新専門医制度、総合診療医を希望する場合にはサブスペシャルティの取得は必須?

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業界動向

公開日:2020.10.14

新専門医制度、総合診療医を希望する場合にはサブスペシャルティの取得は必須?

新専門医制度、総合診療医を希望する場合にはサブスペシャルティの取得は必須?

2018年度から本格的に発足した新専門医制度は、医師としてのキャリアの築き方を大きく変えました。医師は初期臨床研修を終えると、19の基本領域の専攻医として研鑽に励み、専門医取得後はより専門性の高いサブスペシャルティ領域の研鑽に励むというのが一般的なキャリア形成になっています。

一方で、新専門医制度では「総合診療医」という新たな専門医を養成するプログラムも開始されました。更なる高齢化が進むとされる今、「総合診療医」の需要は高まることが予想されています。そこで今回は、「総合診療医」の特徴について詳しく解説します。

地域の未来をつくる総合診療医の役目とは <守本陽一先生インタビュー>

総合診療医とは

総合診療医のイメージ

総合診療専門医は多岐にわたる分野の疾患や外傷の診療(プライマリ・ケア)に当たる医師を養成することを目的に創設された専門医です。総合診療医はいわゆる「ジェネラリスト」のことであり、健康面だけでなく、家庭環境、就労・経済状況、精神的な悩みなど様々な角度から患者さまが望む生活の手助けをしていくことが使命とされています。

この制度が発足する以前にも、「総合診療科」などを標榜する医療機関はありましたが、ジェネラリストとしての医師を養成するプログラムは十分に整っているとは言えませんでした。そこで、新専門医制度ではジェネラリストとしてだけでなく「ジェネラルな医療を提供できるスペシャリスト」を養成すべく、総合診療医を養成するコースを設けたのです。

現在、日本は世界と比較しても急激なスピードで高齢化が進み、ますます高齢人口の増加が見込まれているのが現状です。そんななか、求められる医療にも変化があります。そのひとつが「看取り」です。かつては病院で最期を看取るのが一般的だったのに対し、近年では自宅や施設で最期の時を迎えることを望む方もいます。

もちろん、特定分野の専門医は高齢化する日本の医療を支えています。一方で、在宅医療の需要と同時に高まるのは様々な疾患に対応できる「ジェネラリスト」の需要です。在宅医療は、急性期から終末期まであらゆる疾患に対応できる医師に支えられているといっても過言ではありません。今後、総合診療医の需要はますます高くなっていくでしょう。

総合診療医を希望する場合、サブスペシャルティは必須?

総合診療医のイメージ

総合診療医は、幅広い様々な疾患や外傷のプライマリ・ケアにあたる医師のことです。一方、新専門医制度の大きな特徴のひとつである「二階建て構造」のうち、サブスペシャルティは特定の限られた分野の専門性が求められます。一般的には、基本領域の専門医を取得した後はサブスペシャルティ領域の専門医取得を目指していきますが、総合診療医のサブスペシャルティはどのような仕組みになっているのでしょうか?

サブスペシャルティの取得は必須ではない

新専門医制度は、19の基本領域と23のサブスペシャルティ領域(2020年10月現在)の二階建て構造になっています。医師は初期臨床研修を終えると、19の基本領域いずれかの専攻医として5年ほどの研鑽を積みながら専門医取得を目指します。そして基本領域の専門医を取得した後は、さらに専門性を深めるため、その分野に関連したサブスペシャルティ領域の研鑽を積んでいくのです。

例えば、内科領域の専門医を取得した後に、循環器・呼吸器・消化器などのサブスペシャルティ領域の専門医取得を目指すという流れです。基本領域で取得した専門医によっては、希望するサブスペシャルティ領域が選べないこともありますので、基本領域を選択する段階でサブスペシャルティ領域をある程度決めておかなければなりません。

とはいうものの、サブスペシャルティ領域の専門医取得は必ずしも必須ではありません。とくに総合診療医は「ジェネラルな医療」を行っていくのが使命なので、特定分野の専門性を高めるサブスペシャルティの選択は、総合診療医の使命と相容れないと考えられています。

「新・家庭医療専門医」など総合診療医に関連した資格も

上述したように、総合診療医とサブスペシャルティの選択は相容れないものと考えられていますが、日本プライマリ・ケア連合学会は総合診療医が目指すべき新専門医資格として「新・家庭医療専門医」や「病院総合診療専門医」などを創設する方針であることを示しています。また、在宅や緩和ケアなどのサブスペシャルティ専門医の設置も検討されており、今後は特定分野における専門性を高める総合診療医が増えてくることが考えられます。

総合診療医は今後の日本の医療を支える重要な役割を担う専門医であるにもかかわらず、新専門医制度発足時から総合診療医を目指す専攻医は他の基本領域より少ないのが現状です。この理由として、総合診療医は医師としての専門性を高める機会が少ないことがあげられています。「新・家庭医療専門医」や「病院総合診療専門医」などの専門医資格は、日本専門医機構から正式なサブスペシャルティとして認められているわけではありませんが、総合診療医の専門性を高める手段になるでしょう。

とくに、「新・家庭医療専門医」は総合診療専門医を基盤として国際基準の総合診療医や家庭医を養成することを目的に創設されました。地域によらず、総合診療医が担うべきプライマリ・ケア診療、地域連携における組織管理、地域に根差した学術活動の基盤を身に付けることで、地域の家庭医療でリーダーシップを発揮できるスキルを習得していきます。また、「新・家庭医療専門医」資格は世界家庭医機構の国際的なプログラム認証を受けており、世界でも通用しうるスキルを身に付けられることも大きな特徴です。

総合診療医であっても、このような新しく創設された資格取得を目指すことで医師としての研鑽を積むことができ、多様性のあるキャリアを築くことができるでしょう。

総合診療医を目指すうえで大切なこと

総合診療医のイメージ

総合診療医は、急性期・慢性期を問わず多岐にわたる疾患や外傷に対応できる能力が必要です。他の専門医のようにひとつの限られた分野の専門性を高めるのではなく、医師として「どんなときも、どんなことにも」正しい判断を求められます。そのため、内科・外科・皮膚科・整形外科・婦人科・小児科などあらゆる診療科で扱う疾患や外傷に対して、一定の知識と治療スキルを持っていることが必須とされています。独り立ちできるまでには、相当の自己研鑽が必要であることは言うまでもありません。

また、適切な医療の提供だけでなく、組織間のスムーズな連携を構築しながら患者さまに最適な治療を行う体制を整えることも大切な使命です。より専門的な治療が必要と判断した場合は、各専門医が在籍する医療機関に紹介することも必要でしょう。緊急時にスムーズな紹介を行うには、日ごろからよい連携体制を構築しておくことが重要となります。

総合診療医は、一般的な医療機関でサブスペシャルティの専門性を活かしながら診療を行う医師に比べると、医療分野以外にもリーダーシップを発揮しなければならない場面が多々あります。医学部時代や初期臨床研修では学ばない知識やスキルが求められることも多いため、幅広い分野の研鑽を積むことに意欲的な医師が適しているでしょう。

高齢化でより求められる総合診療医

総合診療専門医は、新専門医制度の発足によって創設されました。特定分野のみの専門性を高めるのではなく、地域のプライマリ・ケアや医療体制の構築に携わることができる医師の養成が目的です。

高齢化による在宅医療の需要が高まっていることなどを背景に、総合診療医の需要も今後どんどん高くなることが予想されます。ですが、現在のところ、総合診療医を志す医師数は十分ではありません。その理由としては、医師としての専門性を高める機会が少ないことがあげられています。そこで日本プライマリ・ケア学会は総合診療専門医を基盤とするサブスペシャルティとして「新・家庭医療専門医」などの新たな専門医を創設しました。

日本専門医機構から正式なサブスペシャルティ領域に指定されているわけではありませんが、今後は総合診療専門医がさらに専門性を高める仕組みができていくと考えられます。

ドクタービジョン編集部

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