「地域包括ケアシステム」は、高齢者が医療や介護を必要とする状態になっても、住み慣れた地域で暮らし続けられるよう支える仕組みです。高齢化が進む日本において、限られた資源を地域全体で活かすための重要な基盤となっています。
2025年をめどに構築が進められてきた地域包括ケアシステムには、2040年を見据え、医療・介護の両方を必要とする高齢者の増加や担い手不足に対応するための深化が求められています。
医師には、患者さんの生活をふまえて医療と介護をつなぐ役割が期待されるでしょう。
本コラムでは、地域包括ケアシステムの概要や5つの要素、医師に求められる役割、2040年に向けた課題などについて解説します。

執筆者:Dr.SoS
地域包括ケアシステムとは
地域包括ケアシステムとは、高齢者が要介護状態になっても「住まい」「医療」「介護」「予防」「生活支援」が一体的に確保され、住み慣れた地域で暮らし続けられるようにするための支援・サービス提供体制です。
団塊の世代が全員75歳以上となる2025年をめどに、各地域で構築が進められてきました。
地域包括ケアシステムは、都道府県や国の支援のもと、市町村が主体となって整備されます。構築の際には、地域の人口構成や医療・介護資源といった実情が考慮されます。高齢者の生活を一つの制度だけで支えるのではなく、医療・介護の保険サービスに、介護予防や生活支援、住まいの確保などを組み合わせる点が特徴です。
相談・支援の中核を担うのは、市町村が設置する地域包括支援センターです。介護予防ケアマネジメントや総合相談支援、権利擁護、包括的・継続的ケアマネジメント支援などを通じて、高齢者や家族を必要な制度・サービスにつなぐ役割を果たします。

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/dl/link1-4.pdf(2026年10月6日閲覧)
我が国の人口について│厚生労働省
地域包括支援センター│厚生労働省 介護サービス情報公表システム
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病診連携とは?地域連携との関連、取り組みの実例や今後の展望【現役医師解説】
地域包括ケアシステムを構成する5つの要素
地域包括ケアシステムは、次の5つの要素で構成されています。
- 住まい
- 医療
- 介護
- 介護予防
- 生活支援
それぞれの内容を確認していきましょう。
1.住まい
生活の基盤となるもので、自宅や各種サービス付き高齢者向け住宅などが該当します。本人の要望や経済状況に合うと同時に、プライバシーや尊厳が守られる環境であることが求められます。
2.医療
高齢者一人ひとりの疾患や症状などに応じて、専門機関や専門職が提供する医療サービスです。病気の発症時や増悪時に対応する急性期病院のほか、定期健診や持病の経過観察、日常的な診療などを担う地域の連携医療機関・かかりつけ医などが想定されます。
3.介護
訪問介護や通所介護といった在宅生活を支えるサービスのほか、特別養護老人ホームや介護老人保健施設などで提供される施設サービスがあります。本人の状態や生活環境、希望に応じて、必要なサービスを組み合わせて活用します。
4.介護予防
高齢者の生活機能を維持・改善し、要介護状態の発生や重度化を防ぐ取り組みです。地域の「通いの場」への参加促進や、運動・リハビリテーション、栄養状態・口腔機能の改善などに取り組みます。
5.生活支援
配食・見守り・買い物・移動・家事など、日常生活上の困りごとを支える取り組みです。自治体や介護事業者によるサービスに加え、NPO・民間企業・ボランティア・地域住民による支え合いも重要な役割を担います。
地域包括ケアシステムの5つの構成要素と「自助・互助・共助・公助」│厚生労働省
介護保険制度の見直しに関する意見 概要資料│厚生労働省 社会保障審議会介護保険部会(2013年12月)
介護予防│厚生労働省
└介護予防について
地域包括ケアシステムの構築に関する事例集│厚生労働省
地域包括ケアシステムのメリット
地域包括ケアシステムが機能することで、さまざまなメリットがあります。
高齢者は、住み慣れた地域で医療・介護・生活支援を切れ目なく受けやすくなります。入院後の在宅復帰や在宅療養を多職種で支えることで、本人の希望や状態に応じた生活を継続しやすくなるでしょう。
家族など、介護者の負担軽減にもつながります。要介護の高齢者を抱える家族にとって、日々のケアによる心身の負担は計り知れないものです。介護の内容や頻度、職場環境によっては、介護離職を余儀なくされるケースもあります。介護サービスや相談支援を利用することで、負担を家庭だけで抱え込まずに済み、仕事との両立を図りやすくなるでしょう。
医療者にとっては、ケアマネジャーや訪問看護師らと患者さんの情報・支援方針を共有できる点がメリットです。入退院支援や急変時の対応などを、地域全体で検討しやすくなります。
地域包括ケアシステムで医師に求められる役割

地域包括ケアシステムは、地域に密着した医療・介護の提供体制です。そのため、医師には診察・治療だけでなく、患者さんの生活状況をふまえて医療と介護をつなぐ役割が求められます。
かかりつけ医は日常的な診療や重症化予防を担い、必要に応じて専門医療機関への紹介や入退院時の情報共有を行います。2025年4月施行の「かかりつけ医機能報告制度」では、日常的な診療に加え、時間外診療・入退院支援・在宅医療・介護サービスとの連携が、地域で確保すべき機能として整理されました。
在宅医療では、ケアマネジャー・訪問看護師・薬剤師などと支援方針を共有し、急変時の対応やACP(アドバンス・ケア・プランニング/将来の医療およびケアに関する意思決定を支援するプロセス)を含む療養支援にかかわります。
夜間・休日や24時間体制での在宅対応は、1人の医師だけで担うものではありません。診療所・病院・訪問看護事業所などが連携し、地域全体で必要な体制を確保することが重要です。
在宅医療・介護連携推進事業の手引き Ver.4│厚生労働省
かかりつけ医機能報告制度│厚生労働省
└かかりつけ医機能報告マニュアル(医療機関用)
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アドバンス・ケア・プランニング(ACP/人生会議)とは?医師向けにガイドラインのポイントを解説
地域包括ケアシステムを支える医師のおもな活躍の場

地域包括ケアシステムにおける医師の役割は、勤務する医療機関や患者さんの療養段階によって異なります。医師がかかわるおもな場について、入院から在宅復帰、その後の地域生活までの流れに沿って見ていきましょう。
地域包括医療病棟(地メディ病棟)
地域包括医療病棟は、自宅や介護施設から救急搬送される高齢者などを受け入れ、急性期治療と退院支援を一体的に行う病棟です。
医師には、複数の慢性疾患やフレイルをふまえた総合的な診療に加え、入院早期からのリハビリテーションや栄養・口腔管理を通じて日常生活動作(ADL)の低下を防ぎ、在宅復帰を目指す役割が求められます。
地域包括ケア病棟(地ケア病棟)
地域包括ケア病棟は、急性期治療後すぐに自宅や施設へ戻ることが難しい患者さんを受け入れ、在宅復帰を支援する病棟です。在宅療養中や介護施設入所中に状態が悪化した患者さんを受け入れる役割もあります。
医師は、残る医学的課題の管理とともに身体機能や生活環境を評価し、退院の可否や必要な医療を判断します。
地域の診療所・在宅医療
地域の診療所や在宅医療では、慢性疾患やフレイル、認知機能の低下などを継続的に管理し、重症化や再入院の予防を図ります。
通院が難しい患者さんには訪問診療を行い、必要に応じて急変時の対応やACPなどの意思決定支援、看取りにもかかわります。
在宅医療の現状と課題―地域連携・看取りの在り方、展望とは【医師向け】
訪問診療と往診の違いとは?診療報酬改定の動向も含めて医師向けに解説
医師のための「患者の看取りの在り方」【令和版】
地域包括ケアシステムの課題と今後

地域包括ケアシステムは、すべての自治体で取り組むべき課題です。各自治体が地域の実情をふまえて、能動的に計画を作成・運用していく方針が掲げられています。
しかし、市町村がそれぞれ人口構成や医療・介護資源に応じて構築するため、提供できるサービスや支援体制には地域差が生じ得ます。とくに人材や財源が限られる地域では、在宅医療・介護・生活支援などの担い手を継続的に確保することが課題です。
独居高齢者や認知症高齢者の増加*1,2に伴い、見守り・移動・買い物など、既存のサービスだけでは対応しにくい生活上のニーズが増えています。介護予防の取り組みを含め、地域住民や民間事業者など、多様な担い手が参加できる体制づくりが求められるでしょう。
2040年に向けた地域包括ケアシステムの深化
地域包括ケアシステムは、団塊の世代が75歳以上となる2025年をめどに推進されてきました。
しかし、2025年以降も人口構造の変化は続きます。2040年にかけて、医療・介護の両方を必要とする85歳以上の高齢者・独居高齢者・認知症高齢者の増加が見込まれる一方、生産年齢人口は減少すると予測されています*3。今後はサービス提供体制の確保に加え、人材確保や業務効率化、医療・介護連携の強化など、さらなる深化が求められるでしょう。
「2040年に向けた地域医療構想」では、病床機能だけでなく、外来・在宅医療や介護との連携を含めた、地域全体の医療提供体制を整備する方針が示されています。地域包括ケアシステムとは異なる施策ですが、地域で医療・介護を切れ目なく提供するという点で密接に関係しています。
2040年に向けた地域医療構想│厚生労働省
情報通信白書 令和4年版 第1部 第1節(1)生産年齢人口の減少│総務省(*3)
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「地域医療構想」とは?概要や策定経緯、2040年に向けた新たな取り組みを解説
病床機能報告制度とは?新たに導入される「包括期」や医療機関機能を解説
まとめ
医療技術の進歩などにより「人生100年時代」と呼ばれるようになった現代では、「いかに長生きするか」と同様に「いかに自分らしく生きるか」も重視する人が増えました。
地域包括ケアシステムは、医療や介護が必要になっても、住み慣れた地域で自分らしい生活を続けられるよう支える仕組みです。本人の希望や状態に応じて、人生の最終段階まで地域で暮らすための基盤となります。
2025年の節目を過ぎた現在、2040年に向けた対応が求められています。85歳以上の高齢者や独居・認知症高齢者の増加、人材不足などに対応しながら、地域の実情に応じてシステムの深化を進めていくことが必要です。
医師には、病院・診療所・在宅医療などそれぞれの場で、病状だけでなく生活機能や療養方針もふまえて診療する職務があります。地域包括ケアシステムにおいて、医師の役割は今後さらに重要となるでしょう。
地域包括ケアシステム│厚生労働省




