大学病院は、高度医療・教育・研究の拠点であると同時に、医局制度を通じて地域医療を長年支えてきました。しかし、医師の働き方改革や大学病院の人手不足、医師偏在対策の強化を背景に、医局単位の派遣機能を「見える化」し、制度として評価する動きが進んでいます。
このコラムでは、大学病院の医師派遣機能の概要や見直しの背景、現場や医師個人に想定される今後の変化を整理します。

執筆者:Dr.SoS
大学病院の医師派遣機能とは

大学病院は、高度医療の提供や教育・研究に加え、地域の医療機関へ医師を派遣する役割も担ってきました。いわゆる「医師派遣機能」です。
これまで長きにわたって、医局制度を通じた医師派遣は日本の地域医療を支えてきました。とくに地方の中小規模病院や医師不足地域では医師の確保が難しく、大学病院からの派遣によって外来診療や手術、当直体制などを維持しているケースがあります。
この仕組みは大学病院側にとって、外勤先からの給与によって処遇面を補う側面があります。派遣される医師個人にとっても、地域での勤務は一般的な疾患(common disease)や救急対応、限られた医療資源の中での診療を経験できる機会となるでしょう。医師派遣は単なる人手不足の穴埋めではなく、大学病院で培われた専門知識や診療水準を地域に広げる役割も果たしています。
こうした仕組みは法律などで定められた制度ではなく、各大学や医局(教授や医局長)の判断、関連病院との関係性によって培われてきました。そのため、外部からは「どの大学が、どの地域に、どの程度医師を派遣しているのか」見えづらいという課題が指摘されています。
厚生労働省 第2回医療分野における規制改革に関する検討会資料│福祉医療機構
└資料5:医局による医師の派遣について
国立大学法人等の機能強化に向けた検討会(第11回)│文部科学省
└【資料1-1】今後の医学教育の在り方に関する検討会における検討状況
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なぜ大学病院の医師派遣機能が見直されているのか

現在の医師派遣は、各大学や医局の判断に依存する部分が大きいと言えます。そのため、医師偏在対策の観点からは、特定の医局や関連病院のネットワーク内での調整にとどまりやすく、地域全体で見たときに必ずしも最適な医師配置にならない面があるでしょう。
そこで、大学病院の医師派遣機能を「見える化」し、制度として位置付け直す動きが進んでいます。おもな背景としては、下記の3つが挙げられます。
- 医師の働き方改革
- 医師偏在
- 大学病院の負担増
医師の働き方改革
まず注目すべきなのが、2024年に施行された医師の働き方改革による影響です。時間外労働に上限が設けられたことで、主たる勤務先だけでなく、派遣先病院での外勤・当直・日直を含めた労働時間管理が、より重要になりました。
とくに論点となるのが、派遣先病院における宿日直許可の有無です。宿日直許可を取得していない医療機関での当直・日直は労働時間として扱われる可能性があり、派遣元である大学病院での労働にも影響します。医師派遣においては、派遣先病院の勤務形態や当直体制の管理も重要となるでしょう。
医師の働き方改革と地域医療への影響に関する調査結果を公表│日本医師会 日医on-line
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医師偏在
医師派遣機能見直しの背景には、医師偏在の問題もあります。これは、地域や診療科、あるいは病院・診療所間における医師配置の偏りによって生じるものです。
医師をどの地域にどのように配置するかは各大学や医局の自主的な判断に委ねられているのが現状です。そのため外部から実態を把握しにくい面が指摘されています。厚生労働省の資料*1でも、都道府県と大学病院などが連携して医師派遣・配置を考えていく必要性が示されています。
医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ│厚生労働省(*1)
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大学病院の負担増
大学病院の負担が増していることも、医師派遣機能見直しの背景にあります。
大学病院は、高度医療の提供・教育・研究という3本柱を担う機関です。現場で働く医師は、診療に加えて教育や事務・管理業務など幅広い役割を担っています。しかし、タスク・シフトやタスク・シェアが十分に進んでいないこともあり、とくに研究の時間を十分に確保しにくいとの課題が指摘されています。一般の医療機関と比べて処遇面の課題もあると言われます*2。
これらに加え、今後は「地域への医師派遣」が"4本目の柱"として、従来以上に強化される見通しです。しかし、これを大学や医局の自主性に委ね続けることには限界があり、継続には相応の支援が必要です。派遣実績を客観的に評価し、必要な支援や財源確保に結び付けることが適切でしょう。
大学病院の医師派遣機能の見直しは、従来の医局制度を否定するものではありません。むしろ、地域医療を支えてきた仕組みを「見える化」し、持続可能な形に再設計する取り組みと言えます。
大学病院を取り巻く現状と課題│厚生労働省 第22回特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会(2024年11月)
⼤学病院を取り巻く諸課題について│文部科学省
国立大学病院長会議 記者会見│国立大学病院長会議(*2)
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特定機能病院の要件変更による影響
大学病院の医師派遣機能の見直しに大きく影響するのが、特定機能病院の承認要件の変更です。特定機能病院は2026年4月時点で全国に88カ所ありますが、そのうち79カ所*3を大学病院の本院が占めています。
これまで特定機能病院には、高度医療・教育・研究・医療安全などの役割が求められてきましたが、2026年4月からは新たに「地域への一定の人的協力」(医師派遣機能)が承認要件に加わりました。
具体的には、地域への医師派遣を常勤換算で60人以上行うことが求められています。また、派遣実績の算定には、派遣元での在籍期間や継続的な派遣であるかなど、一定の要件が設けられています。
これにより、大学病院の「地域医療を支える役割」は、制度上も明確に位置付けられるようになりました。
特定機能病院について│厚生労働省
└特定機能病院として承認を受けている医療機関一覧(令和8年4月24日)(*3) └特定機能病院に関する事項について(通知)(令和8年4月24日医政発0424第9号)
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大学病院の医師派遣機能見直しが医療機関に与える影響
大学病院の医師派遣機能が制度上評価されるようになることで、大学病院・派遣先病院の双方に影響が生じると考えられます。
大学病院への影響
大学病院にとっては、これまで医局や診療科単位で行ってきた医師派遣を、病院全体として把握し、地域医療への貢献度を客観的に示す必要性が高まります。
ただでさえ人手不足や研究時間の圧迫が課題となっている大学病院にとって、新たな評価や報告に対応することは負担となり得るでしょう。
しかし、派遣実績が「見える化」されることは、大学病院にとってプラスの面もあります。これまで外部から見えづらかった地域医療への貢献度を明確な業績として示せるようになれば、処遇改善や財政支援を得るための根拠にもなり得ます。
派遣先病院への影響
派遣先病院にとって、大学病院からの医師派遣は外来・当直・救急・手術・専門診療を維持するための重要な基盤です。
今後は、派遣先側にも受け入れ体制の整備が求められます。宿日直許可の取得、勤務時間の適切な管理、診療支援体制の整備などが不十分であれば、大学病院側も医師派遣の継続が難しくなるかもしれません。
つまり、派遣先病院は「大学が医師を派遣してくれるのを待つ」だけではなく、医師が継続して勤務しやすい環境を整える必要があります。自院採用の強化や診療科の再編、オンライン診療の活用など、大学からの派遣に依存しすぎない体制づくりも課題となるでしょう。
オンライン診療を行うための施設基準とは?必要な届出、診療報酬における算定要件も紹介
大学病院の医師派遣機能見直しが医師個人に与える影響

大学病院の医師派遣機能の見直しは、医療機関の体制だけでなく、医師個人のキャリアにもかかわるテーマです。地域の病院への派遣は、ときに負担ととらえられることもありますが、大学病院だけでは得にくい臨床経験を積む機会にもなります。
たとえば、大学病院では高度専門医療や希少疾患、研究・教育に触れやすいのに対し、地域の医療機関では一般的な疾患(common disease)への対応や救急診療、幅広い外来、入院管理などを経験しやすい傾向があります。
一方で、地域勤務が必ずしも本人のキャリア形成に直結するとは限りません。医師が働き方を考える上では、下記のような点に注目すると良いでしょう。
- 派遣先病院でどのような症例を経験できるか
- 専門医取得や更新に必要な症例・単位を確保できるか
- 研究や学会活動を継続できるか
- 出産・育児、介護などのライフイベントと両立できるか
- 大学病院へ戻る見通しが立っているか
医師派遣機能が制度上評価されることで、医局に所属する医師は、これまで以上に地域派遣を含むキャリアを歩む可能性が高まると考えられます。派遣を単なる人事異動として受け止めるのではなく、自分の専門性や将来像にどうつながるのかを考えることが重要です。
地域中核病院で臨床経験を広げるのか、大学病院で専門性や研究を深めるのか、医局外の病院やクリニックで働き方を再設計するのか...自身の希望やライフステージによって、選ぶべき環境は異なるでしょう。
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まとめ
大学病院の医師派遣機能は、これまで医局制度を通じて地域医療を支えてきました。しかし、医師の働き方改革や大学病院の人手不足、医師偏在対策の強化により、各大学や医局の判断だけに依存した派遣は限界を迎えつつあります。
今後は、大学病院本院の医師派遣実績が特定機能病院の承認要件として評価され、派遣数だけでなく継続性や実態も問われるようになります。地域医療を維持するためには、大学病院だけの努力ではなく、派遣先病院の勤務環境整備など、医師が無理なく働ける仕組みづくりが重要でしょう。
こうした見直しの動きは、医師個人にとっても、自身のキャリアや働き方を考えるきっかけになります。地域勤務をどのような経験として位置付けるのか、専門性やライフイベントとどう両立させるのかを考えながら、主体的にキャリアを選択していく視点が求められるでしょう。




