近年、"禁煙治療アプリ"や"高血圧管理アプリ"など、ソフトウェアやアプリケーションそのものが「医療機器」として承認されるケースが増えてきました。
背景には慢性疾患の増加や、データヘルス・DX政策の加速などがありますが、種類や数が増える中、「プログラム医療機器」、「医療機器プログラム」(SaMD)、「デジタルセラピューティクス」(DTx)といった類義語が複数存在し、定義の違いや診療報酬上の扱いなどがわかりにくいのではないでしょうか。
このコラムでは、「医療機器プログラム」(SaMD)をメインに、医師・医療機関向けに基本的な概念と周辺情報を紹介します。プログラム医療機器・DTxとの違いや診療報酬との関係、導入時に押さえておきたいポイントを整理しましょう。

執筆者:Dr.SoS
医療機器プログラム(SaMD)とは
医療機器プログラム(SaMD:Software as a Medical Device)は、薬機法のもとで医療機器として扱われるソフトウェアやアプリケーション(アプリ)を指す用語です。具体的には、下記のように定義されています。
医療機器としての目的性を有しており、かつ、意図したとおりに機能しない場合に患者(又は使用者)の生命及び健康に影響を与えるおそれがあるプログラム(ソフトウェア機能)(人の生命及び健康に影響を与えるおそれがほとんどないもの(一般医療機器(クラスⅠ医療機器)に相当するもの)を除く。)
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001082227.pdf(2026年1月19日閲覧)
定義が示すとおり、患者さんの生命や健康にかかわることから、医療機器プログラムと認められるためには、厚生労働省から適切な承認を受ける必要があります。
身近な具体例として、「Apple Watch」(Apple Inc.) の心電図機能が挙げられます。米国ではFDA承認を経てseries 4(2018年発売)から使用できましたが、日本では2021年まで利用できませんでした。ハードウェアが同じでも、承認によって使用可否が分かれることを示す事例と言えるでしょう。
一方で、歩数計・カロリー計算・睡眠記録など、健康に関する情報を取り扱う多くのアプリは医療機器に該当しないため、医療機器プログラムとはなりません(後述)。
医療機器プログラムの具体例

医療機器プログラムには、下記のような種類があります。
- 入力情報を元に、疾病候補、疾病リスクを表示するプログラム
- 医療機器等で得られたデータ(画像を含む)を加工・処理し、診断又は治療に用いるための指標、画像、グラフ等を作成するプログラム
- 治療計画・方法の決定を支援するためのプログラム(シミュレーションを含む)
- 医療機器の制御を行うプログラム、又は、医療機器データの分析を行うことを目的として、医療機器に接続して医療機器の機能を拡張するプログラム
- 疾病の治療・予防等のために、患者又は健康な人が使用するプログラム(行動変容を伴うプログラムなど)
- 汎用機器(汎用コンピュータ、汎用センサ等)又は有体物の医療機器とセットで使用し、医療機器としての機能を発揮させるプログラム(有体物の医療機器と不可分であるプログラムについては、当該有体物の医療機器と一体の製品として判断される)
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001082229.pdf(2026年1月19日閲覧)
まず1の例として、入力された発疹の写真や症状に関する情報を解析し、悪性の可能性があるかを表示するプログラムが挙げられます。あるいは、バイタルデータの解析結果から心房細動の徴候を使用者に通知して受診を促すプログラムなども該当します。
2の例としては、内視鏡画像やCT撮影で得られた検査データから、悪性腫瘍が疑われる候補位置を表示するプログラムが考えられます。
3の例には、CT撮影などで得られたデータを用いて、整形外科手術の術前計画を作成するためのプログラムや、ナビゲーション支援下手術のために用いられるプログラムが挙げられます。
5の例には、うつ病や社交不安障害などの精神疾患に対し、認知行動療法にもとづく治療や再発防止を目的としたプログラムがあります。患者さんの行動変容に重要な生活習慣にも、より効果的に介入できるプログラムと言えるでしょう。
医療機器プログラムに該当しない例
一方で、健康を管理するすべてのアプリが医療機器プログラムに該当するわけではありません。
たとえば、個人利用を目的とし、体重や歩数、お薬手帳の情報などを記録・表示・保管・転送するにとどまる(加工・処理は行わない)プログラムは医療機器に該当しません。
また、健康の維持や増進に向けたアドバイスをするプログラムであっても、利用者個別の状態にもとづくものではなく、一般論としての情報提供(「体調が悪い場合には医療機関を受診してください」など)にとどまるプログラムは、医療機器に該当しないと判断されます。
プログラムが医療機器に該当するかどうかは『プログラムの医療機器該当性に関するガイドライン』や『医療のプログラム開発のきほん』で詳細に記載されており、相談窓口も存在します。判断に迷う場合は、これらの情報源を参照しましょう。
プログラムの医療機器該当性に関するガイドライン(令和5年3月31日 一部改正)│厚生労働省
医療のプログラム開発のきほん│医療機器センター
SaMD一元的相談窓口(医療機器プログラム総合相談)│医薬品医療機器総合機構(PMDA)
医療機器プログラムとプログラム医療機器の違い
ここまで見てきた医療機器プログラムと似た用語として「プログラム医療機器」という名称も用いられることがあります。両者は密接に関連していることもあり、混同されて使われるケースが少なくありません。
プログラム医療機器は「医療機器プログラム又はこれを記録した記録媒体たる医療機器」*と定義されています。つまり、プログラム医療機器はプログラム単体として流通する製品(医療機器プログラム:SaMD)に加えて、プログラムを記録した媒体も内包する、より広い概念ということになります。ここでいう媒体としてはウェアラブルデバイスであるスマートウォッチや、ワイヤレスイヤフォンなどが含まれます。
両者の関係を図示すると下記のとおりです。

https://www.pmda.go.jp/files/000274829.pdf(2026年1月19日閲覧)
プログラム医療機器として承認されている製品一覧は、PMDAのサイトで公開されています。
薬事法等の一部を改正する法律について|厚生労働省
└薬事法等の一部を改正する法律「条文・理由」p.181(*)
プログラム医療機器の薬事開発・承認申請に関する手引き│医薬品医療機器総合機構(PMDA)プログラム医療機器の承認等情報│医薬品医療機器総合機構(PMDA)
医療機器プログラムとDTxとの関係
デジタルセラピューティクス(DTx)は、「ソフトウェアを用いてエビデンスに則った治療介入を行う」という考え方にもとづく治療用アプリの総称です。
例として、禁煙(ニコチン依存症)治療アプリや高血圧治療補助アプリ、減酒(アルコール依存症)治療補助アプリなどがあります。これらは、患者さんの行動変容や自己管理を促し、その治療効果が臨床試験で検証されたうえで、医療機器としての承認を得ています。したがって、日本でDTxと呼ばれている製品の多くは「医療機器プログラム」に位置付けられます。
ただし、医療機器プログラムとDTxは、完全な同義ではありません。医療機器プログラムには、画像診断支援や心電図解析、リスク予測モデルなど、診断・モニタリングを主目的とするものが多く含まれます。一方、DTxは「患者さんに対する治療的介入」を担うソフトウェアに焦点を当てた概念です。
また、モバイル端末向けのアプリストアで配布される多くのヘルスケアアプリは、睡眠の記録や歩数カウント、食事ログといった"自己管理"の支援にとどまるものであり、「一般ヘルスケアアプリ」として整理されます。医師による診断・処方や治療方針の決定に直接かかわらないため、医療機器プログラムにもDTxにも該当しません。
ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー│株式会社CureApp
禁煙治療用アプリってどんなもの?│厚生労働省
減酒治療補助アプリ「HAUDY(ハウディ)※1」を2025年9月1日に販売開始 ~アルコール依存症治療領域で国内初※2の公的医療保険適用(予定)~│株式会社CureApp
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医療機器プログラムの診療報酬における扱い

2024年度診療報酬改定では、「医療DXの推進」や「生活習慣病管理の質向上」が大きな柱となりました。オンライン資格確認の原則義務化やマイナ保険証の活用、電子カルテ情報共有サービスの評価など、デジタルを前提とした診療体制を整える方向性が明確になっています。その中で、医療機器プログラムを含む「プログラム医療機器」についても、以下の定義付けや整理がなされました。
「プログラム医療機器等指導管理料」の新設
医療DX推進という背景のもと、プログラム医療機器の評価も明確化され、「プログラム医療機器等指導管理料」が新設されました。
90点を月に1回、算定可能です。初回の指導管理を行った月は、導入期加算として50点を加算することができます。
生活習慣病管理における医療機器プログラム
生活習慣病の管理においては、単なる通院や指導・処方だけでなく、患者さんの継続的な行動変容を支援できるよう、「療養計画書の作成」が必要となりました。
生活習慣病の管理には血圧・体重・食事・運動・服薬状況といった細かな情報の積み重ねが肝要です。これらをアプリやクラウド上で記録・管理し、医師・医療スタッフが介入するスタイルは、医療機器プログラムやDTxの得意とする領域です。
たとえば、高血圧治療を補助するアプリなどの医療機器プログラムがすでに保険適用されています。2025年にはアルコール依存症を対象とする減酒治療補助アプリも薬事承認を獲得し、保険適用になりました。
現状、医療機器プログラムが保険適用となっている範囲は限定的です。しかし、診療報酬改定で重視される医療DXと生活習慣病管理のどちらの側面から見ても、今後の発展が期待される分野と言えるでしょう。
令和6年度診療報酬改定の主なポイント│厚生労働省
令和6年度保険医療材料制度改革の概要│厚生労働省
「高血圧治療補助アプリ」保険適用と適正使用指針 作成のお知らせ│日本高血圧学会
医療機器の保険適用について(令和7年9月1日収載予定)│厚生労働省
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AIを搭載した医療機器プログラムの現状
現在は第4次AIブームの最中にあると言われ、生成AIを日常生活に取り入れたり、臨床疑問の解決やスライド作成などに活用したりしている人も多いでしょう。
医療機器プログラムにおいてもAIの活用が議論されており、放射線科領域の画像診断支援や不整脈の検出などの用途で普及しつつあります。
一方で、機械学習に用いるデータの偏りによるバイアスや、機能のアップデートによる変化には注意が必要です。どのようなデータで学習・検証されたものなのか、自院の患者さんに適用可能なのかを確認し、"AIに任せきり"ではなく医師がしっかりと最終判断をする姿勢が肝要です。
ほかに、近年のトレンドとして「スマートウォッチ外来」も挙げられます。スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスから得られる健康情報、たとえば心房細動のアラートなどを、アプリを介して診断に活用する仕組みです。ここでも、デバイスからの情報を"診断の決め手"とするのではなく、あくまで標準検査につなぐ"トリガー"と位置付ける必要があるでしょう。
医療機器プログラムを導入する際のポイント

医療機器プログラムは、単に「導入すれば自動的に業務効率化につながるツール」ではありません。診療プロセスのどこに組み込むかを設計して初めて効果を発揮するものです。
導入を検討する際は、次の4つのステップを意識すると良いでしょう。
1.目的の明確化
まず重要なのは、医療機器プログラムをどの場面で使用するかという目的の明確化です。「なんとなくDXが必要そうだから」「他院も導入しているから」といった理由ではなく、たとえば「高血圧外来の血圧・服薬状況を可視化して生活指導の質を上げたい」のように、改善したいアウトカムや業務負担を具体的に言語化します。目的が曖昧なまま導入すると、スタッフの負担だけ増え、「結局使われないツール」になりがちです。
2.プログラムを選ぶポイントの整理
次に、導入するプログラムを選ぶためのポイントを整理します。適応疾患や保険適用の有無はもちろん、エビデンスの質(RCTか、実臨床データか、導入施設数はどの程度か)を確認することが重要です。
また、自院の診療方針や体制にフィットするかの確認も欠かせません。たとえば「患者さん自身のスマートフォンで完結するのか」「診察室で医師が操作するのか」「看護師や事務がどこまで関与するのか」といった運用イメージを具体化しておくと、導入後のギャップを減らせるでしょう。
3.情報セキュリティと個人情報の取り扱いを確認
情報セキュリティと個人情報保護の観点も重要です。クラウド型サービスの場合、データセンターの所在地や暗号化の有無、事故発生時の対応方針、委託先との契約内容(守秘義務・再委託の扱いなど)を確認しておく必要があります。院内ネットワークとの接続方式や、ID・パスワード管理、アクセス権限の設定も注意しておきたい点です。
4.評価と見直しの仕組みを確認
最後に、評価と見直しの仕組みをあらかじめ組み込んでおくと、導入後の効果を院内で共有しやすくなります。たとえば「導入前後で血圧コントロールが良好な割合」「再来率・キャンセル率」「スタッフの残業時間」などの指標を1~3個程度決め、数カ月単位でモニタリングすると良いでしょう。
最初から全患者さんに向けて一斉に展開するのではなく、対象を絞った導入→評価→改善→拡大というステップを踏むことで、現場の納得感や継続性を高めることができます。
こうしたステップを押さえた上で導入できれば、目的を持って医療機器プログラムを活用でき、診療の質・業務効率・患者満足度のいずれにおいてもプラスの効果が期待できるでしょう。
まとめ
医療機器プログラムは、その名のとおり"医療機器"であることが大前提であり、特定の疾患や病態の診断・治療において効果を発揮するプログラムです。画像診断支援プログラムや、患者さんが自身の端末で使用する治療補助アプリなどがあり、診療報酬における評価やAIの台頭などで、今後ますますの技術発展が期待される分野と言えるでしょう。
しかし、あくまで"医療機器"である以上、流行に流されて導入するのではなく、目的を明確にし、プログラムの利用によってどのようなアウトカム改善が見込めるのかを冷静に見極めることが必要です。
このコラムが、医療機器プログラムを理解する一助となれば幸いです。



