外国人患者対応のポイントは?注意点やマニュアル、受入れの具体例を紹介

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公開日:2023.08.08

外国人患者対応のポイントは?注意点やマニュアル、受入れの具体例を紹介

外国人患者対応のポイントは?注意点やマニュアル、受入れの具体例を紹介

近年、インバウンド増加の影響もあり、外国人の方を見かける機会が増えました。新型コロナウイルス感染症による一時的な減少はありましたが、2022年秋に入国制限が緩和され、訪日外国人の数は再び増えてきています。医療機関においても、外国人の方を診る機会がさらに増えると想定されます。

この記事では、外国人患者対応の重要性が増している背景から、対応時の注意点やマニュアル、具体的な受入れ事例などについて解説します。

外国人患者対応が必要な背景

日本にいる外国人は、訪日外国人在留外国人に大きく分けられます。

訪日外国人をめぐる近年の傾向

訪日外国人は、いわゆる外国人旅行者です。

訪日外国人の数は、2010年ごろから一貫して増加傾向にありました。とくに2019年は3,188万人と、2009年の4.5倍以上に増えており、非常に多くの外国人が日本を訪れていたことがわかります。2015年に観光客が大量に商品を購入する行為である「爆買い」が流行語大賞となったことを記憶されている方も多いでしょう。

その後は新型コロナウイルス感染症の影響で、2020~2022年の訪日外国人の数は大きく減少しました。しかし2022年10月に入国時検査が緩和され個人旅行が解禁されたことでその数は戻りつつあり、2023年上半期には4年ぶりに1,000万人を超えました。訪日外国人の数について、政府は2025年にコロナ禍前の水準(3,188万人/2019年)を上回ることを目標に掲げており、インバウンドの拡大をさらに進める考えです。

訪日外国人の場合、人気の高い観光地や空港周辺の医療機関を受診することが多くなります。

日本政府観光局(JNTO)の年間統計によると、2021年の訪日外国人の出身国や地域は韓国・中国・台湾・香港などのアジアが最も多く、アメリカやヨーロッパも多くみられます。使用言語は英語・中国語・韓国語の3つが主流と言えるでしょう。

在留外国人をめぐる近年の傾向

在留外国人とは、さまざまな目的で日本に居住している外国人のことで、永住者(特別永住者を含む)、定住者、技能実習⽣、留学⽣、就労のために⼀定期間在留する人などを含みます。その数は日本人の人口減少に逆行し、増加しています。少子高齢化を見据えた労働力確保を目的に特定技能制度が導入されていることが、この一因と言えるでしょう。

在留外国人は特定の地域でコミュニティを形成することが多く、日本全土に広く分布するというよりは市区町村単位で人数の偏りや状況の違いがあります

在留外国人を出身国・地域別にみると、訪日外国人と同様に中国・韓国・ベトナムなどアジア人が占める割合が高くなっています。日本から距離はあるものの、歴史的背景からブラジル人が多くみられることも特徴と言えるでしょう。

医療機関が外国人の方の対応をする際、疾患の治療や健診を目的に渡航している方(いわゆるメディカルツーリズム)もいますが、多くは訪日外国人・在留外国人の方が対象です。両者の数が増加傾向にあることから、外国人患者対応の必要性がおわかりいただけたのではないでしょうか。

外国人患者対応の注意点

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外国人患者対応において、注意が必要な点は「3つの壁」で表現されます。

1.言語の壁
2.文化の壁
3.制度の壁

それぞれの内容を見ていきましょう。

1.言語の壁

「言語の壁」は、その言葉の通りです。日本で働く医療従事者のほとんどは日本語を母国語とするため、日本語以外の言語に長けていない場合が多くあります。

訪日外国人の出身を考えると、日本の学校教育で取り入れられている英語だけでなく、中国語やベトナム語など、アジア圏の言語に対応する必要性が高いと考えられます。通訳者の配置や通訳アプリの利用、各言語に対応した問診票の用意などが、対策として挙げられます。

2.文化の壁

「文化の壁」として大きいのは、コミュニケーション文化の違いです。よく言われることですが、日本語のコミュニケーションは「空気を読む」ことを重視する傾向があります。しかし欧米では伝達情報を正確に言語として伝えることが重要視されます。通訳者を介するとしても、このような違いがあることを認識しておく必要があります。

生活様式の違いもあります。たとえば、イスラム教徒の女性は髪や肌を隠すことが求められますが、これは夫以外の男性の視線に触れないようにするという宗教観に由来します。イスラム教徒の多い国では、病室ではなく病棟を男女で分けている場合もあります。イスラム教徒の女性の診察にあたっては、可能な限り女性スタッフが対応できると良いでしょう。

イスラム教徒については食事の制限もよく知られています。豚肉やアルコールはもちろん、みりんや酢にもアルコール成分が含まれるため避けなければならないことがあります。このような食事制限は、入院患者さんの給食で問題になり得るため注意が必要です。

3.制度の壁

「制度の壁」の代表例は、医療費の支払いに関する問題です。とくに旅行者の場合、国民皆保険制度の対象外のため、海外旅行保険などに加入しているかどうかを確認する必要があります。

海外旅行保険と一口にいっても、現地で医療費を全額支払った後に保険会社に請求するものや、医療アシスタンス会社が支払うものなどさまざまです。

自己負担分の支払い方法も問題になりやすいです。全額自己負担の場合は当然高額になるため、クレジットカードやバーコード・QRコードなどのキャッシュレス決済で支払いたい外国人の方は多いでしょう。しかし日本の医療機関では、キャッシュレス決済の普及が遅れていると指摘されています。2021年度の国の調査では、クレジットカード決済(デビットカードを含む)を導入している医療機関は約57%で、導入していない医療機関(約42%)を上回りましたが、コード決済を導入している機関は約3.7%と低い結果でした。この数年でクレジットカード決済の導入は進んだと言えるものの、さらなる普及や決済種別の拡大を目指し、諸外国の事例をふまえた議論が期待されます。

外国人患者対応に役立つ制度・マニュアル

それでは、外国人患者対応のために知っておきたい制度や、日常の対応で役立つマニュアルを紹介します。

外国人患者受入れ医療機関認証制度(JMIP)

まず、体制を整備する上で参考になるのが、日本医療教育財団が運用している「外国人患者受入れ医療機関認証制度」(JMIP)です。「外国人が安心・安全に国際的に高い評価を得ている日本の医療サービスを享受することができる体制を構築」することを目的としています。

2023年7月末現在、66件の医療機関が認証を受けています。認証条件はさまざまありますが、以下のようなものがあります。

  • ホームページ(電子媒体)には、英語および医療機関が必要と判断した外国語で、情報を記載している。
  • ホームページには、医療機関の診療科、連絡先、アクセスを記載していること。

  • 受付時に、外国人患者の理解可能な言語で受付するためのマニュアルがある。
  • マニュアルには、外国語で記載された受付票または、口頭対応での受付方法を記載していること。

日本医療教育財団「外国人患者受入れ医療機関認証制度 評価項目(自己評価票)Ver.2.1」より引用
http://jmip.jme.or.jp/pdf/jmipeva_ver2.1%20.pdf

外国人患者対応が可能な体制を整える上で、JMIPの認証条件は参考になるでしょう。

外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル

「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」が、厚生労働省から公開されています。外国人を取り巻く環境や海外旅行保険についてなど、幅広い内容が記載されているため、外国人患者対応に役立つでしょう。

ほかにも厚生労働省や経済産業省のサイトでは、「言語の壁」対策として役立つ資料が公開されています。問診票や入院申込書だけでなく、輸血療法に関する同意書などが多言語で用意されています。

外国人患者の受入れ事例

ここでは、受入れ事例を具体的に見てみましょう。前述のJMIP認証医療機関として、神奈川県の横浜市立大学附属市民総合医療センターと愛知県の藤田医科大学病院の事例を紹介します。

横浜市立大学附属市民総合医療センターは、横浜中華街に近いという立地から、中国や台湾の方が多く受診されます。院内常駐の通訳者と、タブレット端末を利用した遠隔通訳サービスを併用することで、年間1,500件以上の通訳に対応しています。遠隔通訳サービスでは非対面で対応できることから、コロナ禍でとくに威力を発揮したそうです。

藤田医科大学病院のある愛知県豊明市も、市の総人口に占める外国人が4%と県内でも高い数値です。大学病院ですが病床数が多く、市内に市立病院がないため幅広い患者層に対応する必要がある病院です。ポルトガル語・スペイン語のどちらも話せる通訳者が1名常駐していることに加え、愛知県が提供する「あいち医療通訳システム」を通じて事前予約にも対応しています。また、中国人富裕層をはじめとする「メディカルツーリズム」の需要もあるため、この対応に特化した国際医療センターを開設し、高度な健診を行っています。

「外国人患者受入れサイト」では、そのほかの好事例も参照できます。

まとめ

一口に外国人の患者さんと言っても、旅行者(訪日外国人)が多いのか、働いている人(在留外国人)が多いのか、どの国・言語の人が多いのかなど、地域によって事情は異なります。言語の壁だけでなく、文化や制度の壁について理解を深めることも大切です。対応を考える際にはJMIPや厚労省などが作成しているマニュアルや、好事例紹介サイトが参考になるでしょう。

竹内 想

執筆者:竹内 想

大学卒業後、市中病院での初期研修や大学院を経て現在は主に皮膚科医として勤務中。
自身の経験を活かして医学生〜初期研修医に向けての記事作成や、皮膚科関連のWEB記事監修/執筆を行っている。

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