「在宅医に必要なのは人間性」地域医療で担う在宅医療の役割<戸田中央トータルケアクリニック院長・中西陽一先生>

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インタビュー 医療機関

公開日:2023.01.27

「在宅医に必要なのは人間性」地域医療で担う在宅医療の役割<戸田中央トータルケアクリニック院長・中西陽一先生>

「在宅医に必要なのは人間性」地域医療で担う在宅医療の役割<戸田中央トータルケアクリニック院長・中西陽一先生>

埼玉県戸田市・戸田中央トータルケアクリニックの院長である中西陽一先生は、在宅医療は広く深い知識が求められる領域であり、一人前になるには医師がもつ「人としての魅力」が欠かせないと言います。

在宅医療で求められる人としての魅力とは、一体どのようなものなのでしょうか。中西先生が考える在宅医療のあり方、クリニックの特徴、そして在宅医に求められる資質についてお話を伺いました。

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戸田中央トータルケアクリニック院長・中西陽一氏

平成10年杏林大学医学部卒業。卒業後は東京大学附属病院外科研修医となり、日立製作所日立総合病院、都立多摩老人医療センター、公立昭和病院、東京大学胃食道外科を経て佐々総合病院外科へ。2016年より佐々総合病院副院長となり、病院経営に携わる。2019年より在宅診療部を立ち上げ、部長を兼任、急性期病院が在宅医療を通じてどのように地域医療に貢献していくかを画策。2022年8月より戸田中央トータルケアクリニック院長に就任。

在宅医療が患者さまの退院後の生活を組み立てる

中西先生の現在に至るまでのご経歴をお聞かせください。

医学部を卒業してからは大学の外科に入局し、研修で関連病院に勤めたあと急性期病院の消化器外科医として長く勤務していました。2017年頃からは副院長職を兼任するようになり、病院管理やマネジメントにも携わるようになりました。

在宅医療に関わるようになったのは、2019年です。「当法人でも在宅医療に力を入れよう」という方針が示され、当時任されていた業務と並行するかたちで在宅診療をスタートしました。その後、2022年8月に戸田中央トータルケアクリニックの管理者として赴任し、現在に至ります。

在宅医療は未経験からのチャレンジだったと思います。在宅医療に携わるようになり、病院で勤務されていた時とのギャップもあったのではないでしょうか。

私は、病院での医療と在宅医療はかけ離れたものとは思っていません。手術こそしないものの、やっていることは病棟・外来診療に近いと思っています。これには、在宅医療について自分なりに考えていたことが関係しています。

と言うのも、高齢化社会が進み、病院で外科手術を行う患者さまにも高齢の方が増えてきています。高齢の患者さまにはご自身での栄養管理が難しく、家での生活が組み立てられないために、外科手術で病気が治ったとしても家に帰れない方が少なくありません。私自身も急性期病院に勤めていた頃、そうした患者さまを担当してきた経験があります。

そのなかで、当時「藤田保健衛生大学」で緩和ケアを専門にされていた東口教授に教えていただく機会があり、「患者さまを急性期病院から地域に返すには、病気になる前の予防や対策はもちろん、病気になった後のことも知る必要がある」と考えるようになりました。また、急性期病院では「退院は難しい」と考えられている患者さまと同じような症状・状況の方が在宅で過ごされていると知ったのもこの頃です。

こうした経験から、在宅医療があることで患者さまが家に帰れたり、病院の医療のなかでは馴染みのない生活を組み立てたりする部分を担っているのだと考えるようになりました。

今後はますます高齢の患者さまが増えていきます。患者さまにとっても医療機関にとっても、これから在宅医療が担う役割はますます大きなものになりそうですね。

そうですね。慢性期病院や施設を選択肢として考える前に、患者さまが「家に帰る」ことを当たり前に考えなければなりません。大袈裟に聞こえるかもしれませんが、病院の担当医が在宅医療を知っているかどうかで患者さまの人生が変わってしまいます

現在では急性期病院でも早期退院が積極的に進められていますが、退院後の生活に不安があって帰ることが出来ないケースもあるでしょう。ご自宅での療養中に想定外のことが起きてしまうと、患者さまやご家族は「自宅で生活するのは無理だった」と在宅での療養を諦めてしまうものです。その一方で、退院後3か月もすると元の生活を取り戻している方や、在宅医療を終了して外来診療に切り替える方もいらっしゃいます。

患者さまを地域に戻すためには、担当医が退院後の生活を組み立てようと考え、病気が落ち着いたタイミングで適切に介入をすることが必要なのです。病院で勤務している医師が在宅医療でやっていること・できることを知ることでご自宅に帰れる患者さまの数はもっと増えていくでしょう。

地域医療の発展のために在宅医療ができること

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クリニックの特徴についてお聞かせください。

当院の大きな特徴は、医療法人グループに所属していることと、24時間365日対応していることです。グループ内の病院と連携が可能なので、在宅療養中に突然入院が必要になっても関連病院に案内できるなど、シームレスな医療提供体制が整っています。診療に関しても私は消化器外科出身ですが、グループ内には心臓血管外科をはじめ、呼吸器、リハビリテーションなどさまざまな得意分野を持つ医師が揃っています。あらゆる終末期医療に対応し、心疾患や循環器疾患、肺炎治療にも対応可能な体制が整っていることも当院の強みです

また、職員が働きやすい体制と仕組みづくりにも力を入れています。在宅医療はオンコール対応が必須ですので、患者さまの状況などを医師同士はもちろん、院内でも共有できるシステムを整えました。また、訪問診療を一緒に行う看護師やバックオフィスの職員に過度な負担がかからないよう、シフト調整や業務配分などにも配慮しています。

やはり安定した医療体制は、グループだからこその特徴ですね。ところで、貴院も参画している「TMG地域包括モデル」とはどのような取り組みなのでしょうか。

TMG地域包括モデルは、当法人で実践する地域包括ケアシステムです。当院がある戸田市と周辺地域には、回復期病院や介護老人保健施設、当院の後方支援病院でもある戸田中央総合病院をはじめとした医療機関など、核となる医療提供体制が確立しています。地域の医療提供体制と共存しつつ、医療法人でも独自に地域医療の提供が可能な体制整備をすることにより、患者さまのことをより立体的に捉え、手厚い医療の実践に貢献したいと考えています

TMG地域包括モデルの中で当院は、在宅医療・居宅療養管理を担っており、患者さまが病気になる前に近い健康状態で地域に戻れるよう支援しています。

在宅医療はチーム戦と言われますが、職場の雰囲気や職員の皆さまの連携体制はいかがでしょうか。

職場の雰囲気は、一言で表現すると非常に明るいです。オフィス内にはオープンスペースがあり、顔を合わせて働けるようにしているので、職種や役職の垣根を超えた交流が生まれています。

そのほかとくに意識しているのは、患者さまとご家族、訪問看護ステーションのスタッフ、ケアマネージャーなどの在宅医療に携わる方たちとの円滑なコミュニケーションです。まだ開院したばかりということもありますが、一度失った信用を取り戻すことは容易ではありません。情報共有もしっかり行い、やるべきタスクはすぐに着手するよう習慣づけています。

普段から交流が活発だと、業務の相談もしやすそうですね。クリニックとして今後取り組んでいきたいことを教えてください。

将来的に考えているのは、救急診療への対応です。「救急車を呼んでもいいのかな?」と判断に迷われる方のSOSに対応するのが、在宅医療であっても良いと考えています。そうすることで救急車や入院が必要なケースを示せるようになりますし、私たちで完結できることがあるなら、それも患者さまと病院の双方のためになると考えています。

ほかにも、急性期病院との交流はどんどん増やしていきたいです。先ほどお伝えしたように、医師が在宅医療の現場を知らないがために退院タイミングを逃していることがあります。病院に勤務する医師が在宅医療を知る機会を積極的に作り、まずはグループ内で知見を共有していく。そうすることで、地域医療はますます発展していくだろうと考えています。

医師がもつ人としての魅力が在宅医療の輪をつなぐ

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在宅医療に対する率直な思いをお聞かせください。

「寝たきりの高齢者を診に行く仕事」あるいは「お看取りを待つ」のが在宅医療で、明るいイメージがもてなかったり、誰にでもできると思っていたりする方も多いかもしれません。しかし、在宅医療は、急性期であり、回復期であり、慢性期であり、終末期です。現場では広く深い知識が問われますので、とにかく勉強の連続です

そのため周囲との信頼関係づくりは、在宅医療の世界でも非常に重要です。病院にいると「医師の指示に対して周囲が従うのは当たり前」と思うかもしれませんが、看護師や訪問看護ステーションのスタッフに動いてもらうため、病院で行う以上にコミュニケーションと意思疎通が求められます。

そう考えると、まず「人として」魅力のある医師にならないと、周囲に必要とされる在宅医になるのは難しく、医師自身も「入職前に思っていたのと違う」と不満を抱える原因にもなるでしょう。

中西先生が考える、人としての魅力とはどのようなものなのでしょうか。

抽象的ですが、患者さまやご家族に「家に上げたくない」と思われない人間であることです。見た目や態度など表面的な部分が原因で嫌われないことはもちろん、不安を少しでも軽減できるよう治療方針や処置・処方の意図をわかりやすく時間をかけて説明できること。もっと言うと、患者さまやご家族と同じ目線で物事を考えられることも欠かせません

在宅医療では医師が処置を行ったり、周囲に指示を出したりしても、その結果を見届ける前に次の現場へ向かいます。それなのに、説明が専門的過ぎて理解できない内容を一方的に伝えるだけでは、患者さまやご家族を不安にさせてしまいかねません。

そのとき判断した処置や対応が望んだ結果に至らなかったとしても、その結果を受け止めたうえで「今度はこうしましょう」ともう一度提案させてもらえるような信頼関係がなくては成り立たないと考えています。私自身も学ぶことが多く、人としての魅力を磨くために日々努力を重ねているところです。

わからないことを認められる謙虚さと学び続ける姿勢を忘れずに

在宅医療は未経験の医師でもチャレンジ可能でしょうか。中西先生のご経験から率直なご意見をお聞かせください。

まずは人として患者さまやご家族としっかりコミュニケーションが取れて、そのうえで今まで診てきた領域をしっかり診られるのであれば、未経験でも問題ありません

あとは、知らないことがあっても知ったかぶりしないことです。「わからないこと」がわからない人は、自分がどのレベルでわからないのかを把握していません。「多分こうだろう」と思って選択をすると、失敗を招きます。自分の「わからないこと」は基礎的な内容なのか、それとも専門的なものなのかを把握するためにも、率先してあらゆる物事を学ぶ姿勢が重要です。

診療のことなら同僚医師に、看護の問題なら看護師やケアマネージャーなど、わからないことを周囲に質問できる人であれば大丈夫でしょう。

なかには専門医取得前に在宅医療への転向を検討する医師もいるかもしれません。専門医は取得すべきでしょうか?

自分のやりたいことを実現できる場所が在宅医療なら、専門医を取得せずにチャレンジするのもありです。ただし、周囲の目にどのように映るかは考えてから行動して欲しいと思っています。

専門医を取得するには、ペーパーテスト受験やレポート提出などを行い、自身の知識とスキルが一定水準以上であることを示す必要があります。肩書きがないまま在宅医療に来るということは、「道半ばにして在宅医療にやってきた」と周囲から思われかねません。専門医と同等レベルの診療スキルを持っている自負があっても、こうした懸念点は把握して欲しいと思います。

現場を知る医師としてお伝えするなら、専門医取得をゴールに考えるのではなく、臨床経験をしっかり積んできたことで周囲が頼りたくなる、困ったときに相談したら答えを示せる存在になるのが重要だと考えています。

在宅医療にチャレンジするにあたり、事前に身につけておいたほうがよいスキルがありましたらアドバイスをお願いします。

緩和医療について一般的な内容は把握しておくとよいでしょう。実務経験を積むうちに自然と身につく部分もありますが、わかっているに越したことはありません。

繰り返しになりますが、最も重要なのは知らないことを勉強し続ける姿勢と、わからないことを「わからない」と答えられる人物であるかどうかです。在宅医療では広く深い知識が求められますから、専門外のことにぶつかる瞬間は必ずやってきます。問題を自らの力で乗り越えるためにも、自分の持っている知識に対する自信を持ち、わからないことを認める姿勢を忘れないで欲しいです。

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