最近多様化している医師のキャリア。医局に入り、勤務医や開業医として働くほかにも、産業医やフリーランス、起業家、企業務めなど、その活躍の場はますます広がっています。医局に入るだけが医師のキャリアではないと考える方も多いのではないでしょうか。
今回は、20代〜30代の若手医師に向けて、キャリアにはどのような選択肢があるのか、先々を考えるときに大切なことなどをまとめて解説します。

執筆者:Dr.SoS
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【20代〜30代】年代別に考える医師のキャリアフェーズ
初めに20代、30代それぞれの医師の大まかなキャリアフェーズについて解説します。
20代医師のキャリアフェーズ
20代は医師としての土台を築くフェーズで、勤務医として働くことが一般的です。知識やスキルを身につけ、基礎を着実に固めます。大学卒業後、臨床研修(初期研修)→専門研修(後期研修)の流れをたどり、専門医の取得を目指す医師が多いでしょう。
20代では転科は珍しくなく、早めの意思決定によってモチベーションが上がることもあります。ただし、専攻医期間の転職は可能ではあるものの、慎重に検討することが大切です。安易な理由で転職するとその後のキャリアに影響がおよぶ可能性もあります。
最初は何が自分に向いているのかわからないかもしれませんが、実際に働くなかで自分の向き不向きや理想の働き方などが少しずつ見えてきます。臨床の中でも特定の分野を追求する「スペシャリスト」を目指すか、幅広い分野に対応できる「ジェネラリスト」を目指すか、はたまた臨床から離れて研究や起業、産業医、政治家などの道に進むという選択肢も出てくることでしょう。20代で転職を考える際は、将来的な医師像から遠くならないように長期的な視点と目的意識をもつと良いでしょう。
30代医師のキャリアフェーズ
30代は、認定医や専門医などを目指してスキルをさらに高めていくフェーズです。この時期になると、雇われるだけではなく、開業も視野に入ってきます。サブスペシャルティも含めた専門性や指導力、マネジメント力なども身についていることが多く、転職の選択肢の幅も広がります。
スキルアップや年収アップ、ワークライフバランスの調整、開業準備など、さまざまな目的で転職したり、フリーランスになったりする方もいるでしょう。それぞれのタイミングでキャリアチェンジをしやすい時期と言えます。
もちろん、思い切って別分野に挑戦してみることも可能です。しかし、「消化器内科専門医を取得したので肝臓専門医を取得する」といったように、既存のキャリアの延長線上で新たな道を築いていくと、キャリアの連続性を確保することができます。
20代〜30代のキャリア形成におけるポイント
結婚や出産、育児などによるライフステージの変化についても頭に入れておきたい20代〜30代。
とくに臨床研修が終了する26〜27歳頃や、専門研修期間の30〜32歳頃に結婚する人が多いでしょう。数年以内に出産・育児が始まり、これまでと働き方を変えるパターンも珍しくありません。
こうした変化に合わせて、医局から市中病院への転職や転科、専門医認定時期の変更など、自分に合う働き方を探りましょう。理想のキャリアにこだわりすぎると、どこかで無理が生じる場合があります。その時々で柔軟にキャリアを描くことが重要です。
子どもをもつ選択をすると、育児と仕事の両立に悩むこともあるかもしれません。たとえば、産育休を取得する場合、臨床現場に立たない時間が生まれてしまいます。コロナ禍以降は学会も含めてオンラインでの学習機会が増えており、そうした期間も最新情報をキャッチアップしやすくなりました。また、現場は離れないものの仕事をセーブしたい場合は、非常勤や時短勤務などで働いたりしてスキルを維持できる環境作りをすることものちの自信につながります。
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医師に "キャリアプラン"は必要?
医師は65歳で定年するケースが少なく、生涯を通して活躍する人も多いことから、働く場に困ることはない職業とされます。目の前の仕事に対して真摯に取り組んでいけば、あえてキャリアプランを練る必要はないと考える方もいるのではないでしょうか。
しかし、医師にとってもキャリアプランを組むのは大切なことです。近年は医師のキャリアが多様化しているうえに、転職市場の動向も時代に合わせて変化しています。20代のうちから、医局にいつまで所属するのか、開業するのか、フリーランスも視野に入れるのかなど、ある程度の方向性を固めておくことで、より良い選択ができ、自分が納得のいくキャリアを歩むことができます。
キャリアプランを考える際は、ロールモデルとなりそうな複数の人に意見や実情を聞くこともおすすめです。将来の解像度が上がり、キャリアを見直すきっかけになるでしょう。
また実際に多彩な働き方をしている医師のインタビュー記事を読むのも参考になるでしょう。
インタビュー|医師向け情報メディア「ドクタービジョン+」
医師のキャリアの選択肢とは?
医師のキャリアには、どのような選択肢があるのでしょうか。さまざまなキャリアパスについてみていきましょう。
専門領域のスペシャリストとして活躍する
大学病院の医局やがんセンターなどの専門施設で、数多くの症例を経験する、基礎研究に打ち込み論文を執筆するなど、専門領域のスペシャリストを目指す道があります。
スペシャリストは専門性や権威性が高く、代わりの効かない人材となり得ることが最大のメリットです。一方でポストの数が限られる・大学病院は給与面で不利といったデメリットも存在します。
しかし、大学病院では、難しい症例や珍しい症例を経験できる、先進医療にも携われるなど専門性を高める環境が整っています。
最近は減少傾向にありますが、さらなる研鑽を積んだ上で視野を広げるために海外留学を選ぶ医師もいます。教授の紹介で臨床・研究留学先とマッチングできるケースが多々みられ、海外を考えるのであれば医局からのサポートは非常に重要です。
地域の臨床医として活躍する
研究はあまり行わず、主として臨床医の立場で地域医療に貢献する道もあります。市中病院やクリニックで勤務するほかにも、地元などゆかりの土地での開業や、在宅医療(訪問診療)で活躍する医師もいます。
臨床医は多様な疾患・病態に対応するため幅広い臨床知識が活かしやすい点や、年収が高い傾向にあることがメリットです。一方でスペシャリストと異なり代替可能性の高い人材であり、ほかの臨床医との差別化が難しい点はデメリットと言えます。
とくに医師不足の地域では、総合診療医のように幅広く診ることができる医師のニーズが高まっています。病気だけではなく、人や地域社会にまで目を向けられる医師が重宝されるでしょう。また、地方や交通の便が悪い地域では年収が高くなる傾向にあります。地域医療に興味がある、一人ひとりの患者さんと深く向き合いたい、地方での暮らしに抵抗がないという場合は、選択肢のひとつとして検討すると良いかもしれません。
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自由診療の領域で活躍する
また最近では自由診療の領域で活躍する医師も多くなっています。美容外科や美容皮膚科のみならず、眼科(レーシック・ICLなど)や再生医療、生殖医療(ED・不妊治療)、AGAなど対象領域も広がっています。
自由診療のみを扱う場合総じて年収水準が高い傾向にあり、勤務先が都市部になることが多いため利便性が高いといったメリットがあります。
一方で自由診療は、職場の雰囲気や患者さまとの向き合い方、繁忙期の有無など、保険診療とは異なる点が多くあります。クリニックの方針によっては、ノルマがあったり、自分の理想とする医療から離れてしまったりするリスクがあるため、転職の際は自分の性格に合うかよく見極めることが大切です。自由診療に挑戦した後に「合わなかった」と悩むケースも見られますが、保険診療への後戻りが難しい場合もあるため、事前に慎重に判断しましょう。
開業医として働く
勤務医は組織から雇われる働き方(被雇用者)が基本ですが、自ら医院を経営し、雇用者となるのが開業医としての働き方です。
メリットは、開業する場所や診療内容、一緒に働くスタッフまで含めて、自身の裁量が大きい点にあります。一方で、収入が安定せず、多くの場合借金を抱える必要があるといったデメリットも存在します。
開業医はクリニックの院長という立場になりますから、純粋な臨床能力に加えて組織のマネジメント力がとくに求められる働き方と言えるでしょう。
臨床外の分野で活躍する
臨床以外にも医師の活躍の場は豊富です。保健所や都道府県庁で働き地域住民全体の健康に寄与する医師や、会社に所属し労働者の健康をサポートできる産業医は公衆衛生医師と呼ばれます。
そのほかにも医療知識を活かして製薬会社や保険会社など一般企業に勤める医師や、医療・ヘルスケア分野で起業する医師も一定数存在します。
またここ数年で、YouTubeやSNSなどにおいて疾患啓発活動を行う医師も増えてきました。医師の資格と知識は幅広く応用できることから、臨床以外の道はさらに多様化していくでしょう。YouTubeやSNSについては、参入ハードルが低いため本業というよりは趣味や副業という形からはじめてみるのも良いでしょう。
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20代〜30代のキャリア形成において注意すべきことは?
医学部を卒業後、20代の医師の多くが約2年間の初期臨床研修と3~5年の専門研修プログラムを通して自身の専門性を確立していき、自分が何に向いているのか、どうありたいのかを見極めていきます。30代に差し掛かる専門研修プログラム修了後からは、さらに専門性を追及すべく専門医や指導医といったサブスペシャルティの取得を目指す人が多い傾向にあります。
一方、専門医を取得した30代後半のタイミングで結婚や出産、育児などのライフイベントが多くなることから、今後のキャリアについて悩まれる医師も一定数存在します。そのため、中長期を見据えてキャリアプランをイメージすることが大切です。
これまでを振り返り、今後の方向性やどのような治療に携わりたいのか、年収やポスト、人間関係など譲れないキャリアの軸を明確にしておくと将来への道筋が立てやすくなります。
キャリアプランをイメージする中で、いまの職場で働き続ける以外の選択を考えたとき、「転職」が候補に挙がることも少なくないでしょう。以下の記事では、30代医師の転職について詳しく解説しています。30代医師が転職を考える理由・同期、転職に成功した事例、具体的な進め方......。ぜひ、参考にして検討を進めてみてください。
いま医局で働いており、「退局」を視野に入れている場合は、医局を抜けるメリット・デメリットを転職コンサルタントが解説する動画コンテンツの視聴もおすすめです。
自分らしいキャリアプランを考えよう
日々臨床や研究に追われていると、キャリアプランを考える余裕はあまりないかもしれません。しかし、時代の変化とともに医師に対するニーズは変わり、働き方もより多様化していくでしょう。自分自身で考え、これからのキャリアを切り拓いていく必要があります。
今後どのような医師が社会に求められ、将来的に自分はどのような医師になりたいのか。他人と比較せず、自分の心の声を聞きながらキャリアプランについて考える時間を作ってみてはいかがでしょうか。一人で苦労する場合、第三者の力を借りることで、思考や希望をスムーズに整理できることもあります。そうしたときは、20代~30代の医師の転職にかかわりさまざまなキャリアを知る専門コンサルタントへの相談を検討してみてはいかがでしょうか。






