特集"腎臓内科医からのメッセージ"。今回は高カロリー輸液(中心静脈栄養)について、長澤将先生にお話しいただきました。
※本資料の掲載内容は筆者個人の見解も含みます。診療にあたっては最新のガイドラインや治療指針、各種薬剤の添付文書などをご確認ください。

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私が医師になりたてのころ、栄養管理と言えば"誰でも彼でも高カロリー輸液"でした。当時はエコー下でもなく、ブラインドで鎖骨下静脈に中心静脈カテーテル(CV)を入れ、患者さんが少しでも食べられなければTPN。誤嚥性肺炎を起こせばTPN...という医師ばかりでした。
昨今、大学病院などを中心に普及してきた「栄養サポートチーム」(NST:nutrition support team)も、当時は一般的ではありませんでした。今では信じられないかもしれませんが、「EBM」という言葉が広まったのが2000年前後であり、このころは「これまでやってきたことをする」というのが普通だったのです。
この記事では、そんな私の経験もふまえながら、「高カロリー輸液」について解説していければと思います。
「高カロリー輸液」とは
高カロリー輸液は、中心静脈栄養(TPN:total parenteral nutrition)で使われる輸液製剤を指す言葉です。
糖質やアミノ酸、脂質、電解質、ビタミンなどを含む輸液製剤であり、TPNは「中心静脈から投与する治療法」と言って良いと思います。
経静脈投与一択から"使える腸管は使う"時代へ
TPN中心の時代に、ある先生が経腸栄養の重要性を教えてくれました。「経鼻管を留置し、GFO®を投与するのだよ」と(GFO®:glutamine-fiber-oligosaccharide/グルタミン、水溶性食物繊維、オリゴ糖の混合粉末栄養剤)。
たしかに、CVでTPNを入れても、良くなる人は勝手に良くなるし、良くならない人はまったく良くならない(その点は近年も大きくは変わっていないが)。研修医時代、そのことに限界を感じていました。
勉強してみると、早期の経腸栄養はICU患者の感染症の合併を減らすという報告*1がありました。さらに関連する論文を見ていくと、早期経腸栄養はTPNと比べて、肺炎発生率が1/3程度、感染合併症も1/4程度と、予後が著しく良いという報告*2を見つけました。
それからしばらく経ったころ、膵炎、敗血症、熱傷といった重篤な疾患で腸管を使わない状態が続くと、bacterial translocation、つまり細菌などが腸管バリアを通過して全身にまわり、臓器障害を起こすという病態を知りました。
酷暑で熱中症が多く発生する中で『熱中症診療ガイドライン2015』(日本救急医学会)を見ていたときには、「熱中症の病態に関する臨床研究は数少ないが、熱中症の重症化に伴い臓器虚血と高体温そのものが、臓器障害を進行させ、高サイトカイン血症によるSIRS(全身性炎症反応症候群)と腸管虚血によるbacterial translocation が敗血症と同様の機序でDICを惹起させると考えられる」*3という記載があり、熱中症にも腸管の状態が関係すると知って驚いたものです。
ちなみにNEJMのレビュー*4にも"gastrointestinal integrity and endotoxemia"に関する記載があります。
これらをまとめると、現在の主流は「使える腸管は使え」です。
とはいえ、使えない状況も存在します。以下のようなケースです。
- 経口摂取が不可能または不十分な場合:意識障害、消化管手術後、消化管閉塞、吸収不良症候群、摂食障害 など
- 経腸栄養が不可能または不十分な場合:短腸症候群、重症膵炎、消化管瘻孔 など
- 高度な栄養障害状態:重症感染症、悪性腫瘍、熱傷 など
こうした状況下で2週間以上腸管を使えないようであれば、TPN(高カロリー輸液)の選択が想定されます(ただし、さまざまな考え方が存在します)。
高カロリー輸液の組成
高カロリー輸液の基本組成は、下記のとおりです。
カロリー | 25 kcal/kg/日 | これをベースに、敗血症や重症感染症などがあれば「×1.2~1.5」とします。 |
---|---|---|
水分 | 30 mL/kg/日 | 尿量を見て調整します。 |
タンパク質 | 1.0 g/kg/日 | 侵襲が強ければ、「1.2~1.5 g/kg/日」とします。 ※2.0とする考え方もありますが、私は腎臓が専門なので、上限1.5 gくらいに留めます。急性腎障害(AKI)にはタンパク制限は不要ですが、「重症な病態の急性期はタンパク質の量が重要」という認識は持ってください。 |
脂質 | アドバンスだが、おおむね(カロリーの)20~30% | 残りを「糖質」とします(糖質から組み立てても良い)。 |
筆者作成
だいたいの高カロリー輸液製剤は、(脂質を加えれば)上記のようになっているはずです(カロリーとタンパク質を決めると、脂質+糖質の分量が決まる)。この組成を計算して、自分で調製することが理想ですが、その際は「ビタミンBと微量元素を忘れずに入れる」ことに注意しましょう。
(微量元素を含まない製剤もあります。ちなみにセレンはほとんどの製剤に入っていないため配慮が必要です(アセレンド®というセレン製剤が存在します)。)
さらに細かいことを言うと、以下のような注意も必要です。
- アミノ酸入り製剤はカルバペネム系抗菌薬やメイロン(炭酸水素ナトリウム注射液)と一緒にできない
- 脂肪製剤はフィルターを通せないものもあるためルートマネジメントが重要
※インスリンやナファモスタット(蛋白分解酵素阻害薬)も注意が必要
(ちなみにルートマネジメントには、東北大学の卓越大学院プログラムで開発した「カラフルラインホルダー」がおすすめです)
なお、過去には慢性腎臓病(CKD)用の製剤を作ろうとすると補液量が多くなりすぎる問題がありましたが(▶CKDへの補液量については前回の記事参照)、最近はキドパレン®という、CKD用に補液量を絞った製剤が出ています(1,050 mLで1,500 kcal、ブドウ糖342 g、アミノ酸32.8 g/電解質は3号液相当/ビタミンB配合、カリウム・リン・微量元素は含有なし*5)。
高カロリー輸液の投与時の注意点
もちろん、「経腸・経口摂取か?TPNか?」という二択ではなく、「経腸栄養をしつつ、足りない部分をTPNで置き換える」という作戦も十分にあり得ます。
その際に注意すべきは、血糖測定を確実に行い、必要時インスリンを投与することです。
私も研修医時代に苦い思い出があります。後輩に指導してCVを入れたあと、「TPNメニューよろしく」を丸投げしたところ、深夜帯に多尿・血圧低下で呼ばれました。血糖が800 mg/dLあり、HHS(高浸透圧性高血糖状態:hyperosmolar hyperglycemic state)になってしまっていたのです。非常に反省すべき症例です。
TPNは大量のブドウ糖を直接血管内に入れるため、糖尿病の基礎疾患や敗血症・術後といったストレスがあると、より高血糖になりやすい状況です。そのため血糖測定は1日1回程度行いましょう(在宅などで安定していれば、数日に1回程度でも許容できます)。
必要時インスリンの投与量は?
インスリン量に絶対的な基準はありませんが、
ブドウ糖10 gに、レギュラーインスリン1単位
くらいを入れておきます。ただし先ほど述べたように、TPNにインスリンを混注すると配合が変化する可能性があることに注意が必要です*6。
どのくらいの血糖値が良いか?と聞かれた際には、現時点では「180 mg/dL以下で良いのでは」と答えるようにしています。110 mg/dL以下にコントロールすることで死亡率が上がるという報告があるためです*7。
Refeeding Syndromeの対策
もう一点大事なことは、カロリーの漸増です。
とくに、食事が長期間取れていない状況であればRefeeding Syndromeの懸念があるため、低カロリーから始め、電解質をモニタリングしながら4~7日間かけて漸増します。
Refeeding SyndromeのリスクはイギリスのNICEが下記のようにまとめています。
【Refeeding Syndromeのリスク】
1.Body Mass Index(BMI)<16
2.最近の15%以上の体重減少
3.10日以上の経口摂取不良
4.治療前の低カリウム・リン・マグネシウム、ビタミンB1欠乏
のいずれか1項目、あるいは下記の2項目以上を満たす。
- BMI<18.5
- 最近の10%以上の体重減少
- 5日以上の経口摂取不良
- アルコール依存の既往
- インスリンや利尿薬、がん化学療法などの薬物使用歴
NICE「Nutrition support in adults:Evidence Update August 2013」をもとに筆者和訳
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK551955/(2025年4月8日閲覧)
また、急性期のoverfeedingにも注意が必要です。有害事象が多いとされるため、permissive underfeedingを許容するのが良いでしょう。種々のガイドラインを見ると、必要エネルギーの40~70%程度を7~10日間維持するのが良いと考えます*8,9(ただし先述のとおり、急性期は十分な量のタンパク質投与が必要です)。
栄養をサポートしつつ、原疾患をコントロールすることが重要です。
高カロリー輸液が推奨されないケース
最後に、TPNがあまり勧められないケースをおさえましょう。
『終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン(2013年版)』(日本緩和医療学会)によれば、エビデンスレベルは低いものの、生命予後が限定的な状況では高カロリー輸液や1,000 mL/日を超える輸液はあまり推奨されないと明記されています*10。
高カロリー輸液に限らず通常の補液であっても、1,000 mL/日程度入れても死亡率は変わらず、むしろ胸水・腹水・浮腫が出るなど、投与量を絞った方が症状緩和につながる可能性も報告されています*11~13。
必要時に適切なTPNができるよう、普段からシミュレーションしておくことが重要です。
Heyland DK,et al.:Canadian clinical practice guidelines for nutrition support in mechanically ventilated, critically ill adult patients.JPEN J Parenter Enteral Nutr 27:355-373,2003(*1)
Kudsk KA,et al.:Enteral versus parenteral feeding. Effects on septic morbidity after blunt and penetrating abdominal trauma.Ann Surg 215:503-511,1992(*2)
熱中症診療ガイドライン2015|日本救急医学会(*3)
Yoram Epstein,Ran Yanovich:Heatstroke.N Engl J Med 380:2449-2459,2019(*4)
キドパレン輸液 添付文書|医薬品医療機器総合機構(PMDA)(*5)
熊谷岳文ほか:中心静脈栄養用輸液に混注されたインスリンの含量変化に関する検討.薬学雑誌 140(4):577-584,2020(*6)
Griesdale DE,et al.:Intensive insulin therapy and mortality among critically ill patients:a meta-analysis including NICE ― SUGAR study data.CMAJ 180:821-827, 2009(*7)
Nutrition support in adults:Evidence Update August 2013.National Institute for Health and Care Excellence(NICE),2013
Thawkar VN,Taksande K:Navigating Nutritional Strategies:Permissive Underfeeding in Critically Ill Patients.Cureus 16(4):e58083,2024(*8)
Arabi YM,et al.:Permissive Underfeeding or Standard Enteral Feeding in Critically Ill Adults.N Engl J Med 372(25):2398-2408,2015(*9)
日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン委員会 編:終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン(2013年版).金原出版,2013(*10)
Bruera E,et al.:Parenteral hydration in patients with advanced cancer: a multicenter, double-blind, placebo-controlled randomized trial.J Clin Oncol 31(1):111-118,2013(*11)
Morita T,et al.:Association between hydration volume and symptoms in terminally ill cancer patients with abdominal malignancies.Ann Oncol 16(4):640-647,2005(*12)
Wu CY,et al.:Association between the amount of artificial hydration and quality of dying among terminally ill patients with cancer:The East Asian Collaborative Cross-Cultural Study to Elucidate the Dying Process.Cancer 128(8):1699-1708,2022(*13)