医師として働いていると、「少し休みたい」と思っても患者さんのことや仕事の穴埋め、同僚への負担などが気になり、なかなか言い出せないものです。責任感の強い先生ほど、体調が思わしくなくても無理をしてしまう傾向にあります。
とくに4月の異動や新体制を経て、長期連休が明ける5月や9~10月ごろは、こうした葛藤を抱える先生も多いのではないでしょうか。無理をして働き続けると、より深刻な状態に陥るケースも少なくありません。
違和感を覚えた際は、治療と回復のための「休職」という選択肢がありますが、職場ごとに就業規則が異なるため、制度の全容がわかりにくいのも事実です。
このコラムでは、医師の休職理由や制度を利用する際の手続き、休職中の手当や保障、回復期の過ごし方をまとめています。「毎朝、病院に向かう足取りが重い...」そんな息苦しさを感じている先生方は、ぜひ最後まで読んでみてください。

執筆者:Dr.SoS
医師の休職が珍しくない理由とは

心理的負担によるメンタル・身体の不調
医師は長時間労働に加え、当直や呼び出しなどの不規則な勤務、診療の責任の重さ、患者さん対応による心理的負担が重なりやすい職業です。このため、メンタルの不調(うつ状態、適応障害、バーンアウト/燃え尽き症候群)や身体の不調により、休職に入るケースは珍しくありません。
無理を続けるほど回復に時間がかかり、医療安全の面でリスクが高まるおそれがあります。休職は「逃げ」ではなく、治療と再発予防のための「現実的な選択肢」と言えるでしょう。
長時間労働医師への健康確保措置に関するマニュアル(改訂版)│厚生労働省
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出産や育児などのライフイベント
心身の不調だけでなく、出産や育児などのライフイベントに際して休職を選択するケースもあります。
病院に勤務する女性医師を対象とした調査によると、1カ月以上仕事を中断(休職)したことがある人は4,905人(47%)でした。その理由の多くを「出産・子育て」が占めており、休職期間が1年未満の層では84%、1~3年未満の層では80%となっています*1。
また、女性医師の数は2014年の6.4万人*2から2024年には8.4万人*3と25%以上増加し、全医師の約4分の1を占めています。医学部入学者の約3分の1が女性*4であることをふまえれば、今後さらに女性医師の割合は高まるでしょう。
とくに女性医師は、医師同士で結婚するケースが少なくありません*5。共働き世帯においては、出産や育児に伴う負担をどちらか一方が担うのではなく、パートナー同士が主体的にキャリアを支え合っていくことが重要になります。
つまり、ライフイベントに伴う休職はもはや特定の個人や性別に特有の問題ではなく、医師という職業全体で向き合うべきテーマと言えるでしょう。
女性医師の勤務環境の現況に関する調査報告書│日本医師会(*1)
平成26(2014)年医師・歯科医師・薬剤師調査の概況│厚生労働省(*2)
令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況│厚生労働省(*3)
令和7年度医学部(医学科)の⼊学者選抜における男⼥別合格率について│文部科学省(*4)
Atsushi Miyawaki:Full-time Work Rates of Physicians With Physician Spouses vs Nonphysician Spouses in Japan.JAMA Netw Open 5(11):e2242143,2022(*5)
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休職までの手続き
ここでは休職に至るまでの手続きや、その過程で生じ得る心理的なハードルについて見ていきましょう。
休職とは職場に籍を残したまま一定期間仕事を休む制度で、期間が終われば復帰することが前提となります。類似する言葉に「休業」がありますが、これは育休や産休、もしくは会社都合による休みの場合に用いられる表現です。
休職に入るまでの一般的な流れは下記のとおりです。
- 職場の制度確認
- 医師の診断書取得(心身の不調の場合)
- 上司や関係部署への相談・必要書類の提出
- 休職開始
まずは、職場の就業規則を確認することから始めましょう。休職には法的な決まりがなく、勤務先によって休職期間の上限や手当の有無が異なります(後述)。
メンタルの不調によって休職する場合は心療内科や精神科を受診し、就業困難である旨の診断書が必要です。こうした書類をそろえ、上司や関係部署への相談を経た上で休職期間に入ることになります。
休職前に無理のない範囲で業務の引き継ぎをしておけると、理想的でしょう。
心理的ハードルの乗り越え方
休職をする上で、手続き以上に課題となるのが心理的なハードルです。たとえば、下記のような点が気になる先生は多いのではないでしょうか。
- 周囲への罪悪感
- キャリアへの不安
- 周囲からの評価
担当患者さんの引き継ぎや当直・外来の穴埋めが発生することに対し、「同僚へ迷惑をかける」「自分だけ休んでいいのか」と、自身を責めてしまうケースは少なくありません。
また、「ブランクで臨床への勘が鈍るのでは」「専門医の取得が遅れたり、更新できなくなったりするのでは」「復職先が限られるのでは」といったキャリアへの懸念も考えられます。
さらに、周囲からどう見られるかという不安も無視できません。メンタル不調を構造的な問題ではなく"個人の資質や根性の問題"とみなす人や、ライフイベントによる休職を否定的にとらえる人が、現在の医療現場に少なからず残っているのも事実でしょう。
心理的ハードルが存在するのは自然なことですが、無理を続けるほど回復が遅れ、結果的に周囲への負担が大きくなる可能性があります。休職は"逃げ"の選択肢ではなく、治療と再発予防のために必要な"過程"と受け入れることが第一歩でしょう。
休職時に知っておきたい手当や保障

休職中は、収入面など"お金"に関する不安も出てくるのではないでしょうか。ここでは、休職中に利用できる公的な保障制度と、注意すべき支出について見ていきましょう。
傷病手当金の受給
まず押さえておきたいのが傷病手当金です。協会けんぽなどの健康保険に加入している場合、業務外の病気やけがで連続3日間休んだ後、4日目以降の働けなかった日に対して支給されます。支給額は標準報酬月額の3分の2に相当する金額で、支給開始日から通算して1年6カ月まで受け取ることができます。
一方で国民健康保険(医師国保を含む)では、傷病手当金の制度がない、または支給額が3分の2より少ないケースが多いため注意が必要です。とくに大学院生やフリーランスの医師はこうした立場になりやすいので、事前に自身の保障内容を確認しておきましょう。
病気休暇や病気休職の取得
自治体病院(地方独立行政法人を含む)などに勤める医師は、公務員に準じた病気休暇や病気休職の制度を利用できるのが一般的です。
まず「病気休暇」を取得することができ、最大90日間は給料の100%が支給されます。その後、休暇期間を超えて療養が必要な場合は「病気休職」に移行となりますが、休職開始から1年間は給料の80%が支払われる仕組みです。休職期間は最大3年となっており、保障が手厚い傾向にあると言えます。
なお、ここまで紹介してきた手当は、基本的に心身の疾患を理由とした休職に適用されるものです。出産や子育て、介護を理由とした休職では対象外となることがあるので注意しましょう。
特定地方独立行政法人の役職員に係る地方公務員法の適用関係│総務省 「地方公務員法等の一部を改正する法律」に関する説明会(2014年6月)
公務員医師の兼業(日医総研リサーチエッセイ No99)│日本医師会総合政策研究機構
一般職の職員の給与に関する法律(昭和二十五年法律第九十五号)│e-Gov 法令検索
住民税や社会保険料の支払い
休職期間でとくに注意が必要なのが、住民税や社会保険料の支払いです。
住民税は前年の所得に応じて決まり、通常は給与から天引き(特別徴収)されています。休職によって給与が減少、あるいは支給されない場合は、自治体から届く納付書で自ら支払う(普通徴収)のが一般的です。
また、社会保険料は産休・育休中とは異なり、休職中も原則免除されません。一方で所得税は、そのときの所得に応じて決定されるため、休職中で無給の場合は発生しません。
安定した収入がない中での支出は心理的にも負担となります。住民税については減免制度や徴収猶予制度を活用できる場合もあるため、不安な際は問い合わせてみましょう。
休職中の過ごし方とブランクからの復職・転職に向けて

ここでは、休職期間中の過ごし方について解説します。出産・育児などのライフイベントによる休業とも共通する部分はありますが、とくに心身の疾患やメンタル不調による休職の場合は、何よりも「治療と回復」が最優先です。ご自身の状況に合わせ、無理のない範囲で参考にしてください。
休職中の過ごし方
休職中は心身の回復を最優先にしましょう。とくにメンタル不調の場合、遅れを取り戻そうと焦って勉強や情報収集を詰め込むほど、回復が遠のくことがあります。
まずは起床・就寝時刻を整えて日光を浴びること、軽い散歩などを取り入れて生活リズムを作ることを心がけましょう。孤立は不安を増幅させるため、負担にならない範囲で同僚や友人と連絡を取り、最低限のつながりを保つのも有効です。
復職が見えてきたら
状態が落ち着き、復職・転職が見えてきたら、無理なく戻るための道筋を考えましょう。ブランクによる知識・手技への不安、復帰先の選択肢、家庭との両立など、直面する課題はさまざまです。
たとえば、育児で休職・離職を経験した医師は、専門医取得が難しくなる傾向も指摘されています。 近年は学会のオンライン開催が増えているため、余裕が出てきた段階で少しずつキャッチアップができると理想的です。
また、いきなり週5日のフルタイムで働くのは現実的ではありません。当直免除や週3~4日など、少ない負担から徐々に慣らしていくのが良いでしょう。職員数の多い病院であれば、復職前に産業医との面談が必要な場合も多いかと思います。
希望条件を整理して優先順位を決め、自分のペースに合った働き方ができる環境を選ぶことが大切です。
医師の勤務実態等について│厚生労働省
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まとめ
責任感の強い医師ほど休職を特別なことと捉え、罪悪感を抱いてしまう傾向にあります。しかし、メンタル不調や身体の病気だけでなく、妊娠・出産や育児などのライフイベントに際して、誰にでも起こり得るのが休職です。無理を続けるのではなく、制度を活用して環境を整えることが大切です。
休職の可否や期間は就業規則によって異なるため、まずは制度を確認して上司や関係部署と相談しましょう。休職中の懸念点となりやすい収入面などの保障も、早めに把握しておくことで、心理的な不安を減らすことができます。
休職期間中は焦らず、生活リズムの維持と治療を優先し、回復に努めましょう。状態が落ち着いてきたら、復職や転職を含めて働き方を見直すタイミングです。休職を経て自分自身を見つめ直すことができれば、その後のキャリアはより望ましいものになるでしょう。
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