【医療現場でSNSやチャットツールは使えるか】vol.2 中級編 ~届けたいのは生活か?データか?思想か?~

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公開日:2023.08.14

多職種連携時代の医師コミュニケーション術

【医療現場でSNSやチャットツールは使えるか】vol.2 中級編 ~届けたいのは生活か?データか?思想か?~

【医療現場でSNSやチャットツールは使えるか】vol.2 中級編 ~届けたいのは生活か?データか?思想か?~

いまを生きる医師に必要な、医師同士・他職種とのコミュニケーションについてお送りする連載企画。今日は、市原真先生による「医療現場でSNSやチャットツールは使えるか」(全3回)の2回目です。

みなさんこんにちは。市原です。本日は「医療現場でSNSやチャットツールは使えるか」の「中級編」です。

前回のお話をまとめますと、

Facebookは登録しておくと同窓会名簿くらいには役に立つ。ほかのSNSやチャットツールは、医師の業務や勉強会などにはあまり役立たない(メールのほうがマシ)

となります。SNSと医業との相性は良くない、という内容でした。身も蓋もないですね。

一方で、医療業界以外を見渡すと、SNSをうまく業務に活かしている人や、SNSでコミュニケーションを円滑に進めている人がいます。そういった人たちは、なぜ、SNSをうまく使えるのでしょうか?

インフルエンサーとは「生活」をシェアする人

SNSをうまく使っている人と聞いて多くの方が思い浮かべるのは、「インフルエンサー」でしょう。「ああ、バズらせて物を売るやつのことだろ」などと言われたりもする人びとです。

インフルエンサーが実際には何をしていて、何をバズらせているのかを、きちんと説明できる人は少ないように思います。「陽キャだろ」とか「キラキラしたものがウケるんだろ」といった回答は、ちょっとピント外れです。

私の定義を申し上げましょう。インフルエンサーとは、「生活」している姿をシェアすることで商売ができる人のことを言います。その人自身がどう暮らしているかが世間的な価値になっている人のことなのです。

インフルエンサーが技術介入できるポイントは、「見た目を美しくする」(映える写真を撮る)か、「社会が認知するくらい爆発的に成功する」の二点です。

バズるものとは、インフルエンサーと一緒に写真に収まって違和感がないものです。「このアイテムは、インフルエンサーの『生活』になじんでいる」と人びとに思わせるものがウケます。

インフルエンサーはたくさんの人の目を集めますが、実際に集まってくるのは「インフルエンサーのファン」であって、インフルエンサーが取り上げるアイテム・コンテンツのファンではありません。

インフルエンサーが「生活」を世の中にシェアする際、最も役立つアプリが「Instagram」です。写真の解像度が高く、本人の姿と暮らしっぷりをシェアするための機能(「いいね」、ハッシュタグ、ストーリーなど)が充実しているからです。

SNSは「生活」「データ」「思想」をコミュニケートする場所

医師は、医療従事者や患者、一般市民と、「生活」をやりとりしたいわけではありません。

私たちが医業においてやりとりするのは、「データ」と、「お互いの考え」です。お互いの考えとはすなわち広義の「思想」と言ってもいいと思います。

ソーシャルなコミュニケーションの場でやりとりされる、「生活」「データ」「思想」のうち、どれをやりとりしたいかによって、選ぶべきSNSが変わります

先ほど申し上げたように、Instagramは「生活」のシェアにかなり特化しているため、インフルエンサーのニーズにマッチしています。しかし論文などの「データ」の共有や、カンファレンスなどの「思想」のやりとりには向いておらず、医業とは噛み合いません。

では「Facebook」はどうでしょう。こちらも友人同士と「生活」のシェアに用いている方が多くみられますが、じつは自分の職位や活動場所という「データ」を社会に公開できる性質があります。公開プロフィールを置く場所として用いられるために、Instagramよりも医業に応用しやすいツールなのです。

「Twitter(X)」はどうでしょうか。一見、「生活」「データ」「思想」のすべてを扱うことができます。ただしほかのSNSと比べて「思想」が拡散されやすい傾向があります。UIの気軽さ、サーバーの強さ、社会的情報インフラとしての認知度の高さ、検索機能の強さ、ハッシュタグの性能などが複合して機能し、社会が関心のある出来事に対して個人が「思想」をぶつける場として、個性を発揮しています。

最近誕生した「Threads」は、「生活」を文章ベースでシェアすることにかなり向いています。令和5年7月末日時点(執筆時)では、「思想」を置いても拡散されず、「データ」をストックしても探し出せない、もっぱら発信者の「生活」を放流してなごやかな空気を作るSNSとして人気を博しています。まだまだ変化の可能性を秘めているSNSですけれども、現時点ではInstagramと同じで医業やキャリア形成の役には立ちづらいツールです。

このようなアプリごとの特性を考えずに、「医師アカウントが話題だからTwitter(X)を使おう」とか、「新しくて話題性がありそうだからThreadsを始めよう」としても、なかなか良い効果は望めません。

医業のためを思うなら「データ」をシェアすべき、しかし......?

SNSを知らない医師ほど、「学会の宣伝をしたいのでInstagramアカウントを作ってほしい」みたいなことを言います。「Instagramには何億人も人がいるんだから、そこで情報発信すればきっと多くの人の目に留まるよ。なんとかバズらせてね!」みたいなノリで、若い人にワーキンググループを作らせて、「あとはSNS世代でよろしく」と丸投げをするさまが、あちこちの学会で観測されました。

その意気はまあいいんですがやり方がヘタ過ぎます。

Instagramアカウントを作って、学術集会情報やガイドラインの要約などの「データ」だけを載せたところで、プラットフォームの性質にマッチせず、医学生や若い医師には届きません。

医業やキャリア形成のためにSNSを活用しようと思ったら、本来は「データ」を的確なターゲットに届けることができるSNSを選んで力を入れるべきです。しかし、Facebookの名刺機能を除けば、多くのSNSはデータのシェアには不向きです。そこで一工夫が必要となります。

「データ」はいきなりシェアするのではなく、まずストックする

我々の使う「データ」は、いきなりSNS経由でシェアするのではなく、まずストックすることが必要です。閲覧にパスワード制限をかけられるブログを用いて、「データベース」を作りましょう。個人情報に配慮した簡易なケースレポート、抄読会で取りあげる論文のまとめなど、医療従事者同士がシェアしたいものをホームページに格納します。「Google Docs」のドキュメントやスプレッドシートを活用しても良いですが、ログをストックしてあとから検索するには、やはりブログやホームページを一つ作っておいたほうが便利です。

その上で、ストックした「データ」を日常動作の中にフローさせるためにSNSを用います。ここまで用いてきた言葉を使って例えるならば、「データ」や「思想」を「生活」に組み込むという発想です。Facebookグループなどのグループチャットやメッセージツール(Messenger)を用いてコミュニケーションを取りたい相手とゆるく日常的につながることで、ストックしてある「データ」を元に「思想」をやりとりするきっかけが生活の中に増えてきます。

ちなみに、Twitter(X)やInstagramは不特定多数に「生活」をシェアするツールなので、医業の「データ」を流し込むことはそもそもおすすめしません。「Slack」はオタク以外には使いづらいツールです。

SNSという「フロー型のメディア」と、ホームページ・ブログのような「ストック型のメディア」を掛け合わせることで、「データ」を基盤とするコミュニケーションは進化します。近年は、開業医や介護事業者の方などが、「LINE WORKS」のような業務用SNSを用いてコミュニケーションを取っていますが、この場合も一手間を惜しまずにクローズドなホームページを作成して、ファイルの共有やログの保存などに使うことをおすすめします。ストックとフローを併用するのです。

◆◆◆

以上が、私が考える「医業・キャリア形成におけるSNSの活用法」です。ただ......おそらく、読者の方の中には、

「そういう綺麗事はいいんだけどさ、お前(市原/病理医ヤンデル)は結局、TwitterとかThreadsとかめちゃくちゃ楽しそうに使ってるじゃん......?」

と思われる方もいらっしゃるかと思います。

そこで次回、「上級編」として、一般的なSNSの機能から逸脱......飛躍したコミュニケーションで私のキャリアがどう変わったかについて、赤裸々にお話しいたします。

市原 真

執筆者:市原 真

1978年生まれ。2003年北海道大学医学部卒。国立がんセンター中央病院研修後、札幌厚生病院病理診断科(現・主任部長)。博士(医学)。病理専門医、細胞診専門医、臨床検査管理医。日本病理学会社会への情報発信委員会委員、日本デジタルパソロジー研究会広報委員長、日本超音波医学会広報委員・教育委員。病理学・消化器内科学・超音波医学・看護学などの著書多数。一般書も多く手がける。


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