【感染症内科医監修】ペニシリン系抗生物質の一覧解説<早見表つき>

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医療知識

公開日:2023.04.20
更新日:2023.06.22

【感染症内科医監修】ペニシリン系抗生物質の一覧解説<早見表つき>

【感染症内科医監修】ペニシリン系抗生物質の一覧解説<早見表つき>

使い分けや覚え方に腐心する抗菌薬。今回はその中のペニシリン系抗生物質(PCG、ABPC、PIPC、ABPC/SBT、PIPC/TAZ、AMPC、AMPC/CVA)について、スペクトラム・通常使用量・副作用・覚えておくべきポイントなどを、公立大学法人 横浜市立大学附属病院 血液・リウマチ・感染症内科の副島 裕太郎 先生に解説していただき、一覧にまとめました。

臨床現場で役立つ早見表もご用意しましたので、ぜひお役立てください。

副島裕太郎先生の写真

監修者:副島 裕太郎

公立大学法人横浜市立大学附属病院 血液・リウマチ・感染症内科

詳しいプロフィールはこちら  

ベンジルペニシリン(PCG)

商品名

ペニシリンG

特徴

青カビから分離された天然抗生物質です。スペクトラムは狭域ですが、レンサ球菌・髄膜炎菌への強力な活性を持つ「切れ味のよい」抗菌薬と言えるでしょう。半減期が短いため、4時間ごとの点滴もしくは24時間持続点滴で投与(腎機能正常の場合)します。

スペクトラム・適応となる病態

レンサ球菌:溶血レンサ球菌による皮膚軟部組織感染症(壊死性筋膜炎であればクリンダマイシンの併用を検討)や緑色レンサ球菌による感染性心内膜炎の第一選択
髄膜炎菌:髄膜炎菌性髄膜炎の第一選択
感受性のある肺炎球菌での第一選択:最近ではペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP:penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae)が増えている
梅毒・レプトスピラなどのスピロヘータ属の第一選択
クロストリジウム属(Clostridium perfringensなど)や口腔内嫌気性菌の大部分(Peptostreptococcusなど)
その他さまざまな微生物に活性がある:ジフテリア(Corynebacterium diphtheriae)・炭疽菌 (Bacillus anthracis)・放線菌のアクチノミセス(Actinomyces)など
× 黄色ブドウ球菌・大腸菌はペニシリナーゼを産生するため耐性であることが多い
× 横隔膜下の嫌気性菌には無効

通常使用量

【ベンジルペニシリン】200万~400万単位 4時間ごと静注 または 1200万~2400万単位 24時間持続静注
髄膜炎・感染性心内膜炎・壊死性筋膜炎などの重症病態では高用量での使用が望ましい

副作用(ペニシリン系全般の説明を含む)

過敏反応
ペニシリン投与による「副反応」は0.5~5%に起こるとされていますが、真の「アレルギー」であることはそこまで多くありません。アナフィラキシーや重症薬疹など重篤なアレルギーの既往がある場合は、ペニシリン系、およびペニシリン系と交叉反応を起こす可能性が高いセフェム系やカルバペネム系は避けたほうが無難です。

中枢神経毒性
ペニシリンGの直接的な脳に対する毒性によるとされています。腎機能低下時に高用量で使用した場合にけいれんを誘発することもあります。

電解質異常
点滴製剤はカリウムが含まれており(1.7 mEq/100万単位)、大量投与で高カリウム血症になることがあります。

静脈炎
薬剤のpHが低いために起こることがあります。希釈液を多めにしたり点滴をゆっくり落としたりすることで対応しましょう。

消化器症状
悪心・嘔吐:とくにベンジルペニシリンやアモキシシリンで多く起こります。
下痢:抗菌薬自体の副作用だけでなく、ClostridioidesClostridiumdifficile感染症によるものもあります。

Jarisch-Herxheimer反応
梅毒の治療開始時に菌体成分が放出されることによる反応。
症状:発熱、咽頭痛、倦怠感・筋肉痛・頭痛などの全身症状、梅毒病変の一過性悪化などです。
治療開始数時間後に出現し、1日程度で消失することが多いです。治療開始前にこのような症状が出現する可能性があることを説明しておく必要があるでしょう(薬剤アレルギーと思って治療を中断してしまうかもしれないため)。

その他:筋注用ペニシリンについて

欧米では梅毒の治療の第一選択肢であったペニシリンの筋注用製剤(ステイルズ)が、2021年に日本でも薬事承認がなされ、使用できるようになりました。
・早期梅毒: ベンジルペニシリン 1回240万単位筋注 単回
・後期梅毒: ベンジルペニシリン 1回240万単位筋注 週に1回 計3回

その他:内服用ペニシリンについて

欧米では経口吸収率のよいpenicilin Vが使用できるが、本邦では使用できません。
ペニシリンGの内服薬(バイシリン)をどうしても使用したい場合(例:GAS咽頭炎疑いだが伝染性単核球症がどうしても除外できずアモキシシリンを使いづらい場合)は、胃酸の影響を受けにくい空腹時の投与を検討しましょう。

アンピシリン(ABPC)

商品名

ビクシリン

特徴

ペニシリンGから安定性向上を目指して作られた合成ペニシリンです。
腸球菌のEnterococcus faecalisやリステリアへの抗菌活性も持っています。感受性があれば、大腸菌などの腸内細菌科やインフルエンザ桿菌にも有効です。

スペクトラム・適応となる病態

肺炎球菌・髄膜炎菌による肺炎・髄膜炎
溶血性レンサ球菌による皮膚軟部組織感染症(壊死性筋膜炎であればクリンダマイシンの併用を検討)
リステリア(Listeria monocytogenes)菌血症・髄膜炎の第一選択
腸球菌 Enterococcus faecalis 感染症の第一選択
腸内細菌科による感染症(尿路感染症など):大腸菌、サルモネラなど
インフルエンザ桿菌(Haemophilus influenzae)による中耳炎・副鼻腔炎・気道感染症
× Klebsiellaは内因性耐性があり無効

通常投与量

【アンピシリン】2g 6時間ごと 点滴静注
※感染性心内膜炎では 【アンピシリン】2g 4時間ごと +【ゲンタマイシン】1mg/kg 8時間ごと

副作用

ほかのペニシリン系と同様(過敏反応・腎障害・肝障害・血球減少・消化器症状・静脈炎など)。
とくにエプスタイン-バーウイルス(Epstein-Barr virus: EBV)感染のときに投与すると、重度の皮膚症状を起こすことがあります。

その他

ベンジルペニシリンよりも副作用・投与間隔などの面で「使い勝手」がよいため、ベンジルペニシリンの使用を希望する状況で、代わりに使用することも多くあります。

ピペラシリン(PIPC)

商品名

ペントシリン

特徴

グラム陽性菌に対する活性はペニシリンやアンピシリンに比べると若干劣りますが、グラム陰性菌に対する抗菌活性が強くなっています。
KlebsiellaProteus属の一部、「SPACE」といわれる院内感染で問題になるグラム陰性桿菌(このうち、「A」のアシネトバクターは除く)に活性があります。

院内感染で問題になるグラム陰性桿菌「SPACE」
  • S:Serratia セラチア
  • P:Pseudomonas 緑膿菌
  • A:Acinetobacter アシネトバクター
  • C:Citrobacter シトロバクター
  • E:Enterobacter エンテロバクター
  • スペクトラム・適応となる病態

    緑膿菌感染症(菌血症・肺炎・尿路感染症・皮膚軟部組織感染症など)
    感受性のある他剤耐性グラム陰性桿菌による感染症

    通常投与量

    【ピペラシリン】4g 6時間ごと 点滴静注

    副作用

    肝障害:胆汁うっ滞性の黄疸
    その他、ほかのペニシリン系と同様(過敏反応・腎障害・血球減少・消化器症状など)。

    その他

    アミノグリコシドとは混合せずに時間をあけて投与します(ピペラシリンの活性が落ちるため)。

    アンピシリン/スルバクタム(ABPC/SBT)

    商品名

    ユナシン
    スルバシリン

    特徴

    細菌が産生するβラクタマーゼを阻害する成分(スルバクタム)を配合したことで、本来ペニシリン系に耐性のある細菌にもスペクトラムが拡大した薬剤です。

    スペクトラム

    アンピシリンのスペクトラムに加えて、下記の菌にも活性があります。
    ・メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(meticillin-susceptible Staphylococcus aureus:MSSA)
    ・多くの腸内細菌
     ― インフルエンザ桿菌(Haemophilus influenzae):β-ラクタマーゼでなくペニシリン結合タンパクの問題で耐性化しているBLNAR(β-lactamase negative ampicillin resistance)には無効
     ― モラキセラ(Moraxella catarrhalis
     ― ペニシリナーゼを産生する大腸菌
    ・横隔膜下の嫌気性菌(Bacteroides fragilisなど)

    ただ最近は大腸菌などでアンピシリン/スルバクタム耐性化が進んでおり、施設・地域によっては経験的治療に使いづらい場合もあります(自分が診療する環境のアンチバイオグラムを確認してください)。

    適応となる病態

    市中発症の腹腔内・骨盤内感染症(腹膜炎・胆管炎・胆嚢炎など)
    中耳炎・副鼻腔炎・頚部感染症(複数菌や嫌気性菌の関与が想定される場合)
    市中発症の誤嚥性肺炎
    深部皮膚軟部組織感染症(嫌気性菌のカバーを考慮する場合)
    多剤耐性アシネトバクター(Acinetobacter baumannii)(スルバクタムが有効)

    通常投与量

    【アンピシリン/スルバクタム】3g 6時間ごと 点滴静注

    副作用

    ほかのペニシリン系と同様(過敏反応・腎障害・肝障害・血球減少・消化器症状など)。

    ピペラシリン/タゾバクタム(PIPC/TAZ)

    商品名

    ゾシン
    タゾピペ

    特徴

    ピペラシリンにβ-ラクタマーゼ阻害薬であるタゾバクタムが配合されています。
    アンピシリン/スルバクタムとの違いは、耐性傾向の強いグラム陰性桿菌への抗菌活性です。院内発症の感染症や免疫不全者の感染症で、緑膿菌などのSPACEや嫌気性菌のカバーを確実に行いたい場合に使用すべき抗菌薬ですが、濫用は慎むべきでしょう。

    スペクトラム・適応となる病態

    院内発症の腹腔内・骨盤内感染症
    発熱性好中球減少症(嫌気性菌までカバーしたい場合)
    緑膿菌までカバーしたい肺炎
    ※基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(extended-spectrum β-lactamase:ESBL)産生菌への有効性については議論の分かれるところです。

    通常投与量

    【ピペラシリン/タゾバクタム】4.5g 6時間ごと 点滴静注

    副作用

    腎障害:機序は不明だがバンコマイシンと併用すると急性腎障害のリスクが高くなるという報告が散見されます。
    その他、ほかのペニシリン系と同様(過敏反応・肝障害・血球減少・消化器症状など)です。

    アモキシシリン(AMPC)

    商品名

    サワシリン

    特徴

    アンピシリンの内服版といえる抗菌薬です。
    アンピリシンの経口薬と比べて経口吸収率が高く(アモキシシリン約90% vs アンピシリン約50%)であり、内服の際は通常はアモキシシリンを選択します。

    スペクトラム・適応となる病態

    溶血性レンサ球菌による咽頭炎
    細菌性中耳炎・副鼻腔炎
    肺炎球菌性肺炎
    歯科治療時のレンサ球菌による感染性心内膜炎予防
    梅毒

    通常投与量

    【アモキシシリン】500mg 6~8時間ごと内服
    ※梅毒では、【アモキシシリン】1~3g 8~12時間ごと +【プロベネシド】750~1500mg/日 内服 14~28日間
    アモキシシリンの吸収を高めるためにプロベネシドを併用します(尿細管からのアモキシシリンの排出を抑制し、血中濃度を高める作用があります)。

    副作用

    ほかのペニシリン系と同様(過敏反応・腎障害・肝障害・血球減少・消化器症状など)。
    とくにエプスタイン-バーウイルス(Epstein-Barr virus: EBV)感染のときに投与すると重度の皮膚症状を起こします。「咽頭炎」と診断した患者にアモキシシリンを処方する場合には注意しましょう(その咽頭痛は伝染性単核球症による症状かもしれません)。

    アモキシシリン/クラブラン酸(AMPC/CVA)

    商品名

    オーグメンチン

    特徴

    アンピシリン/スルバクタムの内服版に相当する薬剤です。
    βラクタマーゼ阻害薬であるクラブラン酸が配合されることで、アモキシシリンが有効な細菌に加えて嫌気性菌や腸内細菌科への活性があります。

    スペクトラム・適応となる病態

    動物咬傷の第一選択
    急性中耳炎・副鼻腔炎・市中肺炎
    尿路感染症(大腸菌の感受性が問題ない施設・地域で)

    通常投与量

    【アモキシシリン/クラブラン酸】250mg/125mg +【アモキシシリン】250mg 8時間ごと内服
    ※「オグサワ」療法について
    欧米と比べて、国内で発売されている成人用の製剤は、アモキシシリンの含有量が少ないのが特徴です。増量の必要がありますが、合剤で増量してしまうとクラブラン酸の投与量が増えて下痢などの副作用が増えるため、アモキシシリンと組み合わせて処方することが多くあります。

    副作用

    ほかのペニシリン系と同様(過敏反応・腎障害・肝障害・血球減少・消化器症状など)。

    PDFでいつでも確認できる!「頻用抗菌薬の使い方早見表」

    本記事を手掛けていただいた副島先生に監修いただき「頻用抗菌薬の使い方早見表」をご用意しました。 ペニシリン系だけでなく、複数系統の頻用薬をまとめています。

    臨床現場で見やすいよう、今回解説いただいた内容から、通常使用量・通常投与量や適応菌種、さらに使い分けのポイントなどを一つの早見表にコンパクトにまとめたものとなります。出力して持ち運ぶのはもちろんタブレットでの閲覧もしやすくなっています。


    ★こんな方におススメです
    ・抗菌薬(抗生物質)の正しい使い分けを理解したい
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    以下より無料でダウンロードができますので、ぜひこの機会にお役立ていただければと思います。

    副島 裕太郎

    監修者:副島 裕太郎

    2011年 佐賀大学医学部医学科卒業。2021年 横浜市立大学大学院医学研究科修了。
    日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医、日本リウマチ学会 リウマチ専門医・指導医、日本化学療法学会 抗菌化学療法認定医。感染症およびリウマチ・膠原病疾患の診療・研究に従事している。

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