研修医が受験する「基本的臨床能力評価試験」(GM-ITE®)とは?概要や目的・対策を紹介

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公開日:2024.03.08

研修医が受験する「基本的臨床能力評価試験」(GM-ITE®)とは?概要や目的・対策を紹介

研修医が受験する「基本的臨床能力評価試験」(GM-ITE®)とは?概要や目的・対策を紹介

医師の皆さん、基本的臨床能力評価試験(GM-ITE®)という試験をご存知でしょうか。医師の臨床能力到達度を測るために行われる試験で、研修医を対象に実施されています。1・2年次の1月に実施されることが多く、年々受験者数は増加しています。

この記事では、GM-ITE®の概要や目的のほか、受験対策についても紹介します。

基本的臨床能力評価試験とは

基本的臨床能力評価試験(GM-ITE®:General Medicine In-Training Examination)は、医師の臨床研修プログラムを受講している医師、すなわち研修医を対象に、臨床研修のアウトカムを客観化する目的で実施される試験です。日本医療教育プログラム推進機構(JAMEP)が運営しています。

2012年度に始まった比較的新しい試験ですが、参加する病院や施設は年々増加しており、2023年度は696施設から、2学年合わせて9,580名が受験しています。近年の研修医は1学年当たり9,000名ほどですから、おおよそ半分の研修医がGM-ITE®を受験していることになります。

新人医師を対象とする「GM-ITE®︎ PGY-0」(新臨床研修医対象基本的臨床能力評価試験)もあり、こちらは研修医になったばかりの春(4月)に実施されます。

試験の概要

2023年度の試験は、2024年1月17日〜同年1月30日の間に実施されました。

試験はパソコンを用いるCBT(computer based testing)方式で、選択問題80問(単純択一形式)120分で解くシステムです。

出題の内訳は下記のとおりです。内科・外科・小児科・産婦人科・精神科・救急科は研修の必修科目でもあります。

【項目別】

項目 出題数
総論 8
症候学・臨床推論 18
身体診察・臨床手技 18
疾病各論 36
合計 80

【科目別】

科目 出題数
総論 8
内科 38
外科 8
小児科 6
産婦人科 6
精神科 6
救急科 8
合計 80
JAMEP「2023年度 GM-ITE®️ 試験結果サマリー」をもとに作成
https://jamep.or.jp/gm-ite/2023gm-ite_summary/

受験料は5,500円(税込)で、前年の9~11月ごろに申し込む必要があります。

GM-ITE® PGY-0の場合は、受験料は1,100円(税込)、申込期間は卒業前の3月から4月上旬までとなっています。

基本的臨床能力評価試験の受験対策

公式サイトでは、GM-ITE®が研修目標の到達度を評価する試験であることから「正確な評価のために、試験対策をしないことをおすすめします」と呼びかけています。

そうは言っても、何の対策もしないで臨むのは不安でしょう。

まずは、試験形式に慣れることが重要です。試験の数週間前になると、「サンプルテスト」が公式サイトで公開されます。パソコンの動作確認とともにCBT形式での解答手順を確認することができるため、受験したほうが良いでしょう。出題内容の雰囲気も学び取ることができます。

GM-ITE®を受けるにあたっては、公式サイトでも呼びかけられているとおり、直前に試験対策をするというよりは、日ごろからの地道な勉強が欠かせません。デスクワークが中心の医学生時代と異なり、研修医は仕事をしながら学習し、現場で成長していくことが求められます。どのように勉強していけばよいかは、下記の記事を参考にしてください。

近年は受験者数が増えていますので、受験経験のある先輩医師に話を聞くのも良いでしょう。

▼研修医の勉強方法に関する詳しい記事はこちら
どうする?初期研修医の勉強方法【現役医師解説】

平均点と正答率

GM-ITE®の平均点と正答率は、2023年度は下記のとおりでした。目指すべき点数の目安となるでしょう。

公式サイトでは項目別・科目別の数値も公開されているので、気になる方は確認してみましょう。

受験学年 平均点(80点満点) 正答率
研修医1年次 43.79 54.74
研修医2年次 45.18 56.48
全体平均 44.47 55.58
JAMEP「2023年度 GM-ITE®️ 試験結果サマリー」をもとに作成
https://jamep.or.jp/gm-ite/2023gm-ite_summary/

基本的臨床能力評価試験の目的・メリット

GM-ITE®は、研修医・医療機関双方が、試験結果を次年度の研修に役立て、今後力を入れるべき分野や領域を把握し、臨床研修の質を担保することを目的としています。

研修医が日ごろ研修に取り組む中で、自分がどの程度レベルアップできているかを感じ取ることは難しいものです。年に一度の試験で、目標への到達度が数字として見えれば、能力を客観視することにつながります。弱点を強化したり、強みをより伸ばしたりするなど、今後の学びを充実させることもできるでしょう。

一方の医療機関にとっても、GM-ITE®は自施設の研修医の臨床能力を評価することに役立ちます。自施設の研修プログラムで十分な教育が行えていない領域を見つけ出し、指導を強化する契機となるでしょう。

学術的な研究にも試験結果が利用されており、医学教育にまつわるさまざまな研究の後押しになっていると言えます。

こうした点がGM-ITE®に参加する目的であり、最大のメリットと言えるでしょう。

基本的臨床能力評価試験の懸念点・課題

最後に、GM-ITE®の懸念点や課題を考察します。

研修医同士の個人比較に使われ得る

会話をしながら歩く若い2人組

運営元のJAMEPは、GM-ITE®の利用について下記のように求めています。

GM-ITE®︎は、形成的評価(Formative evaluation)を目的としたものであり、GM-ITE®︎の結果を採用や合否判定等に使用しないようにお願いいたします。

JAMEP 公式サイトより引用
https://jamep.or.jp/gm-ite/

形成的評価とは、教育や学習の現場で使われる言葉です。個人の達成度を測り、その後の学習につなげることが主たる目的であり、結果を他者と比較することを目的としません

ところが、GM-ITE®の結果を他者と比較するような研究報告も多数あります。たとえば、総合診療科・救急科・内科を志望する研修医はGM-ITE®の総合得点が高い傾向にあったという論文がありますが、GM-ITE®の結果を利用してどの診療科志望の研修医が"優秀"であるかを評価しているとも見られかねず、本来の試験目的とは異なるデータ活用とも言えるのではないでしょうか。

GM-ITE®の点数が高い=相対的に優秀である、という印象は持たれやすいですし、GM-ITE®の結果が全国的に上位にある病院がそのことを公開している、すなわち宣伝目的でGM-ITE®を利用していると解釈される例もみられます。

こうした現状からは、試験結果を形成的評価に利用するという本来の目的が十分に果たされていないと言えるのではないでしょうか。あくまで個人の到達度をはかるという当初の目的に則り、「GM-ITE®の得点率が一定以下の場合は研修修了を認めない」などのように、他者との比較を推進するような方向には行かないでほしいと思います。

試験結果の信頼性が低い可能性がある

GM-ITE®では、研修医が経験することの多い救急分野において、1年次と2年次の結果に大きな差がみられます。

GM-ITE®が真に臨床能力を反映するのであれば、どの分野でも研修医2年次の方が、1年次の得点よりも高くなることが想定されます。しかし2023年度の総論・産婦人科の平均点は、研修医1年次の方が2年次よりも高い結果になっています。小児科や精神科で同様の傾向がみられた年度もありました。

こうした結果からは、GM-ITE®で臨床研修のアウトカムを十分評価しきれていない可能性があるとも考えられます。

まとめ

今回はGM-ITE®について紹介しました。試験で能力を見える化することで、研修医や研修病院が自身・自施設の研修状況を振り返り、その後の学習につなげてステップアップをはかったり、病院の研修プログラムのブラッシュアップに活かせたりする一方、他者や他機関との比較に使われてしまっている点や、臨床能力の反映に疑問が残る点が問題点と言えるでしょう。参加施設が増える中、質が高く効率的な研修を進めていけるよう、より信頼性の高い試験となることが期待されます。

Dr.SoS

執筆者:Dr.SoS

皮膚科医・産業医として臨床に携わりながら、皮膚科専門医試験の解答作成などに従事。医師国家試験予備校講師としても活動している。

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