医師不足・医師偏在はどうして起こる?現状や対策を解説

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業界動向

公開日:2023.08.21

医師不足・医師偏在はどうして起こる?現状や対策を解説

医師不足・医師偏在はどうして起こる?現状や対策を解説

「医師不足」という言葉をしばしば耳にします。原因として、医師の絶対数不足医師の偏在(相対的不足)の2つが挙げられます。この記事では、さまざまなデータに基づき、医師不足の現状や現在取られている対策について解説します。

医師不足の原因①:医師の絶対数の不足

日本の医師不足の原因として想像しやすいのが、そもそも医師の数(絶対数)が不足していることです。

医師の絶対数の比較には、人口当たりの医師数が用いられます。日本はOECD加盟国の中で、この数値が低いという結果が出ています。OECDの2019年のデータ(日本の数値は2018年)では、人口1,000人当たりの医師数がOECD平均3.6人に対し、日本は2.5人となっています。

国によって医療制度は違うため比較は難しいですが、この数値だけを見れば、日本の医師の絶対数はOECD加盟国(≒先進国)と比べて不足していると言えます。

人口当たり医師数だけでは測れない「一人当たりの仕事量」

「医師数」という観点だけでは、医師一人当たりの仕事量を測ることはできません。医療の高度専門化により、これまで治療不可能だった疾患の治療が可能となりましたが、そこには人手が必要です。処置や手術・検査の前には文書を用いた説明と同意(インフォームド・コンセント)をきちんと取得することが一般的となったことで、さらに医師の人手が必要になりました。

つまり、以前と比較して近年は医師の仕事量が増えており、「人口当たり医師数」は以前と同じでも、医師のマンパワーが不足しやすい状況と言えます。

また、日本では近年、女性医師の割合が増えています。1976年には全医師の9.4%だった女性の割合が、2018年には21.9%まで上昇しました。現在の医学部入学者の約1/3は女性であり、医学部入学者の大部分が医師になることを考えると、この50年弱で女性医師の割合は3倍に増加します。しかし現在の社会では、女性は出産や育児を理由に仕事を離れざるを得ない傾向にあり、人口当たり医師数だけではこうした事情を測れません。今後、医師の働き方改革などで、出産・育児と仕事を両立しやすくなる環境・制度や、男性の育休取得の推進が期待されます。

医師不足の原因②:医師の偏在(相対数の不足)

医師不足の原因として、絶対数不足以外に挙げられるのが「医師の偏在」です。医師の数は不足していなくても、都道府県ごとや診療科ごとに見ると、医師が足りないところがあるという問題です。

地域による偏在

都心には医師が多いが、地方には少ない」と言われることが多くありますが、実際にデータでもそのことが示されています。人口10万人当たり医師数(2020年)で見ると、たとえば北海道全体では262.8人である一方、札幌市では353.6人。愛知県全体では236.6人である一方、名古屋市では332.1人。つまり中核市で医師数が多くなっています(ただし愛知県豊田市139.0人や福島県いわき市142.1人のように、医師数が少ない中核市もあります)。

都道府県単位でも、医師数の差があります。医師数が最も多い徳島県では338.4人、最も少ない埼玉県では177.8人で、両者には2倍弱の差があります。

このような地域偏在の原因として、2004年に開始された新臨床研修制度が指摘されています。以前は大学医局から医師が地域に派遣されることで、地域医療が支えられていました。しかし新臨床研修制度の下では医局に入局する医師が減少し、医師を地域に派遣できなくなってしまったのです。

そもそも医師に限らず、人口移動の傾向として東京圏(埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県)への一極集中が生じており、コロナ禍でテレワークが進んだ職種でも、この傾向に変化はみられていないようです。医師や医療従事者も、都心での勤務を望む人が多い傾向があると考えられます。

なお最近では人口10万人当たり医師数だけではなく、人口構成とその変化や医師の性別・年齢分布等を考慮した「医師偏在指標」を設定し、より正確に地域ごとの医師数比較を行おうとする動きもあります。

診療科による偏在

医師の地域偏在以外に、診療科による偏在も指摘されています。2010年から2020年にかけて、内科・外科といった包括的な診療科の医師数が減少しています。専門分化(○○内科、○○外科)が進んだことや、若手医師が希望する診療科の変化(小児科が減少、形成外科や美容外科が増加)などが背景にあります。

診療科の偏在には、訴訟リスクや労働条件も影響します。訴訟リスクの代表例として、2006年に産婦人科医が逮捕・起訴された(後に無罪判決)、福島県立大野病院事件が知られています。この事件は当時、産婦人科における医師不足をより悪化させる原因となりました。

労働条件については、長期間労働が多い診療科は敬遠されやすいと言われています。厚生労働省の2019年の調査では、週当たり勤務時間(診療時間+診療外時間(指示なしを除く)+宿直・日直中の待機時間)が60時間以上となる病院・常勤勤務医の割合は、脳神経外科で53%、外科で51%、救急科で50%でした。週60時間は、月当たりで約240時間。これは月の所定労働時間160時間+残業80時間に相当します。一般に残業時間が80時間以上の状態が2~6カ月続くのは「過労死ライン」であり、前述の診療科医の労働時間はかなり多い状態であることがわかります。

女性医師の増加も診療科偏在と関係

女性医師の数が増えていることを先述しましたが、医師の男女比は診療科によってかなり差があることがわかっています。女性医師が多い診療科は、皮膚科(46.1%)や眼科(37.9%)、小児科(34.2%)、産婦人科(33.7%)などです。とくに皮膚科は、30歳以下においては女性が7割を越えているとされ、医師全体の男女比と逆転しています。一方、外科(7.8%)や整形外科(4.6%)、脳神経外科(5.2%)などは、女性の比率が非常に低くなっています(数値はいずれも「平成26年 医師・歯科医師・薬剤師調査」より)。

女性医師の数が増えている以上、働きやすさなどの面で女性に選ばれにくい診療科は医師数の減少につながることが必然と言えます。

ここまで、医師不足の原因である絶対数不足・偏在について見てきました。では、これらの問題に対して、どのような対策が行われているのでしょうか?

医師の絶対数不足への対策

プレゼンを聞くビジネスマンとビジネスウーマン

医師の絶対数不足への対策として、医学部定員増加や医学部新設(東北医科薬科大学、国際医療福祉大学)が行われました。この結果、2003~2007年度は7,625人だった医学部入学定員は、2020年度に9,330人まで増加しています。

絶対数不足への対策とは少し異なりますが、医師の仕事量を減らす対策として、書類作業などのタスク・シフト/シェアや、相対的医療行為を実行できるナース・プラクティショナー(診療看護師)制度の導入などが進められています。医師の働き方改革に設けられていた5年の猶予期間が終わる2024年度からは、こうした対策がさらに機能すると期待されます。

医師の偏在への対策

地域偏在への対策には、地域枠制度があります。地域枠とは「地域医療に従事する医師を養成することを主たる目的とした学生を選抜する枠」のことで、医師数の増加とともにその数は増やされ、2007年度には183人(全体の2.4%)だったものが、2020年度は1,679人(全体の18.2%)となっています。地域偏在では、先述の通り「都心には医師が多いが、地方では少ない」のが問題ですから、地域枠導入による解決は合理的に思えます。

診療科偏在への対策としては、シーリング制度があります。これは2018年、日本専門医機構による新専門医制度の下に始まったもので、診療科ごとに医師が過剰と考えられる地域で専攻医の数を制限する制度です。2018~2019年は5大都市(東京・神奈川・愛知・大阪・福岡)でシーリングが行われました。その後は都道府県別診療科必要医師数および養成数をもとに、専攻医数が決定されています。

シーリング制度には外科や産婦人科など対象外の診療科があり、また東京都では多くの診療科がシーリング対象とされています。地域・診療科偏在双方の解決に向けた取り組みと言えます。

ただ、こうした対策にも限界があります。職業選択や居住・移転の自由は憲法で定められており、医師の配置(地域・診療科)を完全にコントロールすることは困難です。結局のところ、各地域・診療科において、医師が働きやすい・働きたくなるような環境作りをしていくことが、医師偏在問題の解決に向けて重要なことであると考えられます。2024年度から本格的に始まる医師の働き方改革は、「医療を持続可能な形で提供すること」が目的とされており、こうした環境づくりの後押しになると期待されます。

また同時期から第8次(2024~2029年度)が開始される医療計画でも、医師偏在解消に向けた取り組みが行われています。

まとめ

今回は医師不足について、医師の絶対数や地域・診療科偏在といった問題があることを見てきました。全国満遍なく、すべての診療科の治療が受けられる体制を整えることは、医療が社会インフラである上で重要なことです。医師がどの地域で、どの診療科で勤務するかは個人の自由ですが、業界の全体像を把握するため、医師不足問題について理解しておくことは意味があると考えます。この記事が医師不足についての理解を深める一助となれば幸いです。

竹内 想

執筆者:竹内 想

大学卒業後、市中病院での初期研修や大学院を経て現在は主に皮膚科医として勤務中。
自身の経験を活かして医学生〜初期研修医に向けての記事作成や、皮膚科関連のWEB記事監修/執筆を行っている。

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