
【感染症内科医監修】今すぐ役立つ「抗菌薬の種類」ガイド
抗菌薬には非常に多くの種類があり、覚えたり使い分けたりするのに苦心するものです。よく使う・知っておいた方がよい43種類を感染症内科医が厳選し、特徴や注意点を系統ごとに解説しています。
使い分けや覚え方に腐心する抗菌薬。今回は代表的なペニシリン系抗生物質について、スペクトラム・通常使用量・副作用・覚えておくべきポイントを、感染症内科医の副島裕太郎先生にご解説いただき、一覧にまとめました。
臨床現場で役立つ早見表もご用意しましたので、ぜひお役立てください。
※本資料の掲載内容は監修者個人の見解も含みます。診療にあたっては最新のガイドラインや治療指針、各種薬剤の添付文書などをご確認ください。
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ペニシリンG
青カビから分離された天然抗生物質です。スペクトラムは狭域ですが、レンサ球菌・髄膜炎菌への強力な活性を持つ"切れ味の良い"抗菌薬と言えるでしょう。
半減期が短いため、4時間ごとの点滴または24時間持続点滴で投与します(腎機能正常の場合)。
◎ レンサ球菌:溶血レンサ球菌による皮膚軟部組織感染症(壊死性筋膜炎であればクリンダマイシンの併用を検討)や緑色レンサ球菌による感染性心内膜炎の第一選択
◎ 髄膜炎菌:髄膜炎菌性髄膜炎の第一選択
◎ 感受性のある肺炎球菌での第一選択
※近年はペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP:penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae)が増えている
◎ 梅毒・レプトスピラなどのスピロヘータ属の第一選択
○ クロストリジウム属(Clostridium perfringensなど)や口腔内嫌気性菌の大部分(Peptostreptococcusなど)
○ その他さまざまな微生物に活性がある:ジフテリア(Corynebacterium diphtheriae)・炭疽菌 (Bacillus anthracis)・放線菌のアクチノミセス(Actinomyces)など
× 黄色ブドウ球菌・大腸菌はペニシリナーゼを産生するため耐性であることが多い
× 横隔膜下の嫌気性菌には無効
【ベンジルペニシリン】
過敏反応
ペニシリン投与による「副反応」は0.5~5%に起こるとされていますが、真の「アレルギー」であることはそこまで多くありません。アナフィラキシーや重症薬疹など重篤なアレルギーの既往がある場合は、ペニシリン系、およびペニシリン系と交叉反応を起こす可能性が高いセフェム系やカルバペネム系は避けた方が無難です。
中枢神経毒性
直接的な脳に対する毒性によるとされています。腎機能低下時に高用量で使用した場合にけいれんを誘発することもあります。
電解質異常
点滴製剤にはカリウムが含まれており(1.7 mEq/100万単位)、大量投与で高カリウム血症をきたすことがあります。
静脈炎
薬剤のpHが低いために起こることがあります。希釈液を多めにしたり点滴をゆっくり落としたりすることで対応しましょう。
消化器症状
悪心・嘔吐:とくにベンジルペニシリンやアモキシシリンで多く起こります。
下痢:抗菌薬自体の副作用だけでなく、Clostridioides(Clostridium)difficile感染症による場合もあります。
Jarisch-Herxheimer反応
梅毒の治療開始時に菌体成分が放出されることによる反応です。
発熱、咽頭痛、倦怠感・筋肉痛・頭痛などの全身症状、梅毒病変の一過性悪化などをきたします。
治療開始後数時間で出現し、1日程度で消失することが多いです。このような症状が出現する可能性があることを、治療開始前に説明しておく必要があるでしょう(薬剤アレルギーと思って治療を中断してしまうおそれがあるため)。
欧米で梅毒治療の第一選択肢であった、ペニシリンの筋注用製剤(ステイルズ®)が2021年に日本でも承認され、使用できるようになりました。
欧米では経口吸収率が良好なPenicillin V(ペニシリンV)を使用できますが、日本では使用できません(本稿執筆現在)。
ペニシリンGの内服薬(バイシリン®G顆粒)をどうしても使用したい場合(例:GAS咽頭炎疑いだが伝染性単核球症を除外できずアモキシシリンを使いづらい場合)は、胃酸の影響を受けにくい空腹時の投与を検討しましょう。
ビクシリン®
ペニシリンGから安定性向上を目指して作られた合成ペニシリンです。
腸球菌のEnterococcus faecalisやリステリアへの抗菌活性も持っています。感受性があれば、大腸菌などの腸内細菌科やインフルエンザ桿菌にも有効です。
◎ 肺炎球菌・髄膜炎菌による肺炎・髄膜炎
◎ 溶血性レンサ球菌による皮膚軟部組織感染症(壊死性筋膜炎であればクリンダマイシンの併用を検討)
◎ リステリア(Listeria monocytogenes)菌血症・髄膜炎の第一選択
◎ 腸球菌(Enterococcus faecalis 感染症)の第一選択
○ 腸内細菌科による感染症(尿路感染症など):大腸菌、サルモネラなど
○ インフルエンザ桿菌(Haemophilus influenzae)による中耳炎・副鼻腔炎・気道感染症
× Klebsiellaは内因性耐性があり無効
【アンピシリン】2 g
※感染性心内膜炎では【アンピシリン】2 g・4時間ごと+【ゲンタマイシン】1 mg/kg・8時間ごと
副作用・投与間隔などの面で、ベンジルペニシリンよりも"使い勝手が良い"ため、ベンジルペニシリンの使用を希望する状況で代わりに使用することも多くあります。
ペントシリン®
グラム陽性菌に対する活性はペニシリンやアンピシリンに比べると若干劣りますが、グラム陰性菌に対する抗菌活性が強くなっています。
Klebsiella属、Proteus属の一部、「SPACE」と呼ばれる院内感染で問題になるグラム陰性桿菌(「A」のアシネトバクターは除く)に活性があります。
【院内感染で問題になるグラム陰性桿菌「SPACE」】
◎ 緑膿菌感染症(菌血症・肺炎・尿路感染症・皮膚軟部組織感染症など)
○ 感受性のある多剤耐性グラム陰性桿菌による感染症
【ピペラシリン】4 g
アミノグリコシドとは混合せずに時間を空けて投与します(ピペラシリンの活性が落ちるため)。
ユナシン®
スルバシリン®
細菌が産生するβラクタマーゼを阻害する成分(スルバクタム)を配合したことで、本来ペニシリン系に耐性のある細菌にもスペクトラムが拡大した薬剤です。
アンピシリンのスペクトラムに加えて、下記の菌にも活性があります。
ただし、近年は大腸菌などでアンピシリン/スルバクタムの耐性化が進んでおり、施設・地域によっては経験的治療として使いづらい場合もあります。診療環境のアンチバイオグラムを確認しましょう。
◎ 市中発症の腹腔内・骨盤内感染症(腹膜炎・胆管炎・胆嚢炎など)
◎ 中耳炎・副鼻腔炎・頚部感染症(複数菌や嫌気性菌の関与が想定される場合)
○ 市中発症の誤嚥性肺炎
○ 深部皮膚軟部組織感染症(嫌気性菌のカバーを考慮する場合)
○ 多剤耐性アシネトバクター(Acinetobacter baumannii)(スルバクタムが有効)
【アンピシリン/スルバクタム】3 g
ほかのペニシリン系と同様(過敏反応・腎障害・肝障害・血球減少・消化器症状など)
ゾシン®
タゾピペ®
ピペラシリンにβ-ラクタマーゼ阻害薬であるタゾバクタムが配合されています。
アンピシリン/スルバクタムとの違いは、耐性傾向の強いグラム陰性桿菌への抗菌活性です。院内発症の感染症や免疫不全者の感染症で、緑膿菌などのSPACEや嫌気性菌を確実にカバーしたい場合に使用すべき抗菌薬ですが、濫用は慎むべきでしょう。
◎ 院内発症の腹腔内・骨盤内感染症
○ 発熱性好中球減少症(嫌気性菌までカバーしたい場合)
○ 緑膿菌までカバーしたい肺炎
※基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(extended-spectrum β-lactamase:ESBL)産生菌への有効性については議論の分かれるところです。
【ピペラシリン/タゾバクタム】4.5 g
サワシリン®
アンピシリンの内服版と言える抗菌薬です。
アンピシリンの経口薬と比べて経口吸収率が高く(アモキシシリン約90% vs アンピシリン約50%)、内服の際は通常アモキシシリンを選択します。
◎ 溶血性レンサ球菌による咽頭炎
◎ 細菌性中耳炎・副鼻腔炎
◎ 肺炎球菌性肺炎
◎ 歯科治療時のレンサ球菌による感染性心内膜炎予防
○ 梅毒
【アモキシシリン】500 mg
オーグメンチン
アンピシリン/スルバクタムの内服版に相当する薬剤です。
βラクタマーゼ阻害薬であるクラブラン酸が配合されており、アモキシシリンが有効な細菌に加えて嫌気性菌や腸内細菌科への活性があります。
◎ 動物咬傷の第一選択
◎ 急性中耳炎・副鼻腔炎・市中肺炎
○ 尿路感染症(大腸菌の感受性が問題ない施設・地域で)
【アモキシシリン/クラブラン酸】250 mg/125 mg+【アモキシシリン】250 mg・8時間ごと(内服)
※(補足)「オグサワ」療法について
日本で発売されている成人用の製剤は、欧米と比べてアモキシシリンの含有量が少ないのが特徴です。増量の必要がありますが、合剤で増量してしまうとクラブラン酸の投与量が増えて下痢などの副作用リスクが高まるため、アモキシシリンと組み合わせて処方することが多くあります。
ほかのペニシリン系と同様(過敏反応・腎障害・肝障害・血球減少・消化器症状など)
本記事を手掛けていただいた副島先生にご監修いただき『頻用抗菌薬の使い方早見表』をご用意しました。ペニシリン系のほか、セフェム系・ニューキノロン系など主要9系統の頻用抗菌薬を対象としています。
臨床現場で見やすいよう、通常使用量・投与量や適応菌種、使い分けのポイントなどを早見表形式とし、コンパクトにまとめました。スマホやタブレットでの閲覧に適しています。
★こんな先生方におススメです
・抗菌薬(抗生物質)の使い分けを一目で理解したい
・系統ごとに、成分の特徴を比較したい
・処方時にすぐ選べるよう、確認しやすい形式の資料がほしい
・いつでも確認できるように携帯しておきたい
以下より無料でダウンロードができますので、ぜひこの機会にお役立てください。
【無料PDF】『頻用抗菌薬の使い方早見表』お申し込みフォーム
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横浜市立大学附属病院 血液・リウマチ・感染症内科
2011年 佐賀大学医学部医学科卒業。2021年 横浜市立大学大学院医学研究科修了。
日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医、日本リウマチ学会認定リウマチ専門医・指導医、日本化学療法学会抗菌化学療法認定医。感染症およびリウマチ・膠原病疾患の診療・研究に従事している。
※プロフィールは公開当時の情報に基づきます。