超高齢社会を迎えた日本では、外来・入院に加えて「在宅医療」が地域医療を支える重要な柱となりつつあります。住み慣れた自宅での療養を希望するケースは増加しており、多くの医療従事者が在宅医療の現場にかかわるようになりました。
一方で、24時間体制が求められる負担や急変時の受け入れ機関との連携、在宅での看取り体制、多職種連携や診療報酬・制度面の課題など、現場には多くのハードルが存在します。
このコラムでは、在宅医療の現状や課題を整理し、地域連携(地域医療連携)の強化や在宅看取りを支える仕組み、ICT活用など、実務に直結するポイントを解説します。これから在宅医療にかかわる人はもちろん、自院の現体制を見直したい先生方にとって有益なものとなれば幸いです。

執筆者:Dr.SoS
在宅医療の現状と重要性

日本の高齢化が進む中、病院やクリニックではなく自宅で診療やケアを受ける「在宅医療」の需要が年々高まっています。在宅医療を受ける患者数は2013年からの10年で約2倍に増え、2023年には100万人を突破しました*1。外来・入院に次ぐ"第3の医療"として、自宅や介護施設といった生活の場で定着し始めています。
背景には、入院期間の短縮に伴い、退院後も治療を継続するケースがあることや、通院が困難な高齢患者さんが増えていることが挙げられます。また、医療機器の小型化といった技術進歩も、在宅医療の推進に寄与しています。
終末期医療・ケアの面でも、在宅医療の役割は重要です。住み慣れた自宅で最期まで過ごしたいと望む人は、52.6%*2にのぼります。しかし現状は約65~70%の人が病院で亡くなっており、自宅で看取られる割合は17%程度に留まっています。近年で最も低かった2005年(12.2%)*3と比較すると増加していますが、需要に十分応えているとは言えない状況です。
現状の「在宅看取り率17%」は先進国の中でも低い水準であり、地域医療の充実や在宅ケア体制の強化が急務とされています。
在宅医療の課題
在宅医療の普及は、患者さんが安心して「自分らしい暮らし」を続けられる利点がある一方で、急変時の対応や家族の負担といった課題も抱えています。
在宅医療の課題は、「地域連携と多職種連携の課題」と「看取り(終末期ケア)の課題」の2つに分けて考えることができます。
地域連携と多職種連携の課題
在宅医療では、患者さんの容体が悪化した際に入院の受け入れができるよう、医療機関同士の連携が重要です。しかし、地域によっては受け入れ体制が十分でない場合もあるでしょう。
とくに退院支援など、病院から在宅に移行する際の情報共有が課題として存在します。連携が不十分だと、「あのクリニックではどこまで在宅で対応してくれるのか」「急変時はどの病院へ搬送すれば良いのか」という判断が曖昧になり、患者さんはもちろん、在宅医と病院の双方にとってストレス源となり得ます。
また、在宅医療では医師・医療機関だけでなく、訪問看護師やケアマネージャー、薬剤師など多職種の連携が重要です。「顔の見える関係づくり」は進んでいますが、ICTを活用したタイムリーな情報共有や自治体の枠を超えた情報共有などは、さらなる課題として挙げられています。
看取り(終末期ケア)の課題
安心して「看取り」が行える体制を構築することも、在宅医療における課題の一つです。
一般的に、在宅では医療機関と比べて医療資源が限られるため、痛みや呼吸困難など終末期症状への対応や専門的な緩和ケア、夜間の対応が難しくなります。
こうした状況は医療機器の小型化や新薬の登場に加え、2006年の診療報酬改定で「在宅療養支援診療所」が新設され、24時間対応を評価する体制が整ったことで改善されつつあります。とはいえ、「自宅で安心して最期を迎えられるだろうか」と患者さんや家族が感じるのは当然のことです。今後起こり得る状況や緊急時の対応について、医師や医療従事者があらかじめ説明しておくことで不安の軽減につながるでしょう。
看取りを行う患者さん家族(介護者)の心理的・身体的負担も問題になります。医師・医療従事者からの丁寧な事前説明や個人の意思を尊重するアドバンス・ケア・プランニング(ACP/人生会議)の推進が、解決に向けた一つの手段となるでしょう。
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在宅医療の課題に対する具体的な解決策

在宅医療の課題に対し、国も具体的な解決策を講じてきました。ここでは、主要な施策について見ていきましょう。
地域包括ケアシステムの活用
地域包括ケアシステムは、住み慣れた地域で自分らしく最期まで暮らせるよう「住まい・医療・介護・予防・生活支援」を一体的に提供できる体制の構築を目指しています。
具体策の一つとして挙げられる「在宅医療・介護連携推進事業」では、入退院支援・日常の療養支援・急変時対応・看取りなどの場面ごとに、医療・介護関係者の連携体制整備や、研修、相談窓口の設置、多職種会議の開催などが求められています。
地域包括ケアシステムとは?医師に求められる役割
ICT連携の強化
多職種連携を支える仕組みとして、ICT(information and communication technology:情報通信技術)の活用が推進されています。
2024年度診療報酬改定では、「在宅医療情報連携加算」が新設されました。これは、ほかの医療機関や訪問看護・ケアの現場から、ICTで記録した診療情報を医師が取得・活用し、その上で計画的な医学管理を行った場合に評価する仕組みです。
そのほか、ICTで「人生の最終段階における医療・ケア」に関する情報共有を評価する「在宅がん患者緊急時医療情報連携指導料」も新しく整備されています。
地域連携の強化
地域連携での課題解決に向けても、動きが見られています。
2024年度の診療報酬改定では、「在宅療養移行加算」の施設基準に「1月に1回程度の定期的なカンファレンス」が追加されたほか、「在宅ターミナルケア加算」が退院時共同指導の実施で算定可能になるなど、要件の変更がありました。いずれも医療機関同士の連携を評価する流れと言えるでしょう。
在宅医療に関する今後の展望
今後の在宅医療を考える上でポイントとなるのが、いわゆる"2040年問題"です。人口のボリュームゾーンである団塊ジュニア世代が65歳以上、団塊世代が85歳以上となることで高齢者人口が増加し、2042年*4ごろにピークを迎えると予想されています。
この結果、在宅医療の需要や死亡者数増加が見込まれており、2040年には死亡者数が165万人*5に達すると推測されています。2015年の死亡者数(129万人*6)と比較すると、25年間で3割近く増加する計算となります。これらすべての患者さんを病院で看取ることは難しく、在宅での看取りを推進することは重要と言えるでしょう。
こうした将来を見据えて2024年末にまとめられた「新たな地域医療構想」でも、「増加する在宅医療の需要への対応」は4大テーマのうちの一つに選ばれています。今後は、人口構造の変化に対応するため地域包括ケアシステムを深化させ、医療・介護を一層連携させることが求められています。
また、デジタルヘルスやICT、AI技術の活用も提唱されています。たとえば、遠隔カメラによる見守りや、ウェアラブルデバイス・在宅センサーを用いて緊急時にアラートを出す仕組みが考えられます。現在、病棟内ではパルスオキシメーターや心電計のアラームがナースステーションに通知されますが、これらを在宅にも展開するイメージです。
こうした仕組みは、人口減少地域で医療サービスの質を保つだけでなく、都市部でも緊急時や利用者の需要に応じて訪問や通所サービスなどと組み合わせた活用も期待できます。
「地域医療構想」とは?概要や策定経緯、2040年に向けた新たな取り組みを解説
デジタルヘルスとは?注目される理由と課題、事例を現役医師が解説
医療AIとは?現場で期待される役割、国の施策や倫理的課題を医師が考察
まとめ

在宅医療は、通院が困難な高齢患者さんに対する医療・ケアをはじめ、「自宅で暮らし続けたい・看取られたい」という需要に応える重要な医療形態です。一方で、地域医療の連携不足、多職種連携の難しさ、看取り体制への不安など、現場が直面する課題も少なくありません。
こうした課題に対しては、国が進める地域包括ケアシステムや在宅医療・介護連携推進事業、ICTを活用した情報共有、ACPを含む事前の方針共有などが重要となります。在宅医療は一つの医療機関で完結できるものではないため、地域の医療機関・訪問看護・介護事業所・行政などと連携し、急変時対応や看取りまでを見据えたネットワークを構築していくことが鍵となるでしょう。
2040年にかけて看取り需要の増加が見込まれる中、在宅医療は今後さらに地域医療の中心的テーマになると考えられます。「自院はどこまで在宅医療にかかわるか」「地域でどのような役割を担うか」を改めて検討し、多職種とともに現実的かつ持続可能な体制を整えることが、これからの医療現場に求められるでしょう。
恩田裕之:在宅医療の課題.レファレンス 888:25-50,2024(*1)
人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査 報告書(令和5年12月)│厚生労働省(*2)
厚生統計要覧(令和6年度)第1編 人口・世帯 第2章 人口動態│厚生労働省│厚生労働省
└第1-25表 死亡数・構成割合,死亡場所×年次別(*3)
かかりつけ医機能ハンドブック2009│東京都医師会
└3章 介護保険制度と医療 7.高齢の入院患者が施設・在宅へ移行するときの問題点
在宅医療・介護連携推進事業の各市町の取組み等について│愛知県公式webサイト(ねっとあいち)
地域包括ケアシステム│厚生労働省
在宅医療・介護連携推進事業の手引き Ver.4(令和7年3月)│厚生労働省
令和6年度診療報酬改定の概要【在宅(在宅医療、訪問看護)】(令和6年3月)│厚生労働省
平成29年版高齢社会白書(全体版)│内閣府(*4)│厚生労働省
└第1章 第1節 1 高齢化の現状と将来像
日本の将来推計人口(令和5年推計)推計結果の概要│厚生労働省(*5)
人口動態調査 人口動態統計 確定数 死亡│e-Stat 政府統計の総合窓口(*6)
2040年に向けたサービス提供体制等のあり方に関するとりまとめ(令和7年7月)│厚生労働省
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