保険医療機関の重要な収入源である診療報酬は、診察や検査・処置といった診療行為ごとの点数に応じて報酬が支払われる仕組みです。
原則として2年に1回改定される診療報酬ですが、2026(令和8)年度は長引く物価高や社会的な賃上げの波を受け、本体部分が30年ぶりに3%のプラス改定となることが話題になっています。
このコラムでは、改定の背景や実務への影響が大きい「物価高・賃上げ対応」「医師偏在対策」に加え、「OTC類似薬などの薬剤費自己負担の見直し」に関する重要ポイントをわかりやすく解説します。2026年6月からの施行に向けて、内容を押さえておきましょう。

執筆者:Dr.SoS
2026年度診療報酬の改定率
2026年度診療報酬における改定率は、本体が+3.09%、薬価は-0.87%で、全体としては+2.22%のプラス改定です*1。全体の改定率がプラスになるのは2014年度以来12年ぶり、本体の改定率が3%台になるのは1996年度以来30年ぶりということで、大きな変化と言えるでしょう。
薬価の改定は2026年4月1日に先行して実施され、診療報酬本体は6月1日より施行されます。従来は4月に実施されていましたが、2024年度の「診療報酬改定DX」導入に伴い、6月へと移行しました。改定内容の発表から適用までの期間を長くすることで、業務負担を分散させる狙いがあります。
物価高・賃上げ・人手不足などへの対応

ここからは具体的に、2026年度診療報酬改定における注目点を見ていきましょう。今回のプラス改定は、とくに物価高や賃上げへ対応する側面が強いと言えます。
近年の日本では、物価高や金利上昇が続いています。具体的に数値を見ると、日経平均株価は2024年にバブル期の最高値38,915.87円を更新し、2026年には58,000円台に到達しました*2。一般企業の給与水準も上昇しており、2026年の春闘では3年連続で5%を超える賃上げ率*3となる見込みです。
このように、日本経済は「給料もモノ・サービスの値段も上昇する」局面に移行しつつあります。一方で、医療分野の収益面は診療報酬点数という公定価格が多くを占めており、飲食店などのように「値上げ」をして対応することが困難です。
実際、2024年度の公立病院における医業利益の赤字割合は90%を超えており*4、物価高や賃上げに十分対応できていませんでした。赤字額が大きければ、十分な給料の支払いや人材確保が難しくなり、医療提供体制の維持にもかかわる問題となりかねません。
こうした背景をふまえ、2026年度の改定では下記のような対応がとられることになりました。
- 再診料の引き上げ・物価対応料の新設
- 入院時の食費・光熱水費の見直し
- ベースアップ評価料の見直し
それぞれの対応について見ていきましょう。
再診料の引き上げ・物価対応料の新設
外来における初診料は291点のままですが、再診料は75点から76点へと1点引き上げられます*5。
また、今後も続くと見込まれる物価高にも段階的に対応するため「物価対応料」が新設されます。外来における初診・再診時にそれぞれ2点が加算されるものです。
入院においても「一般病棟入院基本料」が引き上げられ、「入院物価対応料」が加算できるようになります。
入院時の食費・光熱水費の見直し
入院コストの上昇を反映し、食費・光熱水費が引き上げられます。
食費は、2024年度の改定とその後の引き上げを経て690円となっていましたが、2026年度改定ではさらに40円上がり、730円となります*5,6。
光熱水費についても、1日あたり398円から458円*5へと60円引き上げられます。
ベースアップ評価料の見直し
賃上げを目的として2024年度に導入された「ベースアップ評価料」は、今回の改定で点数の引き上げと対象職種の拡大が行われます。
点数については「外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)」が、現行の初診時6点・再診時等2点から、それぞれ17点・4点に引き上げられます*5,7。
対象職種は従来、看護師や看護助手などコメディカルを示す「主として医療に従事する職員(医師及び歯科医師を除く。)」に限られていました。しかし、今回の改定によって「当該保険医療機関において勤務する職員」*5へと拡大され、医療事務や医療クラークなど幅広い職員の賃上げが可能となります。
【転職は様子見が増える「診療報酬改定の前後」がおすすめ!】
転職市場では、診療報酬改定の前後は転職を様子見する先生が増えるため、チャンスが多くなります。当社でも2024年度改定の際、転職希望時期がやや後ろにずれ込む傾向が見受けられました。転職をご検討の先生はぜひこの機会にご相談ください。
医師偏在対策

高齢化社会の到来として問題視されていた「2025年問題」が過ぎ、次なるターゲットイヤーとして2040年を見据えた医療体制の構築が求められています。
今回の診療報酬改定では医師の偏在対策として、いくつかの変更が行われる予定です。詳しく見ていきましょう。
医師不足・医師偏在はどうして起こる?現状や対策を解説
「医師偏在指標」とは?―計算式と地域別ランキング【2024年1月版】
「地域医療構想」とは?概要や策定経緯、2040年に向けた新たな取り組みを解説
診療科偏在対策:「地域医療体制確保加算2」が新設
医師偏在対策における課題の一つが、診療科ごとの医師数の偏りです。
医療施設に従事する医師の総数は、2008年の27.2万人*8から2022年には32.7万人*9と、約20%増加しています。
一方で診療科別の医師数の推移を見ると、2008年を基準とした場合、形成外科やリハビリテーション科、麻酔科などは40%以上増加しているのに対し、外科や耳鼻咽喉科は10%未満の伸びに留まっています*10。
従来の「地域医療体制確保加算」は、救急搬送や周産期・小児救急医療に関する実績を有していることや、医師の労働時間管理を適正に行っていることが算定要件でした。2026年度改定では、従来の要件のものを「地域医療体制確保加算1」(620点)とし、これに追加要件を満たすことで「地域医療体制確保加算2」(720点)も算定できるようになります*5。追加の要件とは下記のとおりです。
医師の確保が必要な診療科について、勤務環境及び処遇改善に資する体制並びに研修体制が整備されていること。
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001655176.pdf(2026年4月13日閲覧)
「医師の確保が必要な診療科」には消化器外科・心臓血管外科・小児外科・循環器内科が指定されており、当該診療科でチーム制を導入するなどの諸要件を満たす必要があります。また、これらの診療科医師を対象に、特別手当を支給することも要件に組み込まれています。
地域医療体制確保加算2は、若手医師が不足する特定の診療科に経済的なインセンティブを与える仕組みであり、診療科単位での医師偏在を改善するための取り組みと言えるでしょう。
地域偏在対策:開業規制との関係
医師偏在のもう一つの課題は地域ごとの偏り、つまり都市部では医師が多く地方では少ないというケースです。
この課題解決に向け、2026年4月から順次施行されている医療法の改正では、とくに外来医師数が多い「外来医師過多区域」での新規開業に対して、いくつかの手続きや制約が導入されました。いわゆる「開業規制」とされるもので、地域の医療計画に協力しない場合は、ペナルティとして保険医療機関の指定期間短縮などが科されるおそれがあります。
今回の診療報酬改定でも、開業規制に関連した対応が導入されました。具体的には、保険医療機関の指定期間が3年以内の場合、下記の算定や届出を行うことができなくなります。
- 機能強化加算
- 地域包括診療加算
- 地域包括診療料
- 小児かかりつけ診療料
- 在宅療養支援診療所
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001655176.pdf(2026年4月13日閲覧)
このように、「診療科ごとの医師数の偏り」と「地域ごとの医師配置の偏り」という2つの側面でインセンティブやディスインセンティブが設けられました。とくに特定診療科を対象とするインセンティブが設定されたことは注目点と言えるでしょう。
【2026年度開始】医師の開業規制とは?知っておきたい規制地域や対策
薬剤費自己負担の見直し

今回の診療報酬改定では、物価・賃金上昇への対応や診療科・地域ごとの医師偏在など、喫緊の課題には相応の財源が配分されています。一方で、すべての分野に予算を回せるわけではありません。
そのため「効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上」という方針のもと、後発医薬品やバイオ後続品の使用推進、薬剤費自己負担の在り方の見直しが挙げられています。
たとえば2024年10月から始まった「先発医薬品(長期収載品)の選定療養」が、今回の改定で反映されています。これは患者さんの希望により長期収載品を使用する場合に、後発医薬品との差額の一部を患者が負担する制度です。制度導入直後には、対象薬剤である保湿剤(ヒルドイド®)や湿布薬(モーラス®テープ)などの後発医薬品に人気が集中し、限定出荷になるといった影響がありました。
この患者負担分が、差額の4分の1から2分の1へと引き上げられることになります。
また、2025年に大きな話題となったのが「OTC類似薬の保険適用除外」の議論です。一部の解熱鎮痛剤や花粉症薬などで自己負担が増える懸念から、反対意見が相次ぎました。
結論として保険適用除外は見送られましたが、先述の長期収載品のように「薬剤費の4分の1を特別料金として設定する仕組み」として、2026年度中に実施される予定です。
慢性疾患を持つ患者さんや低所得者、そのほか医療上の必要性があるケースへの配慮も含め、具体的な内容は今後議論が進むものと思われます。
高額療養費制度の限度額引き上げも予定
診療報酬改定とは異なりますが、医療費抑制政策として近年議題に挙がるのが高額療養費制度における自己負担額の引き上げです。
2024年末に引き上げ案がまとめられましたが、患者団体からの懸念・反発により凍結されていました。しかし、2025年末には引き上げ幅を抑えた案が決定され、反対意見は根強いものの2026年8月から施行予定です。
自身の受け持つ患者さんへの影響はもちろんですが、高年収になりやすい医師にとっても自己負担上限額が引き上がるなどの影響が予想されます。今後の動向にも注意が必要です。
このように薬剤費の領域では、後発医薬品・バイオ後続品の使用促進(薬剤費抑制)が進む一方で、長期収載品の選定療養やOTC類似薬については患者自己負担が増える見通しです。高額療養費制度の見直しも含め、医療保険制度の持続性を確保するために患者負担を少しずつ増やす流れが読み取れます。
まとめ
2026年度診療報酬改定は、長引く物価高や賃上げという日本経済の構造変化から、本体が30年ぶりのプラス改定となる見込みです。
しかし、その中身は一律の底上げというわけではありません。賃上げのための「物価対応料」や、なり手が不足している特定診療科への評価が新設される一方、外来医師過多区域での算定制限や薬剤費の患者負担見直しなど、メリハリのある改定内容と言えるでしょう。
とくに勤務医の先生方にとって、消化器外科・心臓血管外科・小児外科・循環器内科を対象とした評価の新設と、特別手当支給の制度が創設されたことは、今後の給与水準や業務負担など働きやすさを左右する要因になると考えられます。
このコラムが診療報酬改定の概要を理解する一助となれば幸いです。
令和8年度診療報酬改定について│厚生労働省
└診療報酬改定について(*1)
└個別改定項目について│厚生労働省(*5)
└令和8年度診療報酬改定の基本方針(令和7年12月9日)│厚生労働省
日経平均株価│日本経済新聞(*2)
賃上げ率は3年続けて5%超に/連合の2026春季生活闘争の第1回回答集計│労働政策研究・研修機構(*3)
令和7年 病院の緊急経営調査結果―令和5年度、6年度実態報告―│日本医師会(*4)
入院時の食費について│厚生労働省(*6)
令和6年度診療報酬改定の概要【賃上げ・基本料等の引き上げ】│厚生労働省(*7)
平成20(2008)年医師・歯科医師・薬剤師調査の概況│厚生労働省(*8)
令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況│厚生労働省(*9)
医師偏在対策について│厚生労働省(*10)
医療法等改正を踏まえた対応について│厚生労働省
OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直しの在り方について│厚生労働省
※URLは各サイトの利用規約等に従い、一部は許諾を得て掲載しています。




