抗菌薬を処方する際は、患者さんの腎機能に応じた投与量・投与間隔の調整が重要です。とくに腎排泄性の高い抗菌薬では、腎機能低下時にもかかわらず通常どおりの量・間隔で投与すると、薬剤が体内に蓄積して副作用のリスクが高まります。一方で、過度な減量は治療効果を損なうおそれがあり、適切な投与設計が必要です。
また、同系統の抗菌薬であっても、投与量を減らすのか、投与間隔を延ばすのか、あるいは薬物血中濃度モニタリング(TDM)を併用すべきかなど、対応が異なる場合があります。
このコラムでは、抗菌薬投与において必要な腎機能評価の考え方や、薬剤ごとの調整の要否について整理・分類し、実務で役立つポイントをわかりやすく解説します。どの抗菌薬で厳密な調整が必要か一目でわかる「腎機能調整マーク」付きの早見表(ダウンロード無料)もご紹介しますので、ぜひお役立てください。

執筆者:Dr.SoS
抗菌薬投与における腎機能評価の重要性
抗菌薬を安全かつ有効に使用する上で、腎機能評価は重要です。腎機能が低下した患者さんに通常どおりの量・間隔で投与すると、薬剤が体内に蓄積し、副作用を招くおそれがあります。
一方で、必要以上の減量は治療効果の低下につながりかねません。
つまり、抗菌薬は「効かせること」と「蓄積させないこと」の両立が重要で、その前提として正確な腎機能評価が求められます。
eGFRとCCrの違い・注意点
腎機能評価のおもな指標には、eGFR(推算糸球体濾過量)とCCr(クレアチニン・クリアランス)があります。
eGFRは血清クレアチニン値・年齢・性別から算出されるもので、日常的な腎機能の把握に広く用いられています。電子カルテで自動計算・表示されるケースも多いでしょう。
これに対してCCrは、一般的にCockcroft-Gault式による推算値が用いられ、薬物投与量を調整する際の指標となる傾向にあります。実際に、医薬品の添付文書や教科書における用量調整基準として記載されるケースも目立ちます。
抗菌薬の投与設計では、カルテに表示されたeGFRを機械的にあてはめるのではなく、「指標がeGFRか、CCrか」を確認することが重要です。
とくに、体重が極端に軽い高齢者や、筋肉量が著しく低下した「サルコペニア」の状態は注意が必要です。血清クレアチニン値が見かけ上低くなり、実際の腎機能よりも高く見積もってしまうことがあります。
このようなケースでは、数値だけでなく患者背景もふまえて解釈することが大切です。必要に応じて24時間蓄尿検査や、筋肉量の影響を受けづらいシスタチンCの測定なども検討しましょう。
日本老年医学会 編:高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025.メジカルビュー社,2025
ココがポイント!押さえておこう腎機能に関する基礎知識(薬剤部 がん薬物療法研修会(腎機能)(2023年12月))│自治医科大学附属さいたま医療センター
腎機能低下時に用量調整が必要な抗菌薬
腎機能低下時には、腎排泄性の高い抗菌薬で投与量・投与間隔の調整が必要になります。調整の要否や基準は薬剤ごとに異なるため、一般論で判断しないことが重要です。実際の投与設計では、添付文書やガイドライン、施設プロトコルを確認しましょう。
調整が必要な代表例として、まずβ-ラクタム系抗菌薬の多くが挙げられます。具体的には、アンピシリン/スルバクタム(ABPC/SBT)やセファゾリン(CEZ)などです。これらは日常診療でも使用頻度が高く、幅広い感染症に用いられるため、腎機能確認をルーチン化しておく意義は大きいでしょう。
また、ニューキノロン系の一部も調整対象です。シプロフロキサシン(CPFX)やレボフロキサシン(LVFX)は外来・入院を問わず多用されています。そのほか、ニューモシスチス肺炎の予防として幅広く使われるST合剤も、注意したい薬剤の一つです。
このように、腎機能低下時に調整が必要な抗菌薬は「特殊な薬」というわけではなく、日常的によく使う薬剤の中にも多く含まれています。
初回投与量の考え方
腎機能が低下した患者さんに抗菌薬を投与する際、初回投与の段階から減量すべきか迷うことがあるでしょう。
一般的に初回投与の目的は、早期に有効な血中濃度へ到達させることです。腎機能低下時は薬物の排泄が遅くなりますが、血中濃度が通常より上昇しやすいわけではないため、初回は有効濃度への到達を優先し、通常量を用いるのが原則です。
実際の調整は2回目以降の維持量や投与間隔で行うことが多く、薬剤によっては治療薬物モニタリング(TDM)をふまえ、腎機能評価とあわせて個別に判断します。
治療薬物モニタリング(TDM)が必要な抗菌薬
治療薬物モニタリング(TDM)とは、血液中の薬物濃度を測定し、個々の代謝・排泄能力に合わせて投与量・投与間隔を調整する手法です。
腎機能低下時に用量調整が必要な抗菌薬の中でも、とくに「有効域」(効果が期待できる血中濃度)と「中毒域」(副作用が出やすくなる血中濃度)の差が狭い薬剤では厳密な管理が求められるため、TDMが推奨されています。TDMは保険収載されており、診療報酬の算定が可能です。
対象となる代表的な抗菌薬には、アミノグリコシド系(ゲンタマイシン、アミカシンなど)と抗MRSA薬(バンコマイシン、テイコプラニンなど)があります。これらの薬剤を処方する際は、腎機能に応じた初期投与設計をするとともに、TDMを活用して適切な投与を継続できるよう調整することが望ましいでしょう。
腎機能低下時に用量調整が原則不要な抗菌薬
腎機能低下時の抗菌薬投与では「減量が必要な薬剤」に目が向きがちですが、用量調整が原則不要な薬剤もあります。これらはおもに肝代謝・胆汁排泄といった腎排泄以外の経路をとるため、腎機能障害がある患者さんにも比較的使いやすいのが特徴です。
ただし、「原則不要」は「何も考慮しなくて良い」という意味ではありません。重症度や感染臓器、有害事象の生じやすさなどをふまえた個別の判断は、引き続き必要です。
セフェム系抗菌薬の多くは腎排泄型ですが、セフトリアキソンはおもに肝臓や胆汁経由で排泄されるため、腎機能低下時でも原則通常量で投与できます。また、皮膚科で尋常性ざ瘡(にきび)の治療に使用されるテトラサイクリン系(ミノサイクリン・ドキシサイクリン)は、いずれも用量調整が不要です。
マクロライド系やニューキノロン系、抗MRSA薬などは、同じ系統内でも調整の要否が異なるため、薬剤ごとに確認するよう注意が必要でしょう。分類は下表のとおりです。
【腎機能低下時の投与量・投与間隔調整の要否】
| 分類 | 調整が必要 | 原則調整不要 |
|---|---|---|
| マクロライド系 | クラリスロマイシン | アジスロマイシン |
| ニューキノロン系 | シプロフロキサシン レボフロキサシン |
モキシフロキサシン |
| 抗MRSA薬 | バンコマイシン テイコプラニン ダプトマイシン |
リネゾリド |
このように、「どの薬を減量するか」だけでなく、「どの薬なら腎機能低下時に比較的使いやすいか」という視点を持っておくと、治療選択の幅が広がるでしょう。
用量調整の要否が一目でわかる「早見表」
腎機能低下時の抗菌薬投与では、薬剤ごとに減量すべきか、間隔を延ばすべきかを判断する必要があります。しかし実臨床では、感染症の診断や培養結果の確認、全身状態の評価と並行して処方を行うため、毎回一から整理するのは容易ではありません。そこで役立つのが、腎機能調整の要否を一目で確認できる早見表です。
ドクタービジョンの『頻用抗菌薬の使い方早見表』では、腎機能障害時に投与量・投与間隔の調整が必要な薬剤に「腎機能調整マーク」が付いています。ペニシリン系、セフェム系、アミノグリコシド系、マクロライド系、抗MRSA薬などが系統ごとに整理されており、腎機能の観点から注意すべき薬剤を視覚的に把握できる構成です。
処方前の見落とし防止や初期対応の効率化にもつながるため、外来・救急・病棟などの限られた時間で抗菌薬を選択する際に活用できるツールと言えるでしょう。医師であれば、以下のページからダウンロードできます。
まとめ
抗菌薬を安全かつ適切に使用するには、感染症の種類や重症度だけでなく、患者さんの腎機能をふまえた投与量・投与間隔の調整が重要です。とくに腎排泄性の高い抗菌薬では、腎機能低下時に通常どおりの量・間隔のまま投与すると、薬剤が体内に蓄積して副作用のリスクが高まります。一方で、必要以上に減量すると十分な治療効果を得られないおそれがあり、有効性と安全性の両面から投与設計を考える必要があります。
このコラムでは、腎機能に応じた調整が必要な薬剤と原則不要な薬剤を整理して紹介しました。「腎機能調整マーク」付き早見表も活用することで、両者を区別しやすくなるでしょう。
もっとも、早見表はあくまで初期判断を助けるためのものです。実際の処方では、感染臓器や重症度、併用薬などもふまえ、最終的には個別に判断する必要があります。早見表を活用しつつ、腎機能を確認してから抗菌薬を選ぶ習慣を身に付けましょう。
青木眞:レジデントのための感染症診療マニュアル 第3版.医学書院,2015
石金正裕 監修:頻用抗菌薬の使い方早見表.ドクタービジョン,2026
各種薬剤 添付文書(医療用医薬品 情報検索|医薬品医療機器総合機構)
※URLは各サイトの利用規約等に従い、一部は許諾を得て掲載しています。





