「最近、なんとなくやる気がでない」「患者さんへの対応がつらいと感じる」といった違和感を覚えたことはありませんか。こうした症状を単なる疲労とみなして放置するのは危険かもしれません。
多くの医師は真摯に仕事に取り組み、日々の努力を惜しまない傾向にあります。その上、職務は長時間労働になりやすく、不安を抱えた患者さんの心に寄り添う「感情労働」としての側面も持っています。こうした心身への負担から、医師をバーンアウト(燃え尽き症候群)のハイリスク群とする報告があるほか*1、厚生労働省が2022年の文書で公表している文献調査では、過半数の医師がこの状態を経験していると評価されています*2。
このコラムではバーンアウトの概念やセルフチェックの方法、セルフケアや制度を活用した対処法まで詳しく解説します。医師としてのキャリアを持続させるためにも、まずは自分の状態に気付けるようになることが大切です。

執筆者:Dr.SoS
医師のバーンアウト(燃え尽き症候群)とは
バーンアウト(燃え尽き症候群)とは、これまで熱心に仕事に取り組んできた人が、突然意欲や情熱を失ってしまう状態を指します。とくに医師や看護師など、人々の心身に深くかかわる職種で起こりやすいとされているものです。
バーンアウトとうつ病の違い
バーンアウトは国際疾病分類の第11版(ICD-11)でも「職場における慢性的なストレスが原因の結果として生じる症候群」と位置付けられています*3。一方でうつ病や不安障害などの「疾病」は職業上の原因だけでなく、プライベートにおける人間関係や環境の変化などが原因となり得ます。これらは単なる一時的ストレス・疲労とは異なる概念です。
バーンアウトの特徴として、下記の3つが知られています(MBI:Maslach Burnout Inventory,1981)*4,5。
- 情緒的消耗感(emotional exhaustion):情緒的なエネルギーが枯渇し、消耗している状態
- 脱人格化(depersonalization):仕事に対する精神的な距離が生じる状態、または否定的・冷笑的な態度をとる状態
- 個人的達成感(personal accomplishment)の低下:仕事に対する有能感や達成感が低下している状態
https://www.neurology-jp.org/news/pdf/news_20221130_01_01.pdf/ https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2007/01/pdf/054-064.pdf(2026年4月24日閲覧)
これらは職場環境に起因するものであり、本人の意思だけで解決するのは困難です。放置すると抑うつ状態や睡眠障害など心身の不調を引き起こすおそれもあります。
バーンアウトのセルフチェック方法

バーンアウトの特徴は概念的でわかりづらい点もあるかと思います。自身がバーンアウトに陥っていないかの具体的なセルフチェックとして、下記のような変化がないか振り返ってみると良いでしょう。
- 朝、病院に向かう前から強い疲労感がある
- 1日の診療が終わると疲弊しており「やっと終わった」と倒れ込むように感じる
- 患者さんを疾患名や症例として記号的に扱ってしまう
- 周囲の人に対して攻撃的になる
- 良い経過をたどっている、手技がうまくいった、などの小さな成功を喜べない
- 専門医取得や将来のキャリアについて考えると、希望より不安が強い
なお、バーンアウトの測定方法として「MBI-GS(Maslach Burnout Inventory-General Survey)日本版」、「日本版バーンアウト尺度」(Japanese Burnout Scale:JBS)、「日本語版 Burnout Assessment Tool」(BAT-J)などが知られています*4。より詳しく調べたい場合はこれらを参照してください。
ただし、このチェックは医学的な診断に代わるものではありません。該当項目が多い場合は疲労のサインとして捉え、休息の量や質を工夫する、あるいは勤務時間や業務量の調整を上司に相談するなどのきっかけにしてみてください。病院の受診も検討しましょう。
なぜ医師はバーンアウトに陥りやすいのか
研修医を含めた医師のバーンアウト比率は全体の過半数にのぼる*4という報告もあり、医師がバーンアウトに陥る確率は非常に高い水準にあるとされています。
では、なぜ医師はこれほどまでにバーンアウトに陥りやすいのでしょうか。おもな原因として、下記のような点が考えられます。
- 過重労働と長時間勤務による仕事の負担感
- 仕事と家庭の両立による負荷
- 職場の人間関係や組織的要因
各項目について、詳しく見ていきましょう。
過重労働と長時間勤務による負担感
医師は業務量が多く、不規則な勤務体系や当直業務も重なることで、慢性的な長時間労働に陥りやすい職業と言えます。とくに大学病院の勤務医は、ほかの医療機関と比べても多忙な傾向にあるとされています。
また研修医や専攻医といった若手医師においても、かかる労働負担は少なくありません。こうした要因がバーンアウトを引き起こすおそれがあります。
近年は「医師の働き方改革」が進み、時間外労働の規制が始まっています。しかし、現場では「残業削減」のプレッシャーと人手不足が重なり、業務密度の高まりに行き詰まりを感じる例も少なくないでしょう。
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仕事と家庭の両立による負荷
医師としての仕事量や責任が増大する30〜40代は、結婚・出産・育児などのライフイベントが重なる時期でもあります。仕事と家庭の両立に伴うワーク・ライフ・バランスの葛藤も、バーンアウトのリスク要因となり得るでしょう。
たとえば「育児や介護で家庭のストレスが膨大になり仕事に集中できなくなった」「仕事優先で家庭を顧みることができず後悔している」などのケースが考えられます。
職場の人間関係や組織的要因
医療現場は多職種が連携する「チーム医療」の場であるがゆえに、人間関係のストレスはつきものです。指導医や上級医、看護師などコメディカルとの関係性がバーンアウトの一因になることがあります。
また、医局人事により希望と異なる異動を迫られるなど、自身でコントロールできない組織的な要因も心理的負担となり得ます。
このように医師のバーンアウトは個人の意思や性格の問題ではなく、多くが職場環境に起因する構造的な問題によって引き起こされます。決して「本人の弱さ」のせいではなく、誰でも起こり得るものであるという理解が必要です。
実際に欧米の研究では、適切な看護師の配置や臨床環境、チームワークの改善といった働きやすい職場環境を整備することで、医師のバーンアウトと離職意向を低下させるというデータも示されています*6 。
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バーンアウトの予防法と対策

ここではバーンアウトの予防法や、バーンアウトに至ってしまった場合の対処法について見ていきましょう。
バーンアウトの予防・セルフケア
バーンアウトの予防として、まずは「オン・オフの切り替え」を意識しましょう。業務量の増大によりプライベートの時間が圧迫されると、バーンアウトの要因となり得ます。勤務後は速やかに帰宅して仕事と距離を置く、休日は趣味や家族との時間を確保するなど、生活にメリハリをつけることが大切です。
とくに睡眠時間の確保は、心身の健康を保つための優先事項と言えます。勤務時間後にエステやパーソナルトレーニングの予約を入れるなど、あえて私生活に強制力の働く予定を組み込むことも効果的です。
また、仕事の進め方やペースをある程度自分でコントロールできているという感覚(裁量感)を持つことは、仕事への活力を生む「ワーク・エンゲイジメント」の向上に繋がり、バーンアウト予防に有効です。自分の裁量がまったくなく、他者の要求に振り回される状態は、バーンアウトのリスクを高めます。業務の優先度をつけ、仕事を抱え込みすぎないよう「断る選択肢」を持つことも大切です。
たとえば、外来患者数が予約枠の上限を超え、休憩時間を満足にとれない状況であれば、状態の安定している患者さんを近くのクリニックへ逆紹介する、あるいは当日の受付を制限するなどの方法を検討してみましょう。
セルフケアの一環として前述のチェック項目(▶「バーンアウトのセルフチェック方法」)を活用し、自身の心身状態を定期的に振り返る習慣をつけるのも良いでしょう。早めに異常を察知して対応することができます。
バーンアウトの対処法
実際にバーンアウトの状態に至った場合、個人での解決は困難です。まずは休むことを優先し、心身の回復に努めましょう。有給休暇の取得、あるいは思い切って休職することも選択肢の一つです。精神科医やカウンセラーへの相談など、専門的なサポートを受けることもためらわずに行いましょう。
有効な対処策の一つとして、まず検討したいのが、職場環境を調整することです。今の業務内容が明らかな負担となっている場合は、業務量(勤務日数や時間)の削減や当直免除について、上司に相談してみましょう。
現在の職場で調整が難しい場合は、転職も有効な選択肢です。新天地で環境をリセットすることで、心機一転立ち直れたケースも少なくありません。
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まとめ

バーンアウトは仕事上の慢性的なストレスが原因となる「症候群」であり、生活全般の要因が背景にある「うつ病」などの疾病とは異なる概念です。医師は長時間労働に加え、自身だけでコントロールできない職務内容や医局人事といった負荷がかかりやすい職業であることから、バーンアウトを経験する人が多いとされています。バーンアウトは構造的な問題であり、個人の努力だけで防げるものではありません。
予防策にはオン・オフの切り替えによる十分な休息・プライベート時間(趣味など)の確保や、自分で仕事のペースをコントロールできるように心がけることが有効です。もしバーンアウトの状態に陥ってしまった場合は、休職や勤務調節を行って回復を図ることや病院の受診も必要でしょう。
組織の構造的な問題は、個人では解決が難しいものです。Eric Berne氏の「過去と他人は変えられないが、自分自身と未来は変えることができる」という言葉があるように、組織を変えようとするのではなく、自身の仕事への姿勢や働き方、これからの人生について見直すことも大切でしょう。
Tait D. Shanafelt,et al.:Burnout and Satisfaction With Work-Life Balance Among US Physicians Relative to the General US Population.JAMA Internal Medicine 172(18):1377-1385,2012(*1)
長時間労働医師への健康確保措置に関するマニュアル(改訂版)│厚生労働省(*2)
Burn-out an "occupational phenomenon":International Classification of Diseases│World Health Organization(WHO)(*3)
Maslach C,Jackson S E:The Maslach Burnout Inventory.Palo Alto, CA:Consulting Psychologists Press,1981(*4)
Maslach C,Jackson S E:The measurement of experienced burnout.Journal of Occupational Behavior 2(2):99-113,1981(*5)
下畑享良:医療者のバーンアウトの原因と対策を学ぼう|日本神経学会 第1回キャリア形成促進委員会ウェブセミナー(2022年11月)
久保真人:バーンアウト(燃え尽き症候群)―ヒューマンサービス職のストレス.日本労働研究雑誌 558:54-64,2007
Linda H Aiken,et al.:Informing Hospital Physician Well-Being Interventions in Europe and the US.JAMA Netw Open 8(11):e2544067,2025(*6)
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