腎臓専門医の長澤将先生が「利尿薬」の臨床知識をわかりやすく紐解く本連載も、ついに今回で最終回を迎えます。ぜひこれまでの回も振り返りつつ、日常診療のアップデートにお役立てください。

ある日、顔なじみの薬剤師さんから、こんな質問をもらいました。
「先生、ちょっと気になっていることがあって。近所の内科の先生が、利尿薬を1日2回で出しているんですが......あれって、いいんでしょうか?」
いい質問だな、と思いました。フロセミド(ラシックス®)の内服は、添付文書では「1日1回40〜80 mgを連日又は隔日経口投与」となっています*1。つまり朝夕の2回投与は、添付文書の枠にきれいに収まる処方ではありません。それでも実臨床では、決して珍しくない出し方です。
では、科学的にはどうなのか。実は私自身、気になってきちんと調べたことがありました。
結論から言うと、「1日2回」という発想そのものは理にかなっています。ただし、効くか効かないか、そして患者さんが困るかどうかは、回数そのものより「量」と「タイミング」で決まります。
今回は、そのとき薬剤師さんに説明したことを、回数・量・タイミングの3つに分けて整理します。
※筆者個人の見解を含みます。診療にあたっては最新のガイドラインや治療指針、各種薬剤の添付文書などをご確認ください。
「1日2回」は、むしろ理にかなう
調べてまず腑に落ちたのは、「1日2回」に薬理学的な裏付けがある、という点でした。
フロセミドやブメタニドのような短時間作用型のループ利尿薬は、作用時間が6時間ほどと短い薬です*2。1日1回の投与だと、薬が効いていない18時間ほどのあいだに、体は失った塩をせっせと取り戻そうとします。これを利尿薬服用後のNa再吸収――いわば"リバウンド"と呼びます*2。
1日2回に分ければ薬の切れ目を短くでき、リバウンドを抑えやすくなります。短時間作用型では、少なくとも1日2回という考え方には根拠があります*3。冒頭の「近所の内科の先生」は、理にかなった処方をしているわけです。
なお、半減期の長いトラセミドのような薬なら、1日1回でも切れ目が生じにくいので、そのぶん回数にこだわる必要性は下がります。
では、なぜ「1日2回にしたのに効かない」「かえって患者さんが困る」ということが起こるのか。つまずきポイントは2つあります。
つまずきポイント①:1回量が「閾値」に届いていない
ループ利尿薬は、ある閾値を超えて初めて効く薬です(threshold drug)*2。閾値を超えれば効き、超えなければ、ほとんど効きません。中間が乏しいのが特徴です。
ありがちなのが、投与を2回に分けるときに1日量は変えずに1回量を半分にしてしまうことです。すると、それぞれが閾値に届かず、効かない"波"を1日2回起こすだけになります。反応がないからと回数だけ増やしても、閾値を超えない波が増えるだけで、効果は期待しにくいままです。
回数を分けるなら、各回きちんと効く量にすること。「回数を増やす=1回量を減らす」ではありません。分けるなら、削らない。ここを取り違えると、丁寧なつもりで効かない処方になってしまいます。
つまずきポイント②:2回目を「夜」に置いている
もう一つは、タイミングです。朝・夕で投与すると、夕方の分が夜に効いて夜間頻尿を招くおそれがあります。
この場合、薬理と生活の両面で不利益が生じます。ループ利尿薬は活動期(ヒトでは日中)に投与するほうがナトリウム利尿作用が大きいと報告されており、夜間の投与が有利とは言えません*4。さらに、夜間頻尿は睡眠を妨げるだけでなく、転倒のリスクを高めます。
とくに高齢者において、私はこの点を重く見ています。ループ利尿薬は、高齢者の転倒リスクを高めやすい心血管系の薬の一つとされ、メタ解析では補正オッズ比1.36(95%CI 1.17-1.57)と報告されています*5。夜間頻尿が重なれば、暗い中でトイレに急ぐ場面も増え、転倒の危険性はさらに高まるでしょう。
ですから、投与を1日2回に分けるなら朝+昼(遅くとも午後の早い時間、就寝の6時間前まで)。夕方以降の2回目は避ける。これが実務的な落としどころだと考えています。
なお、夜間の服用を常に避けるべきというわけでもありません。ある研究では、就寝時に利尿薬を投与しても約8割(77.3%)の患者さんが半年後も服用を継続できており、夜間頻尿を大きな負担と感じた患者さんは約16%でした*6。
この結果を「16%しか」と見るか、「16%も」と見るか。私は、転倒という結果の重さを考えると、少なくとも高齢者への夜間投与は勧めにくい、という立場です。
そのうえで、量は「体重」で決める
回数と時間を整えたら、最後は量です。ここは第2回・第3回と同じで、固定量よりも、その日の体液量=体重を見て調整するほうがうまくいくことが多いです。
毎日決まったタイミングで体重を測り、増えている日はしっかり効く量を、落ち着いていれば無理に足さない。「朝・夕・食後・半量ずつ」で効かなかった患者さんへの処方を、「朝(+必要なら昼)に、効く量を、体重を見て」に変えるだけで、日中に利尿がつき、夜のトイレも減る――外来ではよく経験します。
回数を増やしたのではなく、割り方と時間と量を整えただけです。
どのくらいの体重のときに、どのくらいの量を処方するかという実際の閾値は、病態や腎機能によって変わります。この見極めの流れは、以下のフローチャートに整理しています。
まとめ:「2回がダメ」ではなく「割り方」と「時間」がカギ
冒頭の薬剤師さんの質問に戻ります。「1日2回の利尿薬は、良いのか?」
――答えは、「発想としてはむしろ良い。ただし、効かせたいなら、毎回の投与量を閾値以上に、患者さんを困らせたくないなら2回目を夜に置かない」でした。
整理すると、以下の通りです。
- 分けるなら、各回を閾値以上の量に。
- 2回目は昼までに置き、夜は避ける(とくに高齢者)。
- 半減期の長い薬なら1回で良い。
- 量は体重で決める。
シリーズを通じてお伝えしたかったことは、ひとつです。「尿が出ないからフロセミド」「体重が減らないから増量」「血圧が下がらないからフルドーズ」「効かないから回数だけ増やす」――どれも、安易に手を動かす前に一度立ち止まり、薬の性質を考えれば避けられます。
今回のように、当たり前に見える処方を一度調べてみると、思わぬ発見があるものです。
利尿薬を足す前に、一度立ち止まって、その出し方を見直す。そんな診療のお役に立てば幸いです。別途配信中の解説資料『"とりあえずフロセミド"で大丈夫?利尿薬処方の道しるべ』にも、連載では扱えなかった情報や便利なフローチャートを盛り込んでいますので、あわせてご活用ください。
4回にわたりお付き合いいただき、ありがとうございました。
日本循環器学会ほか:2025年改訂版 心不全診療ガイドライン(日本循環器学会 / 日本心不全学会合同ガイドライン).2025
ラシックス®錠 添付文書(*1)
Ellison DH,Felker GM:Diuretic Treatment in Heart Failure.N Engl J Med 377(20):1964-1975,2017(*2)
Felker GM,et al.:Diuretic Therapy for Patients With Heart Failure:JACC State-of-the-Art Review.J Am Coll Cardiol 75(10):1178-1195,2020(*3)
Dutta P,et al.:Influence of Administration Time and Sex on Natriuretic, Diuretic, and Kaliuretic Effects of Diuretics.Am J Physiol Renal Physiol 324(3):F274-F286,2023(*4)
※マウス腎機能の計算モデルによるシミュレーション研究
de Vries M,et al.:Fall-Risk-Increasing Drugs:A Systematic Review and Meta-Analysis:I. Cardiovascular Drugs.J Am Med Dir Assoc 19(4):371.e1-371.e9,2018(*5)
Garrison SR,et al.:Tolerability of Bedtime Diuretics:A Prospective Cohort Analysis.BMJ Open 13(6):e068188,2023(*6)




