き・従業員の採用を進めていく...という流れになります。
開業したい時期から逆算してスケジュールを明確にした上で余裕を持った計画を立て、開業準備を進めましょう。

医師の開業step2. 開業地を決める

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立地より先に決めておくべきこと

開業地を検討する前に、まずはクリニックのコンセプトや診療方針を十分に練り上げることが肝要です。
「なぜ開業するのか」「どのような医療を提供するのか」「どのような患者さまを対象とするのか」といった方針を先に固めることで、適した立地や必要な設備の方向性が定まり、その後の開業地や物件選びをスムーズに進めやすくなるでしょう。

エリアを決める

開業エリアを決めるため、診療圏の調査を行いましょう。エリアの人口や競合クリニックの状況、駅や商業施設などの周辺の立地を調べ、開業に適した地域を探します。
コンセプトや診療方針を踏まえて「患者さまが通いやすい立地か」「人の流れがあるか」「競争率は高すぎないか」などを意識して選ぶとよいでしょう。

物件を探す

クリニックの物件には、以下のようにさまざまな選択肢があります。

・戸建て

所有する土地や借地などにクリニックを新築する方法。内装や設備の自由度が高い点がメリットと言えます。

・建て貸し戸建て

オーナーが用意した土地や建物を借りて家賃を支払う形式。自己資金が少ない場合も希望に合わせた設計を実現しやすくなります。

・ビルテナント

ビルのテナントに入居する形式。選択肢が比較的多く、希望する条件に合った立地の建物を見つけやすいことが特徴です。

・医療モール

いくつかのクリニックが集まっている形態。患者さまにとって利便性が高く、集患しやすいというメリットがあります。

開業地探しの注意点と失敗例

開業する土地や物件選びでは、以下のような点に注意しましょう。

  • 入念な診療圏調査を行う
  • 現地を実際に訪れて見分する
  • 医療機関が入居できる物件かどうかを確認する

上記のポイントをおろそかにしてしまうと、以下のような失敗につながるリスクがあります。

【失敗例】

  • 競合が少ないエリアを選んだが、人の流れが悪い場所で集患につながらなかった
  • 駅の近くに開業したが住宅地からは遠く、徒歩や自転車の患者さまにとっては不便な立地になってしまった
  • 医療施設が入居できないことが契約直前に分かり、物件探しをやり直すことになった

医師の開業step3. 資金を調達する

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開業資金はいくら必要?

開業資金は診療科目や立地によっても異なりますが、5,000万円~8,000万円程度が一般的とされています。
開業にあたっては物件の初期費用や内装工事費、医療機器や備品の購入費用、初期の運転資金などの費用が必要となるため、自己資金額は総費用の2割程度を目安に用意するとよいでしょう。

どこから融資を受ける?

クリニックを開業のための融資には、主に以下の6つの選択肢があります。

(1)日本政策金融公庫

低金利・固定金利で融資を受けられる点が特徴の日本政策金融公庫。民間の金融機関と比べて審査に時間がかかるケースがあります。

(2)民間の金融機関

メガバンクや地方銀行など金融機関によって条件はさまざまですが、地方銀行のほうが比較的金利が低く、審査にも通りやすい傾向があります。

(3)地方自治体

自治体や信用保証組合、金融機関が連携して融資する「制度融資」を利用することも可能。長期・低金利で借り入れできる一方、審査には時間を要します。

(4)医師会

医師会でも開業資金のローンを受けられます。借り入れには医師会への加入が必要です。

(5)福祉医療機構

医療機関などに貸し付けを行う国の機関である福祉医療機構。無床診療所の場合は「診療所不足地域」のエリアに該当する必要があるので、事前確認が必要です。

(6)リース会社

医療機器のリースだけでなく、資金の融資を行うリース会社もあります。審査が早い点がメリットですが、金利が金融機関より高い傾向にあります。

金融機関との交渉に必要なものは?

金融機関から融資を受けるには面談などを通して交渉しますが、面談の際は事業計画書や趣意書・見積書・2期分の確定申告書・医師免許証の写しなどが必要となります。
金融機関は書類や面談から業務の実態や返済能力、計画の妥当性などを確認したうえで融資の有無を判断します。ですから、事業計画書では現実的で説得力のある計画を提示することが肝要。開業時の支出や資金調達の内訳、初年度の収支計画を適切にまとめましょう。

医師の開業step4. 申請や設備・人材調達を進める

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設計・内装を決める

物件が決まって資金を調達できたら、内装工事に着手します。
設計する際は、従業員や患者さまの動線に加えてバリアフリーへの配慮も必要。クリニックのコンセプトや患者さまの層に合わせたデザインや雰囲気も意識しましょう。
また、クリニックの設計には、法的な規制として医療法や建築基準法などが関わってくることがあります。医療施設の設計実績がある設計事務所や施工会社を選ぶと打ち合わせから内装工事までスムーズに進めることができるでしょう。

医療機器を選定する

クリニックの運営に医療機器は欠かせません。導入するべき医療機器の種類はX線・エコー・内視鏡など、診療科目やクリニックの規模によってさまざまです。必要な機能とコストのバランスを踏まえて検討しましょう。医療機器に加えて、電子カルテや医事会計システムなどのITシステムの導入についてもこの時点で検討するのがおすすめです。
医療機器は一定期間で更新が必要となるものも多いためリースが一般的ですが、機器の種類や状況によっては融資や割賦で購入するケースもあります。準備できる開業資金を踏まえて精査するようにしましょう。

税理士・社労士を決める

開業後は、医療行為以外に経営に関するマネジメントも行う必要があります。複雑な経理や人事などの管理を効率化するためには、税理士や社労士との顧問契約締結がおすすめです。
税理士は帳簿の管理や確定申告、社労士は労働や社会保険に関する手続きや業務の代行がおもな役割です。医療分野は専門性が高いため、なるべく医療施設での経験が豊富な専門家を選ぶと安心でしょう。

申請や届出を行う

クリニックの開業にはさまざまな申請や届け出などの手続きが必要となります。地域によって細かいルールが異なる場合もあるため、手続きの詳細については管轄の機関に問い合わせましょう。
開業にあたって必要となる主な届け出は下記のとおりです。

・開業届

個人事業主として事業を始める際に税務署に提出する書類です。事業開始後1ヶ月以内に提出します。

・診療所開設届

医療法に基づく届け出で、開設後10日以内に提出する必要があります。
内容によっては受理されないこともあるため、早い段階で保健所に相談しながら準備を進めましょう。

・保険医療機関指定申請

保険診療を行うには厚生局への申請後、指定を受ける必要があります。保健所への開設届が認められた後に申請を行いますが、指定日(指定を受けられる日)は地域によって異なるため、診療を開始する日から逆算した書類の提出期限などを事前に確認しておきましょう。

スタッフを募集・採用する

クリニックを円滑に運営するには、看護師や看護助手、医療事務といったスタッフの存在が欠かせません。採用するスタッフの人数や賃金などの人員計画を立て、適切なタイミングで募集をかけましょう。
面接の際には「第一印象」「クリニックのコンセプトにマッチしているか」「業務能力は十分か」などが採用基準になります。採用後は就業規則の作成や研修などを行うことで、スムーズな開院に繋がります。

集患のための施策を進める

患者さまに来院いただくには、クリニックの開院を周知するための適切な広告戦略が肝心です。開院に合わせてホームページの開設やチラシなどの印刷物の手配が必要です。クリニックのコンセプトや強み、雰囲気などが分かりやすく伝わるデザイン・文章を意識しましょう。
クリニックの制作実績が多くあるデザイン会社や印刷会社を選ぶのがおすすめです。
また、集患においては口コミも重要。開院前に地域住民や関係者を招待する「プレオープン」を行うなど、まずは少しでもクリニックを知ってもらうことに力を入れるようにしましょう。

医師の開業step5. いよいよ開業!成功のコツとは

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昨今の開院の動向を知る

令和3年に厚生労働省が発表した「医療施設調査」によると、令和3年10月1日時点で活動中の全国の医療施設数は18万396施設と、前年に比べて1,672施設増加しています。

このうちクリニックなどの「一般診療所」は10万4292施設と、前年から1,680施設増加。なお「病院」は8,205施設で、前年から33施設減少しています。

一般診療所の増減の内訳をみると、開設:9,546施設、再開:229施設、廃止:7,612施設、休止:483施設となっていることから、開設が廃止・休止を上回り、クリニックの数が増加傾向にあることが分かります。この中でも、入院機能を備えた有床一般診療所は年々減少している一方、入院機能のない無床一般診療所が右肩上がりで増加し、全体の施設数増加を押し上げている形です。

開業に失敗しない秘訣とは

クリニック開業を成功させるためには、以下の6つの秘訣があります。

1.経験を振り返り、自分の強みを把握する

開業までの医師経験で身に付けたスキルや専門知識は、クリニックの大きな強みとなります。その強みをさらに活かして専門分野に特化させたり、逆に弱みを補って幅広い診療を可能にしたりと、強みと弱みを把握することで診療方針や戦略を決めやすくなります。

2.専門分野をアピールし、差別化を図る

あえて専門分野を絞って、他のクリニックと差別化するのも良いでしょう。特に競合の多い内科系のクリニックは、具体的な専門性をアピールすることで集患につながる可能性が高まります。強みとなる分野はクリニックの院名にも盛り込み、患者さまに一目で伝わるような工夫が必要です。

3.競合となるクリニックの調査を行う

開業地を決める際に行う診療圏調査の必要性についてはstep2.でご説明しましたが、中でも競合の診療科目や強みとしている治療方法などは重視すべきポイントです。例えばクリニックが多い人気のエリアであっても、自身の専門分野を扱っているクリニックが無ければ勝機はあると言えます。診療圏の競合クリニックの特徴や評判などを調査した上で、集患の見込める立地を選択しましょう。

4.無理のない資金計画を立てる

患者さま1人あたりの平均診療報酬を設定し、現実的な資金計画を立てましょう。家賃や医療機器のリース料、人件費、融資の返済などの固定費を把握し、安定した経営を継続させるための収支のバランスを見極める必要があります。特に医療機器はコストがかかるため、導入による収益性とコストを比較して慎重に検討しましょう。

5.損益分岐点を計算して把握する

「損益分岐点」とは、売り上げから費用を差し引いた収益がゼロになる売上高のことです。売り上げが損益分岐点を超えれば黒字となり、逆に満たなければ赤字となります。費用は「固定費」と「変動費」に分けられますが、クリニックは固定費が大きくなる傾向が。損益分岐点を下げて利益を出しやすくするためには、事業計画における固定費の見直しが欠かせません。

6.ホームページなどのWebコンテンツを有効活用する

現代においては、ホームページによる集患が成功の鍵と言われています。専門分野での治療実績や症例の解説など、強みをアピールするコンテンツを充実させることがポイント。また、Googleマップでクリニックを検索する患者さまも増えているため、Googleのビジネスプロフィールもしっかりと整えておきましょう。

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ドクタービジョン編集部

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