利尿薬は、浮腫や高血圧などに対して使用され、処方される機会の多い薬の一つです。しかし種類が豊富なため、どのように使い分ければ良いか迷ってしまう先生方もいるかもしれません。副作用が気になって処方をためらう場面もあるでしょう。
この記事では利尿薬を使い分ける時のポイントや注意点について、腎臓内科医である筆者が経験を交えてお話しします。
※この記事は、医師向けに利尿薬に関する概要をまとめた読み物コラムです。筆者個人の見解も含むため、診療にあたっては最新のガイドラインや治療指針、各種薬剤の添付文書などをご確認ください。

利尿薬の適応疾患
利尿薬は、体内の過剰な水分を尿として排出させる薬剤です。種類によって作用機序は違うものの、基本的には尿量を増やし、体の中の余分な水分やナトリウムを減らします。
利尿薬の適応となる疾患は幅広く、心不全、末梢血管障害による浮腫、腎性浮腫、肝性浮腫、胸水、腹水、高血圧症などがあります(本稿執筆現在)。
臨床では、患者さんの自覚症状を改善することも重要です。たとえば心不全で胸水がたまり、息苦しさを訴える患者さんに利尿薬を処方すると、症状が改善することがあります。ネフローゼ症候群で足がむくみ、痛くて歩けない患者さんに処方すると、むくみの改善で日常生活を送りやすくなると期待できます。
また、これまでの臨床研究の結果から、利尿薬が患者さんの症状を改善し、再入院を減少させる上で重要な役割を果たすことも明らかになっています*。
主な利尿薬の種類と副作用
利尿薬には、以下のような種類があります。
- ループ利尿薬
- サイアザイド系利尿薬
- カリウム保持性利尿薬
- バソプレシンV2受容体アンタゴニスト
- 炭酸脱水酵素阻害薬
- 浸透圧利尿薬 など
今回は、一般外来で処方されることの多いループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬、カリウム保持性利尿薬と、ほかの利尿薬で効果が得られなかった場合に検討されるバソプレシンV2受容体アンタゴニストについて解説します。
それぞれの作用機序や副作用を理解しておくと、臨床で処方するときも安心です。
1.ループ利尿薬
ループ利尿薬は、浮腫や高血圧の改善のために外来でもよく処方される薬です。尿細管のヘンレループに作用し、ナトリウム(Na+)、カリウム(K+)、クロール(Cl-)の再吸収を抑えることで、尿量を増加させます。腎機能が低下している症例(eGFR 20 mL/分/1.73m2以下)においても利尿効果を得られるという特徴があります。
副作用には、脱水、血圧低下、低K血症、高血糖症、高尿酸血症、脂質異常症、難聴などがあります。
【主なループ利尿薬】
- アゾセミド
- トラセミド
- フロセミド など
2.サイアザイド系利尿薬
少量でも効果を期待できる利尿薬であり、外来で処方することが多い薬剤です。遠位尿細管でNa+とCl-の再吸収を抑えることで、Na+や水分を尿として排泄します。
高度の腎障害症例では腎機能のさらなる悪化を引き起こすおそれがあるため、注意が必要です。
副作用には、脱水、血圧低下、めまい、低K血症、高血糖症、高尿酸血症、脂質異常症などがあります。
【主なサイアザイド系利尿薬】
- トリクロルメチアジド
- ヒドロクロロチアジド など
3.カリウム保持性利尿薬
カリウム保持性利尿薬(K保持性利尿薬)は、遠位尿細管や集合管に対するアルドステロンの作用を抑え、Na+や水分を尿として排泄します。ループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬と異なり、Kを保持するという特徴があります。そのため、ループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬の副作用である「低K血症」を抑える目的で、併用されることがあります。
副作用としては、脱水、血圧低下、めまいや高K血症、女性化乳房、肝機能障害などがあります。女性化乳房は男性でも乳房がふくらんだり、乳首の腫れや痛みが出たりする場合があります。
【主なカリウム保持性利尿薬】
- スピロノラクトン
- カンレノ酸カリウム
- トリアムテレン など
4.バソプレシンV2受容体アンタゴニスト
バソプレシンV2受容体アンタゴニストは、循環器内科や消化器内科、腎臓内科などで処方することのある利尿薬です。ほかの利尿薬と異なり、NaやKに影響を与えず、水分だけを排泄するという特徴があります。
ただし、高Na血症や脱水、肝機能障害などの副作用が起こる可能性があるため、初回投与や再開時は入院での投与が推奨されています。そのため一般外来で処方することはほとんどないと思われますが、ほかの利尿薬で症状が改善しなかった心不全や肝機能障害による浮腫の改善を期待できる比較的新しい利尿薬なので、知識として知っておくと良いでしょう。
【主なバソプレシンV2受容体アンタゴニスト】
- トルバプタン
- モザバプタン など
利尿薬を使い分ける際のポイント
①体液量を評価する
利尿薬を使用する際の大前提として、体液量を評価することが大切です。脱水や尿路閉塞があると、利尿薬で悪化させる可能性があるからです。
まずは脱水や尿路閉塞による尿量低下の可能性を除外し、体重や血圧の変化、浮腫の有無、胸部X線や心エコー画像、BNPなどを評価して、体液量過剰の有無や程度を客観的に診断するようにしましょう。
②腎機能を確認する
利尿薬は、腎機能が低下していると血中濃度が上がりやすくなったり、排泄が遅延したりすることで、副作用が発生する可能性が高くなります。そのため、利尿薬の投与前には必ず腎機能を確認するようにしましょう。
ただし、無尿や急性腎障害の患者さんでない限りは、腎機能が低下しているからといって利尿薬を処方できないわけではありません。具体的には、以下のような処方が可能です。
- 腎機能がeGFR 30 mL/分/1.73m2以上の場合:一般的にサイアザイド系利尿薬を使用
- 重篤な腎機能障害(eGFR 30 mL/分/1.73m2未満)がある場合:まずはループ利尿薬を使用
参考:日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会『高血圧治療ガイドライン2019』
https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019/JSH2019_noprint.pdf(2025年6月10日閲覧)
③少量から使用する
利尿薬は、投与直後に血圧低下や脱水、電解質異常などの副作用が発現することがあるため、少量(または半量)から投与を開始する方が良いとされています。
たとえば、サイアザイド系利尿薬は少量で十分な効果を得られる場合が多く、用量が増えるほど副作用の発現頻度が上昇することがあり、注意が必要です。
④副作用に注意する
先述のとおり、利尿薬の種類によって電解質異常、高尿酸血症、糖代謝異常、腎機能障害、脱水症状、めまいなどの多様な副作用が出ることがあるため、処方直後は外来での定期的な採血を含め、経過観察することが望ましいです。
とくに高齢者では、脱水や低血圧による立ちくらみ、めまいなどで転倒・骨折するリスクがあるため注意が必要です。
⑤併用薬に注意する
高齢者がK保持性利尿薬とアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬またはアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬を併用する場合、もしくは患者さんに腎機能障害がある場合は高K血症の発症リスクを念頭に、K濃度を注意深くモニタリングする必要があります。
⑥専門医に紹介する
浮腫の原因には肝臓疾患、腎臓疾患、心不全など、専門医の診察と治療が必要な疾患がある場合も多いです。症状を改善するために少量の利尿薬を処方し、専門医に紹介することも検討しましょう。
利尿薬を含む異なる種類の降圧薬を3剤組み合わせても血圧が目標値まで下がらないものは、「治療抵抗性高血圧」と定義されています。睡眠時無呼吸症候群や原発性アルドステロン症、腎血管性高血圧などの二次性高血圧の可能性もあるため、速やかに高血圧専門医に紹介しましょう。
【医師向け】降圧薬の種類と使い分けのポイント―腎臓内科医解説
まとめ
浮腫や高血圧は、どの科でも診る機会のあるコモンディジーズです。高齢者や腎機能障害・代謝疾患のある患者さんなどに利尿薬を処方する際は、選ぶべき利尿薬の種類や副作用を考えると煩雑に感じることがあるかもしれません。今回解説したようなポイントが、先生方の診療の一助になれば幸いです。
猪又孝元:利尿薬.日本内科学会雑誌 111(2):235-240,2022(*)
平井健太・柴﨑 俊一:利尿薬.治療 107(4):465-469,2025
日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会 編:高血圧治療ガイドライン2019.ライフサイエンス出版,2019
The 2019 American Geriatrics Society Beers Criteria® Update Expert Panel:American Geriatrics Society 2019 Updated AGS Beers Criteria® for Potentially Inappropriate Medication Use in Older Adults.J Am Geriatr Soc 67(4):674-694,2019
David A. Calhoun,et al.:Resistant Hypertension: Diagnosis, Evaluation, and Treatment.A Scientific Statement From the American Heart Association Professional Education Committee of the Council for High Blood Pressure Research.Hypertension 51(6):1403-1419,2008
各種薬剤 添付文書(医療用医薬品 情報検索|医薬品医療機器総合機構)