臨床研修(初期研修)では外科をローテートすることが必修となっており、将来外科医にならない人も4週間の外科研修が必要です。
せっかくローテートするのであれば、有意義な研修になるよう心がけたいものです。この記事では臨床研修における外科ローテの概要、研修の間に身に付けたいスキル、そのために準備しておくと良いことなどを解説します。外科をまわる研修医の先生方は、ぜひ最後までご覧ください。
外科医を目指すための「外科専門研修」。プログラム内容や必要な準備とは

執筆者:Dr.SoS
臨床研修における「外科」とは
臨床研修(初期研修)では、医師としての素養や基礎知識・スキルを身に付けるため、2年間かけてさまざまな診療科をローテートします。中でも以下7つの診療科は「必修科目」とされており、4週以上の研修を受けることが必須となっています。そのうちの1つが「外科」です。
【臨床研修の必修分野】
- 内科(24週以上)
- 外科(4週以上)※
- 小児科(4週以上)※
- 産婦人科(4週以上)※
- 精神科(4週以上)※
- 救急(12週以上)
- 地域医療(4週以上)※
※:8週以上が望ましい。
出典:厚生労働省「医師法第16条の2第1項に規定する臨床研修に関する省令の施行について」(平成30年7月3日付医政発0703第2号通知)別添資料「臨床研修の到達目標、方略及び評価」p.4
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000341137.pdf(2025年5月26日閲覧)
研修内容(プログラム)は病院ごとに独自性を出すことができるため、外科に力を入れている病院などでは、より長い期間を割く研修病院もあります。
外科の診療は、「手術」が中心となります。手術における基本的手技や救急対応能力を身に付けること、そしてチームで手術を実施する経験は、診療科を問わず重要なことです。そのため研修医全員に対して、外科での研修が必修になっていると考えられます。
将来の進路として外科を考えている場合、臨床研修後に外科専攻医となり、同じ病院で外科の専門研修(後期研修)も受けるケースを多く見ます。外科系プログラムとして別の採用枠を設けている病院もあります。
臨床研修病院を選ぶ段階で、「3年目以降も同じ病院に残りたいか」「志望する病院に外科系プログラムがあるかどうか」を考慮できると良いでしょう。
外科医を目指すための「外科専門研修」。プログラム内容や必要な準備とは
外科研修の実際
外科研修で学ぶ内容は、厚生労働省が定める「臨床研修の到達目標、方略及び評価」で、下記のように記載されています。
外科については、一般診療において頻繁に関わる外科的疾患への対応、基本的な外科手技の習得、周術期の全身管理などに対応するために、幅広い外科的疾患に対する診療を行う病棟研修を含むこと。
厚生労働省「医師法第16条の2第1項に規定する臨床研修に関する省令の施行について」(平成30年7月3日付医政発0703第2号通知)別添資料「臨床研修の到達目標、方略及び評価」p.4より引用
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000341137.pdf(2025年5月26日閲覧)
内容をもう少し具体的に見ていきましょう。
外科研修で学ぶ内容
外科研修で学ぶ内容には、下記のような項目が挙げられます。
- 基本手技
- 周術期管理
- 緊急時対応
- 解剖学的知識の理解
- 外科的思考の習得(手術適応の判断、術式の選択)
基本手技
外科的な基本手技は、臨床現場で幅広く役立つスキルとなります。研修を通して、以下のような手技を習得していきます。
- 縫合:単純縫合、連続縫合、真皮縫合 など
- ドレーン管理:ドレーンの挿入・固定・抜去
- 創傷処置:消毒、ガーゼ交換、抜糸 など
- カテーテル管理:尿道カテーテル・中心静脈カテーテルの管理
周術期管理
術前・術後の周術期管理を学ぶことで、手術侵襲によるダメージがどのような過程を経て回復していくかがわかります。
- 術前評価:全身状態評価、リスク管理
- 麻酔管理:麻酔前評価、術後鎮痛
- 合併症予防:血栓症予防、感染予防
- 術後管理:疼痛管理、創傷管理、栄養管理
すべての手術症例が、望ましい経過をたどるわけではありません。術後肺炎を合併してしまったり、縫合不全や創部感染を起こしてしまったりすることもあるでしょう。その際に出現する異常所見を学んでおくと、早期診断・治療につなげることができます。
緊急時対応
外科は救急対応が必要な疾患も多く、適切な判断力と対応力が求められます。こうした能力や経験は、研修中に担当することの多い救急外来当直でも役立つでしょう。
- 急性腹症の診断:虫垂炎、腸閉塞、胆嚢炎 など
- ショックへの対応:出血性ショック・敗血症性ショックの評価と治療 など
研修医が担う当直業務とは?救急外来診療の流れとポイント【現役医師解説】
解剖学的知識の理解
教科書で学んだ解剖学が、実際の人体でどのように成り立っているのか、外科では直接目で見て、手で触れて理解することができます。普段はCTやMRIの画像で解剖を学ぶことが多いと思いますが、自分の目で臓器や血管の状態を確かめることで、より深い理解につながるでしょう。
外科的思考の習得(手術適応の判断、術式の選択)
症状や経過から手術適応を判断するプロセス、術式選択の考え方など、外科特有の臨床推論を学ぶことができます。
1日のスケジュール例
続いて、外科研修中の1日の流れを見ていきましょう。
【病院での外科研修: 1日のスケジュール例】
7:00~8:00 | 回診準備・朝回診 |
---|---|
8:30~12:00 | 手術・病棟業務 |
12:00~13:00 | 昼食・休憩(手術中の場合は交代で取得) |
13:00~17:00 | 手術・病棟業務・外来補助 |
17:00~18:00 | 夕回診 |
18:00~ | カンファレンス・残務 |
上記はあくまで一例で、実際のスケジュールは病院や担当症例によっても大きく変わります。手術の規模によっては、より遅い時間まで立ち会うこともあるでしょうし、時間外の緊急手術が生じる場合もあります。
近年は医師の働き方改革が進んではいますが、外科は大規模な手術も多いため、どうしても長時間勤務になりやすい傾向があります。環境に慣れていない研修医は、同じ時間の勤務でも外科医より負担を感じやすいため、外科のローテート中は自身の体調やメンタルに気を配ることも大切です。
医師法第16条の2第1項に規定する臨床研修に関する省令の施行について(平成30年7月3日付医政発0703第2号)|厚生労働省
▼関連記事はこちら
約3年半ぶりの改訂『医師臨床研修指導ガイドライン』2023年度版の改訂ポイントは?【現役医師解説】
└2023年度の改訂ポイント②:研修医の労務環境の整備
外科研修に臨むための準備
ここからは、研修医が外科研修に臨むにあたって準備しておきたいことを紹介していきます。
書籍や動画で知識を入れておく
できるだけ現場で効率的な学びや経験ができるよう、あらかじめインプットしておける知識は習得しておく方が良いでしょう。
知識をインプットする上で、書籍の活用は有効です。さまざまな書籍がありますが、外科医を目指すわけではない人は、あまり分厚くない、読みやすい本を選ぶと良いでしょう。
個人的におすすめしたいのは以下の書籍です。いずれも外科診療の概要を理解する上で役立つかと思います。
- 『研修医のための見える・わかる外科手術』(畑啓昭 編、羊土社、2015年発行)
- 『研修医のための外科の診かた、動きかた』(山岸文範 著、羊土社、2019年発行)
- 『研修医のための外科の周術期管理ズバリおまかせ!』(森田孝夫・東条尚 編、羊土社、2015年発行)
外科系の書籍に加えて解剖学、とくに腹部・胸部の解剖を復習しておくことも大切です。
近年は書籍だけでなく、動画教材も充実しています。とくに手術に関する学びは、動画を活用するとイメージをつかみやすいでしょう。手術の全体像を把握しておくことで、現場で手術の流れを理解しやすくなります。
手技をシミュレーションしておく
手術中、とくに研修医が任されることの多い手技として、縫合や糸結びがあります。いきなり本番でうまく縫合することは難しいので、空き時間を利用して練習しておくと良いでしょう。研修医室で、空き缶や椅子を使って縫合練習をする場面はよく見られる光景です。
手技の練習用に、簡易的な縫合トレーニングキットや、病院によっては手術シミュレーターが用意されていることもあります。こうした設備が自施設にあれば、利用してみましょう。
ロールモデルを見つける
先述のとおり、将来の進路に外科を選択する人は、臨床研修後も同じ病院に残って専攻医になることが一般的です。
そのため、自院出身で年齢の近い、若手の外科医が在籍していることは多いでしょう。話を聞いてみると、外科に関するさまざまな話を聞くことができ、研修に臨む際の参考になるでしょう。
研修中の心構えを整理しておく
外科研修に限りませんが、研修中は取り組み方も大切です。以下のような点に気を付けることで、指導医からも「あの研修医はやる気があるな」と思われ、積極的な指導をもらえるようになるでしょう。
- 積極的に取り組む:「やらせてください」の一言が、経験値を大きく左右します。
- 観察力を磨く:術野が見えなくても、モニターや術者の手の動きから学べることは多いです。
- 質問する勇気を持つ:「なぜこの術式を選択したのか」など、理解を深める質問をしましょう。
- 患者さんと関わる:術前・術後の患者さんとのコミュニケーションも、重要な学びです。
まとめ
この記事では、臨床研修医の外科研修について見てきました。外科での臨床研修は、医師としての基礎を築く重要な期間です。積極的に手技を学び、術前・術後管理や救急対応の知識を深めることで、外科はもちろん、どの診療科に進んでも役立つスキルを身に付けることができます。事前準備をしっかり行い、充実した外科研修を送りましょう。
この記事が外科研修を理解する一助となれば幸いです。
◆◆◆
【編集部より】ドクタービジョンのお役立ち資料『新人医師のキホン2選 -当直・手術-』は、以下より無料でお申し込みいただけます。外科研修に臨まれる前に、ぜひお役立てください。
【無料PDF】『新人医師のキホン2選 -当直・手術-』お申し込みフォーム
※ご応募いただいた方には、人材紹介サービスにおける各種情報をはじめ、仕事や生活に役立つ医師コラムなどをご提供するため、メールマガジンをお送りさせていただきます。
【注意事項】
●当コンテンツは医師向けの内容となっているため、医師ではない方のお申し込みはご遠慮ください。
●当コンテンツの二次利用やSNSでの拡散、他の方への提供は固く禁止いたします。発覚した場合は厳正に対処させていただきます。