病棟管理や日当直をしていて、必ずと言っていいほど出会うのが"高血圧のコール"です。
厳密に言うと"高血圧"は数日間計測しないと診断できないので、このコールは「血圧が高値である」と報告しているに過ぎません。
しかし外科系の先生や若手の先生方にとって、とくに夜間の当直で「180/110 mmHg」という血圧計の数字のみ報告される状況は、「何かしらの指示を出さなければ」という心理的プレッシャーを感じやすいものでしょう。
「とりあえずアムロジピンを1錠投与しましょう」
「不安だからニカルジピンで少し下げようか」
――こうした"とりあえず"の対応で、果たして良いのでしょうか。よく考える必要があります。
近年の知見を紐解くと、この"とりあえず"の対応が患者さんにメリットをもたらすエビデンスは乏しく、むしろリスクになる可能性すら指摘されています。非専門医の先生が明日からの当直で迷わないよう、入院中の高血圧管理について整理してみたいと思います。
※筆者個人の見解を含みます。診療にあたっては最新のガイドラインや治療指針、各種薬剤の添付文書などをご確認ください。

その血圧、「緊急症」ですか?
高血圧を見てまず行うべきは、「高血圧緊急症」(hypertensive emergency)かどうかの判断です。ここを間違えると大変です。
最新の『高血圧管理・治療ガイドライン2025』(日本高血圧学会)でも強調されているとおり、血圧が「180/120 mmHg以上」で、かつ「急性の臓器障害」の証拠がある場合を「緊急症」と呼びます。おもに脳・心・腎・大血管が標的臓器です。
チェックすべきは「血圧の数字」よりも「臓器障害の有無」です。心不全(息切れ)、脳症(意識障害)、脳出血(麻痺)、急性冠症候群(胸痛)、急性腎障害(尿量低下)や尿蛋白などがあるかどうかが重要です。
これらが認められる場合は、迅速な対応が必要になります。バイタルサイン、つまり血圧、心拍数、SPO2、呼吸回数を確認してから、臓器障害を把握するための検査をするかどうか考えます。
いずれかの臓器障害があれば、それに応じた緊急対応を専門家と連携して行う必要があるでしょう。
もし患者さんが無症状(=急性の臓器障害が進行していない)であれば、緊急症ではなく「切迫症」に分類されます。
- 臓器障害あり ▶ 高血圧緊急症
- 臓器障害なし ▶ 高血圧切迫症
どちらも「重症高血圧」ではありますが、用語とあわせて病態をきちんと定義しておきましょう。なぜなら切迫症に対して過剰な対応をしていないかが、日々意識しておくべきポイントだからです。
「あえて下げない」という勇気(watchful waiting)
意外に思われるかもしれませんが、入院中の無症状の重症高血圧に対して、経口薬や静注薬で急いで血圧を下げることを有害とし、推奨しないという意見もあります。
その理由は3つあります。
- 自然に下がることが多い:入院という不慣れな環境や痛み・不安が解消されるだけで、多くは自然に低下します。
- 医原性の低血圧を招き得る:急激な降圧は脳や腎臓への血流を減少させます。血圧を下げた結果、脳梗塞や急性腎障害(AKI)を誘発しては本末転倒です。
- 長期的なメリットがない:入院中の血圧を無理に下げても、長期的な予後が改善したと言えるデータはありません。
こうした考え方は、watchful waiting(WW:待機的観察)とも呼ばれます。以前、別のコラムで「人体の恒常性を信じて、余計なことをし過ぎない」というお話をしました(▶こちら)。血圧にも、体が環境に反応している側面があるのです。
Daniel W. Jones,et al.:2025 AHA/ACC/AANP/AAPA/ABC/ACCP/ACPM/AGS/AMA/ASPC/NMA/PCNA/SGIM Guideline for the Prevention, Detection, Evaluation, and Management of High Blood Pressure in Adults: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Joint Committee on Clinical Practice Guidelines.JACC 86(18),2025
Sarah Gorey,et al.:To Treat or Not to Treat? Watchful Waiting or Oral Antihypertensives for Asymptomatic Inpatient Hypertension.N Engl J Med 393(20):2051-2053,2025
実践!病棟で指示をどう出すか
では、看護師さんから「血圧が高いです!」と言われたらどうするか。具体的な手順を提案します。
STEP 1:正しく測り直す
「5分間の安静」「足を組まない」「腕を心臓の高さに」。こうした基本事項、徹底できていますか?
実はこれ、意外とできていません。たとえば病棟の処置台で腕を下げたまま、あるいは会話をしながら、測っていませんか。
患者さんが不穏で歩き回っているときにすぐに血圧を測ってしまったり、カフのサイズが合っていなかったりするだけでも、血圧の値は跳ね上がります。とくに体格がいい人の場合、カフが相対的に小さいケースはしばしばあります。
安静でない場合は、「一度ゆっくり休んでもらってから測り直して」と指示を出しましょう。
実際に私が予測指示で出すのは下記の内容です。
- 血圧>180/100 mmHgのとき
- 意識障害があるとき ▶ドクターコール(JCSで報告すること)
- 新たに麻痺が出現 ▶ドクターコール(MMTで報告すること)
- SpO2の低下 ▶酸素投与しつつドクターコール(呼吸数もあわせて報告すること)
- 上記にあてはまらないとき ▶安静にして翌朝まで経過観察
要は、血圧の値よりも臓器障害の有無の方が重要です。血圧が179/99 mmHgであっても、上記にあてはまる所見があればコールすべきと、普段からコミュニケーションを取っておきましょう。
STEP 2:原因を考える
血圧を薬でコントロールしようと考える前に、まずは血圧を上げている要因を考えてみましょう。
- 痛み(術後など): 必要なのは降圧薬ではなく「鎮痛薬」です。
- 尿閉: 膀胱がパンパンになっていませんか?その場合、導尿で血圧が劇的に下がることがあります。トイレを済ませてから血圧を測りましょう。
- 不眠・不安: 睡眠環境の調整や睡眠薬の使用を検討するのが先かもしれません。
STEP 3:外来への"手紙"を書く
入院中の降圧治療の目的は「血圧を今すぐ正常化すること」ではありません。「この患者さんは将来的に降圧治療が必要となる候補者だ」と特定し、外来診療へつなぐことです。
退院サマリーに、以下のように一筆書く。これが、患者さんにとって安全で誠実な対応です。
入院中に180/100 mmHgを超える場面が複数ありましたが、無症状のため経過観察しました。外来での精査・フォローをお願いします。
私が医師になりたての頃は、高血圧に対して短時間作用型のカルシウム拮抗薬を投与し、反応性の頻脈で心不全になることが問題になっていました。
私たちはこのような過ちを、二度と繰り返さないことが必要です。
また、当たり前ですが降圧薬が効くまでには、それなりの時間がかかります。1日1回投与で24時間効く薬剤は、ゆっくり効くからこそ長時間効きます。
そのような薬を夜間にわざわざ飲ませることに、私たち医師は疑問を持つ必要があります(さらに言えば、RAA系薬剤は数週間かけて効果を発揮します)。
何もしなくても、あるいは何かをしても、一定の確率でイベントは起こります。残念ですが、これは確率的なもので避けようがありません。
しかし、降圧治療はイベントを長期的に回避するために、じわじわと行うべきものです。極端な"リスク回避思考"で、自分の勤務時間だけ何とかすれば良いと思っている人もなかにはいるかもしれませんが、あまり考えずに治療の選択をすることがないよう、一度立ち止まって考えてみましょう。
【医師向け】「退院サマリー」とは?作成目的や記載必須項目、書き方のコツを紹介
まとめ:数字に振り回されない診療を
私がいつもお伝えしているのは、「数字(データ)の裏にある病態を推測する」ことの大切さです。以前お話しした低ナトリウム血症の例も、輸液管理の考え方も、そして今回扱った入院時高血圧も同じです。
「血圧が高いから下げる」という短絡的な思考を一度止め、「なぜ上がっているのか?」「いま下げるリスクはないか?」とベッドサイドで考えること。これこそが非専門医であっても、あるいは非専門医だからこそできる、患者さんを守るための「一工夫」ではないでしょうか。
降圧薬を処方する前に、一度立ち止まって患者さんの顔を見る。医療者側の都合で寝ている患者さんを起こして降圧薬を飲ませるようなことをしない――そんな診療のお役に立てば幸いです。



