2024年から始まる医師の働き方改革。当直アルバイトができなくなる?

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働き方

公開日:2023.07.04

2024年から始まる医師の働き方改革。当直アルバイトができなくなる?

2024年から始まる医師の働き方改革。当直アルバイトができなくなる?

2024年4月1日に運用が開始される、医師の働き方改革。多くの医師にとって、現時点では「時間外をつけ過ぎてはいけない」「当直明けは休まないといけない」など、働き過ぎないようにするための制度という漠然としたイメージではないでしょうか。当直アルバイトが思うようにできなくなるのでは、という不安を抱えている方もいるかもしれません。

たしかに長時間労働の是正は本制度の目的の一つですが、あくまで一つの側面。本来の目的は、医師の労働環境を抜本的に改革し、医療全体の質や生産性を向上させることです。また、私たち医師個人にとっても、自分の生活や希望のキャリアに合わせた働き方をデザインしやすくなると期待されます。

この記事では、2024年度から始まる医師の働き方改革について解説します。

働き方改革の目的は「労働生産性を上げる」こと

2024年4月1日から、医師の働き方改革の運用が始まります。

医師は、残業や当直など、平日の夜間や土休日といった「時間外」に働く時間が長い職業です。しかし、これまで実質的な労働制限はありませんでした。働き方改革が実行されると、医師の時間外労働に上限が定められます月の上限を超える場合には、休息の確保や面接指導など、医師の健康を保つための措置が必要になります。法律で定められた制度のため、全医療機関がこのルールを守らなければなりません。

つまり「医師が働く時間を制限する」ということになりますが、それで医療は成り立つのでしょうか。しかも、働き方改革の目的は「労働生産性を上げること」だと言います。矛盾しているようにも思えるこの考え方、一体どういうことなのでしょう?

働き方改革が導入された背景とは

2019年4月1日、働き方改革に関連する法案の一部が施行され、大きな話題となりました。働き方改革が導入された背景には、日本の経済成長の停滞と労働人口の減少があります。少子化・人口減少が進む中、どのように労働力を確保するのか、そのチャレンジが「働き方改革」なのです。

従来の日本の労働制度は、いくつかの課題を抱えています。一つは正規、非正規労働者の処遇の差です。非正規労働者の処遇が正規労働者と比較して低いため、モチベーションの低下から離職を招きやすい状況です。

次に、時間外労働を含む長時間労働があります。長時間労働は労働者の健康を害する原因となり、また仕事と家庭生活の両立を困難にします。

さらに、日本社会の特徴である「一つの会社に勤め上げる単線型・画一的なキャリアパス」も問題を抱えています。個々のライフステージに合う仕事を選択しづらいため、特に女性の労働参加を阻む原因となっています。

これらの課題を解決し、労働生産性を上げることが、働き方改革の主な目的です。私たちが目指すのは、限られた人が働き過ぎる社会ではなく、国民全員が活躍する「1億総活躍」の社会なのです。

なぜ、医師の働き方改革は2024年から?医師の業務の特殊性とは

従来の労働制度が抱える課題の中でも、医師にとくにあてはまると考えられるのが長時間労働です。令和元年に行われた医師の勤務実態についての調査によれば、男性医師の41%、女性医師の28%が、週60時間以上勤務しています。労働時間は原則として1週間に40時間ですから、多くの医師が時間外労働を週20時間以上していることになります。

労働基準法では、時間外労働は1カ月に45時間までと定めています。週20時間という数字は明らかに大きいことがわかります。

だからといって、医師の時間外労働を急に制限すると、医療が成り立たなくなる恐れがあります。医療の質や量を落とさずに働き方改革を実行するためには、これまでの常識やシステムの更新が必要です。そのため医師においては、ほかの一部の業種とともに、働き方改革の運用開始まで5年の猶予期間が設けられました。こうして医師の働き方改革は2024年4月1日スタートとなったのです。

医師の働き方改革で労働生産性は上がるのか

医師の時間外労働を制限すると、どのようにして労働生産性が上がるのでしょうか。

一つは、さまざまな事情を抱えた医師が労働に参加しやすくなることです。長時間労働を制限することにより、これまで復職をためらっていた出産後の女性医師や、家庭生活とのバランスを取りたい子育て世代の医師、ほかにもさまざまな理由で一度現場を離れた医師などが、現場に復帰しやすくなると考えられます。また、長時間労働で肉体的、精神的ダメージを負うことによる離職を防ぐことも、重要な要素です。

もう一つは、医師の業務の一部を他職種が請け負う「タスク・シフト/タスク・シェア」が加速することです。医師の業務は診療だけでなく、書類作成や患者説明など多岐にわたります。時間外労働が制限されることで、医師でなくても可能な業務は他職種が担当する、またはシェアせざるを得ない状況になります。それにより医師は専門性の高い診療業務に専念できるようになります。

さらに理想を言えば、むやみに長い労働時間を規制することで自由な時間が増えるため、医師は自己研鑽や研究に力を注ぐことができるようになるはずです。そして十分な休息で疲労を回復し、自身が健康な状態を維持することができれば、より良い医療を提供できるようになります。医師の働き方改革では、こうしたことも期待されていると言えます。

医師の働き方改革で定められる「時間外労働の上限規制」とは

それでは、医師の時間外労働が具体的にどのように規制されるのか、解説していきます。

あなたの医療機関はA水準、B水準、C水準?

働き方改革の下では、医療機関はA・B・C水準に分類されます(厳密にはA水準・連携B水準・B水準・C-1水準・C-2水準の5分類)。

B水準は、救急医療や在宅医療など緊急性の高い医療を行う医療機関、または医師を派遣して地域の医療を確保する役割を担う医療機関です。C水準は研修医や専攻医が研修プログラムにより研修を行う医療機関、または高度技能の育成が公益上必要と判断される医療機関が指定されます。それ以外はA水準です。

A水準の医療機関では、医師の時間外労働は原則として月100時間未満、年960時間以内に制限されます。B水準、C水準では月100時間未満、年1860時間以内です。ただしB水準、C水準が適用されるのは、該当する医療機関の医師すべてではなく、救急の業務に従事する医師や研修医など、BまたはC水準に指定される理由になった業務に従事する医師に限り適用されます。

自分がどの水準で時間外労働を規制されることになるのか、早めに把握しておきましょう。

水準 長時間労働が必要な理由 年の上限時間
A水準 (臨時的に長時間労働が必要な場合の原則的な水準) 960時間
連携B水準 地域医療の確保のため、派遣先の労働時間を通算すると長時間労働となるため 1,860時間
(各院では960時間)
B水準 地域医療の確保のため 1,860時間
C-1水準 臨床研修・専攻医の研修のため 1,860時間
C-2水準 高度な技能の修得のため 1,860時間

※月100時間未満の上限もあります(面接指導の実施による例外あり)。

厚生労働省「医師の働き方改革解説スライド(基礎編)」p.30をもとに作成
https://iryou-kinmukankyou.mhlw.go.jp/commentary_slide

どこからが労働時間?カンファレンスや学会準備など

医師の労働時間を考える上で問題になるのが、どこからが労働時間になるのか?という点です。医師は院内で常に診療しているわけではなく、症例を検討するカンファレンスや学会発表の準備、自分で調べ物をする時間など、さまざまな時間を過ごしています。

労働基準法が定める労働時間とは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」を指します。つまり、病院や上司の指示に従って行う業務は労働時間である一方、自らの意思で行うものは労働時間に該当しないということです。

たとえば、病院から参加を義務付けられている会議やカンファレンスに参加する時間は「労働時間」です。一方、自ら申し込んで参加する院外の勉強会などは、労働時間に該当しないのが一般的です。学会発表の準備をする時間も、上司の指示に基づく場合は労働時間に含まれますが、自主的な準備であれば含まれません。ただし、これはあくまで一例であり、個人や医療機関の状況により判断が異なります。

当直アルバイトをする場合は「宿日直許可」の有無を確認

時間外労働時間の上限規制は、常勤で勤務している時間だけにかかるものではなく、非常勤勤務や当直のアルバイトをしている時間も対象になります。すべての労働時間が通算されるため、時間外労働時間が上限を超えてしまう場合、当直アルバイトができなくなる可能性があります

ただし当直勤務の場合、勤務先が「宿日直許可」を得ていれば、診療した時間のみが労働時間となり、院内の滞在時間よりも短くカウントされます。宿日直許可を得るには基準が定められており、申請が必要なため、当直先が宿日直許可を得ているかどうか確認するようにしましょう

当直明けの勤務が変わる?追加的健康確保措置とは

時間外労働時間の上限規制は、追加的健康確保措置とセットで考える必要があります。追加的健康確保措置とは、医師の時間外労働時間が一般の労働者としての上限を超える場合に適用されるもので、具体的には連続勤務時間制限、勤務間インターバル、面接指導などが含まれます。

連続勤務時間制限と勤務間インターバル

勤務先が宿日直許可を取得している場合を除き、時間外労働時間が月の上限を超える医師の連続勤務時間は「28時間」に制限されます。28時間は「丸1日と4時間」ですから、朝8時に出勤し、その日が当直だった場合、次の日の昼12時以降は勤務してはいけないことになります。つまり、当直明けに通常勤務はできません

さらに、その次の勤務までは18時間以上のインターバルを確保する必要があります。つまり、昼12時に帰宅する場合、次の日の出勤は朝6時以降にしなくてはなりません。これが「勤務間インターバル」です。宿日直許可が得られている場合は翌日に通常の日勤が可能ですが、次の勤務までのインターバルを9時間以上確保する必要があります

そのほか、当直でない日には以下の決まりがあります。これらはA水準では努力義務、B・C水準では義務とされており、厳しい規制であることがわかります。

  • 勤務間インターバルを9時間確保する
  • 長時間手術や患者対応で連続勤務が制限を超えてしまった場合や、インターバルを確保できない場合は、別日を休息に充てる

医師の働き方改革_勤務間インターバルの適用イメージ_ドクタービジョン

面接指導

時間外労働が月100時間を超える医師については、病院側が面接指導を行うことが求められます。面接指導を行う医師は医療機関の管理者により選任され、講習を受講した上で面接を実施します。面接指導の結果、何らかの措置が必要と判断されれば、担当医師は病院の管理者へ意見を伝え、管理者は改善のための措置を取る必要が生じます。

参考にしたい好事例

厚生労働省は、医師の働き方改革に関する好事例を公表しています。その中から「変形労働時間制の導入」「勤怠管理システムの導入」を紹介します。

変形労働時間制の導入

通常の勤務時間が平日の8~17時といった具合に画一的に決められているのに対し、変形労働時間制は予定されている外来や手術に合わせて特殊な勤務時間を設定する制度です。たとえば、月曜午前に外来、月曜午後に手術、火曜に当直、木曜午前・午後に外来を予定している場合、通常の勤務時間だと、当直時間や手術・外来の延長分などがすべて「時間外労働」となってしまいます。

変形労働時間制では、外来や手術の予定がない水曜と金曜の日中を休みにして、火曜の夜間を時間内勤務に設定することができます。医師はイベントの少ない時間帯を休息に充てることで、当直勤務に集中することができ、時間外労働の時間も減らすことができます。病棟業務などをほかの医師と分け合うことが前提となるため慎重な設定が必要ですが、とくに外科系や、手技の多い内科系では、効率の良い働き方と言えるかもしれません。

勤怠管理システムの導入

厚生労働省の資料で紹介されている勤怠管理システムは、病棟や外来、救急外来、医局などにビーコンを設置し、医師が携帯するスマートフォンがその場所を通過することで自動的に滞在時間を把握できるようにしたものです。医師の勤務時間を正確に把握でき、適切な対応へつなげることができます。医師にとっては自己申告の手間がなくなり、申告の際のプレッシャーを感じる必要もありません。

自分らしく働き方を改革しよう

遠くを見つめる白衣の男女(ビジネスイメージ)

2024年4月から始まる、医師の働き方改革について紹介しました。時間外労働を規制されるという事実だけ見ると、「働くな」と言われているようで、少し気分が萎えてしまう人もいるかもしれません。しかし、働き方改革の目的は全体の労働生産性を上げ、医療の質を向上させることであり、医師一人ひとりがより良い将来を見据えて、自分に合った働き方を選択できるようになることです。

理想のキャリアの実現とワークライフバランスは、相反するものではありません。効率の良い働き方でキャリアを形成するとともに、自分の人生を大切に過ごしていきたいものです。働き方改革の進捗は、今のところ医療機関によってさまざまです。今こそ職場選びを通じて、自分らしい働き方を実現できるチャンスなのかもしれません。

Dr.Ma

執筆者:Dr.Ma

2006年に医師免許、2016年に医学博士を取得。大学院時代も含めて一貫して臨床に従事した。現在も整形外科専門医として急性期病院で年間150件の手術を執刀する。知識が専門領域に偏ることを実感し、医学知識と医療情勢の学び直し、リスキリングを目的に医療記事執筆を開始した。これまでに執筆した医療記事は300を超える。

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