3児のママ医師が教える、女性医師の妊娠・出産・子育てノウハウ<麻酔科医・森田麻里子先生>後編

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インタビュー 著名人

公開日:2023.03.06

3児のママ医師が教える、女性医師の妊娠・出産・子育てノウハウ<麻酔科医・森田麻里子先生>後編

3児のママ医師が教える、女性医師の妊娠・出産・子育てノウハウ<麻酔科医・森田麻里子先生>後編

妊娠・出産といったライフステージの変化に合わせて自分らしいキャリア形成をしたいとお考えの女性医師のために、3人のお子さんの母であり、小児スリープコンサルタント・Child Health laboratory代表の森田麻里子医師に「私らしい働き方」についてお聞きするインタビュー。後編では、子育てと仕事の両立について、ママ医師ならではのノウハウやマインドを語っていただきました。

女性医師が出産する前に、コレはやっておいたほうがいい!ということ

森田先生と赤ちゃん

森田先生は産休に入られる直前までお仕事を続けていらっしゃったそうですが、出産前にやっておいてよかったことはありますか?医師ならではの視点から、妊娠中の女性医師が気をつけておくべき点や工夫などあれば教えていただきたいです。

出産前にやっておいてよかったことは、子どもの預け先の手配ですね。セーフティーネットとしてたくさん確保しました。預け先が一つだけだと、そこに預けられなくなった場合、仕事を休まざるを得なくなると考えたからです。
主な預け先として挙げられるのは、保育園、シッター会社、病児保育など。病児保育は事前登録が必要なところもあるので、早めに確認しておいたほうがいいですね。あと、両親のヘルプが得られるのなら事前に相談しておくといざという時に安心です。

保育園を選ぶ時に気をつけたほうがよいことはありますか?

保育園によって受け入れ対応や方針が異なるので、事前に情報収集をしておくことをおすすめします。ママ友など知り合いから口コミを聞いて、「延長保育が可能か」など、自身の生活に合う保育園を選ぶようにすることが大切です。

シッター会社はどのように探されましたか?

最初はインターネットで検索して探していましたが、次男が生まれた時は自治体から紹介してもらいました。当時住んでいた自治体では、認可保育園に申し込みをしたけれど入園できなかった家庭にはシッター会社を紹介してくれるサービスを実施していて、紹介してもらった中から複数選ぶことができたのです。
シッター会社によって来てくださるシッターさんのタイプは異なります。私が依頼したシッター会社は近所のおばあちゃんみたいなシッターさんがいらして、私はそのフランクな雰囲気がとても気に入りました。
他のシッター会社に依頼する時もあり、これまで5社ほど利用しています。それぞれカラーがありますが、「この会社は全然ダメ」というところはなく、みなさん良い方ばかりで安心して任せることができました。
今はベビーシッターのお試し券が自治体の補助等でもらえることもあるので、お願いしやすいと思います。

先生の場合は、在宅でお仕事をされていることも多いかと思います。シッティング中に様子をうかがうことができ、初めてのシッターさんにも依頼しやすかったのではないでしょうか。

そうですね。シッターサービスを利用するのは、自分の時間をつくるという点ですごくいいですよ。復職前などに試しに利用してみるといいと思います。
私の場合「授乳の時間になったら呼んでください」とシッターさんに伝えて仕事をして、授乳が終わったらまた仕事に戻るというふうに子育てと仕事にメリハリをつけることができました。子どもを預けている間に家を空けるのが心配という場合は、シッターさんに伝えて室内カメラを設置する方法もあります。

それ以外に「しておいて良かったな」と思われた準備などはありますか?

かかりつけの小児科を事前に決めておくといいと思います。近くに1か所しかなければ別ですが、いくつかある場合は相性の良いところを選ぶのがいいですよ。コロナ禍になって痛感したのですが、小児科によって対応が全然違ったりします。例えば、子どもに発熱症状がある場合、事前に検査を実施後診察してくれるところもあれば、診察中に検査を実施してくれるところもあります。
ホームページで見た医療機関の雰囲気と問い合わせた時の対応にギャップを感じることもあるので、複数の小児科がある場合は事前にリサーチして決めるのをおすすめします。診てもらわないことには、病児として預けることもできませんので。

妊娠前・出産前に準備しておくべきものや、あったら便利だったというものなどはありますか?

これは私が乳幼児の夜泣きや睡眠に関するコンサルティングをしている経験からなのですが、事前に赤ちゃんの寝る場所を考えておくことは大事だと思います。

日本だといろいろと選択肢がありますよね。例えば、パパママと一緒に寝るのか寝ないのか。一緒に寝るとしたら一時的なのかそれともずっと続けるのか。また、ベッドなのかお布団なのかとか。赤ちゃんが生まれた直後もそうですが、成長した後に「家族がどうやって寝るのか」をイメージしておくことをおすすめします。

将来的に寝る場所も決めておくといいということですが、決めておくとどんな影響があるのでしょうか?

赤ちゃんとママにとっては、ベビーベッドのほうが良い睡眠がとれるという点でおすすめです。けれども、幼児に成長した後に「一緒に寝たい、それが幸せ」と考える方も結構多いですよね。それはそれで大事なことだと思うので、「一緒に寝る」を選択した場合は、ベビーベッドは途中で卒業するなどの変化が生じます。
ご自身の寝やすさや赤ちゃんの睡眠にとって良いという視点だけではなく、「将来どうしたいのか」ベースでご主人と話し合っておくのが大事だと思います。あらかじめ「いずれベビーベッドを卒業する」と決めたのであれば、買わずにレンタルするといいですよ。

妊娠中、自身のケアはどうしてた?

森田先生の高い高い

妊娠中のご自身のケアはどうされていましたか?

知識として、妊娠中は寝たほうがいいと知っていてもなかなかそうはいかなかったのが現実でした(笑)。
食事も「簡単に食べられるもの」がメインになってしまっていたのであまり参考にならないかもしれませんが、野菜の摂取を日々意識し、ベビーリーフはいつでも使えるようにサラダスピナーのまま冷蔵庫にストックしておきました。つかんで入れるだけで、食卓に緑色のものが入りますよね(笑)。時にはアボカドを入れて豪華なサラダにしていました。

この方法なら、忙しい医師でも簡単にできますね!

医師は知識がある分、きちんとできないと自分を責めてしまうかもしれません。でも、できないことを責めるのではなく、できる範囲でご自身をケアしたほうがいいと思います。

確かにそうですね。産後ケアは何かされていましたか?

これは医師だからというわけではありませんが、次男の産後からずっと骨盤矯正のために整体に通っています。そのおかげかわかりませんが、3人目の産後が一番調子いいですね。

骨盤矯正にたどり着いたのは、どのような経緯からですか?

子どもが通う幼稚園の先輩ママでもある仲良しの小児科の先生に紹介されたのがきっかけです。東洋医学はエビデンスの対極なのですが、先輩ママが「麻里ちゃん、あそこいいわよ」と勧めていただき、試してみたらとても良かったんです。

先輩ママさんの意見って、本当に侮れませんね。

そうですね。高校の同級生の旦那さんが漢方薬局を営んでいて、妊娠中に不調になった時には助けてもらいました。例えば、「頭が痛い」とオンラインで相談すると「じゃあこれとこれを組み合わせて」と漢方薬を送ってくれて。これも、医師ならではのネットワークだと思います。

妊娠中の悩みの一つとして挙がる妊娠線のケアはどうされていましたか?

友人からプレゼントでいただいた妊娠線予防クリームを塗っていました。
実は2人目を出産した時、「今回は妊娠線大丈夫だった」と思っていたのですが、産後1か月くらい経った頃、お尻にできていたことに気がついたんです!
そのきはもう、ショックでした...。3人目の時は、ちゃんとお尻にも妊娠線予防でクリームを塗りましたよ。

後輩ママ医師に伝えたい、妊娠・子育ての悩みとその解消法

森田先生と子供

子育てで「ここは失敗してしまった」「こういうことは気をつけたほうがいいよ」など、後輩ママ医師に伝えたい失敗エピソードはありますか?

子どもには個性があり、成長するスピードは一人ひとり違うのですが、1人目の時はそれがわからず自分の子どもと周りの子どもを比較しがちでした。もしかしたら何か異変があるのかもしれないなど、いろいろと悩み過ぎていたと思います。
周りの友達の子どもがすでにハサミを使っていると聞くと、自分の子どもにハサミを渡してみたり。でも、全く興味を持たない上にうまく使えなくて。それを見て、「周りはできるのに何でうちの子はできないのだろう」と思っていました。
けれども、そこから半年経つと変わります。 興味が出れば、自然にできるようになるんですよね。

イライラしたり悩んだりする必要は全くなかったことが、本当に何度も何度もありました。
例えば、「うちの子は1歳過ぎたけれど、指差しとか全然しない。大丈夫かな」と思ったりすることもありました。そうするとものすごく心配になって、「1歳 指差ししない」とインターネットで検索するわけですよ。でも、そんな風に心配をしなくても気づいたら自然と指差しができるようになるんですよね。その子のタイミングというのがあると信じて、見守ることが理想だと思います。

見極めは難しいですね。成長を見守るママにとっては、半年を長く感じてしまう方もいらっしゃるかもしれません。

そうですよね。特に1人目の半年間は長く感じると思いますが、後から振り返ってみるとあっという間です。「この子にはこの子のハサミを持つタイミングがある」「その時がきたら、自然に指差しするようになる」というように、ある程度余裕を持ったほうが自分の気持ちも楽ですし、子どもに無理やりさせることでもないですからね。環境を整えてあげるのは大事ですが、できるタイミングは親が決めることではないというのを痛感しました。

森田先生は現在乳幼児の夜泣きや睡眠を専門にコンサルティングをされていますが、そのきっかけとして、夜泣きの対処法を探すのに論文を検索してお読みになったと聞きました。例えば、妊娠中に何を食べていいのかわからないといった時には「論文を探したほうが早い!」と考えて、情報を検索されていたのでしょうか?

はい。論理的に理解したい気持ちが強いです。物事には「こうなったらこうなりました」というデータがあって、それを ○だと判断する人、△だと判断する人、☓だと判断する人がいるので本によって書いてあることが違うわけですよね。それを私は自分で判断したいので「元データを見よう」という気持ちになるのです。

「論理的に理解したい」ということなのですね?

そうです。最初の情報を起点としてその物事に対する解釈は人それぞれなので、自分で判断して決める方が納得がいくのでいいと思っています。その判断材料が欲しいのですが、意外と書いていないことが多い。中には「考えたくないけど答えが欲しい」という方もいらっしゃるので、そういう方にはバランスよく考えて答えを出してあげるのも大事だと考えています。

答えが欲しいと考えているママは多いのでしょうね。

みなさん答えが欲しいから迷うのではないかと思います。一般的な答えは本に書いてありますが、その答えは本当に自分が求めている答えとは違いますよね。求める答えは、みんな違いますから。自分で考えた答えだったら迷わないと思うので、答えを出すまでのプロセスは、本当はショートカットすべきではないと思っています。難しいことですけれど。

「誰かの幸せ」は「私の幸せ」?子育てとキャリアを私らしく選ぶために

森田先生

自分で判断したいから論文を読むという森田先生の判断基準の作り方、とても素敵です。何事も「自分で選ぶ」のは大切ですよね。

そうですね。キャリアの話になりますが、医師の中には医局に入り、なんとなくその中で働いて良い関連病院があったら行きたい...と考えたりすることもあるかと思うのです。それが悪いというわけではありませんが、自分の幸せがどこにあるのかと考えることもすごく大事なことではないかと思います。
他人の幸せと自分の幸せは、全く同じというわけではありません。自分の向かっている方向と自分の幸せが本当に一致しているかどうかというのは、転職やキャリアアップをする前にもう一度考えるといいと思います。

型があると真似しやすいので、「これが自分の進む道だ」と思ってしまうのは自然なことですよね。先生の場合は、"自分の幸せ"をどうやって確認されたのでしょうか?

根本的に私は、自分が価値を感じない方向には進まないタイプだと思います。なので、自分の進む道については最初から自分で考えていました。医師の王道を歩もうと思っていなかったから、ということもあるかもしれません。

自分と向き合うことや自分の考えを深掘りするという癖がついていらっしゃるのですね。自分のことを理解しているかどうかは、何か選択をする上で大事なポイントだと思います。

自分のことを理解していないと、多数の意見に影響されてしまうと思います。例えば、入職した医局で活躍したり昇格するのが王道で同じように自分も進んでいくのが幸せ、と思うことがあるかと思います。でも「それって本当にあなたの幸せですか?」と追求すると、「そんなこと、考えたこともなかった」とハッとされる方って意外といますからね。自分のことを理解しているかどうかは、すごく大事だと思います。

森田先生は、現在3人のお子さんのお母様でもあり起業家でもありますが、意思的な面で両立させるために工夫されていることはありますか?

両立の秘訣は、「何事もパーフェクトにするのをやめる」ことかなと思います。
子育て・家事・仕事を全部パーフェクトにこなすというのは無理なので。私の中で優先順位が圧倒的に低いのは家事。 外注か機械に任せるか、もしくはやらないかに分けています。「やる・やらない」を分けることと優先順位を決めることは、すごく大事だと思います。
どれもこれも中途半端だと、落ち込んでしまう人も多いですよね。ですが、中途半端でもいろいろとできているのは素晴らしいことだと思います。なので、「別にやらなくても死なないことはしなくて大丈夫」というくらいの気持ちで、その状態を楽しんでほしいですね。意外と誰もそんなにできていないし、やれていないです。
子どもを4人育てているママ友がいて、かっこいい車に乗っているんですよ。ある日、そのかっこいい車から、パジャマを着たままおにぎりを素手で食べる子どもが出てきました(笑)。そういう光景を見ると、すごく気が楽になります。とりあえずおにぎり食べさせて保育園へ頑張って連れてきたんだなと。それでいいんだ、と思いました。

確かにそうですね(笑)。子育てに答えはないですからね。

あと、誰かにサポートや手助けをしてもらったことに対しては、「ありがとう」と言って基本的に全部受け取るようにしています。してもらうことに対する罪悪感から「すみません」と言う人もいますが、「ありがとう」という気持ちで周りに頼ることも、自分を幸せにするポイントかと思います。

転職を考えている女性医師の中には、出産・子育てはまだこれからで、臨床を極めることと出産・子育ての両立に悩む方も少なくありません。そのような女性医師に対して、森田先生からキャリアと子育ての両立を自分らしく選ぶための考え方やヒントがあればお聞かせいただきたいです。

私も出産する前は、出産によって自分のキャリアが途切れることに対して大きな恐怖心のような焦燥感を抱いていました。「一生懸命医師として頑張ってきたのに、自分は出産で同期の子たちよりも遅れてしまう。不利な立場に立たされてしまうかも」などと、マイナスに考えていたのですが、今は「遅れてもいいや」と思えるようになりました。
子育てをしながら仕事もする場合は100%予定通りにできないかもしれませんが、それは別に全然悪いことではありませんし、後から振り返ると、100%できない時期は数年間程で本当に短い期間なのです。
できないことも「今できないからもうダメだ」というふうに諦めるのではなく、今はその時期ではないというだけで、「タイミングはまた来る」と考え方を変えてしまいます。そこからまた一生懸命やり続けていれば、やがて自分の目標を達成できるはずだと考えていますね。

医師は、自分の仕事に誇りを持ち目標に向かって真面目に取り組む方が多いと思います。なので、出産や子育てによってキャリアが途切れるという恐怖心や罪悪感が、キャリアを築いている一般的な女性よりも強いのかもしれませんね。

キャリアアップまでにかかった時間が5年目と7年目の違いなら「2年も遅れている」と焦るかもしれませんが、長い目で見たときに医師歴が20年目と22年目ではたいして変わらないですよね。
遅れることにフォーカスするよりも、自分の好きな仕事をいかに無理せずに続けていけるかを考えたほうがいいと思います。多少ブランクがあっても、またやり始めればできることはたくさんありますから。何が何でも予定通りにコンプリートしようと頑張りすぎるよりも、無理をしすぎずに長く続けられるやり方をすることが大事かなと思います。

転職を考えている女性医師の中には、相談できる人がいないとか、前例がないなどの理由で行動できないと悩んでいる方も多いと思います。例えば森田先生のように医師から起業家になる道もあるというふうに、いろいろな選択肢があることを知ることがその先に繋がる第一歩かと思うのですが、先生はどうお考えでしょうか?

私もそうだと思います。学生時代に本当にいろんな働き方をしている先生に出会いました。その時の「医師の仕事は臨床だけじゃない。こういうやり方もある」という気づきが、今の私のキャリアに影響していると思います。

最後に、森田先生からキャリアと子育ての両立について悩まれている女性医師へメッセージをいただきたいです。

医師の働き方は十人十色です。多くのモデルケースを知ることで、選択肢が広がると思います。そのためにも、できるだけ多くの人と会ったり、転職支援サービスなどを利用したりして情報を収集し、アンテナを広げてみるのはいかがでしょうか。さらに、そのアンテナを医療業界以外にも広げてみる。そうすれば、自分らしい働き方を見つけるきっかけに繋がるのではないかと思います。

森田麻里子先生の写真

森田麻里子(もりた・まりこ)先生

医師・小児スリープコンサルタント。東京大学医学部医学科を卒業後、麻酔科医としてのキャリアを重ね、2017年に第一子を出産。長男の夜泣きが3日で即寝体質になった経験を元に、2018年、赤ちゃんの健康をサポートする「Child Health Laboratory」を設立。
現在は三児の母として子育てに奮闘しつつ、夜泣きに悩むママに寄り添うカウンセリングや育児支援者・医療従事者向け講座の開催など、起業家として活躍中。
『医者が教える赤ちゃん快眠メソッド』(ダイヤモンド社)、『東大医学部卒ママ医師が伝える科学的に正しい子育て』(光文社新書)、『子育てで眠れないあなたに』(KADOKAWA)などの著作も手掛ける。


▶森田麻里子先生オフィシャルサイト「Child Health Laboratory」

ドクタービジョン編集部

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