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新専門医制度がスタートし、新たに基本領域の専門医として加わった「総合診療医」。過度に分化したともいわれる従来の臓器別の専門医とは異なり、ほかの診療科と連携をとりながら、患者さまや地域社会にも関わり様々な医療を提供します。
超高齢社会を迎える日本では、日に日に需要が高まっている診療科でもあります。しかし、需要に対して総合診療医の数はまだまだ少ないのが現状です。
今回お話を伺ったのは、ファーストキャリアとして総合診療医を選んだ医師のひとりである守本陽一【もりもと よういち】先生。なぜファーストキャリアとして総合診療医を選んだのか?守本先生が考える総合診療医の魅力とは?20代で総合診療医として働くかたわら、地域に根ざした活動を行う守本先生に、総合診療医のキャリアと未来について伺いました。
単に治す医療でなく、「地域の課題とその解決策を見つける医療」を目指す
総合診療科はまだまだマイナーな診療科だと思いますが、守本先生が総合診療科を選んだのはなぜでしょうか?
実は、最初は総合診療科ではなく救急科を目指していました。そんななか、大学時代に総合診療医や家庭医として活躍されている先生方にお会いし、総合診療科に興味を持つようになりました。総合診療医の役割はただ寿命を延ばすだけではありません。患者が置かれている状況や心理・社会的課題を踏まえてどのような医療を行うかを考え、実践する姿に惹かれるものがあったんですね。
もともと、医療を提供する側と受ける側それぞれが、医療についてどのように考えているのかを知ることに興味がありました。そんな折、大学時代にお世話になった家庭医の先生のひとりが、地域に出向いて住民の方にヒアリングをしたり、地域の医療や福祉のデータなどを見たりする「地域診断」という取り組みをされていることを知りました。
私もその取り組みに参加して地域のフィールドワークを重ねていくうちに、その地域の魅力や住民の方々が医療をどのように捉えているのかを知れました。本当にそれが面白くて。
具体的にはどのような点が「面白い!」と思ったのでしょうか?
地域の方って、仲良くなると「ほかにもこんな面白いことをやってる人がいるよ」と紹介をしてくれるんです。そこから様々な人とつながっていき、「この人となら地域がもっと健康になる取り組みができるな」とチャレンジできることが増えていきました。
地域のゲストハウスにお邪魔したり、夜は居酒屋やバーに出向いてみたり......。医師が自ら病院の外に出ていくことで、病院視点だけでなく地域視点でその地域の医療や福祉の課題を俯瞰的に知れた点が非常に面白かったですね。
学生時代のそれらの経験が、総合診療医を目指すきっかけになったんですね。
はい。私は地域の公衆衛生にも興味があったので、総合診療医の選択はファーストキャリアとしてマッチしていたと思います。総合診療医は患者個人も診つつ、その向こう側にある地域の健康や地域包括ケアまで診ることができる診療科だと考えています。
総合診療科は「人間性」をスキルにできる
守本先生は学生時代から現在まで、医療従事者が屋台を引いて地域の方にお茶を振る舞いながら、気軽に健康相談ができる「YATAI CAFE(モバイル屋台 de 健康カフェ)」の運営もされていますね。総合診療医として、また「YATAI CAFE」の運営者として地域と関わるなかで「今、求められる総合診療医」はどのような医師だと感じましたか?
まず、総合診療医は地域のニーズに対して数が少ないので、総合診療医の存在そのものがとても必要とされています。それから地域においてはひとつの専門に特化したスキルよりも幅広いスキルを持っている医師のほうが様々な場面で活躍できると思います。
幅広いスキルというと、たとえばどのようなスキルがあげられますか?
色々ありますが、ほかの診療科と比べて、より医師の「人間性」がスキルとして重要になると思います。具体的に言うと、コミュニケーション能力や患者とその家族の心理・社会的側面を理解して適切に対処する力などです。たとえば、外科系の診療科だとそのような人間性を磨くことよりも先に手技を磨くことが優先されますよね。だから、なかなか人間性をスキルにまで昇華させることは難しいのです。
診療科としての専門性を持ちつつ、そうした人間性を深めてスキルとして会得できる診療科はあまりないので、そこが総合診療科の魅力だと思います。
また、総合診療医は患者やその家族だけでなく、地域全体の医療や福祉も診る医師です。地域まで診るとなると公衆衛生に関する知識やスキルも必要ですが、実際にはそのようなスキルを持つのはその地域の保健所長である医師だけということもまだまだ少なくありません。地域の総合診療医一人ひとりが公衆衛生のスキルを持っていれば、地域全体の健康課題を見つけられるでしょう。そして、行政と連携しながら課題解決できるようになれば、地域にとってよりよいかたちになると思っています。
幅広い総合診療科のキャリアは、点と点が線になるようにつながっていく
総合診療医はこれまでのような臓器別での専門性が深められず、医師のキャリアとして不利ではないかと懸念する声もあります。守本先生は総合診療医の道を選ぶにあたり、不安や迷いはありましたか?
自身のキャリアについて迷いがなかったといえば嘘になります。今も確固たるキャリアプランがあるわけではなくて、迷い続けていて......。
けれど、今の時代は医師にも多様なキャリアがあると思います。医師の全員が教授を目指すわけではありません。途中で別の診療科に転向する人もいるし、起業する人もいる。私のように、医師をしながらほかの活動もする「パラレルキャリア」を歩んでいる人もいます。
もちろん、ひとつの専門性を極めていくことも立派なキャリアです。一方で、様々な経験を階段状に積み重ねていくキャリアもありだと私は思っています。
その様々な経験を総合診療医では得られる、ということですね。
そうですね。スティーブ・ジョブズが「Connecting the dots(点と点をつなげる)」と言ったように、過去の様々な経験が思わぬかたちで生きる場面がどこかであると信じています。総合診療科の幅広さは、短所に捉えられることもあるかもしれません。しかし、急性期から慢性期、回復期、在宅医療などに一貫して関わることができるのは総合診療科の長所であり、専門性です。そのなかで患者や地域とのコミュニケーションや行動変容、心理・社会的側面に多く関われる機会を得られるので、ほかの診療科では医師個人に委ねられていた「人間性を深める」ことも可能だと思います。
総合診療医は得られるものが多い仕事です。ですから、次のキャリアを考えるための足がかりやファーストキャリアとしても面白い選択だと思っています。私自身も「いろんなことに興味があっていろんなことをやりたい!」と考えているタイプなので、私のようにあれもこれもやってみたいという医師には総合診療医をぜひ勧めたいです。
病気を防ぐ、治す、治したあとを考える。総合診療医はそのすべてに関われる仕事
守本先生が総合診療医として考える、地域のよりよい未来とは何でしょうか?
病気になっても、障害を持っていても、患者が生きがいや役割を失わずに常に一歩踏み出して生きていけることだと考えています。もちろん、病気にかかった人を治すことも大切ですが、病気を予防したり、その人の病気を治したあとのことを考えたりすることも同じく大切です。医療はその人の人生のなかの一部にすぎません。だからこそ、今まで医療が直接介入してこなかった「病気の前後の人生」についても考える必要があると思います。
たとえば、75歳の患者を救って寿命を10年延ばせたとします。でも、患者自身がその10年を「生きている価値がない」と感じてしまえば、果たしてその医療は患者にとって適切だったのでしょうか。患者が生きがいを失い、孤独を感じないためにも、第一段階として地域の適切なコミュニティを処方する「社会的処方」が重要だと思います。
守本先生はどのようなところに総合診療医の面白さを感じていますか?
診療科の専門性を身につけられるだけでなく、マインドやスキルも身につけられるところが面白いと感じていますね。患者個人だけでなく地域全体を俯瞰的に診ながら、医療を通して見えてきた地域の課題を解決していく。まちづくりなども含めて地域に関われることは、総合診療医の面白さでありメリットだと思います。
また、患者に対しても必ずしもガイドラインに沿った治療ではなく、患者の希望や背景に合わせて、よりよいと思えるものを考えて実践できる点も面白いです。
どんな方に、総合診療医を目指してもらいたいですか? 総合診療医に興味のある医師に向けてメッセージをお願いします。
患者を治すだけでなく、その前後の過程である予防や治療後の患者の生活などに興味がある人には、総合診療医を目指してもらいたいです。地域包括ケアシステムのなかで「ケア」を軸にしながら医療に携わりたい、様々な経験を積みたい、特定の専門性以外にも医師としてのマインドやスキルを磨きたい......。そう思ったら、ぜひ総合診療医の扉を叩いてみてください。
まとめ
これからさらに需要が高まっていく総合診療医の数は、まだまだ足りていないのが現状です。これまでのような専門性を高めていくキャリアとは毛色の違う診療科なだけに、選択に迷いをもつ方も多いかもしれません。
しかし、未来の医療をよりよくするために必要な総合診療医には、患者さま一人ひとりに寄り添った医療を提供し、より地域に密着した活躍が求められています。総合診療医になって培えるスキルは、総合診療医以外のキャリアを目指すうえで生きることもあれば、次なる選択肢を増やすうえでのステップにもなるはず。
守本先生のように、総合診療医と並行してほかの活動や仕事をされる医師も多くいらっしゃいます。総合診療医は、"令和時代に求められる医師"のひとつのかたちなのかもしれません。
守本陽一(もりもと・よういち)先生
1993年神奈川県生まれ、兵庫県出身。総合診療専攻医。学生時代から医療者が屋台を引いて街中を練り歩くYATAI CAFE(モバイル屋台de健康カフェ)や地域診断といったケアとまちづくりに関する活動を兵庫県但馬地域で行う。現在も専門研修の傍ら、活動を継続中。ソトノバアワード2019審査員特別賞。共著に「ケアとまちづくり、ときどきアート」など。
▼X(旧Twitter) Yoichi MORIMOTO
ドクタービジョン編集部
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