日本では、医師免許があればどこでも開業できる「自由開業制」が基本です。
しかし、2026年4月から順次施行されている「医療法等の一部を改正する法律」(2025年12月成立・以下、改正医療法)により、都市部などの「外来医師過多区域」で新規開業する場合、いくつかの手続きや制約が導入されることになりました。また、診療所の管理者(院長)についても新たな要件が設定されています。
こうした動向を受けて、「将来開業したいけれども都市部では難しいかもしれない」「自身のキャリアパスをどうすべきか」と悩む医師の方も少なくないのではないでしょうか。
このコラムでは、医師の開業規制が行われるようになった背景と、本稿執筆時点(2026年2月末)で明らかになっている具体的な規制内容についてわかりやすく紹介します。

執筆者:Dr.SoS
医師の開業規制:概要と背景

日本では臨床研修(初期研修)を修了した医師が診療所(クリニック)を開設する場合、"届出制"が採用されています。これは、自治体による許可を必要とせず、届けを出すだけで自由に開業できる仕組みです(ただし、開設者が法人や団体の場合は許可が必要)。
この「自由開業制」に対して一定の規制を設けようという動きが、「開業規制」と呼ばれている施策です。都市部など、すでに多くの医師・医療機関が存在する場所での新規開業に一定の制限を設ける制度となっており、2026年4月から順次施行されています。
2025年12月に成立した改正医療法の中では、以下のように書き加えられました。
【10 外来医師過多区域における都道府県知事の要請等に関する事項(令和8年4月1日施行)】
(3)(2)の指定を受けた区域(以下「外来医師過多区域」という。)において、 診療所(医業を行う場所であって、患者を入院させるための施設を有しないものに限る。)を開設しようとする者は、やむを得ない場合として厚生労働省令で定める場合を除き、当該診療所を開設する日の六月前までに、厚生労働省令で定めるところにより、当該外来医師過多区域における地域外来医療の提供に関する意向その他の厚生労働省令で定める事項を都道府県知事に届け出なければならないものとし、届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、三十万円以下の過料に処するものとする。
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T251218G0030.pdf(2026年4月3日閲覧)
改正医療法の全面的な施行は2027年度ですが、開業規制は先んじて実施されている点に注意が必要です。
なお、病院(20床以上を有する医療機関)の開設は現在でも都道府県知事の"許可"が必要となります。医師による診療所の開設については、開業規制が始まった後も"届出制"の枠組みは維持され、直ちに許可制へ移行するということではありません。あくまで手続きが厳格化される形にとどまります。
背景にある「医師の偏在」
開業規制が導入された背景には、医師や医療機関の地域偏在という課題があります。
「医師が都市部では多く、地方では少ない」状況を医師偏在と呼びます。近年では、この偏在の度合いを可視化するため「医師偏在指標」という数値が活用されるようになりました。これは、各地域の医療需要と医師数を組み合わせて算出される指標で、数値が低いほど「医師が不足している」ことを示します。
具体的な数値で見ると、地域ごとの差は顕著です。都道府県別では、医師偏在指標が最も高い東京都の353.9に対し、最も低い岩手県は182.5と、大きな開きがあります。二次医療圏単位で比較すると、最高値の東京都区中央部の789.8に対し、最低値の岩手県釜石は107.8と*1、さらに大きな差が生じています。
これまでは医師偏在対策として、医学部における地域枠の設置や専攻医の採用数制限(シーリング制度)など、おもに医師養成段階での調整が試みられてきました。しかし、これらの施策だけでは偏在問題の解決には至らず、中堅層以上の医師も対象となる今回の開業規制に踏み切ったものと考えられます。
医師確保対策│厚生労働省
└医師偏在指標(令和6年1月公表版)(*1) 開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査│日本医師会
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開業規制のポイント①「外来医師過多区域」
今回の開業規制で注目されるポイントは、①場所の規制と②人の規制です。それぞれ見ていきましょう。
開業規制における場所の規制は「外来医師過多区域」を中心に実施されます。ここでは外来医師過多区域の定義と具体的な規制内容について確認していきましょう。
外来医師過多区域とは
外来医師過多区域とは、外来需要に対して医師が多く、都道府県知事によって新規開業の抑制が必要と判断された区域のことです。候補区域として、下記の基準が提唱されています。
- 外来医師偏在指標について、「全国平均値+標準偏差の1.5倍」以上 かつ
- 可住地面積あたり診療所数が上位10%
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001653884.pdf(2026年4月3日閲覧)
1つ目の基準(外来医師偏在指標≧「全国平均値+標準偏差の1.5倍」)は偏差値65に該当し、上位7%に相当します。2つ目の基準も満たした上で、2026年1月時点では以下の9カ所の二次医療圏が候補として挙げられています。

https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001653884.pdf(2026年4月3日閲覧)
なお、上記はあくまで「候補」であり、最終的には都道府県知事が判断します。人口あたりの医師数がとくに多い場合などは、より限定的な市区町村単位で指定される場合もあります。
外来医師多数区域との違い
外来医師過多区域と混同しやすい用語として「外来医師多数区域」が存在します。こちらは、外来医師偏在指標の上位33.3%(偏差値54.3相当)に該当する二次医療圏が該当しており、外来医師過多区域よりも多くの地域が含まれます。
開業時に求められる手続きと制約
外来医師過多区域で新規開業する場合は、下記のような制約が発生します。
- 開業予定日の6カ月前までに都道府県知事に届け出る(許可制ではない)
- 「在宅医療の提供」「夜間・休日の救急対応」「医師不足地域での診療」など地域で不足している医療機能への取り組み意向を示す必要がある
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001653884.pdf(2026年4月3日閲覧)
「地域で不足している医療機能」を提供しない場合は都道府県と協議する必要があり、具体的には下記のようなフローが想定されています。
- 医療機能を提供しない理由について説明を求められる
- 理由がやむを得ないと認められない場合、「要請」を受ける
- 「要請」に応じない場合、「勧告」を受ける
- 「勧告」に従わない場合、医療機関名などが公表される
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001653884.pdf(2026年4月3日閲覧)
「要請」に応じない場合は上記の「公表」のほか、補助金の不交付や診療報酬上の対応、保険医療機関の指定に関するペナルティが科される場合もあります。
とくに大きな影響が想定されるのは、保険医療機関の指定期間が短縮される措置(通常6年→3年など)です。一般的に自己資金のみで開業するケースは珍しく、多くの場合で金融機関から融資を受ける必要があります。保険医療機関指定期間が短縮されると安定した収入が見通せなくなり、貸し出し条件が悪化するなど経営への悪影響が懸念されます。
2026年度診療報酬改定との関係
開業規制は基本的に改正医療法によるものですが、診療報酬にも関連しています。
2026年度診療報酬改定では、保険医療機関指定期間の短縮措置を受けた場合、下記の算定や届出ができなくなる方針が示されました。
- 機能強化加算
- 地域包括診療料/地域包括診療加算
- 小児かかりつけ診療料
- 在宅療養支援診療所
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001655176.pdf(2026年4月3日閲覧)
このように外来医師過多区域における新規開業では、通常と比べて追加の手続きが必要となります。要請への対応状況によっては保険医療機関指定期間の短縮や、一部診療報酬が算定できなくなるなど、実務上の影響も生じ得るため注意が必要です。
開業規制のポイント②「管理者要件」

外来医師過多区域での新規開業の規制とともに注目したいのが、健康保険法の一部改正による保険医療機関の「管理者要件」です。
従来、管理者(院長)になるためには医師免許の取得と臨床研修の修了が条件でした。しかし、2026年4月からは下記の条件が追加されています。
【2 保険医療機関の管理者に関する事項(令和8年4月1日施行)】
(1)保険医療機関の管理者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する者でなければならないものとする。(第七十条の二第一項関係)
イ 保険医であること。
ロ 医師法の規定による臨床研修の修了後に保険医療機関(病院に限る。)において保険医として三年以上診療に従事した経験又は歯科医師法の規定による臨床研修の修了後に保険医療機関において保険医として三年以上診療に従事した経験その他の厚生労働省令で定める要件を備える者であること。
(以下略)
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T251218G0030.pdf(2026年4月3日閲覧)
この改正により、これまでは臨床研修修了後、すぐに開業すること(直開)が可能でしたが、今後は少なくとも臨床研修を含む5年間、病院で勤務する必要があります。従来の2年と比較すると、院長になるまでに倍以上の期間を要することになりました。
なお、改正には経過措置があるため、すでに開業している院長が職を失うことはありません。
自由診療(美容医療)を選択する医師への影響
管理者要件の変更に伴い、注視すべきなのが自由診療に携わる医師への影響です。
近年、臨床研修後に専門研修(専攻医)を経ず、直接美容医療の道へ進む「直美」(ちょくび)を選択する医師が増えていると指摘されています。こうしたキャリアパスの場合、比較的早い段階で大手グループの分院長に就任するケースや、独立開業を果たすケースが多く見られます。
しかし、2026年4月より管理者要件が適用されたことで、直美のキャリアパスでは診療所の院長に就任することができなくなりました。もっとも、今回の規制は「保険医療機関の管理者」に関するものであり、自由診療のみの経営には影響しないという見方も可能です。
とはいえ、近年の自由診療領域の競争は激しくなっています。実際にこれまで自由診療領域を中心に展開してきたグループ企業が、2025年に保険診療と自由診療を組み合わせた新業態の展開を開始したこともニュースになりました。業界全体として自由診療のみでの経営ではなく、自由診療と保険診療を組み合わせた経営を模索している過程とも捉えられます。
このような環境下で、今後自由診療に特化したキャリアを歩むリスクは高くなると思われます。将来的なリスク管理の観点からは、臨床研修後すぐに美容医療へ進むのではなく、3年間は病院で勤務する(≒専攻医となる)選択を取るほうが、より盤石なキャリア形成につながると言えるでしょう。
今からできる開業規制への有効な対策とは
ここでは、今回の開業規制に関して具体的にどのような対策が取れるのかを見ていきましょう。
開業希望地の調査・検討
まずは、自身が開業を検討しているエリアが外来医師過多区域に該当するかどうかを調査することが大切です。
外来医師過多区域は、基本的に二次医療圏ごとに決定されます。各エリアの境界近くで探してみることで、「理想とする開業地に近く、かつ開業規制の対象外」となる穴場を見つけられる可能性もあります。
また、今回の改正では規制面が強調されがちですが、医療機関が少ない「重点医師偏在対策支援区域」に対しては、開業支援が強化されています。たとえば、診療所の新規開業や承継に対し、補助金の増額といった経済的インセンティブが付与される予定です。
競争が激しい場所での開業は避け、支援を活用しながら地方での開業を検討することも選択肢の一つでしょう。
事業承継の選択
今回の開業規制は新規開業を対象とするため、すでに地域に根付いている既存の診療所を引き継ぐ「承継」(M&A)は有力な選択肢の一つとなるでしょう。
外来医師過多区域において参入しにくくなることは、既存の診療所の希少価値や市場優位性が相対的に高まることを意味します。「すでに外来医師過多区域で開業しているものの、後継者がおらず困っている」という先生方にとっては、開業規制が始まったことで診療所の譲渡価格が上昇する可能性があります。
開業したい先生方にとっても、既存の資産を活用できる承継(M&A)は開業規制の影響を受けにくいため、より注目されていくのではないでしょうか。
夜間診療・在宅医療の提供
開業規制によって、外来医師過多区域での開業ができなくなるわけではありません。開業前の届出は必要ですが、地域で求められる医療機能をしっかりと提供できれば、開業自体は可能です。
たとえば、以下のような医療はどの地域でも、需要が高いと言えます。
- 在宅医療
- 夜間・休日診療(救急対応など)
- 小児医療
開業する地域の医療需要を把握し、自身の専門性や強みを活かして貢献することは、開業規制に対する"正攻法"の対策です。地域で必要とされる医療を提供できる医師にとって、開業規制はむしろプラスに働く可能性もあると言えるでしょう。
まとめ

2026年4月以降、都市部などの外来医師過多区域で新規開業する場合は、開業6カ月前までの届出や地域医療への取り組みが求められるようになりました。要請に応じない場合は勧告や公表だけでなく、保険医療機関の指定期間が短縮されるなどのペナルティが想定されており、実効性の高い仕組みと言えます。
また、保険医療機関の管理者要件として3年以上の病院勤務が必要となることも、医師のキャリア設計の上で重要な変更点です。
今後開業を検討している先生方は、まず希望エリアが対象区域であるかどうかを確認することが大切です。そのうえで、開業規制によって市場優位性が高まる既存診療所の承継や、支援が期待できる地方開業などの選択肢にも目を向けてみてはいかがでしょうか。
このコラムが開業規制の全体像を把握する一助になれば幸いです。
医師偏在対策について│厚生労働省
医師確保計画の見直し等について│厚生労働省
「医療法等の一部を改正する法律」の公布及び一部施行について(通知)(令和7年12月12日医政発1212第2号ほか)│厚生労働省
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