新専門医制度で内科は減少? 診療科偏在の現状とは

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業界動向

公開日:2022.08.18

新専門医制度で内科は減少? 診療科偏在の現状とは

新専門医制度で内科は減少? 診療科偏在の現状とは

2018年度から運用が始まった新専門医制度。地域や診療科の医師偏在を解消し、国民に対してより質の高い医療を提供する目的で、日本専門医機構による統一的な評価・認定がなされるようになりました。

しかし、新専門医制度を導入したことでかえって内科志望者が減少したことなどから、同制度そのものに対して厳しい意見も聞こえてくるようになりました。

本記事では、新専門医制度運用開始から現在に至るまでに見えてきた課題、医師の地域・診療科偏在の現状と今度の動向についてご説明します。

新専門医制度の現状と課題

新専門医制度の現状と課題

新専門医制度は、医師が一定以上のスキルを習得し、国民に対して良質な医療を平等に提供することを目的に導入された制度です。

従来の制度では、専門医は各学会で独自に構築したものであったことから、資格取得難易度はまちまちでした。患者さまからすると「専門医を頼ったら良い治療を受けられる」と誤認することもあり、それゆえに適切な医療を受ける機会が損なわれてしまうケースもあったのです。

地域間における医療格差も問題視されていました。都市部では医療機関や医師が飽和状態で医療圏内での競争が激化しているのに対して、地方では医師不足が顕著で、なかには医療を必要とする人がいるにもかかわらず休診に追い込まれる医療機関もあったほどです。

また、医師自身がQOLとワークライフバランスを考慮するようになった結果、激務かつ訴訟リスクの高い診療科は敬遠され、皮膚科や眼科を選択する医師も増えていました。こうした問題を解消すべく検討と調整を重ねた結果、新専門医制度が誕生。2018年度から運用を開始し、2021年度末をもって最初の専攻医が基本領域の研修を終えました

2022年度の専門医の採用状況

2022年4月から専門研修を開始する専攻医の数は、2021年2月の発表時点で9,519名前年度9,227名から292名増加した結果となりました。各診療科の内訳と前年比は、以下の通りです。

  • 臨床研究医コース:18名(8名減2021年10月から募集開始のため前年度比なし)
  • 内科:2,931名(56名減)
  • 小児科:554名(4名増)
  • 皮膚科:331名(25名増)
  • 精神科:573名(21名増)
  • 外科:852名(60名減)
  • 整形外科:651名(24名増)
  • 産婦人科:521名(43名増)
  • 眼科:337名(7名増)
  • 耳鼻咽喉科:256名(37名増)
  • 泌尿器科:308名(6名減)
  • 脳神経外科:238名(18名減)
  • 放射線科:301名(32名増)
  • 麻酔科:501名(39名増)
  • 病理:99名(4名増)
  • 臨床検査:22名(1名増)
  • 救急科:375名(49名増)
  • 形成外科:255名(44名増)
  • リハビリテーション科:146名(40名増)
  • 総合診療科250名(44名増)

引用:Gem Med 『新専門医目指す「専攻医」の2022年度採用は9519名、「内科医不足の解消」などが今後の重要課題―日本専門医機構』

2021年から新コースとして「臨床研究医コース」が開設されたことを加味しても、数字の傾向はおおむね例年通りの結果を迎えたようです。ただし、主要診療科のうち内科は専門医志望者数全体の3割程度、外科は1割程度にとどまっており、双方とも前年割れした結果を懸念する声があがっています。

 

内科医の不足が懸念されている

全国各地における医師偏在の解消策として、医師需給分科会(「医療従事者の需給に関する検討会」の下部組織)では、二次医療圏における医師配置状況の可視化を進めています。厚生労働省では都道府県規模の「医師確保計画」を制定し、2036年までに医師偏在を段階的に解消することを目標に掲げました。

医師偏在の解消には、ただ医師数を増やすのではなく、必要な医師数を診療科別に把握し供給する必要があります。地域内における医師数の判断基準は、従来では人口10万人に対する医師数でした。しかしこの方法では、医師数自体は把握できても、所属する診療科など実態まではカバーしきれません。そこで、たとえば脳梗塞の治療には脳神経外科、内科、外科、救急科が介在することをヒントに、各診療科で扱う疾患の割合を分析。出てきた値に対して、診療科全体における医師の勤務時間を比較調整し、人口動態から推察される将来の疾患別医療ニーズを加味した結果、将来その診療科で必要とされる医師数を推察しました。

こうして導き出された将来必要な内科医の数は、2016年時点では122,253名が必要なのに対し実態は112,978名で、9,275名も不足していることが明らかになりました。このままいくと、2024年には3,910名、2030年には3,246名、2036年には2,978名の内科医養成が必要になる計算です。

外科医の前年割れが問題視されたのも、同じ理由です。2016年時点で外科医は34,741名が必要なのに対し、実態は29,085名で5,656名不足している状態でした。そして、2024年は1,587名、2030年は1,323名、2036年は1,217名の外科医養成が必要と推察されているのです。

対照的に、需要に対して供給過剰な診療科もあります。とくに皮膚科と精神科は人数増加が顕著で、週当たりの平均勤務時間が比較的短いことが関係しているとされています。

本来なら、毎年約4,500名の内科医専攻医が必要とされている状況でありながら、実態は6割程度の結果にとどまっており、内科医不足が今後深刻化することは明らかです。

地域・診療科偏在が今後の課題

地域・診療科偏在が今後の課題

医師の地域・診療科偏在の問題に対して、厚生労働省は医師確保計画を策定し、日本専門医機構も対策を講じています。

厚生労働省による医師確保計画とは

医師確保計画とは、2018年7月に改正された医療法を根拠にする施策です。都道府県は、医師確保の方針、目標医師数、目標達成に向けた対策と詳細を定め、PDCAサイクルに基づき実行します。

同計画は、第9次医療計画の終期を迎える2036年まで、3年ごと(初期の計画は4年ごと)に計画の実施と達成を積み重ねることが『医師確保計画策定ガイドライン』で義務付けられました。なお、産科と小児科は、医師が長時間労働をする傾向があることや診療行為も明らかにしやすいことが考慮され、暫定的な指標と対策を別途検討するものと明記されています。

医師の偏在問題と対策は、地域医療構想と医師の働き方改革とも密接に関係することから、三位一体の対応が必要とされています。

地域医療に関連した具体的な取り組みについて、2022年3月に公開された『第8次医療計画、地域医療構想等について』を見ると、大学との連携による地域枠の設定、各地の地域医療対策協議会・地域医療センターとの共同が盛り込まれています。ほかにも、キャリア形成プログラムによる医師確保と医師の能力開発・向上、認定医師制度の活用も盛り込まれ、地域ごとの医師偏在状況と地域性を考慮した対応が期待されていると言えるでしょう。

医師確保計画は、3年を1期とする計画です。2024年度開始予定の第8次医療計画に向けて、検討会やワーキンググループによる議論が2022年5月から本格化しています。夏頃までには、主要項目に関連する第一ラウンド論議を実施、冬にかけて意見の取りまとめが行われる予定です。

 

日本専門医機構の今後の動き

新専門医制度の安定的な運用には、サブスペシャリティ領域の課題解決シーリング子育て世代への支援学会専門医から機構専門医への移行が需要課題になると注目されています。

どの学会や領域をサブスペシャリティ領域として認定するか、という課題の解決については、地域の基幹病院に設置される認知度も高い診療科は日本専門医機構で認定することや、高度あるいは特殊な領域は学会で認定してから、機構で審査と認証を進める方向で調整が進んでいることが公にされました。

シーリングについても、必要医師数に基づく採用上限数の設定と医師不足地域での研修による連携プログラムは、一定の成果が認められます。今後はかかりつけ医制度のあり方も含めた検討、AI診療の浸透なども考慮した対応が進むでしょう。また、子育て世代に該当する専攻医への支援についても、今後検討を求める考えが示されています。

学会専門医から機構専門医への移行については、いずれは日本専門医機構が認定する機構認定医への全面的な移行を希望しており、学会レベルおよび医師個人レベルでの移行推進を促す方針です。

2022年6月には、日本専門医機構の総会・理事会が開催され、新理事長と副理事長が選出されて新体制がスタートしました。新専門医制度の運用ならびに医師偏在問題と対応は、今後さらに注目を集めるでしょう。

新専門医制度の動向は内科医の増減も含めて要注目

医療の質担保と医師偏在問題の解消に向けて、新専門医制度が2018年に運用開始してから4年が経過しました。当初想定されていなかった課題が顕在化しており、制度を設けたことがかえって医師の働き方と選択肢を制限してしまっているという意見もあります。たしかに、制度導入による変化と見えてきた課題を議論する必要はあるものの、制度の是非まで判断するのは現段階では時期尚早と言えるでしょう。

新専門医制度は、表出した問題点への対策や医師確保計画といった、関連する医療政策の影響などを受けて、今後さらに改正が進んでいくことと思います。すでに専攻医の方はもちろん、現在研修医の方もアンテナを高く張り、積極的な情報収集を心がけていきましょう

 

ドクタービジョン編集部

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