「多面的キャリア」を持つ女性医師が語る、自分らしい働き方 <循環器内科医・福田芽森先生>前編

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インタビュー 著名人

公開日:2023.04.04

「多面的キャリア」を持つ女性医師が語る、自分らしい働き方 <循環器内科医・福田芽森先生>前編

「多面的キャリア」を持つ女性医師が語る、自分らしい働き方 <循環器内科医・福田芽森先生>前編

福田芽森先生は、循環器内科医のほか、産業医や企業でのAI開発担当、Webメディアでのサイエンスライターなどの顔を持ち、幅広い分野で活躍されています。医師として関われるお仕事にはさまざまな選択肢があり、将来のキャリア形成に迷われている方もいらっしゃるのではないでしょうか。そんな方に向けてマルチキャリアを持つ福田先生に、医師になろうと思ったきっかけや循環器内科を選んだ理由、医師としてのキャリアプランについてお話を伺いました。

「私らしい働き方」を決めるための2つの軸

福田先生が医師になろうと思われたきっかけについて教えてください。

高校生で進路を考えていた時には、まず「自立した職業に就きたい」「人と向き合う仕事がしたい」という想いがありました。

医師という仕事について印象に残っているエピソードとして、高校一年生の時の経験があります。突然足が象のように腫れあがってしまい病院で検査をしたのですが足が腫れた原因がなかなか分からなくて。その時に対応してくれた医師が非常に親身になって診てくださり、一つひとつの言葉がとても心に響いたのです。その時、医師は病気を治療するだけでなく一人ひとりの患者さんに寄り添って接する仕事だと感じたのと同時に、「人にポジティブな影響を与えたい」という自身の気持ちにも気が付きました。
最終的には、医師と学校の先生で進路を迷っていましたね。

学校の先生と医師で迷った結果、医師を選んだ理由はなぜですか?

高校3年生の進路を決める直前まで悩んでいましたが、もともと生き物が好きで、人体の神秘にも関心があったことなどから医師を選びました。人間の感覚器官や臓器の機能って知れば知るほど面白くて。たとえば「眼」は、瞬時にピント調節ができたり明暗へノイズなく反応できたりと、ある意味どんなカメラよりも性能が良いんですよ。医学部で学ぶうちに、こういった生き物への興味や人体の機能への関心はさらに強くなりました。

大学の医学部を卒業し研修医として働き始めてから、それまで抱いてきた医師のイメージとの間にギャップを感じることはありましたか?

ギャップを感じることはほとんどありませんでした。親戚や知人に医師はいなかったので、私が抱く医師のイメージはドラマや小説などから連想したものでしたが、実際に働き始めて感じたのは「ドラマよりもドラマティック」ということ。医師は大変な職業ですが、イメージしていたものよりも魅力的でした。こう感じられるのは、もともと私自身がどんな物事に対してもポジティブに捉えて興味を持つタイプだというのもあるかと思います。

当時、医師としてのキャリアプランはどのように考えていらっしゃったのでしょうか?

キャリアプランについては、計画的に考えるというよりは、決断が必要になったタイミングで柔軟に考えています。これまでのキャリアについても、自分自身が「いいな」と感じたほうに進んできました。

大学生時代も、大学に残って研究職に就くのか離島のドクターになるのか。あるいは医系技官になったり国境なき医師団に入ったりするのか...、最初から明確なビジョンがあったわけではありません。研修でいろんな診療科を経験すればするほどそれぞれの魅力を感じていて、どの科も面白そうだと思っていました。
実は、私が循環器内科を選んだのは、後期研修医の2年目の夏だったのです。

そうだったのですね。では、初期研修はどのように決められましたか?

初期研修は大学病院にそのまま残って行うこともできますし、大学を出て市中病院に入って無所属の状態で行うこともできます。私は、市中病院を選びました。大学に6年間もいたので「大学の外に出たい」という気持ちもありつつ、そもそも大学病院は医師の人数が多いので、市中病院の方が自分が携われることが多いと考えたからです。
とはいえ、自分は離島に行って自分ひとりですべてを学べるような天才的なタイプではない。「教えていただく」ことにも価値を感じていたので、市中病院はその中間的な選択肢としてベストだと考えました。市中病院の場合、任される範囲も大きいですが、教育してもらえる側面もあります。私にとってはバランスの良い選択だったと思います。

専門領域を決める際、なぜ循環器内科にされたのでしょうか?

選び方はいろいろあると思いますが、私は主に2つの基準で選びました。その基準とは、「学問領域としての興味がある」ということと「働き方が自分に合っている」ということ。もちろん働き方というのはひとつではありませんが、診療科によっていくつかのパターンがあると思います。

循環器内科を選んだ2つの基準のうち、まず「学問領域としての興味」について教えてください。

循環器というのは心臓や血管のことです。たとえば心臓は、筋肉であり血管のような管でもあり、さらにホルモンを出す内分泌系の機能があり、電気も通します。いろんな側面を持つ人に魅力を感じるように、心臓にはいろんな要素があって魅力的だと思いました。人によって筋肉や弁などの状態はそれぞれ違いますが、その全部の要素の掛け合わせによって唯一無二の心臓が生まれていることが、とても面白いのです。
また、心臓に関わる検査には血液検査や心電図検査、レントゲン検査、MRI検査、カテーテル検査などいろいろな種類があります。検査というのは「どういう切り口でその臓器を見ているか」ということですが、検査結果を重ね合わせることで最後につじつまが合って、いまの心臓がどういう状態なのかという全体像がちゃんと見えてくる。心臓って、とてもロジカルな臓器なんですよ。
治療の面でも「こういう作用の薬を飲んだからこうなった」という結果が見えやすいので方針が立てやすく、納得感があります。最終的な結果を想定して内科的な治療のほか外科的な治療も組み合わせますが、思ったとおりの結果になりやすいのも大きな特徴です。心臓には物理的・力学的な要素が多いと捉えていて、そこにも面白さを感じます。

もうひとつの基準「働き方が自分に合っているか」という点については、どのように考えていらっしゃいますか?

循環器内科を選んだ時点では定まった人生計画のようなものはなかったので、家庭や子育てといった「ライフ(生活)」の面はあまり考えずに業務に携わっていました。研修時代に夜間の呼び出しや緊急対応といったハードな印象がある勤務もしましたが、どれも良い経験になったと思っています。
一方で、興味がある診療や分野があっても「やっぱり働き方が不安」という人も多いですよね。でも、働き方だけで仕事を決めてしまうと「楽しくない」という結果になってしまうケースもあります。
だから自分が「好きかどうか」「やりたいかどうか」という視点をベースにして、その次に、自分に合う働き方ができる場所を探す。「興味や関心がある分野×働き方の希望が合致する職場」という掛け合わせで仕事を選ぶのが良いのではないかと思います。
まずは妥協をせずに、日本全国あるいは世界中まで視野に入れ、働く場所も病院だけに縛られず、自分の興味と理想の働き方ができる場所が本当にないのか探してみてほしいです。

まずは興味関心が先にあることが大切だというのは、非常に納得感がありますね。
「自分の知っている働き方以外の選択肢を提示してもらえる」という意味では、転職コンサルタントなどプロの力を借りるという方法もあります。福田先生は、悩んだ時に誰かに相談されることはありますか?

循環器内科を選ぶ際、外科や呼吸器内科のほか泌尿器科にも魅力を感じていて最後まで決められませんでした。当時は、循環器内科は忙しいから女性には大変という雰囲気もあったので...。
その時に相談したのが、当時研修していた病院の循環器内科の女性医師です。先輩にあたるその医師から「全員を誘うことはできないけれど、芽森なら自信を持って循環器内科に誘うことができる」と言ってもらえて、この言葉が進路に迷っていた自分の背中を押してくれました。
今振り返ってみると、自分の中では循環器内科に行きたいと思っていたものの、踏み出す勇気がなかっただけなのかもしれません。「やってみて合わなければ、診療科を変えるという選択肢もある」と考えて、循環器内科に進むことを決めました。
先輩の女性医師のほかには、同期の仲間に相談したりしていましたね。進路を迷う仲間も多く、どんな診療科が向いているのかについて連日のようにお互い励まし合っていました。

先輩医師が「自信を持って誘うことができる」と仰られた理由はどんなところにあると思われますか?

おそらく、元気だったからですかね(笑)。若くて体力もあったので、忙しさを経験として楽しむことができていた。研修医時代、住む部屋が病院と廊下でつながっていて常に病院にいるような環境でしたが、はつらつと研修をしていたと記憶しています。先輩はそんな私の姿を見て「エネルギ―がある」と感じ、「芽森なら自信を持って誘える」という力強い言葉をかけてくれたのではないかと思います。

とても明快な理由ですね。迷った時に、ご自身の中で指針にされていることはありますか?

20代の頃は、出産などのライフプランを優先してキャリアプランを諦めるのはちょっと違うと感じていました。もちろん子育てや介護などがあればそれも考慮して決める必要がありますが、当時の私は自分自身がやりたいかどうかを優先して選択することができましたから。
自分で決めたことには自分で責任を取る。つまりは、後になって「その選択が良かった」と思えるようにやっていけばいいと思っています。もし途中で自分に向いていないと感じたら、やめるという選択をしてもいいのです。
医師が自由に診療科を選ぶことができない国もある中で、日本のように自分で診療科を選べる仕組みは、とてもありがたいと感じています。

マルチタスクだからこそ見つけた、「私らしい働き方」の工夫

講演で話している福田先生

福田先生の人生のテーマは「幸福と健康」とのこと。では、マルチタスクをこなす多忙な日々の中で幸福と健康を保ち続けるために、どのようなことを心がけていらっしゃるのでしょうか。福田先生流「私らしい働き方」の工夫についてお話を伺いました。

人生のテーマである「幸福と健康」のために

先生は日々忙しく活動されていますが、幸福と健康を自ら体現するためにどんなことを心がけていらっしゃいますか?

まず「ため込まない」こと。悩みがある時は家族や友人に自分から相談するようにしています。
今の私は、大切な人たちが生きていて、衣食住が保たれているだけで十分ありがたいと感じています。「今あるもの」にまず目を向けるようにしているからだと思いますが、こうした捉え方ができること自体が幸せなことなのかもしれません。

時間の使い方については、どのような点に気をつけていらっしゃいますか?

スケジューリングについては、ミーティングや移動する予定は同じ日にまとめて、ひとりでじっくり対峙する必要があるタスクに時間をとって取り組む日もつくるようにしています。
1日の中でいろいろな種類の仕事が入っている日もありますが、仕事が変わるごとに脳のモードを切り替えるのは少し時間がかかりますよね。なので、うまく切り替えができないと感じたら予定を変更する・インプットとアウトプットのバランスを取るといったことを意識しています。

移動や食事が気分転換になったりする場合もありますか?

そうですね。移動したりお茶を飲んだりすると気分をリフレッシュできますよね。
仕事内容に合わせて洋服を着替えたりするのもおすすめです。たとえば、ミーティングに出席する時はスーツを着て、執筆をする時にはスウェットを着たりしています。個人的には、見た目を変化させることでスイッチを入れ替えることができますね。

失敗は、「ダメ」じゃない。頑張る女性医師に贈るエール

気持ちの切り替えがうまくできずに、失敗した経験はありますか?

ダブルブッキングや、訪問場所を間違えてしまった経験は私にもあります。些細なミスが続く時は、疲れていることが多い。こうした苦い経験から、疲れを感じたら早めに休息を取るようにしています。
仕事を続けるためには、ある程度の体力が必要ですよね。年齢を重ねるにつれて無理もできなくなりますから、自分の体力を過信しないように気をつけています。

年齢とともに誰しも身体には変化が訪れるものですよね。健康を保つためにされていることはありますか?

休息の手段としては、やはり睡眠を大切にしています。数年前、とても忙しい時期に体調を崩して入院・治療したことがあるのですが、無意識のうちに無理し過ぎてしまったのかもしれません。結果として周りの人たちにも迷惑をかけてしまいました。やりたい気持ちはあっても身体がついてこない時があるということを痛感しましたね。
最近では身体と心の変化を見逃さないように、丁寧に観察するようにしています。また、集中力が途切れてきたら無理して続けないように心がけています。

女性医師の場合、出産・育児というライフイベントとキャリアの両立に不安を抱えている人も少なくありません。こうした女性医師に向けてメッセージをお願いします。

私がもっともお伝えしたいのは、「ひとりで悩まない」ということ。
自分だけでベストな結論が出せるほど世間は狭くない。自分の中にはない考え方が世の中にはたくさんあると感じています。
だから、もっと周りの人たちに頼っていいのではないでしょうか。少しだけ手を伸ばしてみれば、助けの糸口になることが必ずあると思っています。
もし希望する領域で自分の力を発揮できなかったとしても、その人の人間性が否定されたわけではありません。それは、ただ合わなかっただけのこと。
こうした私の考え方や経験が、誰かの気持ちを軽くしたり勇気を与えるきっかけになれば嬉しいです。

福田芽森先生の写真

福田芽森(ふくだ・めもり)先生

2011年に東京女子医科大学医学部を卒業。国立病院機構東京医療センターでの初期研修後は同局の循環器内科勤務・独立行政法人国立病院機構東京医療センター勤務で知見を積み、2017年から慶應義塾大学循環器内科に勤務。現在は臨床医としての診療と並行して予防医療の観点から産業医としての勤務も受け持ちつつ、AI医療機器開発のスタートアップ企業であるアイリス株式会社では臨床開発に従事。そのほか、「正しく分かりやすい医療情報を伝えたい」という思いから日本循環器学会広報部会委員としての広報活動・Yahoo!ニュースなどでのサイエンスライティングも行うなど、マルチに活躍の場を広げている。

ドクタービジョン編集部

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