新専門医制度は期待できる?制度の課題や問題点と今後の展望

医師がキャリアや働き方を考える上で参考となる情報をお届けします。
医療業界動向や診療科別の特徴、転職事例・インタビュー記事、専門家によるコラムなどを日々の情報収集にお役立てください。

業界動向

公開日:2020.12.17

新専門医制度は期待できる?制度の課題や問題点と今後の展望

新専門医制度は期待できる?制度の課題や問題点と今後の展望

2018年からスタートした新専門医制度では、後期研修医が「専攻医」という呼び名に変わったり、基本領域とサブスペシャルティ領域という新しい制度が誕生したり...。目立った変化がいくつかありますが、実際に運用がはじまってから課題や問題点も見えつつあります。

今回は、新専門医制度ができた背景などを確認しつつ、課題や問題点、今後の展望について解説します。

新専門医制度とは?

従来の専門医制度では、診療科ごとに分化している学会が各々の基準を持って専門医認定プログラムを設け、専門医を認定していました。しかし、従来の専門医制度では学会ごとに専門医認定の基準が異なることから診療科間の専門医の質が一定に保たれていないのではないか、との懸念が長年指摘されていました。

また、専門医として有すべき能力に対して国民と医師自身のイメージ像にギャップがあるのではないかという「専門医制度そのものがわかりづらい」という問題もあります。さらに、医師の地域偏在・診療科偏在の問題も議論されていました。

これらの問題に対して、厚生労働省は2011年から「専門医の在り方に関する検討会」を開催。改めて国民の視点に立った上で、医師の質の一層の向上及び医師の偏在是正を図ることを目的に、専門医制度が見直されるようになります。

そして2018年4月からはじまったのが新専門医制度です。専門医資格の認定基準を統一できるよう、専門医認定プログラムの運用母体を各学会から第三者機関の「日本専門医機構」へと移行したほか、専門医は基本領域とサブスペシャルティ領域の2段階制によって認定することを基本設計にしました。

サブスペシャルティ領域の専門医を取得するには、まず関連性のある基本領域の専門医の取得が必要です。基本領域は内科、外科、小児科、麻酔科、臨床検査科や救急科などの19領域、サブスペシャルティ領域は消化器病、循環器、呼吸器、血液、糖尿病、小児外科などを含む23領域(※2020年12月現在)からなります。

さらに、専門医認定研修において、基本領域では基幹施設と連携病院をローテーションしながら所定の年限で研修を受ける「プログラム制」が原則となりました。※出産・育児・留学などの合理的な理由があれば、研修年限に制限のない「カリキュラム制」も利用可

運用開始から見えてきた新専門医制度の課題・問題点

運用開始から見えてきた新専門医制度の課題・問題点

従来の医療問題を改善に向けるために始まった新専門医制度。しかし、運用がはじまって約2年たった今、新たな問題点や課題が浮かび上がってきています。

循環型研修により都市部に医師が集中してしまう

専門医資格を取得するにはまず、基本領域で約3年間の研修プログラムを受けます。この研修プログラムでは、基幹病院と連携病院の間を行き来(ローテーション)しながら研修を行いますが、基幹病院として認められている施設は都市部の大病院や大学病院ばかりでした。

そのため、研修希望先が都市部に集中することとなり、地方の一部の診療科では希望者がゼロになるなどの問題が生じています。もともと医師不足に悩む地方の中小病院では、「医師不足がさらに深刻になるのでは」と不安の声が上がっています。

研修のために施設を転々としなければならない

循環型研修となったことで、研修を受ける医師の負担も増しています。遠方への基幹施設での勤務が必須となったり、一定期間のへき地勤務が義務付けられたりする医師がいるほか、出産や育児、介護などのライフイベントとぶつかり、研修との両立が困難になった医師も出てきました

研修先に遠隔地が含まれたのは、医師の地域偏在を解決することが理由です。しかし、遠方の研修施設を転々とすることで生活設計を立てることそのものが難しくなってしまう医師もいるでしょう。

診療科によっては資格取得年数が長く資格更新の要件が厳しい

新専門医制度のもとでは、2年間の初期臨床研修のあと基本領域で3年間、サブスペシャルティ領域で3年間という研修プログラムを受けることになるため、専門医資格が取得できるようになるまで最長で8年かかります。基本領域とサブスペシャルティ領域の研修を並行して受けられるプログラムでは、診療科によって専門医取得までの年数の短縮も可能ですが、一般的には従来の専門医制度よりも専門医取得までの年数がかかると考えたほうがよいでしょう。

また、資格更新のためには勤務実態の自己申告や診療実績の証明、共通講習や単位取得が必要となり、要件が厳しくなりました。このように資格更新の手続きが煩雑になったことも、多忙な医師の負担を大きくしています。

新専門医制度に期待できる点は?

新専門医制度に期待できる点は?

実際に運用が開始されてから課題が見えてきた一方で、新専門医制度に期待する声も複数あがっています。

細分化しすぎた専門医の整理が期待できる

これまで数多くの学会が独自に専門医の認定制度を運用していたため、専門医が乱立し各医師の専門性がわかりにくい現状がありました。また、専門医資格を持った医師の能力については、本人と学会しか把握できないという問題点も...。

しかし、新専門医制度により基本領域とサブスペシャルティ領域が新たに設定されたことで、医師の専門性が明確になり、専門医の質を標準化が可能となりました。「医療を受ける国民にとっても、どの医師にかかればいいのか可視化されたのでは」との期待が持たれています。

総合診療専門医が新設されたことで家庭医・かかりつけ医の需要に対応できる

新専門医制度では、基本領域に新しく「総合診療専門医」が設置されました。総合診療医は、体の不調などを感じた患者さまが病状などを問わず受診・相談できる医師で、「扱う領域の広さと多様性」が特徴です。

実際に患者さまが体の不調を感じても、どの診療科を受診すべきか悩む例は多いもの。幅広い疾患を診ることのできる総合診療医はプライマリ・ケアや家庭医学を支える「かかりつけ医」として活躍できるでしょう

総合診療医は、幅広い疾患に対応するだけでなく地域医療のキーパーソンとしての役割も期待されています。患者さまの状態に応じて他の専門医や病院施設と連携し、包括的かつ多様な医療サービスを提供できる医師として、高齢社会において重要な存在となっていくでしょう。

医師の地域偏在や診療科偏在が解消できる可能性がある

新専門医制度は「医師の地域偏在、診療科偏在の問題に拍車をかけるのでは」との懸念がある一方で、「それらの問題を解決しうるのではないか」という期待もあります。

東京や大阪といった大都市部や人気の高い診療科への集中を解消するため、新専門医制度ではシーリング制度と呼ばれる募集定員が設けられました。シーリング制度の主な方針として、すでに必要医師数が確保できている都道府県と診療科では採用数に上限を設け、採用された医師の一部はシーリングされていない他の都道府県の施設で研修プログラムの50%以上を受けることで専門医資格の取得を目指します。

今後は、地域ブロック単位で医師の充足率を見ながら医師数の多いブロックと少ないブロックが積極的に連携していくことで、地域偏在問題の解消につなげられるよう、議論が進んでいるところです。

新専門医制度は、今後も改善されていく見通し

新専門医制度の運用がはじまってから、新たな課題と期待が浮かびあがってきました。問題点のいくつかは専門医の質を標準化する目的と医師の地域偏在という社会問題を結びつけたために混乱が生じたと考えられています。

日本の医療を守るために、医師たちが働きやすく、より良い医療サービスを提供できるような新専門医制度の運用が求められています。現在においても日本専門医機構を中心として本制度の問題点がまとめられている最中であり、制度の改善に向け今後も継続して制度の内容が変わることでしょう。

新専門医制度のもとで適切なキャリアを築いていくためには、日頃から情報収集を欠かさないことが大切です。補助制度や新しいシステムは今後も追加修正されていくことが考えられます。新専門医制度の情報を適宜チェックし、自身の目指す専門医の働き方を実現できるようにしましょう。

ドクタービジョン編集部

医師がキャリアや働き方を考える上で参考となる情報をお届けします。医療業界動向や診療科別の特徴、転職事例・インタビュー記事、専門家によるコラムなどを日々の情報収集にお役立てください。

今の働き方に不安や迷いがあるなら医師キャリアサポートのドクタービジョンまで。無料でご相談いただけます