精神科は心や脳を診る診療科であり、その需要は社会構造や価値観が多様化する昨今、ますます高まっていると言えます。医師として働きがいがあるのはもちろん、勤務医(常勤・非常勤)、開業医、産業医や公的機関での勤務など働き方の選択肢も多いため、医師からも人気のある診療科です。
多様な働き方があるからこそ、得られる年収にも幅があります。このコラムでは、精神科医の平均年収や業務内容、働き方による年収の違いなどについて詳しく解説します。
*1:2025年9月時点の「ドクタービジョン」掲載求人をもとに、平均値を算出しています。

執筆者:中山 博介
精神科医の平均年収
精神科医の平均年収は、1,688万円*1。全診療科の平均年収1,631万円*1と比べると、やや高い水準です。
しかし都道府県別に見ると、岐阜県では2,114万円、愛知県では1,997万円と平均を大きく上回る一方で、岡山県や滋賀県では1,300万円台と平均を下回っており*1、地域によって差が見られました。各地域の傾向は下表のとおりです。
<精神科医の平均年収【地域別】*1>| 地域 | 精神科医の平均年収(万円) |
|---|---|
| 北海道 | 1,859 |
| 東北 | 1,737 |
| 関東 | 1,717 |
| 北陸・信越・東海 | 1,648 |
| 近畿 | 1,437 |
| 中国・四国 | 1,501 |
| 九州・沖縄 | 1,638 |
| 全国平均 | 1,688 |
※三重県は「東海」地方に含む。
東日本、とくに北海道や東北では平均を上回る一方で、関西エリアでは平均を大きく下回っており、地域差が大きい印象です。
厚生労働省によれば、精神科医の数は全医師の5.1%であり、内科(18.7%)、整形外科(6.9%)、臨床研修医(5.5%)、小児科(5.4%)に次いで5番目に多いです*2。
数は決して少なくありませんが、とくに地方においては精神科医が中核病院に集約される傾向があります。こうした背景から、地域によっては医師の需給バランスが逼迫し、年収に差が生じている可能性があります。
また、精神科は勤務医・開業医・産業医など多様な働き方が選択できる診療科です(後述)。非常勤で働く医師も少なくないため、働き方によっても年収のばらつきが大きくなると考えられます。
令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況|厚生労働省(*2)
花岡晋平ほか:わが国における精神科医の需給と二次医療圏間における偏在に係る研究―官庁統計による経時分析(2000~2018年)―.精神神経学雑誌 123(12): 783-792,2021
精神科医の業務内容と特徴

精神科医の業務は、臨床での検査や投薬はもちろん、他職種や福祉行政と連携した患者支援・予防医療など、多種多様です。年収にも影響する要素のため、まずは精神科医に共通する基本的な業務内容を見ていきましょう。
診療の基本は「対話」と「傾聴」
精神科医のおもな業務は、精神疾患が疑われる患者さんへの検査と診断、および疾患に応じた治療です。
対象となる疾患には、統合失調症、うつ病、ストレス障害、拒食症などがあります。来院された患者さんに対して、現状の聴き取りを含めた問診を実施し、会話を通じて診断と必要な治療方法を選定します。
治療方法には、認知行動療法などの心理療法や薬物療法、場合によっては手術療法があり、選択肢は医療機関によって異なることがあります。
ほかの診療科や福祉行政との連携も
精神疾患を抱える患者さんと接するには、専門的な知識に加えて、冷静な判断力と温かな対応が求められます。会話内容や動向などから患者さんの状態を読み取るとともに、言動を否定せずに受け止める姿勢が大切です。
精神科の診療は、精神科医1人でこなせるものではありません。たとえば、心身症や自律神経失調症の治療は、内科など他科との連携をはかることが多いでしょう。
診療そのものにおいても、看護師やカウンセラーによるサポートが必要となり、日常生活にあわせて精神保健福祉士や地域の社会福祉関係者と連携をはかることもあります。とくに、患者さんのご家族との協力が治療には不可欠です。
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女性も働きやすい診療科
業務内容や働き方の面から見て、精神科は女性も働きやすい診療科の一つです。
厚生労働省のデータをもとに算出すると、精神科における女性医師の割合は24.2%と、全診療科の平均23.6%を上回っています*2。皮膚科や眼科・麻酔科と同様に、女性医師から選ばれやすい診療科となっています。
この背景には、下記のような要因が挙げられます。
- 体力的負担が比較的少ない
- ライフステージの変化に合わせた働き方ができる
外科や救急科と異なり、精神科は緊急性の高い手術や処置がほとんどなく、体力的負担が比較的少ないと言えます。日本医師会によれば、宿日直やオンコールの回数も他科と比べ少なく、麻酔科や放射線科に次いで3番目に有給取得しやすい診療科とされています*3。
さらに、厚生労働省の2019年の調査報告では、病院常勤勤務医の週あたり平均労働時間が47時間50分と、全診療科の中で臨床検査科(46時間10分)に次いで短く*4、出産や育児との両立がしやすいことが示唆されています。
勤務医以外にも開業医・産業医、非常勤など、多様な働き方が可能なため、ライフステージの変化に対応しやすい点も、女性医師に選ばれる要因と言えるでしょう(後述)。
精神科医の勤務形態と年収の傾向
精神科には多様な働き方があり、年収にも影響する要素の一つです。ここでは、以下3つの勤務形態について、業務内容や年収の傾向を紹介します。
- 勤務医(常勤・非常勤)
- 開業医
- 産業医
勤務医(常勤・非常勤)

精神科医の一般的な働き方は、大学病院や市中病院における勤務医です。おもな業務内容は外来診療や重症例の入院管理であり、内服療法や心理療法・行動療法などで症状の改善を目指します。
一般病院の場合は精神科病棟がない場合も多く、外来診療がメインとなることが一般的です。一方、精神科病棟を持つ病院では、予定入院に加えて、より緊急性の高い「応急入院」や「措置入院」に対応することもあります。
また、他科の患者さんの精神症状をフォローしたり、療養型病院でリエゾンチームを組んだりと、同じ勤務医でも働き方は多岐にわたります。
古いデータになりますが、労働政策研究・研修機構が勤務医を対象に実施した調査*5によると、精神科の勤務医の平均年収分布は下グラフのとおりとなっています。
<【精神科】勤務医の主たる勤務先の年収*5>
労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」p.30をもとにドクタービジョン編集部作成
https://www.jil.go.jp/institute/research/2012/documents/0102.pdf(2025年11月11日閲覧)
この分布から、年収1,000万円〜2,000万円がボリュームゾーンである一方で、300万円未満から2,000万円以上まで、年収に大きく幅があることがわかります。
当直やオンコール業務のある病院で働く場合は、より年収が上がりやすくなります。このような勤務形態の違いが、精神科医の年収の幅を広げる一因となっています。
精神保健指定医を取得して年収アップも
精神保健指定医の資格を取得することで、さらなる年収アップやキャリアアップも目指せます。
精神保健指定医とは、重度の精神障害を持つ患者さんに対して、医療保護入院、隔離、身体拘束など一定の行動制限や、措置入院の解除判断を行う精神科医です。職務上、法律に基づき、本人の意思によらない入院や、一定の行動制限の必要性について、十分人権に配慮した上で判断する役割を担っています。
精神科病棟を持つ医療機関にとって指定医の常勤配置は診療報酬の加算対象にもなることから、好条件の求人が多く見受けられます。
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開業医
勤務医としてキャリアを積んだあとは、開業医として地域の患者さんの心身に寄り添うことも一つの選択肢です。
比較的軽症の患者さんの対応が主体で、入院が必要な場合は近隣の医療機関に紹介を行います。
近年では、訪問診療や在宅医療、オンライン診療など多様な診療スタイルを導入するクリニックも増えています。
厚生労働省によれば、精神科の開業医の平均年収(損益差額)は約1,960万円であり*6、勤務医よりも高収入が見込めると言えるでしょう。ワーク・ライフ・バランスを確保しやすいことや、他科より初期投資を抑えられることから、開業は人気の選択肢となっています。
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産業医
精神科医の中には、セカンドキャリアとして産業医の道に進む人も少なくありません。産業医のおもな業務は、企業の従業員が健康に仕事へ専念することができるようサポートすることです。具体的には以下のようなものが挙げられます。
- 健康診断後の必要な情報提供
- 長時間労働者に対する情報提供を受けた場合の対応
- 従業員を対象としたストレスチェック、高ストレス者に対する面談の実施
- 健康相談、保健指導、職場巡視による情報収集 など
産業医の年収は、専属か嘱託かによっても異なります。企業の社員として雇われる専属産業医の場合、週4〜5回の勤務で勤務医と同程度の年収が見込めますが、依頼された時のみ勤務する嘱託産業医の場合、1回数万円の報酬を受け取る形になります。
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精神科の今後の動向

これから精神科を目指す先生も、すでに現場で活躍されている先生も、今後の精神科の動向は気になるところでしょう。
近年、精神疾患を有する入院患者数は減少傾向にあるものの、気分障害やストレス関連障害によって外来受診する患者数は増加傾向にあります*7。そのため外来診療を主とするクリニックの需要は高まっています。
一方で、とくに都心部でメンタルクリニックが急増し、利益重視型の診療スタイルやチェーン展開の横行が問題視されています。2024年度の診療報酬改定では、クリニックの重要な収益源である「通院・在宅精神療法」(30分未満)の保険点数が下記のように引き下げられました。
- 精神保健指定医による場合:330点→315点(4.5%減)
- 精神保健指定医以外の場合:315点→290点(7.9%減)
出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【重点分野Ⅱ(認知症、精神医療、難病患者に対する医療)】」(令和6年3月5日版)p.16(減少割合は筆者算出)
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001238907.pdf(2025年11月11日閲覧)
このように、現状では開業医の年収は高い傾向にあるものの、競争激化や規制強化、診療報酬改定による減額などさまざまなリスクも増えており、今後の動向に注意が必要です。
精神保健医療福祉の現状等について|厚生労働省(*7)
第4回新たな地域医療構想等に関する検討会|厚生労働省・日本精神科病院協会
令和6年度診療報酬改定の概要 【重点分野Ⅱ(認知症、精神医療、難病患者に対する医療)】|厚生労働省
2026(令和8)年度診療報酬改定では何が変わる?概要・スケジュールを解説【医師向け】
まとめ:やりがいと働き方のバリエーションに富む精神科医
近年、働き方の変化やストレスの増加に伴いメンタルヘルスの不調を訴える人が増加傾向にあり、精神科の需要も高まっています。
精神疾患は、患者さん本人はもちろん、ご家族など周囲の人が感じる苦痛も大きく、ときには心に大きな影を落とすこともあります。しかし、治療によって患者さんが本来の生活を取り戻していく姿には、大きなやりがいや喜びを感じられる診療科でもあります。
精神科は多様な働き方ができ、活躍の場も幅広い診療科です。精神科医としての知見を活かし、さまざまな仕事に就きたいと考える医師にとって、まさに「天職」と言えるかもしれません。



