重症ではないものの、入院治療や自宅復帰までのサポートが必要――そのような高齢・多疾患併存の患者さんを受け入れ、医療・看護・リハビリ・生活支援を一体的に提供するのが「地域包括医療病棟」(地メディ病棟)です。2024(令和6)年度の診療報酬改定で新設された入院料とあわせて、急性期・地域包括ケア病棟の再編を見据えた"セーフティネット"として注目されています。
このコラムでは、地域包括医療病棟が創設された背景や他病棟との比較、導入の実績など、臨床現場と病院経営の双方から情報を整理して紹介します。

執筆者:Dr.SoS
地域包括医療病棟(地メディ病棟)とは

「地域包括医療病棟」は、2024(令和6)年度の診療報酬改定で新設された病棟区分です。「地メディ病棟」と呼ばれることもあり、厚生労働省は診療報酬改定に関する資料の中で、以下のように定義しています。
地域において、救急患者等を受け入れる体制を整え、リハビリテーション、栄養管理、入退院支援、在宅復帰等の機能を包括的に担う病棟
厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【入院Ⅰ(地域包括医療病棟)】」p.4より引用(一部抜粋)
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001251535.pdf(2025年12月2日閲覧)
診療報酬における算定基準や点数については後述するとして、まずは地域包括医療病棟が新設された理由から見ていきましょう。
地域包括医療病棟が新設された背景・目的
地域包括医療病棟が設けられた背景として挙げられるのは、高齢者の救急搬送者数が増えていることです。
高齢者救急の搬送例には、誤嚥性肺炎や尿路感染症など、軽症・中等症も多く含まれています。軽症・中等症で入院すると、急性期治療中に離床が進まずADL(日常生活動作)が低下し、在宅復帰が遅れるケースがあると指摘されています*1。
また、軽症・中等症では相対的に医療資源の投入量が少ない傾向にあります。すべての症例を急性期病棟で受け入れてしまうと、心筋梗塞やくも膜下出血など、より重症で緊急の対応が必要な患者さんに十分な医療資源を投入できなくなるおそれがあります。
こうした背景をふまえて設立されたのが、「地域包括医療病棟」(地メディ病棟)です。救急の受け入れ体制を整え、治療に加えて早期からリハビリテーションを実施する役割を担います。自宅や介護施設で療養中の患者さんが軽症の急性疾患を発症した際の受け入れ機能(サブアキュート)も期待されています。

厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【入院Ⅰ(地域包括医療病棟)】」p.3より
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001251535.pdf(2025年12月2日閲覧)
なお、2024年末に取りまとめられた「新たな地域医療構想」でも、主要4テーマのうちの一つとして「増加する高齢者救急への対応」が挙げられています。地地域包括医療病棟は、この課題の解決に大きく貢献することが期待されます。
「地域医療構想」とは?概要や策定経緯、2040年に向けた新たな取り組みを解説
地域包括ケア病棟・急性期病棟との違い
地域包括医療病棟を理解する上でおさえたいのが、「地域包括ケア病棟」と「急性期病棟」です。とくに「地域包括ケア病棟」は名前が似ていることもあり、混同しやすい概念です。それぞれの特徴と違いを整理していきましょう。
役割を簡単にまとめると、以下のとおりです。
| 急性期病棟 | 救急・手術・高度治療など、急性期医療を提供する |
|---|---|
| 地域包括医療病棟(地メディ病棟) | 急性期病棟・地域包括ケア病棟の中間的な機能を持ち、医療と介護・ケアの橋渡しを担う |
| 地域包括ケア病棟(地ケア病棟) | 主に介護・ケア(生活機能の回復)を提供する |
詳細な特徴は、このようにまとめられています(下表)。地域包括医療病棟(地メディ病棟)が、急性期病棟(急性期一般病棟入院料1)と地域包括ケア病棟(地域包括ケア病棟入院料1)の中間に位置付けられていることがわかります。

厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【入院Ⅰ(地域包括医療病棟)】」p.11より
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001251535.pdf(2025年12月2日閲覧)
3者の違いがよく表れているのが「看護配置」や「重症度、医療・看護必要度」でしょう。看護配置は、急性期病棟(急性期一般病棟入院料1)では「7対1以上」、地域包括医療病棟(地メディ病棟)は「10対1以上」、地域包括ケア病棟(地ケア病棟)は「13対1以上」となっています。重症度、医療・看護必要度の定義からも、急性期病棟が最も厳しい基準になっていることがわかります。
一方で「在院日数」については、急性期病棟が「平均16日以内」と短期間での治療が求められているのに対し、地域包括医療病棟(地メディ病棟)は「平均21日以内」です。「60日まで」とされている地域包括ケア病棟(地ケア病棟)ほどではありませんが、より長い入院期間が想定されています。
地域包括医療病棟(地メディ病棟)はその設立の趣旨から、「救急実績」と「リハビリ」の実施要件の双方が重視されています。緊急入院の割合は「15%以上」必要な一方で(※)、理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)の配置条件はこれら3病棟の中でもっとも厳しい基準になっています。
(※)「地域包括医療病棟入院料」の施設基準より、「入院患者に占める、救急用の自動車等により緊急に搬送された患者又は他の保険医療機関で救急患者連携搬送料を算定し当該他の保険医療機関から搬送された患者の割合が1割5分以上」*1(後述)。
地域包括医療病棟入院料の算定要件・施設基準
地域包括医療病棟の概要を理解したところで、ここからは診療報酬における定義や要件を確認していきましょう。
地域包括医療病棟で算定可能な入院料は「地域包括医療病棟入院料」で、点数は「3,050点」*1です。
施設基準として、下記のような項目が定められています。
【地域包括医療病棟入院料の施設基準(抜粋)】
- 看護職員が10:1以上配置されていること。
- 当該病棟に常勤の理学療法士、作業療法士又は言語聴覚士が2名以上、専任の常勤の管理栄養士が1名以上配置されていること。
- 入院早期からのリハビリテーションを行うにつき必要な構造設備を有していること。
- 当該病棟に入院中の患者に対して、ADL等の維持、向上及び栄養管理等に資する必要な体制が整備されていること。(ADLが入院時と比較して低下した患者の割合が5%未満であること 等)
- 一般病棟用の重症度、医療・看護必要度の基準を用いて評価し、延べ患者数のうち「A3点以上、A2点以上かつB3点以上、又はC1点以上」に該当する割合が16%以上(必要度Ⅰの場合)又は15%以上(必要度Ⅱの場合)であるとともに、入棟患者のうち入院初日に「B3点以上」に該当する割合が50%以上であること。
- 当該病棟の入院患者の平均在院日数が21日以内であること。
- 当該病棟において、退院患者に占める、在宅等に退院するものの割合が8割以上であること。
- 当該病棟において、入院患者に占める、当該保険医療機関の一般病棟から転棟したものの割合が5%未満であること。
- 当該病棟において、入院患者に占める、救急用の自動車等により緊急に搬送された患者又は他の保険医療機関で救急患者連携搬送料を算定し当該他の保険医療機関から搬送された患者の割合が1割5分以上であること。
- 地域で急性疾患等の患者に包括的な入院医療及び救急医療を行うにつき必要な体制を整備していること。(2次救急医療機関又は救急告示病院であること、常時、必要な検査、CT撮影、MRI撮影を行う体制にあること 等)
- データ提出加算及び入退院支援加算1に係る届出を行っている保険医療機関であること。
- 特定機能病院以外の病院であること。
- 急性期充実体制加算及び専門病院入院基本料の届出を行っていない保険医療機関であること。
- 脳血管疾患等リハビリテーション料及び運動器リハビリテーション料に係る届出を行っている保険医療機関であること。
厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【入院Ⅰ(地域包括医療病棟)】」p.4より引用
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001251535.pdf(2025年12月2日閲覧)
多くの基準が設けられていますが、基本は「(とくに高齢者の)救急患者を受け入れること」「早期からリハビリが可能な体制が整備されていること」の2点が重視されていることが読み取れるかと思います。
また、8の「一般病棟からの転棟割合<5%」という基準は、先述した「サブアキュート機能」を想定したものでしょう。9は端的に言えば「緊急入院の割合≧15%」ととらえて良いでしょう。
この施設基準には、一時的に条件を満たすことが難しい場合の救済措置も用意されています*2。
疑義解釈資料の送付について(その7)│厚生労働省保険局医療課(*2)
└医-3 問7【地域包括医療病棟入院料】
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地域包括医療病棟の現状と今後の展望

地域包括医療病棟の導入実績
地域包括医療病棟が定義された2024年7月(2024年度診療報酬改定の施行1カ月後)時点では、届出機関は22病院でした。しかし同年12月には120病院、2025年6月には175病院*3、10月には207病院*4と、着実に増えています。
2025年6月時点では、急性期病棟(とくに急性期一般入院料1・4)からの転換が多くを占めています*3。2024年度診療報酬改定で急性期一般入院料1の重症度基準が厳しくなったことも関係し*5、導入初期は入院料1からの転換が最多でした。しかし2025年以降は急性期一般入院料4から転換する例も増えています*6。
地域包括医療病棟を届け出た病院からは、理由として「高齢者の救急搬送が増加しており、ニーズに沿った対応ができる」「経営が安定すると考えた」など、ポジティブに捉える声が多く聞かれています。一方で「急性期一般入院基本料等の基準を満たすことが困難であった」という理由も多く*5、診療報酬のマイナス改定が続く中、安定した収益源が期待できる地域包括医療病棟への転換が注目を集めていると言えます。
2025年度 地域包括ケア病棟・地域包括医療病棟 地方厚生局データ解析資料報告(2025/6/14調査)│地域包括ケア推進病棟協会(*3)
地域包括ケア病棟・地域包括医療病棟とは|地域包括ケア推進病棟協会(*4)
令和7年度 第3回入院・外来医療等の調査・評価分科会資料(2025年6月)|厚生労働省(*5)
地域包括ケア推進病棟協会 記者会見資料(2025年7月29日)|地域包括ケア推進病棟協会(*6)
2026(令和8)年度診療報酬改定に向けた論点
医療ニーズにあわせて導入された地域包括医療病棟ですが、普及はまだ道半ばです。2025年10月現在、地域包括ケア病棟は2,665病院あるのに対し、地域包括医療病棟は先述のとおり207病院*4にとどまっています。
これは、地域包括医療病棟を算定するハードルの高さが影響していると考えられます。とくに以下の基準が、満たすことの難しい項目とされています。
- 休日を含めて、リハビリテーションを提供できる体制
- 当該保険医療機関の一般病棟から転棟したものの割合が5%未満
- 常勤のPT/OT/STの配置
- 重症度、医療・看護必要度の基準を満たすこと
- 在宅復帰率8割以上
厚生労働省 令和7年度 第3回入院・外来医療等の調査・評価分科会資料(2025年6月)p.35、37より引用
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001516205.pdf(2025年12月2日閲覧)
重症度については、関連団体から救済措置の延長や、新たな評価軸による制限の緩和を求める意見が出されています*8。
高齢者救急を担うという目的から、病棟の趣旨そのものが変わる可能性は低いと言えます。一方で、今後も厳しい施設基準が維持されるのか、普及を促すために緩和をするのかが、注目点となるでしょう。
まとめ
従来の医療は、急性期病棟で救急・重症例に対応し、その後地域包括ケア病棟で重点的なリハビリテーションを受け、在宅や介護施設へ復帰するという流れでした。
しかし昨今は「高齢者救急への対応」という課題が各地域で生じています。高齢者救急では、重症疾患だけでなく軽症・中等症も多いという特徴があり、入院中のADL低下を防ぐために早期からのリハビリが重要です。
こうした点をふまえ新設された「地域包括医療病棟」は、地域救急の受け皿となり、早期からリハビリ・在宅調整を行う役割が期待されています。施設基準が厳しく、まだ十分に浸透していませんが、2040年に向けて今後さらに需要が増していくでしょう。施設基準の見直しなど、今後の動向にも注目が集まりそうです。



