くも膜下出血や脳出血、脳腫瘍など緊急性の高い疾患や重篤な疾患の診断・治療にあたる、脳神経外科医。緊急手術が多く、当直・オンコール業務も頻繁にあるにもかかわらず、担い手は決して多くありません。一般的に激務になりがちな診療科ですが、その分、年収は高い傾向にあります。
また、高度な医療機関で勤務医として働く以外にも、リハビリテーションに携わったり、開業したりと働き方はさまざまで、得られる年収も異なります。
このコラムでは、脳神経外科医の平均年収や業務内容、働き方による年収の違いなどについて詳しく解説します。
*1:2025年9月時点の「ドクタービジョン」掲載求人をもとに、平均値を算出しています。

執筆者:中山 博介
脳神経外科医の平均年収

日本の脳神経外科医の平均年収は1,645万円*1。全診療科の平均年収1,631万円*1と比べると、同水準ではあるものの、やや上回っています。
地域差も目立ち、内訳は下表のとおりです。
<脳神経外科医の平均年収【地域別】*1>| 順位 | 地域 | 精神科医の平均年収(万円) |
|---|---|---|
| 1位 | 北海道 | 1,873 |
| 2位 | 関東 | 1,715 |
| 3位 | 近畿 | 1,671 |
| 4位 | 北陸・信越・東海 | 1,654 |
| 5位 | 東北 | 1,635 |
| 6位 | 九州・沖縄 | 1,593 |
| 7位 | 中国・四国 | 1,581 |
| 全国平均 | 1,645 |
※三重県は「東海」地方に含む。
ランキング上位の北海道や関東では、全国平均を大きく上回っています。
脳神経外科医の給与が全診療科の平均を上回るおもな要因は、下記のとおりです。
- 高度な知識・技術・経験が求められる診療科であり、人手不足が深刻
- 地域による偏在が大きい
- 緊急手術などの対応により、時間外労働が多い
脳腫瘍や脳血管障害の手術には、高度な専門知識や繊細な手術スキルが求められます。一方で、脳神経外科医は医師全体のわずか2.3%*2にとどまっており、深刻な人手不足が問題視されています。
また、地域による偏在も激しく、北海道などの地域では脳神経外科医の需給逼迫によって年収が高くなっている可能性があります。
さらに、緊急手術が多いという診療科の特性上、他科と比べて労働時間や時間外の勤務が多く、残業代が発生しやすい点も高収入の一因と言えるでしょう。
以上の要因から、脳神経外科医はほかの診療科と比べて年収が高い傾向にあります。常勤に加えてアルバイトを掛け持ちする医師の場合は、年収が2,000万円を超えるケースも少なくありません。
脳神経外科医の業務内容と年収の関係【勤務形態別】

脳神経外科医の業務は幅広く、脳腫瘍や脳血管障害などの重篤な疾患に対する検査・投薬・治療はもちろんのこと、日常的に起こり得る頭痛やめまいなど、さまざまな症状や疾患を扱います。
また、働き方や業務内容によって得られる収入も異なります。たとえば、出来高や評価で年収が変わるアメリカでは、脳神経外科医の平均年収は約75万ドル*3 と報告されており、全診療科の中で1位です。これは日本円にして1億円以上(2025年10月時点の為替レート:1ドル150円で概算)に相当します。
では、日本の場合はどうでしょうか。それぞれの働き方について見ていきましょう。
勤務医の場合
大学病院や市中病院で働く脳神経外科医のおもな業務は、脳血管障害や脳腫瘍、脊髄腫瘍といった緊急性の高い疾患に対する手術やカテーテル治療、さらには高度医療である陽子線治療など多岐にわたります。治療前後の全身管理や外来業務、他職種と連携したリハビリ治療なども、重要な業務です。
緊急手術や病棟管理のために当直・オンコール業務を伴うことが一般的であり、先述のとおり労働時間が長くなる傾向にあります。
医師の働き方改革が本格施行される前の調査になりますが、2022(令和4)年時点の脳神経外科医(病院勤務・常勤)において、時間外・休日労働が年間1,860時間以上の医師の割合は9.9%と、全診療科の中で最も高い数値でした*4。オンコールの回数も最多で、月に4回以上あると回答した割合は36.7%にのぼるという調査結果もあります*5。
こうした労働環境も相まって、脳神経外科医は若手のうちから高収入が期待できる診療科とされています。
古いデータになりますが、労働政策研究・研修機構が勤務医を対象に実施した調査*5によると、年収分布は下表のとおりです。

労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」p.30をもとにドクタービジョン編集部作成
https://www.jil.go.jp/institute/research/2012/documents/0102.pdf(2025年12月23日閲覧)
脳神経外科医の81.6%が年収1,000万円以上であり、最も多い年収帯は1,500〜2,000万円未満(40.8%)と高水準な傾向にあります。
一方で、専攻医を経て一人前になるまでの道のりは長く、ワーク・ライフ・バランスを取りにくいのが現状です。
開業医の場合
脳神経外科の開業医のおもな業務は外来です。地域の患者さんの頭痛、めまい、しびれ、麻痺といった神経症状に対する適切な診断と治療を行います。緊急性の高い疾患を発見した際には、近隣の病院へ紹介することも開業医の重要な役割です。
また、病院から退院した患者さんの受け皿として、麻痺やしびれなどの後遺症の管理やリハビリ支援をすることも大切な仕事と言えるでしょう。
年収については、2023(令和5)年の医療経済実態調査によると、外科系開業医の平均年収(損益差損)は2,352万円*6と報告されており、勤務医の平均を大きく上回っています(※)。
ただし、開業すると外来業務が主となり、手術の機会は大幅に減ることが多いでしょう。また、CTやMRIなどの高額医療機器の導入で開業資金がかかるため、開業の初期には経営や業務内容の変化に苦労するかもしれません。
一方で、脳神経外科を標榜するクリニックは全診療科の1.8%*7と競合が少ないため、軌道に乗れば収益を得やすい診療科です。
(※)外科系全般の開業医の平均年収であり、消化器外科や呼吸器外科なども含むため、脳神経外科医だけの年収を表すものではありません。あくまで参考値としてご覧ください。
脳神経外科医が年収アップを狙うには

脳神経外科医がさらなる年収アップを狙うためには、おもに下記の3つの方法がおすすめです。
- 開業
- 非常勤(定期・スポットアルバイト)
- 転職
開業
脳神経外科医の平均年収を1,645万円*1とご紹介していますが、開業医であれば2,000万円台の年収も期待できます。開業は年収アップが見込める選択肢と言えるでしょう。当直やオンコール業務が基本的になくなるため、ワーク・ライフ・バランスを保ちやすい点もメリットです。
一方で、外科医としてこれまで培ってきた手術のスキルを発揮する機会や、高度医療に携わる機会は少なくなります。
また、臨床業務に専念できていた環境とは異なり、労務や財務・人事などの経営面の業務にも対応する必要があります。経験したことのない"経営者"としてのストレスが負担となり得ます。
医師として活躍してきたとしても、であっても、経営者としての素質や知識が十分でなければ、開業を成功させることは難しいでしょう。経営に関する知識を積極的に取り入れ、事前にしっかりと準備することが重要です。
非常勤(定期・スポットアルバイト)
脳神経外科医が年収アップを狙うためには、非常勤としての勤務も選択肢の一つです。
高度な知識やスキルを持つ脳神経外科医を常勤として確保できる医療機関は限られているため、当直やオンコール業務を外部委託している施設も少なくありません。一般的に、専門性の高い業務ほど時給単価が上がる傾向があるため、勤務医として働きながらほかの医療機関でアルバイトなどをすることで、年収を伸ばすことが可能です。
ただし、働き方改革による労働時間規制の影響を受けるケースもあるため、所属先の規定などをよく確認する必要があるでしょう。
一方で、常勤を辞めて非常勤のみで働く場合、年収は下がる可能性があります。その分ワーク・ライフ・バランスを保ちやすくなりますが、専門医資格の維持・更新や、今後のキャリアプランへの影響も考慮が必要です。
目指したい医師像をふまえつつ、自身の生活や家庭の状況に合わせて働き方を選ぶと良いでしょう。
自身のニーズに合った医療機関への転職
脳神経外科医が年収アップを狙うためには、自身のニーズに合った医療機関への転職も選択肢の一つです。
とくに地方では脳神経外科医の需要が高く、好条件で求人している医療機関も少なくないため、転職によってより高い年収が期待できます。
また、下表のとおり医療機関の経営母体によっても医師の平均年収に大きな差が見られます。
| 医療機関の経営母体 | 医師の平均年収 |
|---|---|
| 個人 | 1,703万円 |
| 医療法人(医療法人である民間病院など) | 1,498万円 |
| その他(公益法人、学校法人、医療生協、その他の法人など) | 1,463万円 |
| 公立(都道府県立、市町村立などの病院) | 1,456万円 |
| 公的(日赤、済生会、北海道社会事業協会、厚生連など) | 1,451万円 |
| 国立(国、国立病院機構、国立大学法人など | 1,410万円 |
| 社会保険関係法人(健康保険組合・連合会、共済組合・連合会など) | 1,282万円 |
資料内、各経営母体の「医師」の①+②の千の位を四捨五入で表記
出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会「第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告―令和5年実施―」pp.296-297
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa/dl/24_houkoku_iryoukikan.pdf(2025年12月23日閲覧)
公的病院や国立病院の勤務医は比較的年収が低い傾向にあります。民間病院へ転職するだけでも、年収アップの可能性は高いでしょう。
一方で、転職においては年収だけではなく、どのような医療に携わりたいのか、どんな働き方を望むのかといった自分自身の価値観やライフプランもふまえて検討することが大切です。
たとえば、より高度な医療現場でスキルを磨きたいのか、あるいはリハビリ専門病院などでワーク・ライフ・バランスを重視したいのかなどによって、転職先は大きく異なります。
まとめ:年齢や体力に合わせて働き方を選べる脳神経外科医
日本では今後さらに高齢化の進行が予想され、脳血管障害や脳腫瘍の患者数増加が見込まれます。そのため、脳神経外科医は今後も高い需要が見込まれる診療科の一つと言えるでしょう。
また、脳神経外科医は緊急性の高い疾患を扱うことが多く、当直やオンコール対応が発生するケースも少なくありません。その分、ほかの診療科と比べて平均年収が高い傾向にあり、年収アップを目指す医師にとって魅力的な選択肢でしょう。
とはいえ、脳神経外科医の働き方は必ずしも激務ばかりではありません。リハビリテーションを中心に行う医療機関などでも、脳神経外科医としてのスキルを活かすことができます。年齢や体力に合わせて無理のない働き方を選べる点も魅力です。
転職の際は、年収だけでなく自分の高めたいスキルや労働環境も考慮しながら、キャリアビジョンやライフスタイルに合った医療機関を選び、自分にとって満足できるキャリアを構築していきましょう。
医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会(第7回)議事録|厚生労働省
日本脳神経外科専門医実態調査―日本脳神経外科専門医の年齢および性別分布と所属医療機関による分類―|北海道脳神経疾患研究所
医師の勤務実態について(令和元年 医師の勤務実態調査) |厚生労働省
令和4年(2022) 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況|厚生労働省(*2)
Physician Compensation Report 2025|Doximity, Inc.(*3)
今後の医師偏在対策について|厚生労働省(*4)
勤務医の就労実態と意識に関する調査|労働政策研究・研修機構(*5)
第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告―令和5年実施―|厚生労働省 中央社会保険医療協議会(*6)
令和5年 医療施設調査 結果の概要|厚生労働省(*7)



