医療費適正化計画とは?第一期から第三期までの変遷とこれから

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業界動向

公開日:2021.08.19

医療費適正化計画とは?第一期から第三期までの変遷とこれから

医療費適正化計画とは?第一期から第三期までの変遷とこれから

超高齢社会が本格化するなか、日本では医療費の増加抑制と適正化を目標とした政策「医療費適正化計画」が2008年4月から進められています。菅首相は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策を最優先事項としつつ、「経済財政運営と改革の基本方針2021(骨太方針2021)」で同計画の見直しについて言及しています。

そこで、医療費適正化計画の概要、国による医療費適正化計画の動向、都道府県による医療費適正化計画の動向についてそれぞれ解説します。

医療費適正化計画とは

医療費適正化計画とは

医療費適正化計画とは、持続可能な医療制度と提供体制の確保を目指し、国と都道府県が保険者および医療従事者などの協力のもと進める、住民の健康増進と医療費適正化のための取り組みです。

急速に進行する少子高齢化や国民生活と意識の変化を受け、医療を取り巻く環境は近年急激にかわりました。誰もが等しく医療を受けられる国民皆保険制度を維持するには、今後は生活の質を維持しつつ医療費の過度な増大を抑制するための取り組みが必要です。限りある医療資源を効率的かつ有効に活用するため、国と都道府県それぞれが地域住民の健康維持と効率的な医療提供体制の構築に向けた指針と目標設定をまとめたものが、医療費適正化計画です。

各都道府県は、国が定める医療費適正化基本方針の内容に即した形で都道府県医療費適正化計画を作成します。都道府県医療費適正化計画では、住民の健康の保持を促進するため、特定健康診査と特定保健指導の実施率向上とメタボリックシンドローム該当者および予備群の減少を目標に掲げています。また、より効率的な医療提供体制のため、療養病床の病床数と平均在院日数に関する数値目標を設定しています。


第一期医療費適正化計画

医療費適正化計画は、第一期(平成20〜24年度)と第二期(平成25〜29年度)は5年間、第三期(平成30〜令和5年度)は6年間を1期として実施。厚生労働省では、各期における都道府県の取り組みと結果についてまとめた資料を公開しています。ここでは、第一期となる平成20〜24年度の結果について見ていきましょう。

国民の健康保持の推進について、当初掲げていた特定健康診査実施率70%、特定保健指導実施率45%には届かなかったものの、すべての都道府県で着実な上昇が確認されました。メタボリックシンドローム該当者および予備群は、平成20年度比マイナス10%の目標に対し12%を達成。ただし、達成率20%超がある一方で増加に転じた地域もあり、地域差が見られる結果となりました。

医療の効率的な提供の推進について、医療機関の機能分化と連携推進、在宅医療・地域ケア推進と療養病床の再編成を各地域で実践することで、入院期間の短縮を図っています。平成24年は、平均在院日数目標値29.8日に対し平均在院日数は29.7日で目標値を下回ったことから、目標はクリアしたといえるでしょう。しかし実際には、療養病床から介護保険施設への転換は進まず、介護療養病床の転換期限を平成29年度末まで延長する運びとなりました。

第一期医療費適正化計画は、平成20年度は第一期計画医療費見通し34.5兆円に対し医療費実績は34.1兆円で0.4兆円、平成24年度は第一期計画医療費見通し38.6兆円に対し医療費実績は38.4兆円で0.2兆円、それぞれ医療費を削減した結果となりました。

特定健診実施率および特定保健指導実施率向上に向けた取り組みの周知と徹底、医療機能の分化・連携を進め地域の実情を反映した地域医療構想の策定が、第二期以降の課題として浮かび上がる結果となりました。


第二期医療費適正化計画

医療費適正化計画はPDCAサイクルを循環させる形式のため、第二期医療費適正化計画は当初の目標に第一期の結果と見つかった課題解消も視野に入れながら進められました。

第一期の結果と傾向と比較して、第二期医療費適正化計画は達成の可否と傾向に大きな差は見られませんでした。しかし、特定健康診査実施率と特定保健指導実施率は上昇、メタボリックシンドローム該当者および予備群は減少傾向にあり、少しずつではありますが着実に成果を出していることが資料から読み取れます。平均在院日数も、多少の地域差はあるものの、着実に短縮傾向にあります。

第二期医療費適正化計画には後発医薬品の使用推進も盛り込まれており、こちらも年を追うごとに使用割合の上昇が確認できます。

第三期医療費適正化計画

平成30年度に開始した第三期医療費適正化計画では、地域医療構想に基づいた医療資源の有効活用と地域内における医療機関の連携推進、糖尿病をはじめとした生活習慣病の重症化予防、後発医薬品利用のさらなる推進などが盛り込まれているのが特徴です。都道府県の事情を反映した個別取組目標は任意事項にとどまっています。

団塊の世代が後期高齢者入りを前に、「経済財政運営と改革の基本方針(以下、骨太の方針)」には医療提供体制と医療費の地域差半減に向けた取り組みとして医療費適正化計画の見直しを行う旨の文言が記載されました。

国による医療費適正化計画の動向

国による医療費適正化計画の動向

医療費適正化計画は、国が策定した取組目標と推計方法に従い、都道府県が計画を作成。都道府県ごとの計画を国が集約して、全国医療費適正化計画を作成します。

第二期までの進捗

医療適正化計画を進めるにあたり国が実施する取り組みとしては、国が達成すべき目標の設定、そのために国が取り組むべき施策、保険者および医療機関その他の関係者とのリレーションシップ形成とコンセンサス獲得、計画期間の医療費見直しなどがあります。計画期間中には進捗状況の評価、計画終了年度の翌年度には実績評価も行います。


国による第三期医療費適正化計画の現状

2020年から続くCOVID-19は依然猛威をふるっており、検査・治療のための受け入れ体制整備、入院病床の圧迫、医療従事者の疲弊など、医療提供体制に与えている影響は少なくありません。

ところが、各省庁の利害関係を超えて2021年6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2021(骨太の方針2021)」を読むと、効率的な医療提供体制構築と医療費の地域差改善の目的で医療費適正化の見直しを行うとの記載があります。COVID-19への対応に追われる最中での制度見直しは現行のCOVID-19対策の実施に影響を与えかねないことから、医療提供体制を縮小しかねない議論は避けるべきとの意見もあがっています。

都道府県による医療費適正化計画の動向

都道府県による医療費適正化計画の動向

都道府県は、医療費適正化計画の重要な担い手として、目標達成のための取り組みを考案・実行します。

第二期までの都道府県による医療費適正化計画

都道府県が実施する医療費適正化計画に関連した業務としては、住民の生活習慣病予防と健康保持促進、医療資源の効率的かつ有効活用を目的とした取り組みがあります。具体的には、前者は特定健康診査と特定保健指導の実施、メタボリックシンドローム減少に向けた働きかけ、たばこ対策、予防接種の実施、生活習慣病の重症化予防に向けた施策があります。後者は、後発医薬品(ジェネリック医薬品)の周知と使用促進、医薬品適正使用の推進です。

都道府県の課題

人口10万人対医師数、地域の医療機関数、医療機関へのアクセスのしやすさなど、医療の提供体制には地域格差が存在します。そのため、医療費適正化計画は国から都道府県への方針の一方的な押しつけとする声や制度の形骸化を危惧する声や、地域医療構想と医療費適正化計画の理念は異なり両者は相容れない性質のため結びつけるのは不適切とする意見もあります。医療費適正化計画の実施には、柔軟な対応が求められるでしょう。

COVID-19への対処としては、重症患者の受け入れと治療、感染拡大防止対策、そして現在ではワクチン接種事業への協力があります。特にワクチン接種事業では、日本医師会および希望する全ての国民が接種を受けられるよう努める旨の発言が、令和3年度第1回都道府県医師会会長会議で出ました。

2024年度からは第4期医療費適正化計画が開始する予定

少子高齢化が進むなかで、国民皆保険制度と医療体制の維持は重要課題として認識されており、国と地域をあげた医療政策が実施されています。2024年度からは第4期医療費適正化計画が開始する予定で、計画策定にはCOVID-19対応で得られた知見などを踏まえた議論が求められています。

医師をはじめとした医療従事者は、医療費適正化計画の概要と目指す将来像について、よく理解しておくことが重要です。

ドクタービジョン編集部

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