いま知っておきたい「利尿薬」の臨床知識を、腎臓専門医の長澤将先生がわかりやすく紐解く連載企画。今回は、第3回をお届けします。

高血圧外来。76歳女性、身長148 cm・体重42 kgの小柄な方です。トリクロルメチアジド(フルイトラン®)1 mg/日を含む2剤を内服中ですが、家庭血圧はここのところ150/85 mmHg前後。
カルテを見た若手医師が、キーボードに手を伸ばしながらつぶやきます。
「下がりきらないな。フルイトラン®、2 mgに増量しておくか」
処方を送信し、そのまま午前の外来を終えます。昼を過ぎ、午後イチ、たまった書類に向かっていたところで、院外薬局から疑義照会の電話が入りました。
午前に出した、あの処方です。電話の主はベテランの薬剤師さん。ひととおり用量を確認したあと、最後にこう添えられました。
「......先生、フルイトラン®って、増やして効きます?」
一瞬、言葉に詰まります。そういえば、根拠を考えたことがあっただろうか。
「効かないなら増やす」は、多くの薬で通用する素朴なロジックです。ただ、サイアザイド系利尿薬に関しては、この直感が裏切られます。
第1回は当直の「尿が出ない=とりあえずフロセミド」、第2回は外来の「体重が減らない=利尿薬を増やす」という判断の手前で立ち止まりました。第3回は、降圧薬としてのサイアザイド。「効かないなら増やす」の前に知っておきたい、この薬の性質を整理します。
※筆者個人の見解を含みます。診療にあたっては最新のガイドラインや治療指針、各種薬剤の添付文書などをご確認ください。
サイアザイド系利尿薬は「増やすほど効く」薬ではない
まず結論から。サイアザイド系利尿薬(以下、サイアザイド)の降圧効果は、低用量で頭打ちになります。
354件のランダム化比較試験を解析した有名な報告(Law BMJ,2003)では、サイアザイドを含む主要な降圧薬は、標準用量の半分でも降圧効果の約80%が得られることが示されています*1。つまり、半量から標準量に増やしても、上乗せされる降圧効果はごくわずか(収縮期で2 mmHg程度)です。
私は「サイアザイドは高血圧の薬。半量で十分」とお伝えしています。実際、4分の1量〜半量で開始して困ることは、ほとんどありません。
なお、進行した慢性腎臓病では効かないと思われがちですが、クロルタリドンはeGFR 20 mL/min/1.73m2程度まで降圧薬として使えることが示されています*2。「腎臓が悪いから使えない」というのは、必ずしも正しくはありません。
一方で――ここが本題ですが――副作用は用量に応じて増えていきます。
降圧効果は頭打ち、副作用は右肩上がり。「フルドーズにする理由」は、実はかなり見つけにくい薬なのです。
増やして待っているのは副作用
サイアザイド系利尿薬の代表的な副作用は、次のとおりです。
- 低Na血症:とくに重要。とくに体格の小さい高齢女性はハイリスクです。食事量が減った状態で水やお茶ばかり飲んでいると、あっという間に進行します。
- 低K血症:長期使用で顕在化しやすいのが特徴です。
- 高Ca血症:ビタミンD製剤やCa製剤(サプリメント含む)との併用で相乗的に起こりやすくなります。
- 尿酸値の上昇:痛風発作の引き金になることがあります。
冒頭で紹介した患者さんを思い出してください。148 cm・42 kgの高齢女性。まさに副作用のハイリスク層です。この患者さんへの「とりあえず倍量」は、降圧効果がほぼ変わらないまま、低Na血症のリスクだけを上乗せする選択になりかねません。
内服中のモニタリングとしては、1〜2カ月に1回程度の電解質チェック(Caを含む)をお勧めします。
「耐糖能異常は?」への、いまの答え
まれに「サイアザイドの耐糖能異常はどう考えればいいですか?」と聞かれることがあります。最近の考え方について整理してみましょう。
結論から言うと、サイアザイドによる血糖への影響は「統計的には有意だが、臨床的にはごく小さい」というのが現在の理解です。
95試験・約7.6万人を対象とした2020年のメタ解析では、空腹時血糖の上昇は平均0.20 mmol/L(3〜5 mg/dL程度)にとどまり、著者らも「臨床的に重要でない影響」と結論付けています。HbA1cや食後血糖には、有意な変化がありません*3。
さらに、この小さな影響は大いに打ち消すことができます。
カギとなるのは、低用量とK(カリウム)です。低K状態によってインスリン分泌を抑えることが機序の一つとされています。実際、PATHWAY-3試験では、K保持性利尿薬(アミロライド)を併用することで、サイアザイド単独で見られた耐糖能異常が抑えられました*4。
血清Kを4 mEq/L以上に保てば、糖尿病の発症はほぼ起こりにくくなるとする報告もあります*5。低用量で使い、Kを見て補正する――これで十分に管理できます。
とくに大事な点は、仮に血糖が少し上がっても、心血管イベントや死亡の増加につながらないことがALLHAT試験などで示されていることです*6。2型糖尿病の患者さんにおいても、サイアザイドは心血管イベント・総死亡・心不全入院を減らし、ほかの降圧薬に見劣りしません*7。
「血糖が気になるから避ける」より、「低用量+K管理で使いこなす」が、いまの立ち位置です。
血圧が下がらないときはどうするか
「薬の量を増やさないなら、どうすればいいのか」。考える順番は次のとおりです。
1.この薬が効くタイプの高血圧かを見極める
サイアザイドが効くのは、体液量の要素が大きい高血圧――いわゆる食塩感受性の高血圧です。効果判定は2〜3週間で十分。そこまで使って血圧がまったく下がらないなら、増量ではなく、他剤への変更や併用を検討します。
2.効かない理由が「塩」にないかを確認する
塩分摂取が多いままなら、まずは減塩です。第2回でも触れたとおり、余分な水と塩を体に入れない戦略は、薬の調整より少なくとも100倍重要です。この過程を飛ばして用量だけ上げても、いたちごっこになります。
3.増量ではなく「組み合わせ」で考える
降圧効果が不十分なときは、同じ薬を倍量にするより、作用機序の異なる薬を少量ずつ組み合わせるほうが、効果と副作用のバランスに優れます。先ほど紹介した354試験の解析*1でも、この「低用量併用」の合理性が示されています。
おまけ:心不全を「減らす」側面
副作用の話が続きましたが、良い面も一つ紹介します。
サイアザイド(とくにクロルタリドン)は、高血圧患者さんの心不全発症を減らす可能性があります。ALLHAT試験では、クロルタリドンはアムロジピンやリシノプリルと比べて、心不全の発症・入院を有意に抑えることが示されました*8。降圧薬としてのサイアザイドを見直す根拠の一つです。
「では、最近よく使うSGLT2阻害薬を上乗せしたらどうか?」という疑問が湧きますが、サイアザイドに特化してSGLT2阻害薬の上乗せを検証した研究は今のところ見当たりません。
SGLT2阻害薬の心不全予防データはループ利尿薬併用の患者さんが中心で、利尿薬の用量によらず一貫して効果が示されています*9。サイアザイドでも上乗せは有効だろうと推測はできますが、現時点で直接の裏付けはない、という整理になります。
「やめどき」を設計する
サイアザイドには、もう一つ大事な特徴があります。減塩ができるようになると不要になる薬だということです。
こうした生活の変化は、すべて薬の中止・減量を検討するタイミングです。逆に、フルドーズのまま漫然と続いた処方が、夏の脱水や低Na血症の温床になることもあります。
処方を開始するときに「やめる条件」まで決めておく。「食欲が落ちたときは一旦スキップ」と指示しておく。ここまでが、サイアザイドの処方だと考えています。
まとめ:「効かない→増やす」の前に立ち止まる
冒頭の事例で紹介した薬剤師さんの一言に戻ります。「増やして効きます?」――サイアザイドに関しては、ほとんど効きません。増えるのは副作用です。
用量を増やす前に、確認したいことは3つ。この薬で血圧が下がるタイプの高血圧か。塩の摂取量はどうなっているか。そもそも、この薬はまだ必要か。
「尿が出ないからフロセミド」「体重が減らないから薬を増量」「血圧が下がらないからフルドーズ」――シリーズを通じて言いたいことは一つで、安易に処方する前に、一度立ち止まって病態を考えることです。それが、非専門医の先生にもすぐ実践できて、患者さんを守ることにつながる一工夫だと思います。
次回は最終回。薬剤師さんによく聞かれる「利尿薬は1日2回で出すべき?」――回数・量・タイミングの話です。
日本循環器学会ほか:2025年改訂版 心不全診療ガイドライン(日本循環器学会 / 日本心不全学会合同ガイドライン).2025
Law MR,et al.:Value of low dose combination treatment with blood pressure lowering drugs: analysis of 354 randomised trials.BMJ 326(7404):1427,2003(*1)
Agarwal R,et al.:Chlorthalidone for Hypertension in Advanced Chronic Kidney Disease.N Engl J Med 385(27):2507-2519,2021(*2)
Hall JJ,et al.:Thiazide Diuretic-Induced Change in Fasting Plasma Glucose:A Meta-Analysis of Randomized Clinical Trials.J Gen Intern Med 35(6):1849-1860,2020(*3)
Brown MJ,et al.:Effect of amiloride, or amiloride plus hydrochlorothiazide, versus hydrochlorothiazide on glucose tolerance and blood pressure (PATHWAY-3).Lancet Diabetes Endocrinol 4(2):136-147,2016(*4)
Zhang X,Zhao Q:Association of Thiazide-Type Diuretics With Glycemic Changes in Hypertensive Patients:A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Clinical Trials.J Clin Hypertens 18(4):342-351,2016(*5)
ALLHAT Officers and Coordinators:Major Outcomes in High-Risk Hypertensive Patients Randomized to ACE Inhibitor or Calcium Channel Blocker vs Diuretic (ALLHAT).JAMA 288(23):2981-2997,2002(*6)
Scheen AJ:Type 2 Diabetes and Thiazide Diuretics.Curr Diab Rep 18(2):6,2018(*7)
Davis BR,et al.:Role of Diuretics in the Prevention of Heart Failure:The ALLHAT Trial.Circulation 113(18):2201-2210,2006(*8)
Jackson AM,et al.:Dapagliflozin and Diuretic Use in Patients With Heart Failure and Reduced Ejection Fraction in DAPA-HF.Circulation 142(11):1040-1054,2020(*9)
各種薬剤 添付文書(医療用医薬品 情報検索|医薬品医療機器総合機構)




