「雇用契約書は後から確認すればいい」
「そもそも雇用契約書のどこを見ればいいのかわからない」
「雇用契約書の重要性がいまいち理解できない」
このように考えていませんか? 転職後に「聞いていた条件と違う」といったトラブルが起きてしまう原因の1つに、「契約書の確認を怠っていたケース」があります。
転職後に安心して働くためには、勤務条件や退職時の取り決めなどを、書面で明確に合意しておく必要があります。しかし、いざ確認しようとしても、何を確認すればいいのかわかりにくいのも事実です。
そこで本記事では、「医師が転職時に確認したい雇用契約書の項目」について解説します。「どのようなポイントを意識して確認すれば良いのか」や「雇用契約締結時のトラブルや対応」も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
そもそも雇用契約書とは?なぜ確認した方が良いのか
雇用契約書で確認しておきたい項目の前に、まずは雇用契約書について解説します。そもそも雇用契約書は、勤務条件を法的に明文化した書類のことです。労働者と雇用主との間の労働契約の内容を明らかにする目的で作成されます。
たとえ口頭で合意した内容であっても、契約書に明記されていない場合、後日その主張が通らない可能性があります。場合によっては、「言った言わない」といった水掛け論になってしまうかもしれません。
そうした事態を防ぐためにも、雇用契約書は存在しています。ではなぜ医師の転職において雇用契約書を確認した方が良いのか、以下にわけて詳しく見ていきましょう。
- 雇用契約書はなぜ必要なのか
- 一般企業と医師とでは異なるポイント
雇用契約書はなぜ必要なのか
転職後のトラブルを未然に防ぐには、雇用契約書の存在は欠かせません。曖昧な条件設定がそのまま業務負担の偏りにつながる可能性もあるため、締結前に細部まで確認しておいた方が良いでしょう。
また、契約内容を明文化しておくことで、労働者と雇用主の双方にとって共通の確認基準が生まれるメリットもあります。後々の認識違いを避けやすくなる点も考慮すると、雇用契約書の重要性は大きいと言えます。
一般企業と医師とで異なるポイント
医師の雇用契約書は、他職種と比較して独自の注意点を含んでいる可能性があります。例えば、医療機関によっては当直の有無や回数、オンコール対応など、日常業務とは別に定められている項目があるようです。
診療科や勤務先の体制によっては、勤務時間や休日の考え方も一般企業とは大きく異なっていることもあります。医師の雇用契約書は、一般企業と比べて確認事項がより複雑になる可能性がある点は、念頭に置いておいた方が良いでしょう。
医師が必ずチェックしたい雇用契約書の基本事項6選
雇用契約書を締結する際、おもに確認しておきたい項目は、以下の6つです。それぞれどのような部分を確認すれば良いのか、詳しく見ていきましょう。
- 契約期間に関する事項
- 就業場所に関する事項
- 従事する業務に関する事項
- 始業・終業時刻、休憩、休日に関する事項
- 給与の決定方法や支払時期に関する事項
- 退職に関する事項
契約期間に関する事項
まず、契約期間には、大きくわけて以下の2つがあります。
- 無期雇用:「期間の定めなし」と記載される
- 有期雇用:具体的な期間が書かれる
このように、無期雇用と有期雇用では、更新のタイミングや退職手続きの扱いが変わってきます。無期雇用の場合は勤務医が希望すれば定年まで働けますし、退職したい場合は2週間前までに申し出れば民法上、問題ありません。
一方の有期雇用の場合は、原則として契約期間が満了すると雇用契約が終了します。医療機関と医師の合意によって契約期間の更新はできますが、必ず更新されるわけではありません。そのため、有期契約を希望する場合は、期間に関する記載を丁寧に確認しておく必要があります。
就業場所に関する事項
就業場所も雇用契約書で確認しておきたい項目の1つです。勤務する場所になるため、転職予定の医療機関を運営する法人が複数の医療機関を有している場合は、とくに確認したい項目です。
例えば、勤務地が固定ではなく「法人の指定する場所」のように記載されている場合は、転居を伴う異動が発生する可能性があります。家庭の事情などで勤務地の変更が難しい場合、 トラブルに発展するケースが考えられます。
そうした問題の発生を防ぐためにも就業場所については必ず確認し、勤務地を限定するといった内容の追記を交渉することも検討してみましょう。
従事する業務に関する事項
従事する業務に関する事項についても、確認しておきたい項目の1つです。業務内容の記載が不明瞭なまま契約を結んでしまうと、想定外の業務を任される可能性も考えられます。
とくに医師の場合、「医師業務」など多岐にわたる業務を一括りにされてしまうケースもあるようです。従事する業務の中には宿日直や日直勤務も含まれるため、「当直はないと聞いていたが、契約書には医療業務と記載されていたためやることになった」といった事態も起こり得ます。
そのような事態にならないよう、具体的な内容の追記を依頼することも検討しましょう。
始業・終業時刻、休憩、休日に関する事項
勤務時間に関する取り決めが曖昧な場合、長時間労働や休憩なしの勤務が常態化するリスクが考えられます。とくに医療現場では、診療の延長や急患対応が日常的に発生するため、「実際の勤務」と「契約上の勤務」に差が生じやすくなります。
上記のような認識相違を防ぐためにも、以下の項目に関しては必ず確認しておきましょう。
- 勤務開始・終了時間
- 休憩時間
- 休日の取扱い
医療機関の中には、通常の勤務時間にプラスして、変形的な労働時間制や交替制を採用しているところもあります。そうした場所に転職する際は、通常の勤務時間と併せて確認しておくと良いでしょう。
とくに休日の扱いは、医療機関によって異なります。土曜日が出勤日であったり、祝日は通常通り診療をしていたりと様々です。必ずしもカレンダー通りの休日にはならない可能性があるので、しっかりと確認しておきたい項目と言えます。
給与の決定方法や支払時期に関する事項
雇用契約書には、給与に関する事項も記載されています。おもに確認したい項目は、以下になります。
- 年俸制の残業代に関する取扱い
- 賞与の有無
- 退職金の有無
中でも注意したい点が、年俸制の残業代です。年俸制は年単位で給与の額を決定するという意味なため、残業代が支払われないということはありません。しかし、固定残業代(みなし残業代)として年俸に含まれているケースもあるので、しっかりと確認しておきましょう。
また、賞与や退職金は医療機関に支払義務はありません。固定観念で「支払われるもの」として契約書で確認をしない方もいるため、転職先の医療機関がどのような給与制度なのか、良く確認しておくと良いでしょう。
退職に関する事項
退職に関する事項も確認していきたい部分です。退職に関する条件が明文化されていないと、円満に辞められないケースも考えられます。とくに医師の場合は、引継ぎの都合や診療体制への影響が大きいため、「何ヶ月前までに申し出が必要か」などの取り決めが明記される傾向にあります。
退職希望時に揉めないためにも、契約書内の退職条件や解雇規定については、あらかじめ確認しておく方が安心です。
【必見】雇用契約書を読む際の3つの注意点
雇用契約書を読む際は、以下の点に注意しましょう。大切な書類なため、気を付けていないと想定外の契約になる可能性があります。
- 必ず細部まで読み込む
- 労働条件通知書でないかを確認する
- 希望条件と差異がないかを確認する
必ず細部まで読み込む
雇用契約書を確認する際は、必ず細部まで読み込むようにしましょう。表面的な条件だけで判断してしまったり、思い込みで読み飛ばしてしまったりすると、後で思わぬトラブルに発展する可能性があります。
雇用契約書は、医師と医療機関との間に結ばれる契約です。勤務し始めてからお互いに齟齬が生じないように、就業場所や従事する業務、給与などを契約前に読み込み、理解したうえで契約を交わすことが大切です。
労働条件通知書でないかを確認する
雇用契約書と似た書類に、労働条件通知書があります。雇用契約書が労使間で交わす契約書なのに対し、労働条件通知書は、雇用主から労働者に労働条件を通知する書類です。そのため、労働条件通知書を内定者に送って確認してもらったうえで、雇用契約書を結ぶといった流れになる場合があります。
雇用契約書と労働条件通知書はどちらも内容が似ていますが、労働通知書は雇用契約を結ぶ際に交付する種類、雇用契約書は民法に基づいて医療機関と医師の間で合意した雇用契約の成立を証明する書類と、役割が明確に異なります。労働通知書を読んで納得してしまい、同じ内容だからと雇用契約書を流し読みしてしまうと、変更があった部分まで読み飛ばしかねません。入職してから変更点に気が付いても、契約を締結しているため、同意したとみなされます。
なお、医療機関によっては「雇用契約書兼労働条件通知書」を作成しているところもあります。この場合、労働条件通知書と雇用契約書を兼ねた書類になっています。
雇用契約書にはその性質上、サイン欄や押印欄があるため、項目に漏れがないかを確認してからサインしましょう。
希望条件と差異がないかを確認する
雇用契約書には、労働基準法15条1項において、以下の項目を必ず書面で明示しなければなりません。
- 契約期間
- 契約更新の基準
- 就業場所
- 従事する業務
- 始業・終業時刻、休憩、休日
- 賃金の決定方法や支払時期
- 退職に関する事項
- 昇給に関する事項
これらに記載されている内容が、希望条件と差異が生じてしまっている可能性があります。曖昧に確認したまま転職してしまうと、働き始めてからトラブルに発展するケースも考えられます。
そうした事態にならないためにも、雇用契約書は入職前に必ず確認し、サインする前にしっかりと全文を確認しましょう。もし不明点や差異があった場合は、サインをする前に確認し、必要に応じて修正などの対応をとってもらう対策も必要です。
医師が雇用契約書を結ぶ際に良く起きるトラブルと対応
医師が雇用契約書を結ぶ際には、様々なトラブルが起こります。ここからは、ドクタービジョンのコンサルタントが実施したヒアリングを元に、良く起こるトラブルとその対応について解説します。
以下のケースにわけていますので、ぜひ参考にしてみてください。
- 求人情報の内容と実際の労働条件が異なっている
- 就業規則が雇用主に有利になっている
- 雇用主と労働者の間で認識のズレが生じている
- 退職や解雇に関するルールが不明瞭になっている
求人情報の内容と実際の労働条件が異なっている
求人票に記載されていた内容と、実際の労働条件が異なっていたという声は少なくないようです。ドクタービジョンのコンサルタントが経験した中には、以下のような実例もありました。
- 健診業務だけだと言われていたのに、外来も診なければいけなかった
- 通勤手当があると思っていたら給料に含まれていた
1つ目の例ですと、業務範囲においては本来全て明示しなければなりませんが、確認不足だったために想定外の労働をすることになっています。
もう一方の通勤手当に関しても、書面での確認を全くしていない状態で入職した結果、後で知ってしまった形です。どちらも書面を確認できていれば防げたトラブルでもあります。
こうした事態を防ぐためにも、事前に契約書に記載されている条件を確認し、不明であれば明文化を求めることをおすすめします。
就業規則が雇用主に有利になっている
雇用契約書とは別に就業規則が存在し、その内容が雇用主に一方的に有利に働くよう設計されていることもあるようです。ドクタービジョンのコンサルタントが実施したヒアリングでは、以下のようなものがありました。
- 残業が1分ごとの支給かと思っていたら、契約書上で固定残業代となっていた
- このほか、先述した通勤手当が給料に含まれていたケースも該当します。
これらは契約書に書いてあれば後で交渉もできますが、契約書にサインしてしまっていると、「同意している」とみなされるため受け入れるしかありません。
雇用契約書を確認する際は就業規則の確認も怠らず、希望と相反する内容が含まれていないか注意深く読み解く必要があります。
雇用主と労働者の間で認識のズレが生じている
面接や事前のやりとりで合意した内容と、実際に勤務が始まってからの運用にズレが生じることも少なくないようです。ドクタービジョンのコンサルタントにヒアリングしたところ、以下のようなものがありました。
- 休憩時間を1時間と思っていたら30分だった
休憩時間は労働基準法によって「1日の労働時間が6時間を超える場合には45分以上、8時間を超える場合には1時間以上を勤務時間の途中で与えなければならない」と定められています。
ですが、契約書を確認しないままサインをしてしまうと、短い休憩時間でも了承したことになってしまいます。就業規則は労働者に周知しなければいけないため、もし勤務開始後に変更されてしまった場合は、書面での確認を求めた方が良いでしょう。
雇用契約を結ぶにあたって、このような医療機関と医師との間に生じる認識のズレは、なくしておきたいポイントの1つです。口頭の合意だけで済まさず、具体的な働き方を契約書に落とし込み認識のズレが生じないようにしておきましょう。
退職や解雇に関するルールが不明瞭になっている
退職のタイミングや手続きの方法が曖昧なままだと、実際に退職を希望した際にスムーズに進められないリスクもあるようです。
例えば、「退職は6ヶ月以上前に申し出ること」などの独自ルールが設けられている場合、それを見落としていたことが問題になるケースも考えられます。ドクタービジョンのコンサルタントが実施したヒアリングの中には、以下のようなものがありました。
- 転職を経験した友人の話から3ヶ月前に伝えれば問題ないと思っていたが、自分の働いている医療機関は申し出が6ヶ月前だったために転職を先延ばしにせざるを得なかった
民法の第627条では、退職申入れの日から2週間を経過すれば退職できると定められています。しかし、一般的に民法は任意法規と解されるため、労働契約や就業規則で退職時期が定められていた場合、特殊な状況を除いてそちらが優先されるのが実状です。
とくに医師の場合、引継ぎする項目が多岐にわたる面から見ても、退職や解雇に関するルールが不明瞭なのは不安要素になり得ます。
様々な理由で再度転職するケースも考え、雇用主とのトラブルを避けるためにも退職や解雇に関するルールは、必ず確認しておくべき項目の1つと言えます。
雇用契約を結ぶのが不安な場合は転職コンサルトに相談するのもおすすめ
雇用契約書を読む際、内容が専門的すぎて判断に迷う方もいるでしょう。そのような場合は、転職コンサルタントに相談するのもおすすめです。
とくに医療分野に特化した転職コンサルタントであれば、医療業界独自の慣習を理解しながら、雇用契約の条件をすり合わせてくれるでしょう。
医療業界専任の転職支援サービスであるドクタービジョンでは、医療業界に豊富な知識と経験を持つ転職コンサルタントが雇用契約書などの各種手続きを代行させていただきます。トラブル防止のために諸条件を文書化するので、どのような条件なのかが事前にわかります。
転職コンサルタントは自分では見落としがちな部分を補い、条件交渉や契約の確認をサポートする存在です。雇用契約で不安を抱いている先生は、ぜひ1度、下記のリンクよりお気軽にご相談ください。
医師にとって雇用契約書は大切。細部まで確認し転職で不備が生じないようにしよう
医師の転職は、理想とする働き方やキャリア、ライフスタイルに直結する重要な行動の1つです。そのため、契約内容の確認をおろそかにしてしまうと、満足のいかない働き方につながる恐れがあります。
入職してから「思っていたのと違った」とならないためにも、事前に雇用契約書の内容を丁寧に読み込むようにしましょう。もし疑問点があれば遠慮せず確認し、納得のいく形で契約し、安心して働ける状態にすることをおすすめします。
医師に特化した転職サービスのドクタービジョンでは、医療業界に豊富な知識と経験を持つ転職コンサルタントが、先生のキャリアをサポートいたします。雇用契約書の文書化や手続き代行もしておりますので、契約関係で不安な先生は、ぜひ1度お気軽にご相談ください。
1分で登録完了!コンサルタントへの転職相談
「転職について気になることがある」「周りの転職活動の動向を知りたい」など、
まずはお気軽に無料相談からお問い合わせください。