高齢化に伴い、どの診療科の医師でも高齢者を診察する機会が増えています。高齢者には併存疾患も多く、さまざまな種類の薬を飲んでいるケースが多いです。処方時には飲み合わせによる薬物相互作用や副作用・有害事象を減らす対策などを正しく知っておくことが大切です。
このコラムでは高齢者に対する薬物療法(以下、高齢者薬物療法)における注意点や対策について、内科医である筆者が経験を交えてお話しします。
※筆者個人の見解も含むため、診療にあたっては最新のガイドラインや治療指針、各種薬物の添付文書などをご確認ください。

高齢者薬物療法の特徴
高齢者は薬物(薬剤)による副作用の発現頻度が高く、重症化する場合も多いことがわかっています。入院例では、複数の報告で高齢者の10~16%に薬物有害事象(広義の副作用)を認めることが示されています*1。また、3~6%の高齢者は薬物による副作用が理由で入院しており、入院が長期化する要因にもなっています*1。
副作用は転倒や骨折の原因にもなり得るほか、生活の質(QOL)や日常生活動作(ADL)の低下にもつながる点に注意が必要です。高齢者において副作用が増えやすい要因には、以下のようなものが挙げられます。
- 多剤併用(ポリファーマシー):複数の疾患を有し、科をまたぐ受診も多いため、多剤併用となりやすい
- 長期服用:慢性疾患の罹患により、薬物を長期的に服用することが多い
- 誤投与:非典型的な症候により診断が難しく、薬物の誤投与リスクがある
- 臓器予備能の変化:加齢により薬物血中濃度の上昇などをきたしやすい
- 服薬アドヒアランスの低下:認知機能などの低下により、指示どおりに服用することが難しい
- 症状発現までの時間の変化:症状の発現が遅れ、重症化に至る可能性がある
高齢者の特性をよく理解し、副作用が出現しないよう配慮すること、副作用が出た場合にはすぐに対応することが大切と言えます。
高齢者薬物療法の注意点

ここからは、医師が高齢患者さんの診察の際に注意したいポイントをいくつか紹介します。
1.多剤併用(ポリファーマシー)になっていないか確認する
高齢者は複数の疾患を有していることが多いため(マルチモビディティ)、処方される薬物数が増える傾向があります。やや古いデータになりますが、外来診療における調査で平均4.5種類(2006年報告)*2、レセプトでは70歳で平均6種類以上(2001年報告)*3を服用していたという調査結果があります。
多剤併用は薬の自己負担額が増すだけでなく、QOLの低下や薬物相互作用の増加、服用に関する問題の発生率増加にもつながります。日本老年医学会の『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025』では、入院の場合に6種類以上の薬物併用で有害事象のリスクが上昇するという研究や*4、外来において5種類以上の薬物併用群で転倒の発生率が高いという研究結果をもとに*5、「5~6種類以上を多剤併用の目安と考えることが妥当」*1としています。
なお、多剤併用を背景に、さまざまな有害事象(="害")につながる状態を「ポリファーマシー」(polypharmacy)と定義します。「多剤併用」と「ポリファーマシー」はほぼ同義で使われることもありましたが、"害"をなすかどうかという点で近年区別されるようになりました*6。
高齢者は同時期に複数の診療科を受診している場合も多いため、他科の処方内容も確認し、多剤併用になっていないか確認する心がけが大切でしょう。
マルチモビディティ(多疾患併存)とは?定義やガイドラインの有無、診療のポイントを解説
2.薬物相互作用に注意する
高齢者では、とくにシトクロムP450(CYP)を介した相互作用が問題となることが多いです。CYPは薬物代謝の第Ⅰ相反応にかかわる重要な酵素であり、加齢に伴う肝クリアランスの減少やホルモン分泌の減少などの影響を受けます*7。CYPによって薬物が代謝される際、薬物相互作用によって効果が強まったり弱まったりする可能性があり、注意が必要です。
処方薬だけでなく、一般用医薬品や健康食品、サプリメントなどにも気を付けなくてはいけません。たとえばビタミンKを含む健康食品とワルファリン、カルシウムを含む一般用医薬品と骨粗鬆症治療薬などが、注意すべき併用例として代表的でしょう。問診で市販の薬物やサプリメントを含む服用歴をよく確認し、処方の参考としましょう。
シトクロムP450|日本薬学会
3.定期的に腎機能や肝機能を検査する
先述のとおり、薬物の代謝はおもに肝臓で行われます。加齢による機能低下で薬物代謝が低下すると、薬物の血中濃度が上がりやすくなります。
薬物には肝臓から胆汁中に分泌される胆汁排泄型のものと、腎臓から尿中に排泄される腎排泄型のものがあるため、定期的に腎機能や肝機能を検査しましょう。たとえば、加齢により腎血流が低下していると腎排泄型薬物の血中濃度は上がりやすくなるため、注意が必要です。
4.副作用が出ていないか確認する
先述のとおり、加齢による生理学的な影響で、高齢者では副作用が起こりやすくなります。外来では、薬物による副作用がないかどうか、常に気にかける必要があるでしょう。
長期にわたって服用している薬物でも、代謝や排泄能の変化によって副作用が起こる可能性もあります。たとえば高齢者では投与量が少なくてもβ遮断薬への反応性が高まることや*8、ベンゾジアゼピンのような中枢神経抑制薬の長期投与によって依存性や認知症発症リスクなどが高くなることが報告されています*9,10。
薬の添付文書には、高齢者に投与する際の注意点が記載されていることが多いため、確認すると良いでしょう。
5.身体機能の低下がないか確認する
高齢者は各種身体機能が低下しやすく、医師や薬剤師の指示どおりに薬を服用できないことも多くあります。
たとえば、耳が聞こえづらいと服用方法の理解が難しくなり、内服薬を誤ったタイミングで服用し、期待する効果が出ないことがあります。視力低下や手のふるえによって薬を落としてしまい、処方どおりの用量で内服できない場合もあります。
嚥下機能が低下すると、服用時にむせるような症状が出て、指示どおりに服用しなくなってしまう可能性もあります。
とくに認知機能の低下は、問診だけで気付くことが難しいことも多いでしょう。残薬の確認だけでなく、高齢者総合機能評価(CGA)を活用し、患者さんの状況を総合的に評価することが重要です。
患者さんの生活状況が改善すると、指示どおりに服用できる可能性が高まるため、ご家族やほかの専門職の方々に協力していただくように働きかけることも大切でしょう。
高齢者薬物療法における対策

高齢者薬物療法の注意点をおさえたところで、ここからは副作用や有害事象のリスクを低減するための対策について考えていきましょう。いくつかの対策案を紹介します。
1.服用数を減らす
病状が安定している場合は、2剤を1剤にまとめたり、合剤に変更したりすることで、服用数を減らすことを検討すると良いでしょう。たとえエビデンスがある薬物でも、目の前の患者さんのQOLや年齢、生活環境を考慮し、本当に必要な薬物かを考える必要があります。
薬物の処方に頼らず、生活習慣の改善によって病状を良くすることはできないか、検討する姿勢も大切です。
服用中の薬物を中止する場合は、少しずつ慎重に行う必要があります。急に複数の減薬をすれば、それによって新たな有害事象が生じる可能性もありますし、経過が変化した際に原因薬物を同定しづらくなるためです。
2.剤形を変更する
高齢患者さんにとって、薬物を服用しやすいかどうかを検討することも大切です。患者さんのADLを確認し、適した剤形を選択するようにしましょう。
たとえば、嚥下機能が低下しむせやすい患者さんには口腔内崩壊錠や貼付剤を選択すると、負担を減らすことができるかもしれません。
3.用法を単純化する
「1日3回」の服用を「2回または1回」へ切り替えたり、食前・食直後・食後などの混在を避け用法を単純化することも、患者さんの負担を軽減し、アドヒアランスを良くするために有効です。服用のタイミングを家族や介護者が管理しやすい時間帯にするのも一つの工夫でしょう。
「一包化」も高齢者に対してしばしば採用される処方ですが、一包化したからといって必ず服用してもらえるとも限りません。残薬や、服用に関して困っていることなどを、本人や家族に適宜確認すると良いでしょう。
4.投与量を調整する
薬物の投与量は、腎機能や体重などを考慮して決定します。高齢者の場合は原則として一般成人量の1/3~1/2程度の量から開始し、効果と副作用をチェックしながら経過を見ます*6。
糖尿病治療薬、ジギタリス製剤、抗てんかん薬などの「ハイリスク薬」は、より慎重に投与量を設定することが必要です。詳細は『高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)』*6に掲載されていますので、参考にすると良いでしょう。
5.管理方法を変更する
服薬カレンダーや曜日ごとのピルケースなどをうまく活用し、薬の管理方法を簡便にすることで、アドヒアランスを改善できることがあります。
高齢者薬物療法に関するガイドライン・指針
最後に、高齢者の薬物療法に関して参考にしたいガイドラインや指針を紹介します。
『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン』
日本老年医学会が作成・発行しているガイドラインで、高齢者の薬物療法における有害事象を減らし、安全性を高めることを目的としたものです。2025年7月に、約10年ぶりに改訂されました。
「特に慎重な投与を要する薬物」のリスト(PIMs:potentially inappropriate medications)や、「開始を考慮するべき薬物」のリストなど、具体的に診療に役立つ情報が提示されており、診療科を問わず多くの医師が活用できる内容になっています。
『高齢者の医薬品適正使用の指針』(総論編・各論編)
厚生労働省が作成・発行している指針です。「総論編」と「各論編」があり、高齢者の薬物療法や医薬品提供にかかわる医師、薬剤師、医療・介護従事者が活用できるように作成されています。
まとめ

高齢化に伴い、どの診療科の先生も高齢者を診察し、処方する機会が増えています。高齢者は併存疾患が多いためさまざまな種類の薬物を服用していることが多く、副作用の発現や服薬遵守できているかどうかを確認しながら処方する必要があります。
今回解説したようなポイントが、先生方の診療の一助になれば幸いです。
日本老年医学会 編:高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025.メジカルビュー社,2025(*1)
Suzuki Y,et al.:Multiple consultations and polypharmacy of patients attending geriatric outpatient units of university hospitals.Geriatri Gerontol Int 6(4):244-247,2006(*2)
寳滿誠・松田晋哉:福岡県の某健康保険組合における老人保健制度医療 対象レセプトの解析.外来診療における個人単位分析,多科・重複受診に関するレセプト解析.日本公衆衛生雑誌 48:551-559,2001(*3)
Kojima T,et al.:High risk of adverse drug reactions in elderly patients taking six or more drugs: analysis of inpatient database.Geriatr Gerontol Int 12(4):761-762,2012(*4)
Kai-Uwe Saum,et al.:Is Polypharmacy Associated with Frailty in Older People? Results From the ESTHER Cohort Study.J Am Geriatr Soc 65(2):e27-e32,2017(*5)
高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)|厚生労働省(*6)
谷川原祐介:高齢者の薬物動態―最近の進歩―.日本老年医学会雑誌 40:109-119,2003(*7)
武田汐莉ほか:慢性心不全患者における高齢がβ- blockerの投与量、有効性及び安全性に及ぼす影響に関する調査.日本臨床薬理学会学術総会抄録集 44(0): 3-C-O15-3-,2023(*8)
「アテノロール」医療用医薬品 情報検索結果|医薬品医療機器総合機構(PMDA)
PMDAからの医薬品適正使用のお願い「ベンゾジアゼピン受容体作動薬の依存性について」|医薬品医療機器総合機構(PMDA)(*9)
青島周一:高齢者におけるベンゾジアゼピン系薬剤の適正使用とは何か.アプライド・セラピューティクス 9(2):25-36,2018(*10)



