地域医療構想の現状は?2025年以降の取り組みについても解説

医師がキャリアや働き方を考える上で参考となる情報をお届けします。
医療業界動向や診療科別の特徴、転職事例・インタビュー記事、専門家によるコラムなどを日々の情報収集にお役立てください。

業界動向

公開日:2023.09.22

地域医療構想の現状は?2025年以降の取り組みについても解説

地域医療構想の現状は?2025年以降の取り組みについても解説

「地域医療構想」は、地域ごとに異なる事情を考慮し、適切な医療を効率良く提供する体制を作るための取り組みです。団塊の世代が75歳以上になる2025年を見据えた政策として進められてきました。近年は高齢者人口がピークから減少に転ずる2040年も視野に、コロナ禍で浮き彫りになった課題もふまえた「新たな地域医療構想」の策定も検討されています。

この記事では、地域医療構想の概要と進捗状況、2025年以降の取り組みについて紹介します。

地域医療構想とは

地域医療構想とは、社会の高齢化や労働人口減少などによる医療需要(医療ニーズ)の変化に対応するため、各地域に適した医療体制を作ろうとする取り組みです。質の高い医療を持続的に、かつ効率良く提供するため、医療機関ごとの役割を明確にし、地域内で連携を強化することを目指しています。

4つの医療機能と適正な病床数

医療需要は地域によって異なり、高齢者人口の増減などでも必要な病床の種類(医療機能)や数は変わります。病床数が足りなければ医療の供給は滞り、逆に病床数が過剰だったり機能に偏りがあったりすると、供給効率低下につながります。

そこで地域医療構想では、各地域の人口推計を基に必要な医療機能や病床数を推定し、各医療機関の分担(機能分化)や医療機関同士の連携を促します。全国に341の区域を設定し、2025年の推定人口や年齢構成から、医療機能ごとに必要な病床数を定めています。

医療機能は、下記の4つに分類されます。

機能の名称 内容
高度急性期 急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けて、診療密度が特に高い医療を提供する機能
急性期 急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けて、医療を提供する機能
回復期 急性期を経過した患者への在宅復帰に向けた医療やリハビリテーションを提供する機能
特に、急性期を経過した脳血管疾患や大腿骨頚部骨折等の患者に対し、ADLの向上や在宅復帰を目的としたリハビリテーションを集中的に提供する機能(回復期リハビリテーション機能)
慢性期 長期にわたり療養が必要な患者を入院させる機能
長期にわたり療養が必要な重度の障害者(重度の意識障害者を含む)、筋ジストロフィー患者又は難病患者等を入院させる機能
厚生労働省医政局地域医療計画課「地域医療構想について」p.12より引用
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000094397.pdf

医療機関は毎年「病床機能報告」を提出し、地域の医療需要を満たすことができているか/過剰になっていないか、病床機能の偏りがないか、チェックを受けます。これらに改善点があるとみなされれば、「地域医療構想調整会議」を通じて病床機能の分化、つまり役割分担の明確化などが促されます

地域医療構想が必要な理由

地域医療構想は、団塊の世代が75歳になる「2025年問題」を見据えて策定されました。2025年を高齢者人口の増加により医療や介護の需要が最大化する年と見込み、注視しているものです。需要に応じて供給を増やせば良いのですが、問題はそれだけではありません。医療需要の変化は、都市と地方で様相が異なるのです。

その理由は、今後予想される人口構成の違いです。東京都区部や中核市では、労働人口の減少に対し高齢者人口の増加が見込まれています。これに伴う医療需要のピークは、2040年ごろと予想されています。

一方、地方では現時点で高齢者人口も減少傾向にあり、すでに医療需要のピークは過ぎたと考えられている地域も少なくありません。

現在の人口だけを医療提供の指標にしていては、今後の社会状況に合う医療体制を構築することはできません。地域の事情に合わせた対応を進めていくために、将来の推計人口に基づく地域医療構想が必要なのです。

地域医療構想のこれまでの経緯

地域医療構想は、2014年に成立した「医療介護総合確保推進法」により制度化されました。その後まとめられた『地域医療構想策定ガイドライン』に基づき、2017年3月にはすべての都道府県で構想の内容(2025年の必要病床数など)が策定されました。

具体的な方針は公立・公的医療機関で先行して検討されることとなり、2019年1月から議論が進んでいます。たとえば、診療実績の少ない病院の統合など、医療機関の再編が必要な事例がある場合に、基金の優先配分などの財政支援や技術支援を受けられる「重点支援区域」が設定されました。構想の実現に向けて、集中的な支援が行われています。

地域医療構想の現状と今後の取り組み

地域医療構想の進捗状況

2025年に向けて取り組みが推進されている地域医療構想ですが、その進捗は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けています。

地域医療構想は「地域医療構想調整会議」を通じて各医療機関が協議し、合意に至ることを目指しています。地域医療構想調整会議は年4回の開催が求められており、平成30年度は全国で平均3.9回行われていました。ところが、コロナ禍の令和2年・令和3年はいずれも1.9回しか開催されず、調整の遅れが指摘されました。

令和4年9月に行われた調査では、「合意済」「検証済」に至った医療機関は全体の36%、病床単位では全体の61%でした。この結果を受けて、そしてコロナ禍の影響が軽減してきたことで、再度地域医療構想調整会議が活発に開催されるようになり、令和5年3月末に「合意・検証済」に至った医療機関は60%、病床単位では76%と、調整の進捗が確認されました。

一方、都道府県別に見ると、「合意・検証済」の医療機関の割合が80%を超える都道府県が16府県あるのに対して、「合意・検証済」「協議・検証中」の割合が50%に満たない都道府県が9県あり、地域によって取り組みに差が生じていると言えます。厚生労働省は「各医療機関の対応方針の策定や検証・見直しの状況等について、今後も定期的に調査し、状況を把握する」としています。

2025年以降の「新たな地域医療構想」

地域医療構想の導入と推進は、2025年で終了するわけではありません。今後も引き続き必要なものと考えられています。2025年以降の「新たな地域医療構想」で検討すべき事項として、次のような点が挙げられています。

労働力不足が深刻化する「2040年問題」

2040年は、第二次ベビーブームに生まれた「団塊ジュニア世代」が全員65歳以上になる年であり、高齢者人口がピークを迎え、減少に転ずると推計されています。2025年以降に医療需要がますます高まる中、生産年齢人口(15~64歳)が全人口の53.9%まで減少し、労働力不足がさらに深刻化することが見込まれます。

医療提供者自身の高齢化も問題です。医療の生産性向上や多様な働き方推進などを通じて人材確保に努め、持続可能な医療提供体制を作っていく必要があります。

コロナ禍で顕在化した課題

コロナ禍では、新型コロナウイルス感染症を診療する医療機関とそうでない医療機関に分かれ、医療機関同士の連携が取れず十分な医療を提供できない地域も発生しました。かかりつけ医制度などが十分機能せず、総合病院に大きな負荷がかかることになったのです。

政府は「かかりつけ医機能が発揮される制度整備を含め、機能分化と連携を一層重視した医療・介護提供体制等の改革を推進」*1すべきとしています。

地域医療構想と諸制度との関連

地域医療構想は社会情勢を鑑みて策定された、医療全体に影響する取り組みのため、医療に関する他制度ともさまざまな形で関連します。その例を挙げればキリがありませんが、ここでは「医師の働き方改革」と「地域包括ケアシステム」との関連について紹介します。

医師の働き方改革の推進

2024年4月から本格的に始まる「医師の働き方改革」によって、医師の時間外労働が制限されるようになります。

これまで、地域によっては一部の医師の長時間労働で現場が支えられてきた事実があります。しかし、医師にかかる過剰な負担は医療の安全や質を脅かし得るものです。持続可能な地域医療を提供するためには、各地域に必要で十分な数の医療機関を配置し、医療機関の役割分担と連携が必要不可欠です。これは医師一人ひとりが効率良く、無駄なく働くことにもつながります。医師の働き方改革への対応としても、地域医療構想は重要なのです。

地域包括ケアシステムとの連動

Senior care services at the nursing home

地域包括ケアシステムは、「団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、医療、介護、予防、住まい、生活支援が包括的に確保される体制*2のことです。今後の日本における高齢者医療・介護支援の中核となる考え方と言えます。

地域包括ケアシステムを実現するためにも、医療機関が適正に配置されている必要があります。一方、地域に住む方が安心して生活するためには医療体制の充実だけでは不十分で、医療と介護の連携をはじめとした包括的な支援が欠かせません。地域医療構想と地域包括ケアシステムはお互いを補完し合う関係にあり、連動して整備を進めていく必要があるのです。

まとめ

地域医療構想の概要と現状、これまでの進捗と今後の取り組みについて紹介しました。日本社会の人口構造が変わりゆく中、医師は地域の事情に合わせた医療を提供していかなくてはなりません。自分がしたいことだけをすれば良いはずもなく、求められる診療能力も変化していく可能性があります。私たち医師は、自分がどの地域でどのような医療を提供したいのかというビジョンを持ち、自ら選択していく必要がある、そんな時代を迎えていると言えるのではないでしょうか。

Dr.Ma

執筆者:Dr.Ma

2006年に医師免許、2016年に医学博士を取得。大学院時代も含めて一貫して臨床に従事した。現在も整形外科専門医として急性期病院で年間150件の手術を執刀する。知識が専門領域に偏ることを実感し、医学知識と医療情勢の学び直し、リスキリングを目的に医療記事執筆を開始した。これまでに執筆した医療記事は300を超える。

今の働き方に不安や迷いがあるなら医師キャリアサポートのドクタービジョンまで。無料でご相談いただけます