糖尿病は頭痛を起こしやすい疾患の一つと言われています。血糖値の変動によって起こる頭痛がほとんどですが、なかには"危険な頭痛"もあるため注意が必要です。
しかし、糖尿病との関連を判断するのが難しいと感じる先生方も多いかもしれません。この記事では糖尿病で頭痛が生じるメカニズムや問診のポイント、対処法などをお話しします。
※筆者個人の見解を含みます。診療にあたっては最新のガイドラインや治療指針、各種薬剤の添付文書などをご確認ください。

糖尿病で生じる頭痛とは
糖尿病は、頭痛を起こしやすい疾患として知られています。片頭痛と似たような痛みが多いですが、合併症によっては今まで経験したことのないような痛みが起こることもあります。
頭痛を起こす原因としては以下の3つが挙げられます。
【糖尿病で頭痛を起こしやすい原因】
- 高血糖
- 低血糖
- 血糖値の急激な変動(血糖値スパイク)
こうした「血糖値の変化」によって、血管の収縮や拡張、血液の流れの悪化などが引き起こされ、頭痛が生じると考えられています。
高血糖に伴う糖尿病性昏睡では、初期症状として頭痛や腹痛、けいれん、倦怠感などの症状を認める場合があります。また、糖尿病は動脈硬化を促進するので、くも膜下出血や脳出血に伴う"危険な頭痛"を起こす可能性もあることに注意が必要です。
次の段落で、より詳しいメカニズムを見ていきましょう。
糖尿病で頭痛が生じるメカニズム
高血糖
高血糖によって血液の流れが悪くなると、筋肉への血流が不足し、頭痛を認めることがあります。また、高血糖の状態が続くと、神経を傷つけることによって神経の働きが低下したり、動脈硬化が促進されて血管がスムーズに拡張しなくなったりすることで、頭痛をきたす場合があります。
高血糖によって引き起こされる合併症として、糖尿病性昏睡があります。糖尿病性ケトアシドーシスや、高浸透圧高血糖状態もこれに含まれます。主に1型糖尿病で起こりやすいのが糖尿病性ケトアシドーシス、2型糖尿病の高齢者に起こりやすいのが高浸透圧高血糖状態です。
糖尿病性昏睡の症状として、呼吸困難、悪心・嘔吐、腹痛、意識障害などが知られていますが、初期症状として頭痛が起こることがあります。
低血糖
高血糖だけでなく、低血糖でも頭痛の症状が出ることがあります。
血糖値が低い状態では、脳や神経細胞に十分なブドウ糖が供給されなくなるため、頭痛やめまい、意識消失などの症状が出ます。低血糖になると、体が低血糖の状態を回復しようと、アドレナリンを分泌します。アドレナリンによって血管が収縮することで血圧が上昇し、頭痛をきたすことがあります。
低血糖の原因になり得るものとして、血糖降下薬やインスリン治療、飲酒、運動などがあります。
血糖値の急激な変動(血糖値スパイク)
血糖値は、「血糖値スパイク」とも呼ばれる急激な変動を起こすことがあります。たとえば、急な上昇は糖質や炭水化物の多い食事で、急な低下はインスリンの過剰分泌で引き起こされます。
血糖値スパイクは自律神経の乱れや血管の収縮・拡張を引き起こすため、頭痛やめまい、吐き気の原因になります。神経細胞が刺激されて炎症が起こり、頭痛をきたす場合もあります。
また、血糖値の変動で血管細胞から活性酸素が大量に発生するため、動脈硬化が促進されます。心筋梗塞や脳卒中などの要因となるので、なるべく血糖値スパイクが起こらないようにすることが大切です。
糖尿病関連の頭痛に対する問診のポイント
『国際頭痛分類第3版』(ICHD-3)では、頭痛は「一次性頭痛」「二次性頭痛」「有痛性脳神経ニューロパチー、他の顔面痛およびその他の頭痛」の3種類に分けられています。
- 一次性頭痛:片頭痛、緊張型頭痛、三叉神経・自律神経性頭痛(TACs) など
- 二次性頭痛:頭頸部外傷・傷害による頭痛、頭頸部血管障害による頭痛、感染症による頭痛、精神疾患による頭痛 など
- 有痛性脳神経ニューロパチー、他の顔面痛およびその他の頭痛
出典:日本頭痛学会『国際頭痛分類第3版(ICHD-3)日本語版』(一部抜粋・引用)
https://www.jhsnet.net/kokusai_new_2019.html(2025年7月24日閲覧)
糖尿病による頭痛は、ほかの病気や状態が原因で生じる頭痛、すなわち2の「二次性頭痛」に分類されます。
問診で重要なことは、糖尿病との関連を明らかにすることと、命に関わるような、ほかの二次性頭痛を見逃さないようにすることです。
以下の4つのポイントについて、順に見ていきましょう。
①頭痛の特徴から原因を推測する
②命の危険がある頭痛を見逃さない
③血糖値のコントロール状況を確認する
④糖尿病の治療内容や内服薬を確認する
①頭痛の特徴から原因を推測する
頭痛の原因を推測しやすくするためには、頭痛が起こる部位や強さ、持続時間、痛みの起こるタイミングなどを確認することがポイントです。頭痛として一般的に多いのは片頭痛や緊張型頭痛ですので、まずはこれらを鑑別するための問診をしましょう。
片頭痛は若年女性での発症が多く、目の前がチカチカする、皮膚がチクチクするなどの前駆症状が出る場合があります。前頭部から側頭部にかけての、一側性の拍動性頭痛で、持続時間は数時間です。悪心・嘔吐、下痢、めまい、音過敏などの症状を伴うことがあります。
緊張型頭痛は30~50歳代に多く、両側性・持続性の締めつけられるような痛みが特徴的で、後頭部の頭痛を訴える患者さんも多いです。ストレスによって誘発され、肩こりや眼精疲労を伴うことが多いほか、日中や夕方に強い頭痛が出ることもあります。
一方で、糖尿病と関連のある頭痛かどうかを推測するためには、血糖値の変動との関連を確認することが重要です。痛みが起こるタイミングを尋ねることで、血糖値との関連を推察することができます。
たとえば、食後に頭痛が起こりやすいのであれば、食後の高血糖との関連を疑います。運動後や血糖降下薬服用後に頭痛が起こりやすかったり、手足の震えやしびれ、吐き気などを随伴する場合は、低血糖との関連を疑いましょう。
②命の危険がある頭痛を見逃さない
命の危険があるくも膜下出血や脳出血の場合、患者さんは突然、今まで経験したことのない強い頭痛を自覚することが多いです。めまいや悪心・嘔吐、意識障害を伴う場合もあります。
糖尿病だけでなく、高血圧や脂質異常症、高尿酸血症、肥満などの生活習慣病を合併している患者さんは心血管疾患を発症しやすいため、病歴を把握することも大切です。
③血糖値のコントロール状況を確認する
血糖値のコントロールが悪い場合、高血糖の状態が続いているため、頭痛が起こる可能性が高くなります。HbA1cやGA(グリコアルブミン)などの数値を確認することで、最近の血糖コントロールの状況を把握しやすくなります。
日本糖尿病学会は、合併症予防のためのHbA1c目標値を7.0%未満(治療強化が困難な場合は8.0%未満)としています*1。
④糖尿病の治療内容や内服薬を確認する
糖尿病に対する治療では、作用機序の異なる複数の血糖降下薬を併用することも多く、結果として低血糖を誘発する場合もあります。抗不整脈薬や抗菌薬、非定型抗精神病薬の中にも、インスリン分泌を促進し低血糖を引き起こすものがあります。
一方で、低カリウム血症を誘発する利尿薬や抗てんかん薬、脂質異常症治療薬の中には、インスリン分泌を抑制し、高血糖を引き起こすものがあります。
頭痛が起こる前にこれらの服用がなかったか、あるいは複数の薬剤との相互作用で血糖値の変動が起きていないか、検討しましょう。
治療薬の副作用として頭痛が起こっていないかも、考慮する必要があります。たとえば狭心症の治療薬である硝酸薬は、脳血管の拡張作用から頭痛を誘発することがあります。市販薬でもある鎮痛薬(NSAIDs)の過剰内服も、頭痛を引き起こす可能性があり注意が必要です。
糖尿病関連の頭痛への対処法
糖尿病に関連する頭痛が最も疑われる場合には、以下のことを実施します。
- 血糖コントロールの強化
- 内服薬の見直し
- 食事療法や運動療法の指導 など
血糖値が落ち着くまで、頭痛に対してアセトアミノフェンやNSAIDsのような鎮痛薬を処方するのも一つの方法です。しかし、市販薬も含めてNSAIDsを過剰に内服すると薬物乱用頭痛を発症するリスクがあるため、月に15日以上*2内服していないか、患者さんに確認する必要があります。
もし糖尿病に関連する頭痛が疑われ、内服薬の調整や食事療法、運動療法などでも血糖値のコントロールが難しいと感じた場合には、糖尿病専門医への紹介を検討しましょう。
まとめ
糖尿病や頭痛は、どの科でも診る機会のあるコモンディジーズです。しかし、頭痛は健常者でも疲労や寝不足、ホルモンバランスの変化、ストレスなどで生じる症状です。糖尿病と関連があるかどうか、迷うことも多いかもしれません。今回解説したようなポイントが、先生方の診療の一助になれば幸いです。
糖尿病合併症について|日本糖尿病学会
眞田淳平ほか:高血糖緊急症.日本内科学会雑誌 105(4):690-697,2016
南和ほか:糖尿病治療に伴う低血糖の病態と治療―救急対応と糖尿病療養指導の観点から―.Therapeutic Research 43(2):127-135,2022
島津章:低血糖性昏睡.日本内科学会雑誌 105(4):683-689,2016
国際頭痛分類第3版(ICHD-3)日本語版|日本頭痛学会
篠山重威・藤田正俊:わが国の生活習慣病患者意識調査における生活習慣病治療の現状と課題.心臓 43(10):1310-1318,2011
荻野和秀:高尿酸血症と心血管疾患~病態と治療~.Gout and Nucleic Acid Metabolism 41(2):237,2017
知って得するDr.川﨑の気になる病気 【第91回】頭痛|全国健康保険協会(協会けんぽ)高知支部
高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について|日本糖尿病学会(*1)
薬剤の使用過多による頭痛|日本頭痛学会
日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会 監修:頭痛の診療ガイドライン2021.医学書院,2021(*2)
各種薬剤 添付文書(医療用医薬品 情報検索|医薬品医療機器総合機構)