確定申告が必要な医師とは?申告の流れや提出書類も含めFPが解説

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公開日:2024.02.02

確定申告が必要な医師とは?申告の流れや提出書類も含めFPが解説

確定申告が必要な医師とは?申告の流れや提出書類も含めFPが解説

年度末になると、国から「確定申告」の呼びかけがありますが、自分は確定申告が必要なのか、確定申告によって税の還付を受けられる可能性があるのか、気になる方は多いのではないでしょうか。

医師の場合、勤務医か開業医か、複数の医療機関で勤務しているかといった勤務形態や年収額などの条件次第では、確定申告が必要です。どのような場合に確定申告をすれば良いのか、解説します。

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執筆者:山﨑 裕佳子

1級ファイナンシャル・プランニング技能士/CFP®認定者

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確定申告とは

所得税の確定申告とは、1月1日から12月31日の1年間の所得額を計算・確定し、所得税額を申告し納税する一連の手続きを指します。所得税の確定申告を行うことで、同時に翌年度の住民税も確定します。

会社員や公務員など、収入が給与所得のみの人は、通常会社の年末調整で課税関係の処理が終了するため、確定申告は不要です。

一方、自営業者や個人事業主・フリーランスなど事業所得がある人や、給与所得、退職所得以外の所得が一定額以上ある人は、確定申告が必要です。

確定申告をしないとどうなる?

確定申告が必要であるにもかかわらず申告せず、期限までに納税をしないと、無申告加算税や延滞税というペナルティが科されます。

無申告加算税は原則として、税額50万円まで15%、50万円を超える分には20%を乗じて計算されます。これに延滞税が加算され、本来納付すべき税金と一緒に納付することになります。

確定申告が必要な医師とは

Close up of calculator and stethoscope on blue background - Business and Insurance concept

医師の場合、確定申告が必要になる代表的なケースは、勤務先が2カ所以上あり、主な勤務先以外の所得が20万円を超える場合です。また、開業医や、副業などによる収入が年間20万円を超える場合も、確定申告が必要です。

そのほかのケースも含めて、具体的に解説します。

年収が2,000万円を超える医師

年収が2,000万円を超える人は、年末調整の対象外となります。そのため各自、確定申告によって所得税を納付する必要があります

複数の病院に勤務している医師

当直などの非常勤や単発アルバイトで、複数の病院から収入を得ている医師は、確定申告が必要な場合があります。

複数の病院から給与を受けている(勤務先が2カ所以上ある)場合、主たる勤務先で所得を合算し年末調整をすれば、確定申告は必要ありません。

ただし、主たる勤務先の所得のみで年末調整され、年末調整を行っていない2カ所目の勤務先の所得が年間20万円を超える場合には別途、所得税の確定申告が必要です。

副収入がある医師

勤務先で年末調整が終了していても、給与所得と退職所得以外の所得が年間20万円を超える医師は、確定申告が必要です。

たとえば、執筆料・講演料などは雑所得、マンションの賃貸収入は不動産所得に該当します。これらの所得の合計が年間20万円を超える場合は、確定申告が必要です。

開業医

開業医の所得は事業所得に分類されます。

事業所得は、給与所得のような源泉徴収や年末調整の仕組みがないため、確定申告が必要です。1年間の収入から必要経費・人的控除・物的控除を差し引いて課税所得を算出し、所得税を納付します。

確定申告をした方が良い医師とは

白衣の医者、聴診器 屋外でパソコンを見ながら考える

年末調整をした医師も、以下の要件に当てはまる場合は確定申告をすることで払い過ぎた所得税の還付を受けられます

所得税の還付申告は、還付が発生した翌年の1月1日以降、通年で可能です。

特定支出控除を適用したい医師

給与所得者である勤務医には原則、「必要経費」の概念はありませんが、下記費用の合計額が一定の基準を超える場合、確定申告によって超過分を所得金額から控除でき、税金の還付を受けられます

※注:勤務先から支給・弁済がある場合は対象外です。

  • 通勤費
  • 職務上の旅費
  • 転居費
  • 研修費
  • 資格取得費
  • 帰宅旅費(単身赴任などの場合)
  • 勤務必要経費(図書費、衣服費、交際費など。最大65万円まで)
出典:国税庁「No.1415 給与所得者の特定支出控除」より
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1415.htm

医療費控除やセルフメディケーション税制を適用したい医師

医療費控除とは、病院や薬局に支払った金額が年間10万円以上となった場合に所得から控除される仕組みです。

公的医療保険から届く「医療通知書」もしくは、病院や薬局のレシートを保存しておきましょう。後述するe-Taxと連携すると医療費通知情報を自動で取得でき便利です。

なお、全額自己負担の自由診療(レーシック手術、インプラントなど)でも医療費控除の対象となることがありますので、対象であるか迷う場合は国税庁のホームページなどで確認してください。

控除される金額は以下のように算出します。

医療費控除の金額=支払った医療費 - 保険給付金 - 10万円(*)

*総所得金額が200万円未満の場合は、総所得金額の5%

これに対してセルフメディケーション税制とは、医薬品の購入や健康促進・疾病予防の取り組みへの支出額が年間12,000円を超えた場合に、超過分が所得から控除される仕組みです。対象となる医薬品や取り組みには条件があります。

どちらの制度も、生計をともにする家族分の費用を合算できます。ただし医療費控除とセルフメディケーション税制はどちらか一方しか利用できませんので、還付金が大きくなる方を選択してください。

住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)を受けたい医師【初年度のみ】

住宅ローン控除は、一定の要件を満たした住宅をローンで購入した際、年末ローン残高の0.7%が最大13年間控除される制度です。

住宅を購入した年(住宅ローンを開始した年)は、年末調整では住宅ローン控除の対応ができません。そのため、その年だけは翌年の確定申告で手続きをする必要があります

2年目以降は勤務先の年末調整で対応できるため、確定申告は不要となります。

開業医などの自営業の方や年末調整がない方は、毎年確定申告をする必要があります。申告を忘れないようにしてください。

雑損控除を受けたい医師

雑損控除とは、震災や風水害などの自然災害、火災や爆発などの人災・盗難などで資産に損害を受けた場合に適用できる制度です。確定申告をすることで、一定額が所得から控除されます。

詐欺や恐喝による損害は雑損控除の対象外です。

投資の損益通算や配当控除を受けたい医師

株取引の譲渡損と譲渡益を通算(損益通算)したい場合や配当控除を受けたい場合は、確定申告が必要です。

ただし、源泉徴収ありの特定口座またはNISA口座で取引している場合は、確定申告の必要はありません

ふるさと納税をした医師

ふるさと納税を活用している方は、寄附金控除の対象となります。

ワンストップ特例制度を申請していない場合、確定申告をしないと税金の還付はありません。また、ワンストップ特例制度を申請していても、ほかの理由で確定申告をする場合はワンストップ特例制度の申請が無効になるため、ふるさと納税分についても確定申告に記載する必要があります。十分注意してください。

確定申告の手順

スマホ・女性・ベッドルーム

申告時期(期間)

所得税の申告期間は原則、所得が発生した翌年の2月16日~3月15日です。開始日と最終日が土日祝に当たる場合は、翌日または翌々日に後ろ倒しされます。この期間内に納税地を所轄する税務署で確定申告を行います。

令和5年分の確定申告期間は、令和6年2月16日(金)~3月15日(金)です。

必要書類

確定申告には下記の書類が必要です。

  1. 確定申告書
  2. 所得額がわかるもの
  3. 各種控除証明書
  4. 本人確認書類
  5. 銀行口座がわかるもの

このほか、事業所得や不動産所得を申告する場合、青色申告では青色申告決算書、それ以外(白色申告)では収支内訳書の提出が必要です。

申告方法

確定申告には、所得税を自分で計算して申告書を作成し、税務署へ直接提出または郵送する方法(従来型)と、e-Taxで申告する方法があります。

e-Taxで申告する方法

e-Taxによる申告は、時間や場所を気にせず申請書を作成し、送信(提出)までできるため、忙しい医師の方におすすめです。

国税庁の「確定申告書等作成コーナー」から、申告書の作成と送信が可能です。

e-Taxで確定申告をするメリット

  1. 申告書を印刷する必要がない
  2. 申告書を税務署へ持参しなくて良い
  3. 領収書などの書類を添付しなくて良い
  4. 期間中は24時間いつでも申告できる
  5. 還付金の還付が早い(申告から3週間程度) ※従来型では1~1.5カ月程度かかる

e-Taxから申告書を「送信」するには、マイナンバーカードと、マイナンバーカードの読み取りに対応しているスマートフォンが必要です。タブレット端末の場合、マイナンバーカードの読み取りに対応しているスマートフォンとペアリングする必要があります(2024年1月現在)。

パソコンの場合は「ICカードリーダライタ」を使えば、送信が可能です。

マイナポータル連携が便利

e-Taxをマイナポータルと連携すると、マイナポータルにある控除証明書などの情報をまとめて取得でき、確定申告書に自動反映されるため、さらに便利です。

ただし、連携可能な情報は限られています。控除に関係する情報のうち医療費、ふるさと納税額、生命保険料や地震保険料、住宅ローン控除関係です(2024年1月現在)。さらに2024年1月からは、国民年金基金、iDeCo、小規模企業共済掛金のデータも取得可能となりました。

実際に控除を受けるためには、控除証明書の発行主体がマイナポータル連携に対応していることが要件です。連携の有無は国税庁のサイトで確認できます。随時更新されていますので、マイナポータル連携を利用する場合は確認してください。

まとめ

A female doctor texting on smartphone

勤務先が1カ所で、年末調整によって課税対応が終了している勤務医であれば、基本的に確定申告は不要です。勤務先が複数ある場合も、1つの勤務先で所得を合算し年末調整をしていれば、確定申告は原則必要ありません。ただしアルバイト収入や副業などで給与所得以外の所得が20万円を超える場合は、年末調整に加えて確定申告が必要です。

開業医の場合は源泉徴収や年末調整がないため、確定申告が必要です。

故意・過失にかかわらず、申告が必要な方が申告や納税をしないとペナルティを科されることがあります。早めに準備を進め、期日までに申告するようにしましょう

山﨑 裕佳子

執筆者:山﨑 裕佳子

FP事務所MIRAI 代表

1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、証券外務員二種保有。「家計の見直しでMIRAIを変える」をモットーに、各種相談、マネー記事執筆、書籍監修など幅広く活動中。

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