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勤務医、とくに職場が病院の場合、医師の仕事は1人で完結できることは少なく、医師同士ないし多職種との協力・連携が不可欠です。このとき、さまざまな"指示"(オーダー)を介して業務を依頼する必要があります。
医療指示を電子化して伝達し、業務効率化を図るのが「オーダリングシステム」です。ただし、電子化されているとはいえ指示をする側もされる側も人間ですから、業務をスムーズに進めるためには"良いオーダー"とは何かを知っておくことが望ましいでしょう。
この記事ではオーダリングシステムの概要に加えて、医師が実際にオーダーを伝える際に意識しておきたいことや、検査や処方オーダーの考え方について考察します。
執筆者:Dr.SoS
オーダリングシステムとは
オーダリングシステムとは、簡単に述べると医師の指示を電子化し、他者・他職種に伝達するシステムのことです。
たとえば、外来で医師が診察し、採血やレントゲン・点滴が必要と判断したとします。とくに大病院であるほど、医師がすべての業務を担うことはなく、採血は臨床検査技師、レントゲン撮影は放射線技師、点滴の実施は看護師など、分業化が進んでいます。診療する場所と検査・処置をする場所が離れていることも多くあります。
そのため「この項目の採血を実施したい」「この部位のレントゲンを撮りたい」という指示を、担当者に伝える必要があります。このとき役立つのが「オーダリングシステム」です。
オーダリングシステムに医師が指示内容を入力しておけば、患者さん本人に採血室やレントゲン室まで移動してもらうだけで、看護師や放射線技師が指示内容に沿って検査を実施できます。
オーダリングシステムが導入されていない場合は、指示内容を紙の書類(伝票)に手書きし、検査室まで持っていく必要が生じます。
オーダリングシステムと電子カルテの違い
近年は「電子カルテ」を導入している病院が多く、オーダリングシステムとの違いがわかりづらいかもしれません。ここでは電子カルテとの違いを解説します。
電子カルテとは、従来紙のカルテに記載していた診療記録などを電子化したシステムです。つまりオーダーの内容だけでなく、患者さんの主訴や病歴、医師の診断や治療方針など、診療に関するすべての情報が扱われます。
一方、オーダリングシステムの対象はオーダーのみです。目的も電子カルテとは異なり、「医師の指示内容を他者に正確・迅速に伝える」ことに特化しています。つまり「うちの病院は紙カルテだが、オーダリングシステムは導入している」という状況もあり得ます。最近は電子カルテにオーダリングシステムの機能を含むケースも増えています。
オーダリングシステムの普及率は年々上がっており、厚生労働省による最新の調査(2020年時点)では、一般病院の62.0%が導入しているという結果が示されました。しかし、この内訳は病床規模によって差があり、400床以上の病院で93.1%と高い一方、200床未満では53.3%にとどまっています*。
先述のとおり、大病院ほどオーダリングシステムを導入するメリットが大きいことから、この数値は納得の結果でしょう。しかし近年は医療DXの観点で医療情報の電子化・データ活用が望まれています。オーダリングシステムも電子カルテと共に、とくにかかりつけ医機能を持つ小規模な病院での普及が期待されます。
電子カルテシステム等の普及状況の推移(令和2年)|厚生労働省(*)
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オーダリングシステムのメリット
オーダリングシステムを導入・利用することには、下記のようなメリットがあると考えられます。
- ペーパーレスによるコスト削減(紙の購入・搬送費用、時間の削減)
- 「セット登録」による業務効率化
- ヒューマンエラーの軽減
- データ解析の簡便化
ペーパーレスによるコスト削減
まずは、オーダーリングシステムの導入によって、紙(伝票)の使用量を抑えることにつながります。これにより紙代だけでなく搬送費用なども不要になるほか、伝票を搬送する時間がなくなることで患者さんの待ち時間を短縮する効果も期待できます。
「セット登録」による業務効率化
多くのオーダリングシステムでは、よく使う指示をあらかじめ登録しておける機能(セット登録、オ-ダーセットなど)が搭載されています。これにより同一の指示を繰り返し入力する手間が省け、業務効率化を図ることができます。
ヒューマンエラーの軽減
とくに治療薬を扱う場合は副作用もありますから、患者さんや薬剤の取り違え、用法用量の確認不足などによる誤投与は、医療安全上の大きな問題です。システムで出力される文字は手書きと比べて判読しやすいことから、読み間違いなどのヒューマンエラーを減らす効果が期待できます。
データ解析の簡便化
オーダーの内容がデータとして残る点も、オーダリングシステムのメリットでしょう。ある治療薬を投与した患者さんを抽出するといった行為は、紙媒体では大きな労力を必要としますが、オーダリングシステムであれば比較的容易です。集めたデータを研究に活用するなど、医療の質向上に資することも期待できます。
病棟管理におけるオーダーのポイント
ここからは、実際にオーダリングシステムを使って指示を出す場面を想定し、具体例を見ていきましょう。まずは「病棟管理におけるオーダー」について考えてみます。
オーダーを入力する際、医師の作業はパソコン上で完結します。しかし、実際にそのオーダーを受け取り、指示内容を実行する"相手"(人)を思い、"良い伝え方"を知っておくことが好ましいでしょう。
たとえば下記のような工夫が考えられます。
- 定期的なオーダーやあらかじめ伝達可能なオーダーは、早めに入力する
- 緊急度に応じた連絡手段を取る
精密検査目的の予定入院であれば、入院時期や検査内容はある程度決まっているはずです。入院直前ではなく前もって入院時の指示や検査オーダーを入れておくと、担当の看護師さんなどが仕事を進めやすくなるでしょう。
入院前から内服している高血圧の薬を、入院中も続けて内服してもらうなど、継続的なオーダーも早めに入力しておくことで、業務をスムーズに進められるでしょう。
一方、突発的に発生するオーダーについては、緊急度に応じて連絡手段を工夫すると良いでしょう。たとえば「入院患者さんが急に発熱し、画像検査や採血検査、抗菌薬の点滴を行う」場合は迅速な対応が望ましいため、電話などで病棟や担当看護師に連絡する必要があります。
「明日から新しい治療薬を開始する」など、時間にある程度余裕がある場合、いちいち電話連絡をしていては相手の時間を奪ってしまうことにもつながります。電子掲示板やチャットツールでの連絡でも良いでしょう。オーダリングシステムに入れておくだけでも悪くはありませんが、見逃しの可能性もありますから、何かしらの形で連絡すると親切です。相手に着実にオーダーが届くよう対応することが重要と言えるでしょう。
電話・カンファレンス ~相手との間に何かを立ち上がらせ【医師の業務スキルに直結するコミュニケーション】vol.2電話・カンファレンス ~相手との間に何かを立ち上がらせろ~
「病棟管理」とは?チェックリストや指示簿活用のコツを現役医師が解説
検査/処方オーダーのポイント
続いて、検査や処方のオーダーを出す際に気をつけたいポイントを考えてみます。
- 目的を明確にした上でオーダー内容を決める
- 処方時の注意点を確認する
検査や処方の際は、やみくもにオーダーを出すのではなく、目的を意識することが大切です。
検査オーダーの場合は、実施目的を明確にすることです。診断確定のためなのか、重症度評価をしたいのか、治療効果判定をしたいのか、予後予測のためなのか、などです。実施目的に加えて、感度・特異度、侵襲性、検査結果が出るまでの時間などを加味し、検査内容を選択します。
処方オーダーにおいても、まずは治療目的を決めることが重要です。診察や検査結果をふまえて治療ターゲットを決め、薬剤や手技を選択します。
とくに処方の際は、重症度や体重・肝腎機能・年齢に応じて薬剤投与量の調節が必要な場合があります。病棟であれば病棟薬剤師が在籍していることも多いでしょうから、そちらに確認することも良いでしょう。
まとめ
今回はオーダリングシステムについて、とくにオーダーを出す際に心がけたいことやポイントを解説しました。医療行為や薬剤処方の指示など、医師が業務を行う上でオーダーは必須です。オーダリングシステムや電子カルテをうまく使うことで、医師同士や他職種との連携をスムーズにし、業務効率化を図ることができるでしょう。
しかし、オーダリングシステムを使えばすべての課題が解決する、というわけではありません。システムを利用するだけでなく、実際にどのように使うかも重要です。良いオーダーとは何か、他者への伝え方について知っておきましょう。目的を意識しながらオーダーを出すことも大切です。
オーダーとも関連する「指示簿」の作成に関しては、下記の資料に考え方のポイントや記入例が載っているため、参考になると思います。会員登録をすれば無料でPDFがダウンロードできるので、気になる方はチェックしてみてください。
執筆者:Dr.SoS
皮膚科医・産業医として臨床に携わりながら、皮膚科専門医試験の解答作成などに従事。医師国家試験予備校講師としても活動している。
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