いま知っておきたい「利尿薬」の臨床知識を、腎臓専門医の長澤将先生がわかりやすく紐解く連載企画。今回は、第2回をお届けします。
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増量、本当に効いていますか?―サイアザイド系利尿薬の「頭打ち」を知る 8月中旬公開予定
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タイトル未定 8月下旬公開予定

7月下旬、平日の午前外来。慢性心不全で通院中の78歳女性(フロセミド20 mg/日を内服中)が、2週間ぶりに再診に来ました。体重は前回から+3 kg、下腿浮腫も悪化しています。「なんだか少し息が苦しくて」とのこと。
カルテを開いた若手医師は、こう言いかけます。
「むくみが悪化していますね。では、フロセミドを40 mgに増やして......」
すると、患者さんが続けました。
「先生、テレビで熱中症予防には水分をこまめに、たくさん摂れって言うでしょう。だから頑張って、毎日2リットル近く飲んでいるんです。脱水も怖いですし」
見れば、お薬手帳と一緒に、飲みかけのスポーツドリンクが鞄からのぞいています。
――さて。この場面、フロセミドの増量は正解でしょうか。
前回は、当直の「尿が出ない=とりあえずフロセミド」の手前で立ち止まるところから始めました。今回は外来編です。「体重が減らない=利尿薬を増やす」の前に確認すべきことを整理してみたいと思います。
※筆者個人の見解を含みます。診療にあたっては最新のガイドラインや治療指針、各種薬剤の添付文書などをご確認ください。
利尿薬は「出す」薬―増やす前に「入り」を見る
大原則を確認します。利尿薬は、体内の余分な水分・塩分を「出す」ための対症療法です。蛇口が全開でシンクから水があふれそうなとき、排水口を広げる工事から始める人はいませんよね。まず、蛇口を見るはずです。
体重増加・浮腫悪化を見たとき、「利尿薬が足りない」というのは数ある仮説の一つにすぎません。増量の前に確認したいのは、次の3点です。
- 水分と塩分は、どれくらい体内に「入って」いるか
- 処方した利尿薬を、服用タイミングを含めてきちんと飲めているか
- 心不全そのものの増悪や、ほかの要因(貧血、甲状腺機能、薬剤変更など)はないか
このうち外来で見落とされやすく、かつ簡便に確認できるのが「入り」、つまり口に入るものです。
「水をたくさん飲む」は利尿薬の代わりにならない
「水をたくさん飲めば尿が増えるから、水は天然の利尿薬ですか?」
――ときどき受ける質問ですが、答えはノーです。水やお茶を飲んで尿量が増えるのは、腎臓が容量負荷に応じて生理的に増やしているだけで、体にたまった余分な水を引き抜いてくれる働きではありません。
健康な腎臓であれば、飲んだ分はおおむね出ていきます。しかし、心不全や進行した慢性腎臓病(CKD)の患者さんでは、この調整能力そのものが落ちています。
つまり「入れた分が体に残ってしまう」患者さんに、「たくさん飲んで、たくさん出す」という考え方は成立しません。入れた水を薬で追い出す、いたちごっこになるだけです。
やっかいなのは、この「たくさん飲む」という行動が、善意と"正しそうな"一般論に支えられていることです。テレビなどのメディアや、市報・県民便りなどでも「水を飲みましょう」と一律に呼びかけられることがあります。
ここで一度整理しておきましょう。熱中症の本質は、暑い環境に体がついていかないことです。水分補給は、その過程で汗などにより失われた体液量を補充するもの――つまり「対症療法」であって、水をたくさん飲むこと自体が熱中症の予防となるわけではありません。「とにかく飲めば防げる」は誤解です。
だからこそ、利尿薬を内服している心不全患者さんへの水分指導は「一律にたくさん」とするのではなく、主治医と相談して個別に決める。このことは、外来で一度、明確に言葉にして伝える価値があります。
主犯はしばしば「塩」
体液量過剰の本質は、水そのものより塩(Na)です。Naが体に残れば、水はセットで付いてきます(おおむねNa 140 mEq/Lとなるのが、人間の体の中の原則です)。
夏は「塩の季節」でもあります。熱中症対策の梅干しや塩飴、スポーツドリンク。さらに盲点なのが麺類です。そうめん、ひやむぎ、うどんは、つゆだけでなく麺そのものに塩が練り込まれています。なお、そばの塩分量は比較的少ない、あるいは含まれていないものもあります。
「さっぱりしたものしか食べていない」つもりで、水分と一緒に塩分もしっかり摂っていた――というパターンを非常に多く経験します。
私は、利尿薬をどう使うかよりも、いかに余分な水と塩を入れないかという食事指導・生活指導の方が、少なくとも100倍は重要だと考えています。どれほど適切に利尿薬を選んでも、蛇口が全開のままでは効果は限定的です。
体重が減らないときのチェックリスト
外来で「患者さんの体重が減らない・増えた」と感じたとき、利尿薬を増量する前に確認したい項目を順に挙げます。
1.飲水量と塩分摂取を「記録」してもらう
記憶ではなく記録です。お茶・汁物・スポーツドリンクも飲水に含めます。数日分の食事内容のメモや写真があれば、塩の入り口も見えてきます。
2.服薬の状況と「増えた薬」を確認する
心不全の増悪を疑う場面では、内服がきちんとできているかの確認がとても重要です。飲み忘れはないか、確認しましょう。フロセミドは空腹時の方が吸収が安定しやすいことも、考慮したいポイントです。
あわせて、最近他科などで新たに追加された薬もチェックします。とくにNSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬)は、しばしば心不全悪化の原因になることもあるため注意が必要です。整形外科から処方された薬や市販の鎮痛薬など、患者さん本人が体重増加や浮腫と"関係ない"と思っているものにこそ、要因が潜んでいます。
3.そもそも「効く量」を使えているか
ループ利尿薬は、閾値を超えなければ効かないタイプの薬です。少量を漫然と増減するより、効く量を見極めることが重要です。この判断の流れは、フローチャートにまとめています(下記PDF)。

4.必要なら、水分制限を「個別に」設定する
減塩がきちんとできていれば、原則として厳格な水分制限は不要です。ただし体重を速やかに減らしたい場面では、経験的に10〜15 mL/kg/日程度の水分制限を目安にすることがあります。
ここで一つ注意点があります。「1日◯mLまで」という具体的な数字を渡すと、それがアンカーになってしまい、それほど喉が渇いていないのに指定された量まで無理に飲んでしまう患者さんがいます。数字で縛るより、「体重と尿の色が変わらないくらい」を目指してもらう方が、実際にはうまくいくことが多いです。
また、日本人は実にさまざまなものを食べます。ご飯が多い日は、ご飯自体が水分を多く含むため水分が多めに、パンが多い日は塩分が多めになることがあります。固定の数字が万能でない理由は、ここにもあります。
「増やす」以外の武器を持つ――そして体重計
冒頭で紹介した患者さんの話に戻りましょう。この患者さんにまず必要だったのは、フロセミド40 mgではなく、次の3つでした。
- 「水分は主治医と決めた量まで」という個別の飲水指導
- スポーツドリンクから水・麦茶への置き換えを含む、塩分量の見直し
- 毎朝(できれば毎晩も)の体重測定と記録
実際、水分や塩分の「入り」を整えるだけで、利尿薬を1 mgも増やさずに体重が戻ってくることは、外来で日常的に経験します。
体重は、体液量の優秀なモニタリングツールです。日〜週の単位で変動する体重は、脂肪や筋肉ではなく、ほぼ体液量(水と塩)の増減を反映しています。「体重が◯kgを超えたら連絡・受診」というラインを患者さんと共有しておくと、増悪を早期に拾えます。
なお、「痩せた・太った」ことを示す脂肪や筋肉量の増減は、この短期の動きとは別物です。2カ月くらいの単位でチェックするのが良いでしょう。
逆方向の罠にも触れておきます。食事量が落ちた高齢の方が、食べずに水やお茶ばかり飲んでいると、利尿薬(とくにサイアザイド系)と相まって低Na血症を起こすことがあります。「入り」を見る習慣は、入れすぎ・出しすぎの両方から患者さんを守ってくれます。
まとめ:排水口を広げる前に、蛇口を見る
「体重が増えたから利尿薬を増やす」「むくむから利尿薬」――数字や訴えから安易に処方へ飛ぶ前に、「何が、どれだけ入っているのか?」と一度立ち止まる。前回の「薬剤名から入らない」と同じく、これも非専門医だからこそ外来で実践できる、患者さんを守るための"一工夫"だと思います。
利尿薬を増やす前に、一度立ち止まって、口に入るものを診る。そんな外来診療のお役に立てば幸いです。
次回は、「減塩」がうまくできない場面で処方されるサイアザイド系利尿薬の注意点について解説します。
※次回(第3回)は8月中旬ごろ公開予定です。




