都市で働くか、地方で働くかは、今後の人生を決定づける選択になると言っても過言ではありません。地方で働くことには、「給与水準が高い」「患者さまの距離が近く仕事でやりがいを感じやすい」などのメリットがありますが、都市で働く場合と比べて注意しておきたい点もあります。また、地方で働くこと医師を応援する、各自治体の支援制度もあるので調べてみることをおすすめします。あなたの選択を後押しする、独自の制度がある地方自治体も少なくないのです。
この記事では、地方で働くことを検討している医師向けに、都市で働く場合と地方で働く場合のメリット・デメリット、地方で働く場合の支援制度についてご紹介します。

執筆者:Dr.SoS
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都市で働く?地方で働く?それぞれのメリットとデメリット
都市で働く場合のメリット・デメリット
まずは、都市で働く場合を見ていきましょう。
- 生活・教育の利便性
- 症例数が多く専門分野に特化しやすい
- 人口が多いため交友関係を広げやすく、外勤・非常勤の選択肢が多い
- 給与水準は低く生活コストが高い
都市部で生活するメリットは、やはりなんでも揃っていることが挙げられます。学会に参加するにも、子育てをするにも、何をするにおいても便利な環境です。
また、都市は人口が多く、特定の施設に症例が集約する傾向があるため、特定の分野を極めるなど医師としてのキャリアアップが十分に見込める職場がいくつもあります。自分と近い考えや立場で切磋琢磨できる仲間や、ロールモデルとなるような尊敬できる先輩など、多くの人との出会いが期待できる点もメリットでしょう。
ただし、都市部は基本的に医師数が充足の傾向にあり、地方に比べて給与が低いことがデメリットです。家賃や駐車場、保育料などの生活コストは地方と比べると高い傾向にあり、"生活するのにお金はかかるが給与は思ったよりも貰えない"というジレンマがあります。
地方で働く場合のメリット・デメリット
続いて地方で働く場合について考えてみましょう。
- 給与水準が高く生活コストは低い
- 自身の裁量が大きく、特定分野に限らない幅広い臨床経験を積むことができる
- 地域に根ざしたやりがいを実感しやすい
- 生活や教育のレベルが劣る
地方で働く場合、メリットは何よりも給与水準が高いことでしょう。医師数が足りていない地域では、医療機関側が人員を集めるために高い報酬を提示しているところが少なくありません。社宅として住宅を貸与してくれたり、都市に出るための交通費を負担してくれたりするなど、充実した福利厚生が整っている環境も少なくないでしょう。
医師数が少ないということは、一人の医師が行う仕事の範囲が広くなるということでもあります。特定のサブスペシャルティを極めるというよりは、一般的な疾患に対する幅広い対応力を身に着けたいといった目的に叶う環境と言えます。
一方で、デメリットは不便であること。ネット通販の発達などにより物流の差は埋まりつつありますが、教育の機会や文化資本について都心部と地方では依然として大きな差があることが子育て世代にとってはネックでしょう。また病院によっては最先端の研究にいつも触れられるとは限らないため、キャリアアップを目指すには不便と言わざるを得ません。
このように、地方で働くことには、都市で働くことと相反するようなメリットとデメリットが存在します。デメリットを解決する方法として、住居を都心部として勤務先を地方にする(たとえば新幹線通勤を行う)方法や、一時的な単身赴任を行う方法などが考えられます。
若手医師が地方で働くメリット
ここまで都市部と地方に分けて、メリット・デメリットを見てきました。
近年ではCOVID-19流行をきっかけとして、社会全体で地方勤務への関心が高まっています。地方での生活を発信するSNSなどを見て"田舎暮らし"に憧れたことのある若手医師の方も少なくないのではないでしょうか。
ここでは、とくに若手医師が地方で働くメリットについて考えてみましょう。
- 年収・待遇が上がりやすい
- ワークライフバランスの最適化
- 幅広い経験を積むことができ、将来の布石になる
- 仕事でやりがいを感じやすい
医師が相対的に少ない地方で働くことで、都市部と比較して年収や待遇の向上が期待できます。とくに若手医師の場合は、「趣味にお金を使いたい」「結婚式のための資金を貯めたい」「老後資金を貯めるための投資を開始したい」などなにかとお金が必要なケースが多いかと思います。給与水準が高いのに、家賃に代表される生活コストが低い傾向にある地方は、そういったニーズに適しているため職場選びの際に検討するのはいかがでしょうか。
また地方での勤務は、患者数や業務量が都市部に比べて過度に集中しづらく、業務負担が減ったという声が実際に転職した医師からは聞かれています。ストレスのかかる満員電車での通勤がなく、自然豊かな環境で過ごせるなど生活の質が良くなる効果も期待できます。都会での生活に消耗している医師の方にも、地方での勤務はおすすめと言えるでしょう。
こうした、給与事情や働きやすさだけでなく、仕事のやりがいも地方ならではの特徴があります。地方部では医師の数が少ないことにより、特定の臓器に特化した医師よりも総合診療的な幅広い疾患・病態に対応可能な医師が求められる傾向にあります。つまりまだ臨床経験が少ない若手医師が、幅広い疾患に対応して自身のスキルを全体的に磨くのにうってつけの環境とも考えられるわけです。さらに、患者さんとの距離が近く直接感謝される機会も多くあります。日々他者から必要とされていることを感じながら仕事ができるため、やりがいのある充実した人生を送ることができるでしょう。
地方で働く場合の支援制度
地方では、医師不足が非常に深刻なものとなっています。各自治体においては、医師を集めるために独自の支援制度を設けるところもあるほどです。そこで今回は、代表的な支援制度をいくつかご紹介します。
自治体レベルだけではなく、国としても医師偏在を問題視し、地方で働く医師を後押ししています。2024年末にとりまとめられた「新たな地域医療構想」でも医師偏在対策について議論が行われるなど、地方で働く医師にとっては追い風が吹いている状況です。
医学部の学費補助
数多くの地方自治体が用意している制度です。数年間へき地への勤務を条件に、医学部への進学にかかる費用を補助する制度となっています(基本的に賞与の形)。「医師になりたいけれど経済的な理由で困難な人」と「医師数の増加を目指す地方自治体」を上手くマッチングさせる制度と言えるでしょう。
復職支援制度
女性医師は出産や育児のため、キャリアにブランクが空いてしまうことがあります。そのような医師を対象に、保育などのサービスや研修などのプログラムを充実させて、復職を支援している地方自治体も少なくありません。復職に悩んでいる人は、自分の住んでいる地域の役所などに聞いてみると良いでしょう。
海外留学奨学金貸与
より高いスキルを持った医師を定着させるために、海外留学にかかわる資金を援助する地方自治体もあります。留学から帰国後、数年の勤務が必要不可欠になりますが、本来ならば非常に高額な費用の掛かる海外留学を援助してくれるのは魅力的ではないでしょうか。
このように、医師不足を解消しようと、各地方自治体では様々な独自の支援制度を設けています。都市部で働く以外の選択肢を持つことで、QOL向上にも役立つでしょう。一度、地方で働くことを考えてみるのはいかがでしょうか。
自治体ごとの支援制度
キャリアアップする手段の一つに、特定の症例に対する研究を深めて、論文を発表するというものがあります。地方自治体によっては、転入してきた医師に対して、研究にかかわる費用を貸与する制度が存在します。条件を満たすことで費用の返還が免除されることも。キャリアアップを希望する医師におすすめです。
まとめ
今回の記事では医師として働く場合、都市と地方のどちらが良いのかについて見てきました。現状は生活のしやすさなどもあり都市で働く医師の数が多い状況です。しかし地方で働くことは年収のみならず、ワークライフバランスや働きがいの観点からも様々なメリットがあると考えられます。
また地方では医師の数が相対的に不足している傾向にあるため、勤務を希望する場合は当直免除や時短勤務など労働条件交渉が成立しやすいと考えられます。都市部で働いており、満員電車での通勤に疲れてしまった方やプライベートの時間が全く取れない方は、一度地方勤務について検討してみてはいかがでしょうか。
地方は独自の職場事情や転職市場があります。いま都市で働いている場合、なかなかそういった情報にアクセスするのは難しいのではないでしょうか。そうしたときは、地方に拠点があり情報を豊富に持つ医師転職コンサルタントに相談してみるのがおすすめです。地方転職支援の事例や医療機関とのパイプを生かしたリアルな情報などは、地方勤務を考えるときの参考になるでしょう。




