救急においては、意識障害などの患者さん本人やご家族から、その場で必要十分な医療情報を得られないケースが少なくありません。
しかし、2024年12月から導入された「救急時医療情報閲覧機能」では、マイナンバーカード(マイナ保険証)を介して患者さんの受診歴や薬剤情報を確認できるようになりました。安全で迅速な初期診療(初療)につながると期待されています。
このコラムでは、救急時医療情報閲覧機能の具体的な内容をはじめ、同じくマイナ保険証を介して医療情報を取得する「マイナ救急」や「オンライン資格確認」との違い、実際の活用事例などについて解説します。

執筆者:Dr.SoS
救急時医療情報閲覧機能とは
「救急時医療情報閲覧機能」とは、患者さん本人の同意が得られない場合でも、マイナ保険証による本人確認を介してレセプト情報にもとづく医療情報などを閲覧できるシステムです。意識障害などをきたしていても、患者さんの生命と身体の保護に必要であれば、利用することができます。
2024(令和6)年12月9日に運用が開始されました(当初は同年10月に開始予定でしたが、システムの追加開発が必要になったため延期となりました)。
特定の条件下とはいえ、機微な医療情報を本人の同意なく閲覧できることから、救急時医療情報閲覧機能の利用には制限が設けられています。次の段落で詳しく見ていきます。
救急時医療情報閲覧機能の対象
救急時医療情報閲覧機能は、おもに救急患者を受け入れる救急告示病院での運用が前提となっており、診療所や薬局は利用の対象外となります。
また、対象となる医療機関であっても、誰もが閲覧できるわけではありません。救急時医療情報閲覧機能を利用できるのは「救急時閲覧権限」を付与された有資格者(医師、歯科医師、薬剤師、病院の選定者)に制限されています。
個人情報保護の観点もあり、これらの有資格者が利用する場合でも、電子カルテへのアクセスの際に「二要素認証」が必要となっています
https://www.mhlw.go.jp/content/10200000/001243478.pdf(2026年1月14日閲覧)
救急時医療情報閲覧機能で閲覧できる情報
救急時医療情報閲覧機能では、すべての患者情報を閲覧できるわけではなく、下記の情報に限定されています。
- 特定健診情報
- 診療/薬剤情報
- 電子処方箋
- 救急用サマリー
https://www.mhlw.go.jp/content/10200000/001243478.pdf(2026年1月14日閲覧)
上記のうち、救急用サマリー以外の項目は、既存のオンライン資格確認等のシステムでも閲覧可能な情報です。
救急用サマリーは、救急時に有用な情報を絞って表示するもので、とくに時間的制約の厳しい救急外来に適した様式と言えます。
具体的には、下記のような情報に絞って表示されます。受診歴や処方箋情報などが直近の情報に限定されており、閲覧性が高いことがわかります。
【救急用サマリーの項目・期間】
| 項目 | 期間 | 参考:通常表示における期間 |
|---|---|---|
| 受診歴 | 3か月 | 5年 |
| 電子処方箋情報(※1) | 45日 | 100日 |
| 薬剤情報(※2) | 3か月 | 5年 |
| 手術情報 | 5年 | 5年 |
| 診療情報(※2) | 3か月 | 5年 |
| 透析情報 | 3か月 | 5年 |
| 健診情報(※2) | 健診実施日を表示 | 5年 |
※1:電子処方箋情報については、既に電子処方箋管理サービスを導入済みの医療機関等で登録された情報が閲覧可能。(救急用サマリーでは電子処方箋管理サービスに登録された情報のうち調剤情報のみ閲覧可能)
※2:薬剤情報については令和3年9月診療分のレセプト(医科・歯科・調剤・DPC)から抽出した情報、診療情報については令和4年6月以降に提出されたレセプト(医科・歯科・調剤・DPC)から抽出した情報、特定健診情報については令和2年度以降に実施し順次登録された情報が閲覧可能。
https://www.mhlw.go.jp/content/10200000/001243478.pdf(2026年1月14日閲覧)
救急時医療情報閲覧 概要案内【病院の方々へ】(令和7年12月)│厚生労働省
オンライン資格確認について(医療機関・施術所等、システムベンダ向け)
└オンライン資格確認導入に関する資料
救急医療時における「全国で医療情報を確認できる仕組み(Action1)」について│厚生労働省救急時医療情報閲覧に係る運用フロー【病院の方々へ】(2025年4月)│厚生労働省
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「DPC制度」とは?医師向けにわかりやすく解説―対象や診療報酬算定の具体例
マイナ救急・オンライン資格確認との違い

2025年時点の救急時医療情報閲覧機能は、簡単に言えばマイナ保険証を用いて医療情報を閲覧できるシステムです。
しかし、マイナ保険証を活用した医療情報閲覧制度には「マイナ救急」「オンライン資格確認」という2つの類似制度も存在しており、しばしば混同されることがあります。
ここでは、救急時医療情報閲覧機能と2つの類似制度の違いについて見ていきましょう。
救急時医療情報閲覧機能とマイナ救急の違い
マイナ救急は、"救急隊"がマイナ保険証を用いて医療情報を照会し、適切な搬送機関の選定や救急車内での処置に役立てるという取り組みです。マイナ救急は2022(令和4)年度からの実証事業を経て、2025(令和7)年10月1日から全国で運用が開始されています。
従来、救急隊は搬送する患者さん本人や家族への聞き取り、お薬手帳の確認に基づいて、名前・生年月日・かかりつけの病院や内服薬などを把握していました。しかし、手間がかかるうえ、患者さんが応答できなかったり、動揺する家族から十分かつ正確な情報を得ることができなかったりという課題がありました。マイナ救急はこうした課題の解決への寄与が期待できます。
マイナ救急と救急時医療情報閲覧機能の違いをまとめると、下表のとおりです。
双方ともマイナ保険証を使って情報を閲覧する機能ですが、実施場所が病院と救急隊である点がもっとも大きな違いと言えるでしょう。
【救急時医療情報閲覧機能とマイナ救急の違い】
| 制度 | 救急時医療情報閲覧機能 | マイナ救急 |
|---|---|---|
| 概要 | マイナ保険証を用いて通院歴や薬剤歴を正確に確認する※1 | |
| 開始時期 | 2024年12月9日 | 2025年10月1日 |
| 実施場所 | 病院(主に救急告示病院)の救急外来 | 救急隊 |
| 実施者 | 医師など | 救急隊員 |
| 同意 | 患者の生命・身体の保護のために必要な場合は、同意の有無に関わらず実施可能※2 | 口頭同意が必要 |
※2:極力口頭または書面で同意を取得する
(複数資料をもとに筆者作成)
救急時医療情報閲覧機能とオンライン資格確認の違い
オンライン資格確認(オン資)もマイナ保険証を介して医療情報を取得する仕組みです。こちらは、通常の外来受診時の運用が想定されています。
患者さんが専用のカードリーダーにマイナンバーカードを置き、本人確認を行うことで保険資格の確認が可能です。この際、患者さんの同意がある場合に限り、医師などの有資格者が患者さんの薬剤情報や特定健診情報を閲覧することができます。
オンライン資格確認はマイナ保険証を利用した医療情報閲覧制度の中でも最も早期に導入された仕組みです。2021年10月に本格運用が開始され、2023年4月から原則義務化されています。
【救急時医療情報閲覧機能とオンライン資格確認の違い】
| 制度 | 救急時医療情報閲覧機能 | オンライン資格確認 |
|---|---|---|
| 概要 | マイナ保険証を用いて通院歴や薬剤歴を正確に確認する※1 | |
| 開始時期 | 2024年12月9日 | 2021年10月20日 |
| 実施場所 | 病院(主に救急告示病院)の救急外来 | 病院・診療所・薬局 |
| 同意 | 患者の生命・身体の保護のために必要な場合は、同意の有無に関わらず実施可能※2 | 患者同意が必要 |
※2:極力口頭または書面で同意を取得する
(複数資料をもとに筆者作成)
ここまで見てきたように、救急時医療情報閲覧機能は患者さんの機微な医療情報を同意なく取得できる唯一の仕組みです。個人情報保護の観点から厳密な運用が求められるため、先述のとおり閲覧者には電子カルテのアクセス時に二要素認証が課せられます。
あなたの命を守る「マイナ救急」│総務省消防庁
マイナ救急で救急搬送がスムーズに!命を守るマイナ保険証の新しい活用法│政府広報オンライン
健康保険証の資格確認がオンラインで可能となります~オンライン資格確認導入の手引き~│厚生労働省
オンライン資格確認の本格運用が10月にスタート│厚生労働省
オンライン資格確認導入の原則義務化に係る経過措置対象の保険医療機関・薬局向けオンライン資格確認(資格確認限定型)の概要│医療機関等向け総合ポータルサイト
救急時医療情報閲覧に関するよくある質問(FAQ)│医療機関等向け総合ポータルサイト
救急時医療情報閲覧機能導入に向けた準備作業の手引き│厚生労働省
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オンライン資格確認とは?導入義務化の背景や開始に必要な手続きを解説
救急時医療情報閲覧機能の活用事例

ここでは救急時医療情報閲覧機能の臨床における活用事例について見ていきましょう。
救急外来において、救急時医療情報閲覧機能は下記のようなケースで活用が想定されます。
- 抗凝固薬・抗血小板薬の内服歴の把握と、止血戦略の検討
- 薬疹やアナフィラキシーの既往歴の同定
- 透析歴や腎機能の把握
- 重複処方や相互作用リスクの低減
たとえば、抗血栓薬(抗凝固薬・抗血小板薬)の内服歴の把握は非常に重要です。消化管出血や、緊急手術前の出血リスクを評価できるほか、中和・拮抗の適応についての検討も可能になります。
また、直近の内服歴・処方歴を参考にすることで、薬疹やアナフィラキシーにおける被疑薬を同定し、アドレナリン投与などの初期対応をスムーズに進めることにもつながります。
透析治療の有無や、特定健診における腎機能の把握は、造影検査の適応や輸液の選択・薬剤投与量の決定をする上で重要な情報です。
電子処方箋や薬剤情報を把握すれば、同薬効の重複処方や薬剤相互作用リスクをチェックすることも可能です。
このように、救急時医療情報閲覧機能から得られる情報は、救急外来における診断・治療や医療従事者の意思決定を支える有益な情報となります。診療の質の向上に寄与すると言えるでしょう。
救急時医療情報閲覧機能の課題
救急時医療情報閲覧機能は導入から間もないこともあり、以下のような課題もあります。
- マイナ保険証の普及率・利用率の低さ
- 閲覧できる情報の不足
まず、マイナ保険証の普及率が依然として低い点が挙げられます。
救急時医療情報閲覧機能の利用にはマイナ保険証が必須ですが、2025年9月時点での利用率は35.62%にとどまっています。2024年3月の4.99%から上昇しているものの、まだ普及段階と言えるでしょう。
マイナンバーカード自体の保有率は全人口の79.6%、カード保有者のマイナ保険証の登録率は87.4%と上昇傾向にあるものの*1、実際に利用している人は決して多いとは言い難いのが現状です。
将来的に、救急時医療情報閲覧機能は4情報(氏名・住所・生年月日・性別)での検索が可能となる見込みですが、2025年12月時点で開始時期は未定となっています。
また、閲覧できる情報が、実務上は不十分である点も課題に挙げられます。
たとえば、身元不明かつ意識障害のある患者さんが搬送された場合、治療方針説明のため患者さん本人以外への連絡が必要となります。この際に役立つのが"キーパーソン"の緊急時連絡先ですが、現状の仕組みでは、このような情報を閲覧することはできません。
さらに、診断や治療に際して有用であることから退院サマリーにも含まれている6情報(傷病名・アレルギー情報・感染症情報・薬剤禁忌情報・検査情報・処方情報)も、現時点ですべてが閲覧できるわけではありません。6情報については救急用サマリーで閲覧できるように進める動きもありますが、具体的な実装時期は未定となっています。
総じて、救急時医療情報閲覧機能は開始から日の浅い仕組みであり、今後の見直しと改良が期待できると言えるでしょう。
マイナ保険証の利用促進等について│厚生労働省(*1)
救急時医療情報閲覧における利用可能な医療情報の追加について|厚生労働省
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【医師向け】「退院サマリー」とは?作成目的や記載必須項目、書き方のコツを紹介
救急時医療情報閲覧機能と診療報酬の関係
2024(令和6)年度の診療報酬改定では、一部の施設基準を満たすための要件として「救急時医療情報閲覧機能を有していること」が設定されています。具体的には下記の施設基準が該当します。
- 総合入院体制加算 1〜3
- 急性期充実体制加算 1〜2
- 救命救急入院料 1〜4
このような施設基準からは、救急時医療情報閲覧機能の普及を診療報酬制度の面から後押ししようという意図が汲み取れます。
また、医療DXを推進し医療情報を有効活用しようという、厚生労働省の方針とも合致しています。
しかし、改定当時はまだ、救急時医療情報閲覧機能の運用は始まっていませんでした。
そのため救急時医療情報閲覧機能に関する要件は、2025年3月末まで経過措置期間が設けられました。2025年4月以降も上記の加算や入院料を継続して算定するためには、3月末までに救急時医療情報閲覧機能を導入する必要がありました。
令和6年度診療報酬改定について│厚生労働省
個別改定項目について(令和6年2月)│厚生労働省
【厚生労働省からのお知らせ】救急時医療情報閲覧機能の運用開始とご案内│医療機関等向け総合ポータルサイト
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医療DXの現状と展望―「令和ビジョン2030」の概要、進まない理由も考察
まとめ

救急医療において、治療歴や薬剤歴、手術情報などは診断や治療方針の決定に欠かせません。従来は本人・家族からの聞き取りやお薬手帳の確認が基本的な情報収集源でしたが、手間がかかるうえ、必ずしも正確とは限らない点が課題でした。
マイナ保険証を介して必要な情報を迅速に収集できることは、救急時医療情報閲覧機能の大きなメリットと言えるでしょう。
マイナ保険証の利用率が低いことや、現時点ではキーパーソンの緊急時連絡先・既往歴・アレルギー歴といった重要情報が対象に含まれないことなど、実用面では課題も残っていますが、診療報酬上の要件にも盛り込まれるなど、今後のさらなる普及が期待されています。このコラムが、救急時医療情報閲覧機能について理解を深める一助となれば幸いです。



